eakum

 
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レビュー

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禿鷹 (バベルの図書館 4) フランツ・カフカ
禿鷹 (バベルの図書館 4) フランツ・カフカ
5 人中、4人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
  もし全てのSF読者が読むべき世界文学の巨匠を一人選ばなければならないとしたら(確
 かにそのような途方もない選択を義務づけられる読者はいなかろうが)、それは紛れもな
 くホルヘ・ルイス・ボルヘスであろう。ボルヘスにはわれわれの求める奇想があり、文体
 があり、そしてもちろん、笑いがある。
  その文字通りの入門“篇”として挙げるなら、当然 短篇集『伝奇集』の巻頭を飾る「
 トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス」ということになろうが、叢書“バベル
 の図書館”の序文から入っていくのも悪くない。そこでのボルヘスは、エッセイと批評と
 作家紹介と作品解題を巧みにかつ自由自在に織りまぜ、序文というものが十分に一個の作
 品となり得、またエンタテインメントとなり得ることを証明してみせてくれている。
  この巻でボルヘスが紹介するのは、もっぱらイメージによって知られているだけの あ
 の辛気臭い現代文学の巨匠カフカではない。ものによっては1ページで終わってしまうよ
 うな短篇というよりは断片に近い作品を集め、そのこと自体でボルヘスは自身のカフカ観
 及び文学観を語ってもいる。われわれはそこに 投げやりで斬新な語り口とグロテスクな
 想像力がひとえに不条理ギャグのみに貢献する モダンでカジュアルなエンタテインメン
 トを発見すればよい。
  イタリアのフランコ・マリーア・リッチ社と日本の国書刊行会によるその美しい判型と… 続きを見る
苦悩のオレンジ、狂気のブルー (柏艪舎文芸シリーズ) デイヴィッド マレル
3 人中、2人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
 私は出版関係者ではないが、まずこの本の商品としての破格さに驚く。1900円
で14+2篇、しかも作者自身によるまえがき/あとがき/各篇へのイントロダクショ
ンがついた原書そのままを 札幌市の出版社が全国発売しているというこの快挙!
 んなことぁ抜きにしても、マレルの短篇作家としての力量にまた驚く。キングをフ
ィーチャーするためのなさけない邦題を持つ名アンソロジー『ナイト・フライヤー』
収録の「オレンジは苦悩、ブルーは狂気」での発見がこの短篇集へと導いてくれたワ
ケだが、そうでなければ私にとってのマレルとは“ランボー”こと『一人だけの軍隊』
もしくは『トーテム』の作者に過ぎなかったろう。
 で、注目&警告!彼のアクション/サスペンス巨編のファンの人もそうでない人も
この短篇集だけは読んだほうがいい。SF/ホラー/ミステリのファンなら、とりわけ
それらの短篇のファンなら、この濃密な短篇集が 玉石混淆のキングのそれなど軽く
超える モダンでヴァラエティに富んだ逸品であることがみてとれるだろう。
「パートナー」オフ・ビートなイカしたイマドキ殺し屋が新鮮でリアル。と思ってると
・・・いや、ネタバx・・・エリx、xール、ブxック・・・
「ひそやかな笑い声」大学教授でアクション/スリラー作家というとトレヴェニアン
が思い浮かぶが、そんなことは全く関係なしに、むしろ正反対の部分でさすがと思わ… 続きを見る
シェイヨルという名の星 (ハヤカワ文庫SF―人類補完機構シリーズ) コードウェイナー スミス
5 人中、2人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
  もし最高のSF作家を一人選ばなければならないとしたら(確
 かにそのような途方もない選択を義務づけられているわけでは
 ないが)、その人物は紛れもなくコードウェイナー・スミスで
 あろう。彼の作品にはSFの昨日があり、今日があり、そしてた
 ぶん、明日がある。
  50、60年代発表のスミス作品はそれ以降にアメリカで書
 かれたすべてのSFを予兆し、凌駕している。ヴァーリイの作品
 とNWのそれは、スミスの存在なくしては考えられない。(そし
 てヴァーリイの系譜に連なる一時代に一人のクールなブーム・
 メイカーがSFの平均株価を一気に引き上げるのだ。)
  コードウェイナー・スミスことポール・M・A・ラインバーガ
 ー博士は朝鮮戦争で補完機構的作戦行動を実行し、何万もの無
 駄に失われていたであろう人命を救った。その辺の事情は『鼠
 と竜のゲーム』収録のJ・J・ピアスの序文に詳しい。ここでは
 速脚で今日サイバーパンクと呼ばれているジャンルを予兆する
 と同時にそれを越えてしまっているこの集の短篇群を検討する
 にとどめておこう。
  『クラウン・タウンの死婦人』は泣かせる傑作だ。補完機構
 の残酷にも慈悲深き正義の感覚はこの短篇で泣いた後ならすべ
 て理解できよう。するとスミスの作品が SF界随一の詩人によ
 る絢爛たるファンタジー などではまったくない… 続きを見る