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ヤマトはガンダムを超える? 劇場とDVD、同時展開の成否【上】

東洋経済オンライン 4月11日(水)11時50分配信

 往年の人気アニメ「宇宙戦艦ヤマト」のリメーク作品が映画ビジネスの常識に挑戦している。

アニメのコンテンツ展開の仕組み

通常、映画は劇場公開から、DVDやブルーレイなどパッケージソフトとして販売されるまで、半年程度のタイムラグがある。あまり早くソフトを発売すると、映画の観客動員に悪影響を及ぼしかねないためだ。一方、劇場公開の宣伝効果が残っているうちに発売したほうが、ソフトがたくさん売れるという考え方もある。ハリウッド映画などで取られる手法だが、この場合でも劇場公開からソフト発売まで3〜4カ月空ける。

しかし、4月7日から第1弾が上映された『宇宙戦艦ヤマト2199』7部作では、劇場での上映とソフト販売、さらに配信(ビデオオンデマンド)の三つを同時に行うのだ。

常識破りは同時展開だけではない。『ヤマト2199』はもともと26話分のテレビシリーズとして制作。これを7回に分けて劇場で上映し、テレビ放映はその後となる。つまりテレビシリーズにもかかわらず、テレビ放映を後回しにして劇場上映、ソフト販売、配信を先行させるという点で前代未聞なのだ。

「どんな作品でもこのスキームが成立するわけではない。“宇宙戦艦ヤマト"だから可能だった」と、本作のプロデューサーを務めるプロダクションIGの郡司幹雄氏は言う。

テレビアニメ「宇宙戦艦ヤマト」の放映開始は1974年。まだ“アニメ"という呼称は一般的でなく、“テレビマンガ"と呼ばれていた時代に、リアルなSF設定や深いドラマ性などで、ヤマトはそれまでの子ども向け番組とは一線を画する前衛的な作品に仕上がった。だが、同時間帯に人気絶頂の「アルプスの少女ハイジ」が放映されていたため低視聴率に苦しみ、26話で打ち切られた。

それでも、西崎義展プロデューサー(故人)の下に才能を持った多数のスタッフが結集し完成させた作品はファンの注目を集め、77年にテレビシリーズを再編集した劇場映画が大ヒット。ヤマトは何度もテレビや映画で続編が作られ、出版、音楽、映像、プラモデル、ゲームなど多方面にビジネス展開された。日本のアニメブームはヤマトから始まったといっても過言ではない。

しかし、シリーズ化してビジネスを発展させることはできず、83年の『完結編』以降、長らく新作は作られなかった。一方、ヤマトが開いたアニメビジネスで大成功したのが「機動戦士ガンダム」だ。版権元であるバンダイナムコホールディングスだけで、現在でも年間約400億円を稼ぐ。末端の市場規模では1000億円を超えるといわれる。

ヤマトが不幸だったのは西崎氏が代表を務めていた制作会社が97年に破産したこと。そこへ99年以降、「宇宙戦艦ヤマト」の著作者をめぐって西崎氏と「宇宙戦艦ヤマト」の制作に参加していた漫画家、松本零士氏との間で争われた裁判が追い打ちをかけた。最終的に「宇宙戦艦ヤマト」は西崎氏が著作者であり、同氏が著作者人格権を有するということで決着した。

(大坂直樹 =週刊東洋経済2012年3月31日号)
記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

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最終更新:4月11日(水)11時50分

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