一般社団法人 農業経営支援センター

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農産物直売所講座@ 「経営目的の合意」

農産物直売所専門部会  橋本文夫・近藤穣合作

 
1.地域活性化のセンターとなる規模

農産物直売所については、最近になり盛んに「ファーマーズ・マーケーット」と呼ばれるようになった。農業者のマーケットということからすれば、こう呼ぶにふさわしく、またFMと略称で呼んだほうが楽でもある。 FMには、農家の庭先の無人・有人のもの、ロードサイドの季節だけの簡易な小屋架けのもの、グループによる小規模店舗のもの、JAや第3セクターによる中・大規模なもの、道の駅付帯のもの・・・とさまざまある。またそれぞれが、多様な顧客ニーズを満たしているわけだが、品質と価格が適正であれば、どれも存在を否定すべきではない。しかし、市場に出せない野菜でも高い値段で販売している例も多い。これではマーケッティング無視である。

これからは価格、鮮度、品揃えほか、すべてにおいて顧客ニーズを計画的に満たすFMが求められ、小・中型から地域センター的な大型店中心に再編成すべき時代にきている。顧客ニーズを満たすとともに、地域活性化に役立ち、農業者にも、地元の女性企業者にも、地域住民にも貢献できないと、永続性がないからだ。

したがってここで触れるFMは、「地域農業の活性化」に役立つコンセプトのFMと理解して欲しい。特定の市町村に依拠するが、実商圏は近隣市町村に及ぶ。なにせアーバン(都市)とサバーブ(郊外)にまたがる売場100〜150坪の店でも、すぐ商圏半径は5kmに及び、サバーブ〜ルーラル(農村部)にまたがるFMでは10km以上に及ぶばあいもある。となるとすぐ2〜3市町村にまたがることも起きる。

幸いなことに、地元市町村だけでは供給が間に合わないばあいも多く、近隣市町村の生産者の協力を得ることもよく起きる。今回の「経営目的の合意」についても、近隣市町村も含めて行うことが時に必要である。

2.コンセプトの3要素実現へ

コンセプトの「地域農業の活性化」が持つ今日的意味は大きい。@専・兼業農家ふくめて減少、A農業従業者の高齢化−新規就農者が少ない、B耕作しない遊休地の増加・・・農業に魅力があり、地域の活性化がなければ、これに歯止めがかからない。

現在、担い手育成が農政の柱になり、「集落営農」の育成や法人化も推進されているが、イネ、ムギ、ダイズなどの生産合理化をしただけでは所得が低い。このため野菜、果樹、花卉、酪農、養豚、養鶏などを付加した複合経営化が、ほとんどの地区で進められている。この点からすれば、集落営農の拠点の一つとしてもFMが必要になってくる。

FMといえば青果、花卉、米中心という発想も捨てねばならない。「消費者志向が成功要因」という原則から見て、精肉を冷凍やチルドで売るFMもあれば、漁村部では魚をフレシュで売るFMもある。今後酪農地帯では牛乳のみでなく、ソフト・クリームなどもFMの商材になりうる(簡易な販売機あり)。

FMが「兼業農家の副収入の手段」という単純な発想も捨てねばならない。専・兼業農家、ときに非農家(食品加工)、地域の商工業者まで巻き込んだものにならないと、地域活性化の夢は果たせない。夢が果たせたときには、所得も増え、後継者や新規就農者も増え、時にJAや地域金融機関の貯金も増え、地域産業全体もうるおう・・・こんな夢を実現するFMが提案され、合意される必要がある。

地域農業の活性化の3要素は、別途「農産物直売所フロー」でも紹介したが、
@ 農業生産者の拡大(消費者ニーズに対応する作物、その他農産物、加工品)
A 農業所得の増大(市場流通でなく、市場外流通による流通コストの削減)
B 高齢者・女性生産者の育成(生きがいと健康推進)
・・・以上である。@については、「昔は比較的近くに卸売り市場があったのに、最近はなくなり、生産を拡大したくとも、便利な売り先がない」との声も多い。専・兼業農家の別なく、便利な販売先があれば生産を拡大したいと思う人は多い。また、兼業農家という形の消費者が付近に確実に増え、他所からサラリーマンが移入する地区も多い。地元の消費者が拡大し、この消費者の「店を選ぶ基準」の筆頭は「近い」だが、物理的要素を除くと「新鮮」が絶えず1位で支持率63%ほど、2位の「品揃え豊富」の35%、3位の「安さ」の32%で凌いでいる(会員の66地区訪問調査)。

近くに消費があり、新鮮さを求め、わざわざ市場に出せば経費がかさむ。消費者価格に対する生産者手取りは農水省の統計で果物で55%ほど、野菜では多分50〜40%である。流通改善で農家手取りは大幅に増える。さらに露地野菜であれば、兼業農家や高齢者、女性でも作れる。加工し特産化すれば、利益率も拡大する。要は、こうした農業活性化のプロセスを具体的に示し、まず関係者の合意を形成することだ。

3.合意に必要な資料の収集

計画目的を合意してもらうべきは、市町村役場、JA、生産者組織、農家個人、地元消費者などである。それには@〜Bを実現する可能性を、具体的に示す必要がある。「呼びかけ人」が誰であれ、まず市町村の農業担当者、JA、生産組合、農業会議、農業改良普及員、農業経営コンサルタントなどの農業のプロが参集し、プロジェクト・チームを立ち上げ、合意に至るため下記の資料を収集・整理し、「大規模FMの存立の可能性があるかどうか」「農業の持続的発展に貢献できるか」が、公正に判断できる資料を提示。一人よがりの資料では、決して合意にはいたらない。

