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大飯再稼働の政治 - テレビ報道の自粛とネットの無風
再稼働についての緊急世論調査が、早ければ日曜(4/8)にも出るかと予想したが、1社からも発表がなかった。3/30(金)に野田佳彦が消費税増税の閣議決定と法案提出を官邸会見したときは、4/1(日)に毎日が世論調査をネットで速報した。国民の関心がきわめて高い問題であり、またマスコミ各社も批判的な論調が一般的な再稼働については、待ってましたと世論調査が続出し、政府を叩く報道で埋まるかと思いきや、期待が外れて狼狽している。それどころか、日曜のテレビの報道番組は、例外なく再稼働問題を外す編成にシフトしていて、素早い報道管制の手に舌を巻く始末だった。通常、平日にあれだけ大騒動が続けば、週末のテレビ報道はその特集を大きく組み、スタジオのコメンテーターに議論させるはずだ。そして、週初の世論調査の発表へと繋げるのが慣例だ。ところが、テレビが完黙して無視を決め込んだ。NHKの日曜討論は、北朝鮮の「ミサイル」発射問題。テレ朝の報ステSundayは、国民新党の問題と福島競馬場の特集。日テレのバンキシャも、北朝鮮の「ミサイル」と南海トラフ。申し合わせたように再稼働問題の報道を自粛している。TBSのサンデーモーニングも、番組前半に組むメインのトピックスから外し、後半の「先週起きた出来事」の中でサラリと触れるという淡泊ぶりで、いつもの関口宏の姿勢からは考えられないような些末な扱いだった。
 

異常と言わざるを得ない。この現実は、明らかに偶然の一致ではなく、テレビ局に何らか上(政府権力)からの指導と要請があり、報道を回避自粛で足並みを揃えている結果だ。テレビ報道で再稼働への批判を封じ込め、国民の関心と注意を逸らし、今週の再稼働決定の政治に世論の猛反発が起きないよう報道を操作している。どう考えても、この日(4/8)に特集する素材として最も視聴者のニーズが高いのは、再稼働の政治判断をめぐる問題だっただろう。四閣僚会合で泥縄の「安全基準」を決定した翌日の土曜(4/7)、新聞各紙は1面で大きく報道し、記事は政府を批判する主張になっている。各紙は社説で取り上げ、朝日は「再稼働への前のめりな姿勢は改めるべきだ」、毎日は「あまりに拙速で場当たり的だ」と言っている。日経と読売は政府の決定を支持しているが、地方紙は厳しい批判の声が圧倒的だ。この新聞の反応と傾向からすれば、4/8のテレビ報道で再稼働問題が大きく取り上げられ、政府への不信と反発の世論が代弁され集約される流れになるのは当然だった。毎日の4/2の世論調査では、再稼働に反対が62%、賛成が33%となっている。朝日もほぼ同じ。朝日と毎日が、系列のTBSとテレ朝の4/8の番組で、自社の社説に沿った再稼働批判の報道を組むのは必至と思われた。どうやら、流れを寸断し阻止する権力のカウンターが入っている。

先週初(4/2)、国会で枝野幸男が答弁し、大飯原発について「現時点では再稼働に反対だ」と明言、さらに同意を得るべき「地元」の対象を滋賀県と京都府に拡大すると言った。このとき、孫正義はTwitterで「見直したっ」と言って喜んでいる。だが、その翌日(4/3)には発言を撤回、孫正義は「えっ?」と驚き、その後は再稼働問題の発言を控えてしまった。枝野幸男の迷走は、今に始まったわけではなく、この正月からずっとジグザクが続いている。再稼働問題の裏には、東電の特別事業計画の問題があり、料金値上げと会長人事の問題がある。原子力規制庁の組織と人事もある。これらは政治として一体のパッケージだ。一見して推察できるのは、ここで権力闘争が行われているということである。表面には出ないが、水面下で一進一退の綱引きが熾烈に行われていて、その局面ごとの形勢が枝野幸男のブレになって浮上していた。基本的な構図を見透せば、枝野幸男が昨年の菅直人の立場を引き継いでいて、孫正義や飯田哲也と近い位置にあり、それと対抗するところの電力会社と経産官僚の保守勢力があり、勝俣恒久の実権を温存させ、原発事業も従来のまま続け、リストラもせず、賠償金は国民の税金を使えばいいという立場がある。電力会社と経産官僚の側に、野田佳彦と前原誠司と米国が与し、枝野幸男に対して攻勢をかけているという政治だろう。二者の間の行司役として仙谷由人がいる。

