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「ミサイル」劇場で狂躁する日本と北朝鮮のグラスノスチ
北朝鮮の「ミサイル」発射実験について、今回はあまりにも政府とマスコミの騒動が常軌を逸していて、狂躁の度が極端に過ぎている。2009年2月にも同じ打ち上げと失敗があったが、国内は今回と較べて静穏で、ブログの記事にもしていない。各自が3年前を思い出すべきだ。4/12の朝日の紙面記事を読むと、韓国のマスコミは、北朝鮮の「ミサイル」発射よりも、それに異常に昂奮して恐怖症の状況を呈している日本の方に注目し、沖縄への陸自部隊展開の意味を含めて詳しい報道をしているとある。軍事的に考えても、この「ミサイル」は、米国まで飛ばす大陸間弾道弾の開発途上のもので、日本の安全保障に直接の脅威となる「兵器」ではない。今回の発射目的は、あくまで米国に対する示威であり、対米交渉のカードの政治であり、このロケット・ショーが対米外交戦略の一環である事実をわれわれは知っている。であるなら、成り行きを傍観する立場でよいのだ。実際に、3年前の2009年の時点はそうだった。PAC3の沖縄配備とか、陸自部隊の石垣島と宮古島への進駐など明らかに行き過ぎで、予算の無駄遣いとしか言いようがない。政府発表とマスコミ報道では、軌道が逸れる不測の事態に備えてとか、破片が落下する場合への対処とか説明しているが、それならば、韓国の人工衛星打ち上げはどうなのだ。


韓国の人工衛星は2010年6月に打ち上げられて失敗したが、今回の北朝鮮と同じ南方向の計画軌道で、日本の国土への物理的リスクも全く同じだったと言える。自衛隊がPAC3を配備したという情報はない。今回の政府とマスコミの騒動は、国内を緊張状態にすることが狙いで、国民を有事の環境に包摂する政治である。国民の意識を北朝鮮の「ミサイル」の脅威で拘束し、北朝鮮への憎悪を充満させ、一時的に開戦状態になったような疑似体験をさせている。一つの大きな国民的ショック・イベントを挙行しているのであり、若年世代に共通体験の記憶を刷り込んでいるのである。客観的に見れば、ブッシュ時代にボルトンが北朝鮮外交を仕切り、ラムズフェルドが二正面作戦を言及していた当時と較べて、米朝関係はすっかり平和の方向に好転した。一昨年の延坪島砲撃事件があったにもかかわらず、そこから1年で米朝合意に至るという進展があり、半島で戦争が起きる可能性はきわめて小さくなっている。今回も、「ミサイル」発射のデモンストレーションが行われながら、並行して米朝がベルリンで協議をしていた。秋の大統領選を控えて、多少は強硬な態度を示したとしても、米国の北朝鮮に対する対話路線は変わらないだろう。同じく、大統領選を控えて左派の勢いが増している韓国でも、現政権が武断政策を強化するとは思えない。

4/12の朝日の国際面(13面)の記事では、発射後の国連安保理において、米国は日本が要求する新決議の提案や採択には動かないという予測が示されている。前回の2009年は、中露と米国が対立して決議が見送られ、議長声明に止まった経緯があるが、今回はもっとマイルドな着地になるのではないか。要するに、国際社会の中で騒いでいるのは日本だけで、無理に緊張を高めようとしているのは日本だけなのだ。カルトのような反北朝鮮イデオロギーに染まり、狂信的に危機を煽って、北朝鮮との武力対決へと奔走している。ただし、米国はきわめて狡猾で、基調としては米朝対話で二国間の平和路線を追求しながら、日本の反北朝鮮カルトについては逆に焚きつけ、日本の北朝鮮への姿勢を狂暴化させるように仕向けている。つまり、二枚舌を巧妙に使い分け、日本の右翼カルトを支援し、狂犬が吠えるように北朝鮮に嗾けているのである。無論、これは中国に対する軍事包囲網を固めるための戦略で、日米同盟を強化して、自衛隊を米軍の下請軍として自由に使うための方策である。ジャパンハンドラーたちは、10年前に小泉純一郎の靖国参拝の奏功で味をしめて以降、ずっと右翼カルトの増幅と蔓延に手を貸し、日本国内を日米同盟真理教のサティアン状態にして行った。北朝鮮は、米国にとって日本をマインドコントロールする道具であり、効果抜群のツールなのだ。

