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ヤマトはガンダムを超える? 劇場とDVD、同時展開の成否【下】

東洋経済オンライン 4月11日(水)11時51分配信

■高価なソフトが売れて劇場にもメリット

近年になって『復活篇』や、“キムタク"主演の実写映画版などが製作され、ヤマトビジネスが再始動した。実写版が老若男女、幅広い層を狙ったものとしたら、今回の『ヤマト2199』は往年のヤマトファンをターゲットに据えている。そもそも新しい物語ではなく、最初のテレビシリーズを現代風にアレンジした“新解釈"版で、基本ストーリーを踏襲しつつ、ファンならニヤリとする細かい設定変更が随所に施されている。「ファンの好評価が世間に広がっていけばよい」と、郡司氏は期待を寄せる。

ところで、ソフト販売や配信が同時に行われることで、劇場には悪影響が出ないのだろうか。同作品を上映する松竹では、「同時販売のソフトは劇場に足を運んでもらわないと買えない限定品。一般での販売は上映から1カ月半後なので影響は小さい」(黒田康太アニメ調整室長)と言う。配信に対しても、「劇場の大きなスクリーンと家庭のテレビ画面では比較にならない。むしろ配信やソフトで見てもらって面白いと感じてもらえれば、次回作以降、劇場に足を運んでもらえる」と、むしろプラス要因ととらえる。劇場限定の高価なソフトが売れれば劇場の収入も増える。もちろん、リスク管理も行っている。むやみに上映館を増やさず、当面は全国10館に限定した。上映期間も2週間と決めている。

70〜80年代に人気を博したヤマトの中核ファン層は40代以上とみられる。自由に使えるおカネは若年層よりも多い。このため、劇場に足を運んでもらい、しかも趣向を凝らした限定版ソフトを同時に買ってもらうというスキームが成立する。ファン心理を巧みに突いたこのマーケティング戦略には前例がある。ほかならぬガンダムである。

実は、『ヤマト2199』の制作にはバンダイビジュアルが名を連ねる。同社はガンダムシリーズの『機動戦士ガンダムUC』で劇場公開、ソフト販売、配信を同時展開し、成功を収めた実績がある。

「劇場公開とソフト販売を同時にやりたいとずっと考えていた」と言うのは、ガンダムシリーズを制作するアニメ会社・サンライズの宮河恭夫専務。お台場のガンダム立像の仕掛け人としても知られる宮河氏は「映画は見終わった後がいちばん印象に残る。いい作品なら、ぜひソフトを買って手元に残しておきたいと思うはず」。前例のない宮河氏の提案に誰もが反対した。が、フタを開けてみれば、ソフトは1本当たり20万本、プラモデルやキャラクターグッズも売れる大成功となった。

この方程式が当てはまる存在としてヤマトに白羽の矢が立った。「認知度の低い作品で同時展開は難しいが、ヤマトの認知度ならイケる」(バンダイビジュアルの藤澤宣彦氏)。

■ソフトが売れない時代 “お祭り"で認知度UP

アニメビジネスで新たな試みが行われるのには理由がある。

アニメのソフトには、テレビや劇場作品だけでなく、ソフト販売を主目的に作られたOVA(オリジナルビデオアニメーション)もある。内容は買ってみないとわからないが、従来は原作や監督、キャラクターデザイナーに知名度があれば、それなりの本数が売れた。ガンダムでも過去、OVAの人気シリーズがいくつも生まれた。だが、全般的にOVAが売れなくなってきた。内容を見ずに“ジャケット買い"をしてもらえる時代ではなくなってしまったのだ。テレビアニメやアニメ映画のソフトも以前ほど売れなくなっている。

劇場公開から一定期間を置いてソフト化するこれまでの常識に安住している余裕がなくなったのだ。ゼロベースで考えた場合、劇場公開と限定版ソフト、配信を同時展開することで、ファンの間に“お祭り"を作り出す手法が出てきたのは、ある意味で必然といえる。

38年前のヤマトがアニメブームの嚆矢だとしたら、ヤマトに学び大きく花開いたのがガンダムである。そして今度は、ヤマトがガンダムに学び、映像マーケティングの常識を変えようとしている。映像ビジネスの本場、ハリウッドでもソフト販売の落ち込みに苦しんでいる。ヤマトの試みが成功すれば、このスキームが世界に広がるかもしれない。

(大坂直樹 =週刊東洋経済2012年3月31日号)
記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

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最終更新:4月11日(水)11時51分

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