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大飯原発の再開 自治体は慎重

4月12日 19時50分

運転再開に向けた政府の手続きが進む、福井県にある大飯原子力発電所の30キロ圏内の自治体にNHKが再開について尋ねたところ、「再開を認めない」、「今は判断できない」として慎重な姿勢を示したのは、地元のおおい町を含めておよそ80%に上りました。
一方、福井県は「政府から説明を受けていない段階では回答できない」としています。

大飯原発再開巡る議論

大飯原発の3号機と4号機を含む全国の原発では、東京電力福島第一原発の事故のあとの去年3月下旬、国の原子力安全・保安院の指示を受けて、大津波に備えた緊急の安全対策が実施され、電源車やポンプ車の配備などが進められました。

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その後、去年7月、政府は、国民の不安を解消して運転再開につなげようと、新たな安全評価「ストレステスト」を導入し、このうち、地震や津波などにどれほど耐えられるかを調べる「1次評価」を、原発の運転再開の判断の前提としました。
保安院は、関西電力が提出したストレステストの結果を審議し、2月、「福島第一原発を襲ったような地震や津波が来ても、事故が起きない対策が取られている」と評価しました。
また、原子力安全委員会は、先月、ストレステストの結果について一定の評価をするとした見解をまとめ、国による技術的な確認は終わりました。
これに対し、大飯原発の地元、福井県などが、ストレステストの1次評価だけでは不十分で、国が、原発事故から得られた安全基準を示すことが必要だとする態度を一貫して示してきました。
こうしたなかで、野田政権は、今月3日、大飯原発を巡る関係閣僚会議を初めて開き、運転再開の前提となる新たな基準を作るよう、枝野経済産業大臣に対して指示しました。
野田政権は、僅か3日後の6日、新たな3つの安全基準を決定しましたが、その内容は、全国の原発ですでに実施されている安全対策を改めて確認するとともに、長期間かかる対策は先送りを認める内容でした。
また、9日の閣僚会議では、関西電力が提出した安全対策の工程表をその日のうちにおおむね適合していると判断し、原発の立地自治体や専門家などから、「再開ありきだ」という批判の声が上がりました。

周辺自治体の意識は

NHKは、関西電力の大飯原発について、半径30キロ圏内の、福井県と京都府と滋賀県、それに市と町の14の自治体に、今月9日からアンケート調査を行い、すべてから回答を得ました。

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まず、政府が決定した運転再開の新たな安全基準について尋ねたところ、「評価する」と答えたのは、福井県の高浜町と美浜町、それに、京都府の京丹波町の3つの町で、率にして21%、「評価しない」、「どちらかといえば評価しない」と答えたのは、京都府の綾部市と舞鶴市、それに滋賀県と滋賀県の高島市の4つの自治体で、率にして29%、「どちらともいえない」が43%で意見が分かれました。

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続いて、新たな基準を満たした段階で、地元住民の理解を得られるか尋ねたところ、「得られる」、「どちらかといえば得られる」と答えたのは14%にとどまり、「得られない」、「どちらかといえば得られない」と答えたのは36%に上りました。
自治体からは、「地域住民以上に、国民的な理解を得ていけるかが最大の課題(福井県美浜町)」「未実施の対策が残り、安全性が担保されていない(滋賀県)」などの意見が寄せられました。
また、新たな基準を満たした段階での運転再開について尋ねたところ、「早く再開を認めたい」と答えたのは福井県の美浜町だけで、「再開を認めない」、「今は判断できない」として慎重な姿勢を示したのは11の自治体で、率にして79%に上りました。

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このうち、おおい町は「今は判断できない」と回答し、その理由を「再開の必要性を示すことが第一だ」としました。
一方、福井県は「政府から正式な説明を受けていない段階では回答できない」としています。
また、ほかの自治体からは「『必要性』に関する情報が十分に示されていない(京都市)」、「安全より運転再開を優先している(滋賀県高島市)」などの意見が寄せられました。
大飯原発の30キロ圏内で再開に慎重な姿勢を示した自治体の割合は、安全基準が示される前に行った先月上旬の調査では72%で、新たな安全基準の決定が自治体の判断に大きな変化をもたらしていないことが分かります。
さらに、運転再開について、福島県内を除く全国の原発の立地自治体に尋ねたところ、回答があった28の自治体のうち、68%が慎重な姿勢を示しました。
こちらの割合も、先月上旬の調査結果の62%から大幅に変わっていません。
全国の立地自治体からは、新たな安全基準について、「安全性に十分な判断ができるものではなく、論評に値しない(新潟県)」、「『運転再開』だけに目が行った即席基準である(茨城県東海村)」といった厳しい意見も寄せられました。

事故の教訓は生かされているか

大飯原発の運転再開に向けた手続きが進む一方で、東京電力福島第一原発事故を踏まえた抜本的な安全対策や態勢の見直しは、先送りが相次いでいます。

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まず、政府が新たな安全基準の一つとした今後の対策に関する関西電力の工程表では、91項目のうち、37項目についてはまだ実施されていません。
このうち、福島第一原発の事故対応で大きな役割を果たした「免震重要棟」に当たる「免震事務棟」の運用開始を平成27年度としたほか、防波堤のかさ上げの完了は来年度末とするなど、運転再開にあたって抜本的な対策の実施は先送りになっています。
一方、すでに実施された対策としては、外部からの電気の供給を守るために送電線の鉄塔の耐震性を高めたことや、非常時の通信手段として衛星電話などを配備したことを挙げています。
このほか、原発事故への態勢を強化するため、政府が今月1日の発足を目指していた「原子力規制庁」は、国会の審議が進まず、いまだにメドが立っていません。
このため、当面の間は、これまでどおり、原子力安全・保安院が原子力の安全規制を続けることになっていて、福島第一原発事故を踏まえた新たな法律の整備も進んでいません。
さらに、原発事故が起きたあとの対策の確認を重点的に行う「ストレステスト」の2次評価についても、関西電力をはじめ、国に結果を提出した電力会社は1つもなく、福島第一原発事故の教訓が十分に生かされていない状況が続いています。