K-1の現状と今後について -- 谷川貞治より
K-1でのラストメッセージ
皆さん、大変ごぶさたしていてすみません。FEGの谷川貞治です。私が、ここのところ表に出ていなかったのは、K-1の新体制ができるまで状況が二転三転し、ハッキリしたことが皆さんに言えなかったからです。この時期、可能性だけ言って結果が変わってくると、さらに信用をなくし、皆さんに迷惑をかけることになりますからね。だから、決して逃げたり、死んでたわけではありません。どんなにつらくとも絶対にあきらめないのが私の信条ですから。
さて、そろそろ皆さんに私のほうからも説明する時期に来ているかと思います。皆さんご存じのように、そもそも株式会社FEGはK-1の創始者・石井和義館長(私はあえて“元”はつけません)が代表取締役を務めていた株式会社ケイワンの法人税法違反で石井館長が逮捕されて、K-1の運営ができなくなったことから作られた会社です。当時はフジテレビ、TBS、日本テレビ(その後2003年の「イノキボンバイエ事件」で格闘技から撤退)の3局から放送が打ち切られ、スポンサーも離れようとしていましたが、FEGを作り、私がプロデューサーに立つことでなんとか乗り切ることができました。
石井館長とは25年以上の付き合いになりますが、K-1誕生以前からずっとブレーンとしてやってきましたので、この時はなんとか石井館長を守りたい、K-1を守りたいという一心で、大役を引き受けることにしました。
そして本当にスタッフのみんなで必死に頑張って10数億円の税金を支払い、石井館長逮捕がきっかけで生じたPRIDEとのシ烈な興行戦争を闘い抜き、一大会も失敗しないように全力を出してやってきました。興行というのは、ひとつ手を抜いた大会をやると、いっぺんに下り坂を転げてしまうからです。皆さんも理解しているかと思いますが、K-1は毎回会場に人が集まり、テレビの視聴率もそこそこ良く、スポンサーにもたくさんついていただき、赤字など出したことはありません。
それでも多額の税金やファイトマネーの高騰、昨今のテレビ業界が激変する社会状況の中で、次第に資金繰りが悪くなっていきました。もちろん、脱税をしているので、銀行などの借り入れはできません。多くの人に援助を受けながらも、未払いがどんどん膨れ上がってしまったのです。
ですから、ネット等で噂されているK-1の未払い問題で、皆さんに迷惑をかけているのは事実です。そのことに関しては、本当に申し訳なく思っています。ただし、関係者でそのことを発言している人のほとんどは関係のない部外者だったり、未払いのない人だったりします(もちろん宮田和幸選手のように事実の人もいますが……。JZカルバン選手も)。それにもまして、そのことを口にせず、耐えて試合に出てくれたり、手伝ってくれている業者がどれほどいたことか。これらの人達には、一生かかっても恩返ししなければなりません。苦しい時こそ、人って本当の姿が見えるんですよね。
私としてはこの未払い問題を一早く解決するには、ホワイトナイトとなるK-1の新しいオーナーを見つけるしかないと思いました。静岡刑務所から石井館長が帰って来た時、そのことを相談して石井館長にも納得してもらい、スポンサー探しに走りました。幸いなことにすぐにK-1の大スポンサーだったフィールズの山本英俊会長が手を挙げてくれて、何の未払い問題が起こることなく、K-1は再生するかと思われました。しかし、結局うまくいきませんでした。その後マレーシアのスポーツエージェントの「TSA」、中国の投資ファンド「PUJI」、韓国の投資家、日本のファンド、マカオのカジノ・ホテルなど、多くの投資家が数十億円の金額を提示してくれたりしましたが、最終的にはPRIDEのようにうまく解決できなかったのです。
もちろん、そこにはいろんな理由がありました。それは今はいえません。ただ、私自身の限界は、「K-1」という格闘技コンテンツの最終決定者は石井館長にあったことです。「K-1」という商標権の保有者は石井館長なので、当然そうなりますね。だから、基本的には私は必死で投資家を口説き、デューデリジェンスなどの過程を踏んで石井館長に紹介し、その間K-1が何事もないかのように華やかで面白いイベントをやりながら待つしかなかったのです。待っている間は、もちろん私も地獄の苦しみでしたが、それ以上に復活を信じて一緒に頑張ってくれたスタッフ、ファイター、競技役員、業者の皆さんには本当に助けてもらいました。感謝してもしきれぬほどです。しかし、そんな状態も3年も経てばさすがに限界となります。「未払い問題」がネット等で浮上し、昨年は開催すらできなくなるほどの状況においやられてしまいました。