今日(4/13)の朝日の記事(13面)では、訪日中の元米大統領補佐官のポテスタの発言が出ていて、北朝鮮は「ミサイル」発射を強行した場合、食糧支援を含む米朝合意は崩壊すると述べている。ポテスタは、2009年のクリントン訪朝に同行した人物で、米国の北朝鮮外交のキーマンの立場にある。この問題で外務官僚と調整するため訪日していたのだろう。この発言は、日本のマスコミを意識したもので、米国の二枚舌の一枚を見せているものと考えられる。昨夜(4/12)、NHKのクローズアップ現代に出演した平岩俊司は、全く逆の見方を示していた。北朝鮮側は、衛星打ち上げは米朝合意違反ではないと主張し、米国が食糧支援を反故にした場合、核実験を強行する口実を得るだろうと。そして、核実験を阻止したい米国は、この詰め将棋でジレンマに追い込まれ、外交戦で不利な局面に立つだろうと。米国は、簡単には米朝合意の破棄に踏み切れず、核実験のカードで揺さぶられて立ち往生するという展開を予想している。平岩俊司の見解からすれば、ポテスタの強気は外交ポーズであり、日本に対するリップサービスという意味になる。この10年間の米朝関係を鳥瞰した上で今後を見通せば、平岩俊司的な一般論になるのは当然だろう。武力攻撃という最終カードがない以上、そして中朝関係の前提が変わらない以上、米国は北朝鮮に主導権を握られ翻弄され続ける立場を動かすことができない。

今回、北朝鮮は見事に打ち上げショーに失敗したが、これが新体制の権威固めに悪影響を及ぼすかどうかについては、私はマスコミや右翼系の論者とは同じ見方をしない。今回の政治の全体を振り返って、逆に北朝鮮の安定と余裕を感じ、日本の異常なヒステリーを怪訝に感じるのは私だけだろうか。打ち上げには失敗したが、政治には一種の成功を収めている。それは情報の政治である。第一に世界各国からマスコミを呼び集めて東倉里の発射台を公開したこと、第二に打ち上げの失敗を即座に認めて公表したことである。この変化は、従来の北朝鮮からすれば長足の進歩で、世界の人々の視線にグラスノスチを印象づけたと思われる。今回、NHKを始めとする日本のテレビ各局は、記者が平壌から生中継で報告を伝えていた。夜の大同江の河岸に立つ記者の背景に、明るい照明の高層建築が何棟か映し出され、以前とは雰囲気が変わりつつあることを察せられる。現地を取材したNHKの記者からも、市街を走る車の量が多くなり、携帯電話を使っている市民が増えたという指摘があった。昨年末の金正日死去の際、平壌市民の服装がカラフルになり、靴も上質になっているのに気づいたが、好調な中朝貿易が経済に好影響を与えているのは間違いない。今回の北朝鮮のグラスノスチは、指導者の交代に起因するだけでなく、経済状態の自信に基礎づけられたものなのだろう。少しずつ国が柔らかく開かれつつある。

極貧だった窮乏経済が底を打ち、米国による武力攻撃の可能性が薄れ、暴君の金正日が死に、北朝鮮に余裕が見え始めている。一方、経済が悪化の一途を辿り、産業競争力で韓国に負け、少子高齢化で負担が増えて未来が真っ暗となり、ファナティックな右翼排外路線に傾注する日本。この二国のコントラストが、今回、中国や韓国の人々の印象に残ったことだろう。東アジアの中で日本の存在が小さくなり、取り残されながら一匹だけ獰猛に吠えている。振り返って、一連の報道をリードしてよく目立ったのは中国の報道機関だった。北朝鮮当局との親密な関係があり、何十分後に会見があるとか、その内容はこうだろうとか、情報をどんどん先行して発信する。当然、各国のマスコミは中国の記者の話に耳を欹てる。また、発射があった直後からは、CNNなど米国のプレスの独壇場だった。米軍当局からすぐに情報が入り、矢継ぎ早に世界に発信して行く。流石に米国。今日の朝、日本のテレビ局は、全て米国の情報を後追いしてスタジオから流し、米国発の情報と情報の合間をコメンテーターの無意味な雑談で繋いだ。中国と米国が報道を制した一幕だった。国際社会が大きく変わりつつあることを感じさせられ、日本が、異形で佞悪で無能な小さな軍国主義の国に変わり果てようとしていることを思い知らされた。狂躁の日本とグラスノスチの北朝鮮の対照は、5年後、10年後の両国の姿を暗示しているように思われる。両国の像は逆転し、いずれ日本は現在の北朝鮮のような国になるのではないか。

貧しく、自由のない、虚勢ばかり張って周囲を威嚇する小さな軍事独裁国家に。


 
by thessalonike5 | 2012-04-13 23:30 | Trackback | Comments(0)
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