日英両首脳が武器(防衛装備品)の共同開発で合意した。武器輸出を厳しく制限してきた日本が、武器の輸出や共同開発に積極姿勢へと転じれば、平和国家の体面を汚すことにならないか、心配だ。
武器輸出や関連技術移転を禁じる武器輸出三原則は、冷戦下の一九六七年に佐藤内閣が打ち出し、七六年に三木内閣が確立した。
その後、ミサイル防衛(MD)のために米国との共同開発を例外的に認めたことはあるが、昨年十二月、三原則を抜本的に緩和して米国以外との武器の共同開発を解禁したのは野田民主党内閣だ。
解禁後、英国を含む多数の国から共同開発の打診があり、キャメロン英首相訪日にも軍事産業など多くの英財界人が同行している。
武器を共同で開発すれば開発コストを抑え、相手国の技術力も活用できる。ともに財政事情が厳しく、防衛費削減と軍事・防衛産業の育成を迫られる日英双方の思惑が一致したのだろう。
キャメロン首相はヘリコプターの共同開発に言及したようだが、どんな武器が対象なのかは両政府間でこれから検討するという。対象が決まらないまま話を進めるのは、とにかく共同開発を既成事実化したいからではないのか。
英国側には高い技術力を持つ日本との共同開発で他国に売れる武器をつくり、自国の軍事産業を育てたいとの思惑があるのだろう。が、軍事的緊張が高まるアジアを武器売り込み対象として視野に入れているのなら看過できない。
台頭著しい中国に対抗するためとはいえ、周辺国が最新鋭兵器を導入すれば、双方が軍拡を進め、地域が不安定化する「安全保障のジレンマ」に陥る可能性がある。
野田内閣が三原則を緩和した際も共同開発の条件に「わが国の安全保障に資する場合」を挙げている。英国との共同開発がアジア・太平洋地域での軍事的緊張を高める結果になるのなら本末転倒だ。
日本が武器輸出を禁止してきたのは国際紛争を解決する手段として武力の行使や威嚇をしない平和国家の崇高な理念からだ。
武器輸出三原則と核兵器を「持たず、つくらず、持ち込ませず」という非核三原則を国是とした日本だからこそ、軍備管理・軍縮分野で影響力を持てたのではないか。
武器輸出や共同開発をなし崩しで解禁すれば、日本の平和国家イメージを損ない、国益を毀損(きそん)する。野田佳彦首相はそのことをあらためて肝に銘じるべきである。
この記事を印刷する