余録:「地獄への道には善意が敷き詰められている」。…
毎日新聞 2012年04月11日 00時58分
「地獄への道には善意が敷き詰められている」。18世紀の英国の文人サミュエル・ジョンソン博士の言葉といわれる。前に小欄はこの言葉を引いて、鳩山由紀夫元首相の善意ではあっても責任感の底が抜けたような言動に苦言を呈したことがある▲ご当人には読んでいただけなかったろうが、仮に読んでいても今回の騒ぎは起こったろう。何しろ周囲には「そうすればこうなる」のが明らかで、「おやめなさい」との声がわき上がる中での「飛んで火に入る夏の虫」だ▲むろん鳩山元首相のイラン訪問と、その後の案の定ともいえるドタバタ劇のことだ。核疑惑をめぐる大統領との会談で国際原子力機関を公平でないと批判したとイラン側に発表され、元首相はこれに「捏造(ねつぞう)」だと反論した。いやはや、とんだイランとのパイプ役である▲「イランに国際社会の声を届ける」との善意を疑うつもりはない。政府と距離を置く議員外交にも果たせる役割はあろう。だが元首相にして与党の外交担当最高顧問が、政府首脳の制止を振り切って訪問すればどうなるか。相手に「利用される」との心配は的中した▲善い意図が善い結果をもたらすとは限らぬのが政治のイロハだが、さんたんたる事態を招いた普天間飛行場移設問題でも何も学ばなかった元首相だ。今度も終わってみれば、イラン政府に抗議するはめになった自身の失態をはじめ無用の混乱をもたらしただけだった▲党の外交顧問の肩書については、任じた野田佳彦首相の責任を問う声もあがる。元首相の威光もこんなふうに用いられるのは心外だが、この肩書だけは取り上げられないのが困ったところだ。