中日新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 東海エリア地震情報 > 地震特集「備える」 > 4月2日の記事一覧 > 記事

ここから本文

【地震特集「備える」】

安心?電柱の標高表示 広がる設置 過信は禁物

住宅街にある電柱に取り付けられている標高(海抜)表示板=愛知県田原市神戸町で

写真

◆避難目安に一役 「ここは安全」誤解恐れも

 東日本大震災の発生以降、沿岸の市町村で電柱や公民館に標高(海抜)表示板を設置する動きが広がっている。急増した住民の問い合わせに応え、避難の目安にする狙いがある。ただ、津波は陸地をさかのぼって押し寄せる。東北の被災地では津波の高さが40メートルに達した地域もある。標高表示が逆に、逃げ遅れにつながる懸念もある。

■外国語の併記も

 昨年3月以前は電柱の標高表示が1本もなかった愛知県豊橋市は、今年3月に一気に685本を設置した。総予算は1000万円。市の担当者は「震災以降、『自宅の標高を知りたい』と要望が多くあった。事前の備えにもなる」と説明する。県内で日系ブラジル人が最も多く住んでおり、ポルトガル語と英語を併記する。

 東海地方は近い将来に東海地震が起きるといわれてきたが、電柱の標高表示は、津波にたびたび襲われてきた三重県南部や伊勢湾台風を経験している愛知県西部などに限られていた。津波被害が少なかった福井県も一部自治体だけだった。

 しかし東日本震災以降、北海道や横浜市、大分県、沖縄県など太平洋沿岸の全国各地で電柱表示が進み、中部地方も並行して動きが活発になった=地図参照。

写真

 愛知県高浜市は3月末までに電柱や公共施設603カ所に表示板を新設。本年度からは、多くの人が立ち寄るコンビニエンスストアや、お年寄りや病人が通う開業医に表示することを考えている。住民の4%が外国人の三重県鈴鹿市は英語、スペイン語、ポルトガル語も表記。福井県美浜町では、震災後に町長と住民の対話集会で設置を求める要望が出て設置を検討中だ。

■避難場所も示す

 震災前から電柱表示をしている自治体も、内容を刷新している。三重県尾鷲市は新たな電柱表示に「避難所○○小学校→50メートル」と避難場所への方向と距離も入れている。

 三重県熊野市は表示地域を拡大。津波に何度も襲われているリアス式海岸部より、津波の経験がない市街地の住民から「自分の住むところの海抜を知りたい」という問い合わせが多いという。

 東海・東南海・南海の三連動地震が起きると20分で津波が到達すると予想される三重県紀北町は、156カ所の表示をさらに600カ所増やし、本年度中に計1000カ所に設置する。

三重県四日市市では電柱への設置費用を負担するスポンサーを求め、看板に「提供」と負担者を表示する。同様の取り組みをする自治体は多い=四日市市役所で

写真

 愛知県蒲郡市や三重県桑名市、四日市市、鈴鹿市、尾鷲市などは電柱表示にスポンサー企業や団体名を表記。財政事情が厳しい中、表示板作成費などの行政負担を減らそうとしている。

 ただ、各市町村で同時に動きが進んでおり、表示板の形や設置する高さなどはばらばら。表記も「標高」と「海抜」に分かれる。標高と海抜は同じ意味だが、「海抜の方が水のイメージが浮かぶ」(三重県御浜町)と、海抜表示の自治体が多い。名古屋市は震災前から、名古屋港の干潮時の水面(NP)からの高さを「NP2メートル」などと表示しているが、住民から「意味が分からない」と指摘がある。

■内容統一を模索

 愛知県と県内の沿岸市町村は昨年12月、津波対策を話し合う協議会を初めて開催。これから作る電柱表示板の内容を統一することを検討している。電柱に看板を設置する際、管理する中部電力やNTT西日本に1本あたり1300円などの使用料を支払うが、中電とNTT西は「人命にかかわることで公益性がある」として免除する方針だ。

 福井県も昨夏、北陸電力、関西電力と使用料免除で合意。電柱表示の動きが先行していた三重県では03年に中電と無償取り付けの協定を結んでいる。

 三重、福井両県は各市町に、表示板の作成費用を補助することを決め、設置の動きを後押ししている。「住民がどの程度の高さにいるか知ることが、避難の動機づけになる」(福井県危機対策・防災課)という。

 一方で、電柱表示を決めていない自治体も。敦賀市は「表示を見た市民が『この高さなら安全』と誤解し、かえって被害を大きくする心配もある」と慎重な姿勢だ。町内のほとんどが海抜ゼロメートルの三重県川越町は「海抜表示の看板はない。表示より、どこへ避難するかの情報を強化していこうと検討している」という。

写真

◆陸地よじ登る津波 思わぬ高地に到達

 津波は横向きの波力があるため、陸地をよじ登っていく。海水が駆け上がった最高地点を「遡上(そじょう)高」と呼ぶ。名古屋大大学院工学研究科の川崎浩司准教授(海岸工学)は「遡上高は、海岸での津波の高さの2〜4倍になるといわれている」と指摘する。

 潮の満ち引き具合で津波は大きさが変わる。潮位が低い時でも、5メートルの津波が地上10メートルまで駆け上がり、潮位が高い時なら20メートルに達することがあるという。

 東京大の都司嘉宣准教授らのグループは東日本大震災の被災地を調査し、宮城県女川町沖の無人島・笠貝島で、遡上高が43メートルに達した可能性があると発表した。都司准教授は「笠貝島の津波は大震災で最大だった可能性がある」と指摘している。被災地に到達した津波は時速30キロ以上だったといわれる。岩手県宮古市には20メートル近い津波が来襲し、東京海洋大の岡安章夫教授らが38・9メートルの地点まで遡上したことを確認している。

 東日本大震災では津波の高さ予報をめぐり各地で悲劇が起きた。地震直後、気象庁は岩手県、福島県で津波の高さを第一報で「3メートルの予想」、宮城県で「6メートル」と発表した。実際は各地に10メートル以上の津波が襲ったが、第一報だけを聞いて「その高さなら自分の家まで津波は来ない」と自宅に戻ったり避難をやめたりした市民が各地で津波の犠牲になった。

 気象庁は今後、津波の予想数値に幅を持たせたり、「大きな津波がくる」という表現にあらためる方針。ただ、東海・東南海・南海の三連動地震が発生した場合、仮に「○○地方は高さ3〜5メートルの津波が来る」と予報が発表され、電柱の表示から「うちは標高10メートルだから大丈夫」と判断すれば、同じような悲劇を招きかねない。

 リアス式海岸のように海辺からすぐ山間部になる地域ほど、遡上高が大きくなる。

 川崎准教授は「標高表示は日ごろの意識付けには有効」と意義を認めた上で、「メートル数だけ比較して『津波は来ない』と安心しては逆効果になる」と指摘する。各地の歴史資料に出てくる津波の高さは、津波の痕跡をもとにしており、遡上高を表している例が多い。川崎准教授は「過去にあった津波の遡上高も併せて周知しないと危険な面もある」と呼びかける。

 

この記事を印刷する

PR情報



おすすめサイト

ads by adingo




中日スポーツ 東京中日スポーツ 中日新聞フォトサービス 東京中日スポーツ