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コラム「紙つぶて」 母体保護法 杉浦真弓(名古屋市立大産科婦人科教授)

(2012年4月9日) 【中日新聞】【夕刊】【その他】 この記事を印刷する

妊娠は覚悟をもって

 日本では、妊娠22週未満まで人工妊娠中絶手術が認められています。かつての「優生保護法」は、優生思想であるという批判から1996年、「母体保護法」に変わりました。ただし、優生保護法の時代でも、胎児異常を理由とした中絶を認める“胎児条項”はありませんでした。

 法令を順守すれば、出生前診断で染色体異常が見つかっても中絶できないはずです。が、現実には「経済的理由」によって実施されています。障害のある人たちは出生前診断に対し、差別を助長すると反対しています。「自分たちは幸せ、と言い続けないと間引かれてしまう」と切ない思いを訴えています。

 胎児の成長を見る超音波でも異常が見つかることがあります。女性の産まない権利は尊重されなければなりませんが、異常が分かると短期間で決断を迫られ、その選択に後悔する女性も存在します。「他の人はどうしていますか」と必ず質問されます。胎児条項がないことの意味、胎児はいつから“人”なのか、胎児の病気を受け入れる心の強さはどうしたら育つのか。自身が考えておくべきことです。

 わが国の極めて高い産科医療レベルでも、先天異常は100人に4人、新生児死亡は1000人に3人、妊婦死亡は10万人に5人の頻度で起こります。覚悟をもって妊娠することをお勧めします。胎児条項があっていいはずがありません。人は生まれた瞬間から障害や死に向かっているのですから。

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