そして、すでに発表されているように、今年になってようやくJASDAQ上場会社である「EMCOM」が、「K-1グローバル・ホールディングス」という子会社を香港に設立し、石井館長ならびにK-1の商標を担保として押さえていた株式会社バルビゾンとの契約が合意に至り、K-1の商標権が「K-1グローバル・ホールディングス」に移行することになりました。
新生K-1は今後、「K-1グローバル・ホールディングス」がやっていきます
この「EMCOM」の大株主で元社長が韓国の投資家なのです。私が2年前に韓国でお会いし、意気投合して石井館長に紹介した人です。
昨年、石井館長が中国の北京で新生K-1の発表を大々的に行ったようですが、結果的にK-1は「EMCOM」に移りました。最後の方はPUJIやバス・ブーンがあらためて連れてきた「TSA」、日本のファンドも石井館長に食い下がったようですが、最後はEMCOMが手にしたのです。ただ、EMCOMに石井館長を紹介してから、私は交渉から外されていたので、それ以降どんなやり取りが投資家たちとあったのか、正直詳しいことは分かりません。
というわけで、今後のK-1は「K-1グローバル・ホールディングス」という会社が引き継ぎ、再生させていきます。今のところ新しい経営者、プロデューサーは決まっていないようですが、すでにHP上で発表されているように、5月下旬にスペインのマドリッドでMAXのFINAL16を開催するのを皮切りに、ミドル級、ヘビー級の世界ツアーを開催していくようです。この韓国の投資家は、経営者としては凄い方だと聞いておりますが、格闘技に関してはまったくの素人の方です。ですから、早く専門的なプロデューサーを決めたほうがいいでしょうね。最初の大会は本当に重要ですから。
というのも、K-1の社長になるつもりだったバス・ブーンが自分の手でK-1ができなくなったことに腹を立て「グローリー」というイベントを定期的にやっていくようで、K-1ファイターを次々に引き抜きにかかってるからです。このバス・ブーンの行動でK-1は二分化されるのは間違いありません。ピーター・アーツやジェロム・レ・バンナ、ジョルジオ・ペトロシアンは「グローリー」と契約を済ませました。こういったK-1の有名選手は、今後ゴールデン・グローリーの選手の踏み台になっていくでしょう。そして今後は「新生K-1」VS「グローリー」となっていくんでしょうね。バス・ブーンと敵対している「It’s showtime」のサイモン・ルッツは新生K-1に全面協力していきます。ここでもサイモンVSバスのオランダ対決の構図が生まれ、バスはK-1潰しに躍起になっています。こういう場合、得てして両者リングアウトになるケースが多いので心配です。仲良くすればいいのに・・・。
K-1プロデューサーはやめました
さて、私のほうですが、新体制になった以上、「K-1グローバル」が選ぶ新しいプロデューサーにバトンタッチしなければなりません。実際、今回の契約は、石井館長が保有する「K-1」の商標が「K-1グローバル」に移っただけで、事業譲渡ではないためFEGの未払いは何ら解決する契約ではありませんでした。結果、FEGだけが取り残されてしまう形になったので、それをほったらかしにしてK-1を手伝うことはできません。迷惑をかけたまま、FEGを死なすわけにはいかないのです。ですから、私はもうK-1をプロデュースする立場にはありません。今後のK-1は、プロはK-1グローバルが、石井館長はアマチュア中心にやっていくことになると聞いています。ネットなどでバス・ブーンなんかが私のことをK-1グローバル派と見ていますが、厳密に言えば、全く認識が違います。私もK-1には誰よりも強い思い入れがありますので、うまく復活してほしいし、格闘技界のごたごたでファンを置き去りにしてもらいたくないのですが、私は陰ながら応援するだけの立場でしかないのです。もちろん協力できることはいたしますが・・・。
