一番のお気に入りの部屋
「最後にここがあいてて良かったね」
何も喉を通らなかった私なのに
ダーリンとならコンビニのうどんでも美味しく食べられる
「あれ?不思議・・・美味しいって思って食べられるよ!」
「よかったね!」
そして今日のメインイベント
二人の歴史のおさらい
「海ちゃん。ここおぼえてる?ほら途中で土砂降りになってさ」
「ああ!うんうん!思い出した!」
「ここ・・・行ったなあ・・・露天風呂があってね」
「浴衣着て下駄をはいてコンビニまでアイス買いに行ったよね!」
(本当は画像も載せたいんですけど・・・・今の私は二人の写真が満載のファイルを開ける気になりません・・・・・)
「この日のスコアは最悪だったね!海ちゃんはベストスコア出したんだっけ?」
「94だよ。ベストハーフは43!」
「ここのご飯美味しかったよね~!また行きたいな!!」
「・・・・・・・・・」
自分がうっかり言ったその言葉に突然涙があふれる・・・・・
そして最後にお風呂に入って
いつもお互いに背中を流しっこするのが決まりでした
私が元気な時は
(いつも仕事の後でくたくたでした)
シャンプーもしてあげました
そして・・・・
最後のH
抱き合ったまま
二人で大泣きしました
ムードも何もあったもんじゃなくて
もう子供みたいにオイオイ泣いて・・・・・・・
ダーリンと目があった
ずっと見つめ合った
二人の気持ちが一気に接近している感じがして
「今言うしかない!!」
もう我慢できなかった
「不謹慎な事言ってイイ?最後だから許してね!不倫だっていいの!もう一度不倫だっていいからいつか私の所に戻って来て!」
ダーリンの目がみるみる涙でうるんで真っ赤になって
「うん。わかったよ」
小さくうなずいてくれた・・・・・
「ああ・・・これで終わったんだ。でも今の返事があれば待っていられる」
そう思ってぎゅって抱きついたら
ダーリンの携帯がけたたましく鳴り響く・・・
あの人でした
「うん。いま?仕事だよ。ん?声が変?今までちょっとうたた寝していたから」
「・・・・・・ごめん。・・・・うんわかるよ。・・・・・・だから謝っているでしょ・・」
「うん・・・・うん・・・・いつも冷たくて寂しかったんだよ・・だから・・・・うん・・悪かったよごめん」
こんな時間が20分くらい続き
私は毛布にくるまって息を殺して
ただただダーリンがあの人に言い訳をして謝る会話を聞くだけ・・・
「なんでこんな時に・・・・神様は最後も罰を与えるんですね・・・・」
幸せに満ちた気持ちが
あっという間にゴシゴシと乱暴に消しゴムで消されていくようだった・・・
やっと切ったと思ったら
もうダーリンはさっきのダーリンではなく
アリバイがバレそうで焦りまくっている犯罪者のよう
まだ30分は時間があるはずなのに
「海チャン悪い!急いで帰らないと職場に電話をかけられたらばれちゃう!」
「え・・・?あ・・・まだ買ったケーキも食べて無いのに・・・・・」
そんな言葉ももうダーリンには全く聞こえてもいなくて
ものすごい勢いで洋服を着ている
私はストッキングをはく暇もなく
生足で慌てて部屋を飛び出さなくてはならなくなった・・・
なんて悲しい最後のデートの締めくくりでしょう・・
車の中も
ほとんど無言・・
ダーリンの頭の中は
「やばい」の一文字
私の事なんて上の空・・・
だから私からギアを握っているダーリンの手の上に
そっと手を重ねた
ハッと気づいて握り返してくれたけど・・・
あっという間に家の前に到着
「急がせてごめんね。この後家に帰るまで電話できるから部屋に着いたらコールして」
急いでしまってしまうドア・・
中から手を振るダーリン・・・
あっけにとられた私もあわてて振り返す・・・
「え・・・?こんな最後でいいの?最後のHUGとかKISSとか?」
あっという間にダーリンの車のテールランプが遠ざかって行く・・・・
たった一人夜空の下にボ~っと立ちすくむ・・・
点になってしまったダーリンの赤いテールランプを眺めながら
「もう二度とこうやってダーリンの車を見送る事もないの?これが最後?」
それでもまだ家に帰ってベッドの上に座って
いつものデートの後のおしゃべりタイムが残っている
一分でも長く喋りたいから
フレアスカートがくしゃくしゃになってもかまわない!
洋服も着替えずベッドに座ってコール
(いつもならちゃんとパジャマに着替えるんだけど)
「もしもし?」
「ああもしもし?」
「大丈夫?あれからすぐに車に乗って職場を出たって言えばイイよ」
「うん・・そうする・・・・あ!」
「何?」
「娘から電話。ちょっと悪いまたあとでかける」
何でこんな時に・・・
そうよね・・・
家族はナーバスになっていて当然よね・・・
いつもはダーリンは私とのデートの間は電源を切っていたから
でも今日はそんなことできないもんね・・・
だからと言って
何も今日この時くらい・・・・
ゆっくりパジャマに着替えて
ベッドにもぐりこむ・・・
いつまでたってもかかってこない電話・・・
前ならこんな事絶対なかった
すぐに切って私にかけ返して来てくれた
当たり前だってわかってる
もう別れたんだから
家族の元に変えるって決めたんだから・・・・
わかってたけど
やっぱり辛くて涙が流れて止まらなかった
そしてその夜は
結局二度と私の携帯は鳴る事が無かった・・・