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日めくり

▽「PAC3」を詠んでほしい


 早番の日は参加新聞社のコラム、社説を読むのが一日の最初の仕事だ。不思議にその日その時、共通の「話題」のようなものがあって、よく目にするものに歌人の俵万智さんの短歌がある。1987年に歌集「サラダ記念日」で一世を風靡(ふうび)した俵さんとコラムの筆者陣は同世代が多いのだろうか。最近は昨年の東日本大震災後に詠まれた「子を連れて西へ西へと逃げてゆく愚かな母と言うならば言え」という歌が引用されることが多いようだ。


 報道によれば、俵さんは震災後、東京電力福島第1原発事故の影響を避けたいと子どもを連れて仙台市から沖縄県に移り住んだ。詳しい事情は知らないが、わが子の父親を公にせず出産を決断した時点で、ひとりで子を守り抜く決心をしたはずだ。仙台を離れる際に「あなたはいいわよね」というようなことを言われたとも聞くが、俵さんは経済的な自立という裏付けの上にシングルマザーの道を選んだわけで、「自主避難」も非婚で子を育てる覚悟の延長線と思う。個人の選択と行動に第三者が簡単に「愚か」とは言えない。


 その俵さんが暮らす石垣島に北朝鮮の「衛星」打ち上げに備えて地対空誘導弾パトリオット(PAC3)が配備された。地元紙の琉球新報は石垣港が「基地」に一変した様子を伝える。さらに9日の沖縄タイムスは柳沢協二・元内閣官房副長官補がこれらの動きについて「軍事的な意味はない。既成事実づくりを意図している」と述べたと報じた。「衛星」の破片が落下する可能性は低く、落下したとしてもPAC3では予測が難しいというのだ。打ち上げがあった日は学校では屋内退避の措置を取るというが、沖縄県民の不安材料は増すばかりだ。


 表現者として卓越した才能に恵まれた俵さんは、この状況をどう受け止めているのか。愛する子どもの前に突如として現れた「北朝鮮」という脅威やミサイル防衛(MD)システムによる「迎撃」という言葉が飛び交う現実、そして目の前に広がるものものしさを。住民の不安や戸惑いはどうなのだろうか。東京で危機感に乏しい自分に比べ、鋭い感覚を持つ歌人には伝えたいこと、伝えられることが山ほどあると思う。子どもを慈しむ母親のまなざしと、世相を切り取る鋭い視点で石垣の今を詠んでほしい。口語短歌の裾野を広げ、短歌の世界をぐっと身近にしてくれた俵さんにしか作れない歌を。その歌が今、読みたい。(2012年4月10日 47NEWS編集部 黒川美加)