木嶋被告判決 死刑判断の理由4月13日 15時2分
男性3人を相次いで練炭自殺に見せかけて殺害した罪などに問われた木嶋佳苗被告の裁判員裁判で、さいたま地方裁判所は木嶋被告に死刑を言い渡しました。
判決文では、最も重視すべき事情として、「サイトで知り合った男性から、真剣な交際を装って多額の金を受領するなどした末、返済等を免れるために被害者を殺害したという極めて重大かつ非道な犯罪を3度も繰り返し、何ら落ち度のない3人もの尊い命を奪ったことである」と指摘しています。
以下は、判決の概要です。
判決概要・事件ごとの判断
(1)寺田隆夫さんの事件について
寺田さんが練炭や練炭コンロを準備した形跡がないこと、寺田さん宅から玄関の合鍵がなくなっていること、寺田さんには自殺の動機がなかったことからすれば何者かに殺害されたと認められる。
そして、事前に多数の練炭コンロ及び練炭が持ち込まれ、争った形跡もないまま寺田さんが殺害され、密室状態にして立ち去ることのできるのは、寺由さんと結婚を前提として交際し、現に合鍵を手にする機会が十分にあった被告のほかには見当たらない。
しかも、被告は、当時、犯行の手段となる練炭コンロや練炭を入手していたこと、寺田さんと結婚する意志もないまま結婚を前提に多額の金銭を得ていた被告には、殺害する動機があったことなどを併せ考えると、犯人は被告であろうと優に認められる。
(2)安藤建三さんの事件について
安藤さんは多量の睡眠薬を服用した状態で、燃焼した練炭から発生した一酸化炭素を長時間吸引し、急性一酸化炭素中毒になるとともに、その後発生した高温の空気を吸い込んで気道熱傷を起こし、両原因が競合して死亡したという死因や死亡状況からすれば、安藤さんの死亡を失火で説明するのは困難であるところ、安藤さんがみずから睡眠薬を服用したことは考えがたいこと、自殺の動機がないことに照らし、何者かに殺害されたと認められる。
そして、被告は安藤さんの死亡時刻と近い時間に安藤さん方を立ち去ったこと、犯行に用いられたのと同種の練炭コンロや睡眠薬を当時入手していたこと、安藤さんを殺害する動機もあったことなどを併せ考慮すると、犯人は被告であると優に認められる。
(3)大出嘉之さんの事件について
大出さんが3種類の睡眠薬を10錠以上服用した状態で、練炭の燃焼による一酸化炭素中毒で死亡した状況に加え、車の鍵がなかったこと、大出さんが睡眠薬を入手服用した形跡がないこと、大出さんの両手に炭粉が付着しておらず、何者かが練炭や着火剤を置いた可能性が高いこと、大出さんに自殺の動機がないことからすれば、何者かに殺害されたと認められる。そして、被告は、大出さんと一緒に駐車場まで同行し、大出さんの死亡時刻と接着した時間に立ち去っていること、犯行に用いられたのと同種の練炭コンロ等や睡眠薬を入手していたこと、大出さんを殺害する動機があったことなどを併せ考慮すると、犯行は被告であると優に認められる。
被告は、大出さんとの結婚話を進めながら、単身居住用のマンションを探したり、大出さんを披告の家族に紹介すると嘘をついたりしており、結婚を真剣に考えていたとは認められない。
また,大出さんとのメ一ルの内容や被告の金践の動きなどからすれば大出さんから現金約470万円の交付を受けたと認められる。
判決概要・死刑判断の理由
最も重視すべき事情は、サイトで知り合った男性から真剣な交際を装って多額の金を受領するなどした末、返済等を免れるために被害者を殺害したという極めて重大かつ非道な犯罪を3度も繰り返し、何ら落ち度のない3人もの尊い命を奪ったことである。
寺田さん、安藤さんおよび大出さんという実直な3人の尊い生命が奪われ、結果は深刻かつ甚大である。
被害者は、結婚相手のまたは交際相手として被告を信頼したまま、予想だにしない形で理不尽にも生命を奪われたのであって、その無念さも計り知れない。
また、被害者とともに平穏な生活を送っていた遺族らの悲しみや喪失感は大きく、厳しい処罰感情は至極当然である。
犯行は計画的で冷酷かつ悪質である。
いずれの犯行も、あらかじめ練炭コンロや練炭を準備しており、計画性が高い。
また、被害者を睡眠状態または同様の無抵抗の状態にさせたうえで、練炭を燃焼させるという方法は、被害者を抵抗できなくさせて確実に犯行を遂げ、みずからは被害者が死亡する前に現場から立ち去って犯跡を隠ぺいすることを可能にするもので、強い殺害意欲や巧妙さすらうかがえ、冷酷かつ悪質である。
被告は、働かずにぜいたくで虚飾に満ちた生活を維持するためにサイトで知り合った被害者から多額の金を受け取るなどした末に、その返済等を免れるため犯行に及んだもので、余りにも身勝手で利欲的な犯行動機に酌量の余地など皆無である。
また、何ら落ち度もない被害者の純粋な思いを踏みにじった経緯も強い非難を免れない。
加えて、被告は、このような極めて重大かつ非道な殺人を、およそ6か月というさほど長くない期間内に3度も繰り返しており、生命というかけがえのない価値を軽んじる態度は顕著である。
以上に加え、被告は、独自の価値観を前提に不合理な弁解に終始するばかりか、被害者をおとしめる発言を繰り返すなど、真摯(しんし)な反省や改しゅんの情は一切うかがえないことをも併せて考慮すると、刑事責任は誠に重大である。
したがって、死刑が人間存在の根源である生命そのものを永遠に奪い去る冷厳な極刑であり、誠にやむをえない場合における刑罰であるとしても死刑をもって臨むほかない。
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