もし最高のSF作家を一人選ばなければならないとしたら(確
かにそのような途方もない選択を義務づけられているわけでは
ないが)、その人物は紛れもなくコードウェイナー・スミスで
あろう。彼の作品にはSFの昨日があり、今日があり、そしてた
ぶん、明日がある。
50、60年代発表のスミス作品はそれ以降にアメリカで書
かれたすべてのSFを予兆し、凌駕している。ヴァーリイの作品
とNWのそれは、スミスの存在なくしては考えられない。(そし
てヴァーリイの系譜に連なる一時代に一人のクールなブーム・
メイカーがSFの平均株価を一気に引き上げるのだ。)
コードウェイナー・スミスことポール・M・A・ラインバーガ
ー博士は朝鮮戦争で補完機構的作戦行動を実行し、何万もの無
駄に失われていたであろう人命を救った。その辺の事情は『鼠
と竜のゲーム』収録のJ・J・ピアスの序文に詳しい。ここでは
速脚で今日サイバーパンクと呼ばれているジャンルを予兆する
と同時にそれを越えてしまっているこの集の短篇群を検討する
にとどめておこう。
『クラウン・タウンの死婦人』は泣かせる傑作だ。補完機構
の残酷にも慈悲深き正義の感覚はこの短篇で泣いた後ならすべ
て理解できよう。するとスミスの作品が SF界随一の詩人によ
る絢爛たるファンタジー などではまったくない…
続きを見る