2011-07-29 ジョージ・R・R・マーティン 『洋梨形の男』
■[イニシャルM]第43回 マーティン
![第43回 マーティンのブックマークコメント 第43回 マーティンのブックマークコメント](/contents/083/250/683.mime1)
第43回 『洋梨形の男』 ジョージ・R・R・マーティン
― 用無し型のSF作家 ―
- 作者: ジョージ・R・R・マーティン,中村 融
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2009/09/15
- メディア: 単行本
- 購入: 3人 クリック: 28回
- この商品を含むブログ (53件) を見る
コレは恐るべき短篇集ですよ!“ マーティンどうでもいい派 ” だからといってコレまでスルーしちゃう
のは大損もいいトコ!件の人気長尺ファンタジーもエンタメSF連作集も長篇ホラーもグロSF短篇集も読
んでなくても/読む気なくても!コレだけは読むべし!てゆうかコレ以外はむしろ読まなくていいかも。
いや、マジにね、ホラー短篇作家としてのこの人は、空前絶後・唯一無比・不世出の個性なんですわ。
はっきり言ってふさわしい褒め言葉がみつけにくいんですが、不安のソムリエ、悪意の鑑定士、狂気の
顕微鏡写真家、とでも言うところでしょうかね。いささか安易に味わいの似た作家名をひきあいに出す
なら、スタンリイ・エリン、エド(ワード)・ブライアント、ジョナサン・キャロル、となりますが、
でも早合点しないで(CV:真矢みき)! 残念ながら名手と言われる鮮やかな手際ではなく、彼らが一部
の作品で描いてみせる、恨み・つらみ・妄念・執念・後ろ暗い過去の記憶等々の人間のダーク・サイド
描写、あれだけが似てるんですねー。“ えー?それで一体何が面白いわけ? ” って言われるかもしれま
せんが、これがめっぽう面白いんだから困っちゃう!てゆうか、コワいんですね。もう、どんなモンス
ターや幽霊や悪魔より怖い。怖いし、ウゲーって後味悪いし、短篇としてはそーんなにまではデキ良く
ないし、でも読んでる最中は他では味わえないくらいのそのエグ味がものすごいリーダビリティとつか
みを発揮する。― あ〜、そう書いてて想い起こしたのはヴィンチェンゾ・ナタリの映画『CUBE』だね、
うん。エンディングをどう評価するにせよ(あるいは評価しないにせよ)、その最中のパフォーマンス
の高さは空前絶後、そういう傑作のカタチもあるワケですよ(因みに『CUBE』は全面的に支持するワタ
シです)。
さあ、思わせぶりなアオリはこれくらいにしといて、とりあえず各篇について触れときましょうかね。
どうでもいい2篇は意図的にスルーですが。
「思い出のメロディー」は、う〜ん、パワー・ポップ!この巻では一番まっとうにデキのいいオーソ
ドックスなホラーなんですが、もちろんそんなトコを読むもんじゃないんですな。主人公のテッドとメ
ロディーを、そのやり切れなさ、後味の悪さこそを読んでほしい。はっきり言って、ホラーだからむし
ろ救われてる、そんなイヤ〜なコワさを、この30ページのとっつき易い好篇がすばやく教えてくれまする。
「子供たちの肖像」は、力作にして、う〜ん...まあ、傑作?二重仕立てのメタなトリックが効いてる
ワケですが、そしてまたそれこそを評価すべきなんでしょうが...どーでもいい!やっぱりイヤさ加減を
楽しみましょう。
「洋梨形の男」は、もしかしたらこの巻で一番、というか唯一、深イイ話なのかもなあ。いや、もちろ
ん気持ち悪いんですよ。ジャブも華やかでいいテンポなんですよ。ただ、一見一件落着にも見えるラスト
でワタシやアナタに返ってくるイヤさがねえ...初出年代からすると、この路線のマーティンは進化してる
のかも。キングの『痩せゆく男』なんかのイヤさを連想させます。
「成立しないヴァリエーション」は、救いがあって良くデキてて、チェス小説/SF小説としてのスリルも
あって、この巻以外のどこに出しても恥ずかしくない良い短篇になってますが...やはりその強力なリーダ
ビリティのもとになってるのは妄執パワーの怖さ、なんだなあ。
で、最後に総論いっとくと、フィクションの材料として片付けてしまうにはあまりにリアルで「あるある」
な、これでもかこれでもかってカンジの悪行エグリ出し描写が、ジョージ・R・R・マーティンのホラー短篇
作家としての最大の持ち味にしてウリ、と言っちゃっても過言ではないと思う。そのへんマーティン自身も
自覚と自負があるようで、そのココロザシはその発言に過不足なく表れてる気がする ―
優れたホラー小説は、歪んだ暗い鏡に映ったわれわれ自身の姿を見せてくれる。その鏡の中に、
われわれは不安を誘うもの、本当は見たくないものを垣間見る。ホラーは、人間の魂の影、われ
われみんなの心の奥に棲みついている恐怖と怒りを覗き込むのだ。
― 編訳者あとがきより 宮脇孝雄訳
キングやキャロルやマレルが言ってても別にフシギはない発言だが、この短篇集のマーティンが言ってこそ
さすがと思わせる発言だ。SFもホラーもファンタジーもまぜこぜ&自由自在の器用貧乏作家なんて読みたか
ねーよ!と敬遠してるヒトもいるだろうけど(ってオレじゃん!)、主人公=犠牲者に感情移入して同化し
てると思いがけなく告発の指がこっちに向いててギクリ、ってなカンジのイヤ〜な味わいを楽しめる海千山
千スレっからしのホラー好きならぜひお見逃しなく!
にほんブログ村