表  収集し提出すべき資料

項目
必要資料
提示すべき内容
1.農業就労動向
農業センサス
専・兼業別→減少→歯止め策→有効余力あるか
2.農地利用動向
農業センサス
減少→放棄農地の増加→有効利用
3.生産物の動向
農業センサス
地元産品→増産意欲→新規産品開発意欲
4.農家所得動向
センサス+
所得停滞→所得拡大意欲→新たな付加
5.出荷先別動向
JAほか調査
市場流通主→多元流通→流通コスト削減・新鮮
6.周辺FM動向
実地調査
中小FMあり→顧客満足度聞き取り→大型化
7.周辺交通動向
実地調査
生活・産業・観光道路か→近隣型か・観光型か
8.購買金額動向
家計費調査
農産物中心の家計支出→FMが担当する購買力
 
市町村所得差
→シェア獲得に無理がないか

ほとんどは既存の資料で整理できるが、3の「地元産品の現状」「増産意欲」などは農業者へアンケート調査を実施しないとつかめない。ぜひ下記のような内容の調査が必要である。また、5では農水省の統計、JAの統計を通じ、段階別流通コストを調べ、「これだけ削減可能」と、具体的計算も必要である。6,7でも本調査も兼ね、実地調査をすべきである。8での「家計費調査」は県庁所在地に限られたもので、地元の購買力を出すには市町村別1人当たりの所得統計で格差を出す(所得格差と支出格差は一致せずアバウトだが)、さらに生産者が多いいばあい自給分も配慮し減額すべきである。そして、以下の通り合意形成を段階的に進める。

関係機関・団体といっても、地域総合活性化の視点に立つなら、FMのPRを兼ねたイベントをやったり、商工業者の産品まで扱うことを考えるとすれば、市の商工観光課なども対象にすべきだ。利用の視点から消費者団体、自治会の人にも意見を述べてもらうことも不可欠である。また、表のように共通認識をもつためには、成功FM数店ほどを関係者+希望生産者などで視察することも欠かせない。


農業者アンケート調査(案)

○○地区農産物直売所プロジェクトチーム事務局  □□市農政課(例) 住所 電話
調査委嘱担当   △△△企画

このアンケートは、○○地区活性化施設として農産物直売所の計画を作るために行うものです。皆様の農業経営の視点を重視し、21世紀の農の時代における販売から生産のあり方を考え、計画案に反映します。つきましては皆様の貴重なご意見等を賜りたく、ご記入にご協力いただけますよう、お願い申し上げます。
個々人のご記入内容は、一切公表せず、また他への流用はいたしません。 (記入方法:該当項目の回答欄に○または数字でご記入ください)

質問1 あなたのことについて伺います。
@お住まい    町・大字        丁・小字名             
A性別       男    女
B年齢       10代  20代  30代  40代  50代  60代  70代以上 
C農業経営者としての後継者はいますか?
いる   いない   在学中などで不明   その他(      )

質問2 農業経営は専業ですか、兼業ですか。また経営は個人、法人ですか、認定農業者になっていますか。  
イ.専業 兼業   
ロ.個人経営 法人経営  
ハ.認定農業者 非認定

質問3 農業経営の内容についてお尋ねします。
@生産品目    米  ムギ  茶  野菜(葉菜 果菜 根菜)  果物(ミカン ナシ カキ ウ ユズ  他<            >)      花卉(品名                    ) 畜産(養鶏 鶏肉 養豚 肥育牛 酪農)     その他(                   )
A農産物の加工  加工していない  多少加工している  生産量の2割以上加工している その他(今後加工を考えている等                         )

質問4 農業経営の規模についてお尋ねします。
@就業者数       家族のみ(      人)
     家族(     人)+常雇(    人)+季節パート等(     人)=計(     人)
A年間生産出荷額(米穀除く) 99万円以下  100〜299万円  300〜499万円  500〜999万円   1000〜1999万円  2000〜2999万円  3000万円以上 
B生産品の販売経路(市場流通、市場外等) 市場流通(小計    %)      うち 直接市場へ(    %)  JAへ(    %) 市場外  (小計    %)      うち 朝市(   %)  農産物直売所(    %) スーパー・大型店(   %)  一般商店(   %)  加工業者(   %)   飲食店(   %)  家庭宅配(   %)  旅館・ホテル(   %)   インターネット(   %) 他(  %)
C市場外流通についての自身の取扱高 市場外流通は現在            減っている  以前と変わりない   増えている 今後の見通し                減ると思う   現在と変わらない  増えると思う

質問5 現在、どんな栽培をしていますか。またどんな指定を受けていますか。  
@栽培  慣行栽培(    %)   有機質肥料の多投(    %)  減農薬栽培(    %) 有機栽培(    %)
A指定  エコ・ファーマーの指定  特殊栽培の指定  有機JASの指定
B今後の見通し   慣行栽培で行く  有機質肥料の多投  減農薬推進  有機栽培推進

質問6 農産物直売所・ロードサイド販売・朝市等   
@何年前から参加したり実施していますか   すでに丸(    年)

 
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