無論、枝野幸男は脱原発ではなく、菅直人よりも原発推進派の前原誠司に近いが、それでも、政権内では相対的に脱原発に近いスタンスを維持して、将来を睨んだ国民の人気取りの思惑でタイトロープしているのだろう。先週、怒濤のように四閣僚会合が続けて開かれ、「関係閣僚の間で納得がゆくまで協議して結論を出す」という表現が報道で流された。この意思は野田佳彦のもので、藤村修からマスコミに書かせている。この言葉の意味は、「枝野幸男が折れて降参するまで四閣僚会合を開いて詰める」ということで、枝野幸男に白旗を迫っている政治だ。四閣僚の中で細野豪志には発言権はなく、ただ着席と沈黙を強制させられているだけの添え物である。その四閣僚会合の場に、政府の人間でもないのに仙谷由人が着座していた。この席に仙谷由人が参加すれば、それは政府の正式な閣僚会合ではなく、政府と党との政策調整会議だ。関係法制に無知で政策弁論の能力のない野田佳彦が、口達者な枝野幸男と会議で直に対決してしまうと、一方的に押しまくられ論破されてしまうため、野田佳彦を援護する助っ人(弁護人)として仙谷由人が急遽出張っていたのだろう。先月までのマスコミ報道では、東電の会長人事が暗礁に乗り上げているという説明だった。会長人事の攻防が両者の権力闘争の主戦場だったのである。ところが、先週に入って状況が変わり、野田佳彦側が再稼働問題で正面突破を図ってきた。

つまり、本来なら、野田佳彦側(経産官僚・電力会社の陣営)にとって最も難関で劣勢と見られていた戦線を選び、敢えてそこを強行突破する作戦に出て来ている。これは、5/5までに再稼働しないと全基停止になるからで、もう時間がないからだが、枝野幸男にとっては不意を衝かれた事態だっただろう。われわれも同じで、再稼働に反対する国民の声は日を追って高まっていて、マスコミ報道も再稼働にネガティブな論調が支配的になっていたため、すっかり再稼働強行はないと枕を高くした気分でいた。政府広報であるNHKの世論調査を見ると、2/14の報道では、再稼働に賛成が22%、反対が36%となっている。3/13の報道では、賛成が17%、反対が39%となり、賛成が減って反対が増え、反対が賛成よりも2倍以上多いという形勢になっていた。そのため、最近のNW9の報道でも、原発再稼働を正当化する言説は背後に退いていた。NHKの世論調査でこうした数字を出しながら、いきなり強引に再稼働へ結論を持ち込むのは、政治として無理を感じざるを得ない。まして、消費税増税法案を国会に提出したばかりで、政権は少しでも国民の支持を落としたくない環境にある。というのが4/6までの再稼働をめぐる与件で、4/8のテレビ報道で政権が糾弾されるだろうと私が予想した根拠だった。予想は外れ、テレビは沈黙を決めた。再稼働側が巻き返しに出ていて、マスコミに自粛工作を仕掛けている。その計算にあるのは、北朝鮮の「衛星」発射のショック・ドクトリンだろう。

再稼働を決定する。と同時に、会長人事も、料金値上げも、特別事業計画も、東電と経産官僚の目論見のまま、誰にも指一本触れさせず、当初の予定どおりバタバタと片づけて行くのに違いない。これから、北朝鮮の「衛星」発射問題の騒ぎがある。すぐに訪米とTPP参加表明の政治がある。消費税増税法案も佳境に入る。国民は、重要問題が集中して浴びせかけられ、反対の運動と言論が分散してしまい、反撃の的を有効に絞ることができなくなる。あれよあれよと言う間に、混乱している渦中に全てが有無を言わせず押し切られてしまう。政権と政府はそれが狙いなのだ。その意味でも、再稼働についてはここで阻止しなくてはならず、対抗する政治を作らなくてはならない。だが、実情は全く逆のありさまで、4/8(日)のテレビ報道の自粛にも驚いたが、それ以上に驚いたのは、ネットの中に反対運動の行動提起がなく、運動体の事務局のTwitterが問題を放置していることだった。本気で再稼働を止める意思があるのか、よく分からない。TLを見ていると、再稼働に反対が賛成よりも多いことは分かる。だが、どのTweetも、単なるマスコミ報道やネット情報のコピペで、再稼働阻止に向けての自身の分析や提起が何もない。意見に個性がない。立場は再稼働反対なのだけれど、観客的で、単に騒ぎを楽しんでいるようにしか見えないのだ。テレビを見るようにTwitterを娯楽している。政府の抜き打ちの再稼働への怒りと驚きがなく、危機感や焦燥感が伝わって来ない。それは、無名の者たちだけでなく、有名な人間のTweetも同じだ。

本気で再稼働を止めようと思っているのだろうかと、疑いを抱かされ、半ば呆然とさせられた。


 
by thessalonike5 | 2012-04-09 23:30 | Trackback | Comments(0)
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