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日めくり

▽「仕組まれた桜」


 各地から「桜満開」の便りが伝わってくる。この国の人々の桜に対する思い入れは尋常でない。毎年この時期の花見にかける熱意。それは、桜が日本人の心情に深く結びついているからだといわれる。


 日本列島の春を象徴する花木で、パッと咲いてパッと散る。その美しさ、潔さ、はかなさが武士道と重ね合わされたり、時には戦争や軍隊のイメージと結び付けられたりした。浅野内匠頭が切腹する場面でハラハラ散る桜は、あだ討ちドラマである「忠臣蔵」の悲壮感を決定づけているし、沖縄決戦に向かう戦艦大和は、乗員が満開の桜を見つめながら出航するシーンで、その後の悲劇的な運命が暗示される。


 そして、学校の卒業と入学の時の桜。どんな学校にも、校門や校庭に桜があった。咲き誇り、静かに散る桜は、卒業生や入学生を見送り、出迎えた。私たちの記憶の中には、そんな桜の映像が残っている。出会いと別れ、生と死…。いつでも、桜は人々の感情をかき立てる「装置」だった。


 しかし、それには背景と仕掛けがある。一例を挙げれば、明治のはじめ、日本の学校のほとんどは欧米と同様、9月入学だった。ところが、旧制高校や他の上級学校が、同じ秋入学の陸軍士官学校や海軍兵学校などとの間で生徒を取り合い、競争が激化した。それで「先に優秀な人材を」と、4月入学に早めたのだという。桜との縁もそれからのことだ。


 「桜の花は戦死を美化するために導入された」―。大貫恵美子氏の「ねじ曲げられた桜」(2003年、岩波書店)は、日本の軍国主義体制が進む中で、桜に意図的なイメージが与えられたことを詳述している。「桜の花のように、若者は天皇のために自分たちの命を犠牲にするが」「靖国神社の桜の花に生まれ変わることを約束された」という。「貴様と俺とは~」の歌い出しで知られる軍歌「同期の桜」の歌詞は、はっきりそのことを示している。


 そしていま、靖国神社には桜の標準木があり、その花びらの開き具合で、気象庁は東京の桜の開花宣言をする。これも「仕組まれた桜」の物語の名残りといっていいかもしれない。(2012年4月11日 47NEWS編集部 小池新)