少人数の老人たちが大量の食料を生産している
村の幹部から話を聞くチャンスがあったが、そこで聞いた内容は驚きであった。それを知らないと、現代中国は理解できないと思う。それは、訪ねた農村には1850人が住んでいるが、農業に従事しているのは労働人口の1割に過ぎないという事実である。
若年労働者はほほ全てが出稼ぎに行っており、それは村の労働人口の4割にも上る。残りの5割は村に住んではいるが農業はしていない。近隣の工場や街で働いている。農業を行っているのは老人だけだと言っていた。
農家の年間世帯収入は3万元(1元13円として約40万円)程度と言っていたが、農業からの収入は2割程度でしかない。その他は、出稼ぎに行った子供からの仕送りや工場で働いた賃金だと言う。
これが中国農村の実態である。むろん、これは北京に近い農村であり、中国の平均的な農村とは言えないのかもしれない。しかし、安い労働力を求めて工場が内陸部にまで進出していることを考えれば、多くの地域でこれと似たような状況になっていると考えても大きな間違いではないだろう。
中国で農村部に住んでいる人は6億人とされるが、実際に農業に従事している人は6000万人程度、それも老人である。その程度の労働力で13億の食料を作っている。
それには化学肥料、農薬、また農業機械が大きな貢献をしている。今回訪ねた農村でも大型トラクターが行き交う姿を何度も見かけた。農業機械の購入に約3割の補助金がつくようになったために、中国の農村の機械化は急速に進んでいる。
先ほども述べたように、中国では農地の中に農家が散在していないから、アメリカのような効率のよい農業が可能になり始めている。
多くの貧しい農民が暮らし、暴動の温床と言われた中国農村は大きく変わりつつある。その原動力は、農業の発展ではなく出稼ぎと兼業だ。
この事実は我々に多くのことを知らせてくれる。
まず、化学肥料、農薬、農業機械の発達により、少人数の老人によって大量の食料が生産できるようになったことである。この事実を知る時、日本で「農業の担い手不足」などと言っている議論が、いかに的外れなものであるか分かろう。
また農業から得られる収入が、低賃金の代名詞とも言える農民工の収入よりも悪いことである。これは取りも直さず食料が過剰生産気味にあることを示している。13億人を擁する中国でも、食料はちょっと努力すれば生産過剰になってしまう。だから食料価格が上がらない。
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