また、FEGの負債に関しては、ファイトマネー等、「K-1グローバル・ホールディングス」が契約金として少しずつ解決していってくれています。もちろん今のところ「K-1グローバル・ホールディングス」とFEGは何ら関係ありませんが、K-1という実行部隊としてファイターや専門業者は必要です。「K-1」は「K-1」というただの名前であって、そこに選手、イベントを作るスタッフがいてK-1がK-1たりうるのです。コンテンツというのはそういうものです。名前より作る人が大切なのです。差し出がましいことですが、新生K-1はそこを間違えると本当に大失敗してしまうことになります。
一方、私のほうもご迷惑をおかけしている人たちに少しでもお返しできるよう、今後は新しい格闘技コンテンツを作っていこうと思っています。すでに構想は出来上がっており、はっきり言って、これは格闘技界の新たな革命になりうると自信を持っています。
新しい格闘技を作ります
すでにテレビ局の人にも相談しましたが、みんな「メチャクチャ面白い」と言ってくれています。こんな状況で「何を今さら」と思われる方もいるかと思いますが、格闘技が元気をなくした責任を強く感じているだけに、もう一度最後の勝負をしようと思っています。すでに協力していただける投資家の方々もたくさん現れています。これは面白いですよ。ぜひ、期待してください!
それにしても、この10年間、K-1をはじめとする本当にワクワクする格闘技イベントをプロデュースできたことは、何よりも増して大きな財産となりました。ファンの皆さん、ファイターの皆さん、スタッフをはじめとする関係者の皆さんには感謝の念と、中途半端な形でバトンタッチせざるを得なかったことに対する無念の気持ちでいっぱいです。
魔裟斗や武蔵、桜庭和志、ピーター・アーツ、ホイス・グレイシー、山本KID徳郁、秋山成勲と数えあげたらキリがありませんが、これら素晴らしいファイターとは一緒に仕事ができた思い出が、数限りなくあります。言い方はおかしいですが、ボブ・サップやチェ・ホンマンといった出来の悪い子ほど、思い出も深く、可愛かったりもします。今、テレビや雑誌等で活躍しているファイターは、ほとんど深い関わりを持ち、そして「俺が作ったんだ」という自負もあります。テレビ局やマスコミの皆さんにも本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
また、あえていいますが、FEGのスタッフもそうですが、ある意味それ以上に苦境を一緒になって闘い、文句や愚痴を言うどころか励まし合ってくれたDREAMのメンバーには頭が下がる思いです。ご存じのようにDREAMのスタッフは旧PRIDEの運営チームです。かつては「K-1」VS「PRIDE」のシ烈な興行戦争で「やるかやられるか!」の関係だったのに、再び手を結んでからは1000%の信頼関係で頑張ってもらいました。彼らは本当に格闘技をこよなく愛する凄いクリエーター集団です。この場をお借りして、心より感謝申し上げます。
そして、何よりも石井館長。もう何ヶ月も会っていませんが、思い出は尽きることがありません。やっぱり、K-1は石井館長がいて、私がいて今までのK-1だったと思います。でも、新しいK-1にも期待しましょう!
いつか本でも書いてみたいです
話が長くなってしまったので、この辺でやめておきます。
私は今も多くの人に迷惑をおかけし、自分自身も苦境に立たされていますが、最後に皆さんに言いたいのは、決してあきらめないということです。今はどん底にいますが、それも宿命だと思い、私はあきらめずに頑張り抜きます。石井館長やK-1を守りたい一心ではじめ、どんなに苦しくても笑いとボケを忘れず、人に苦しいところを見せない。もう何もかも失い、ポツンととり残されましたが、絶対に前向きに生きてみせます。そして、必ずや格闘技というジャンルを復活させ、どん底から這い上がった手本になってやる! ですから、長い目でみてやってください。
K-1のこともますます応援して下さいね。K-1グローバルの皆さん、石井館長、ご健闘をお祈りしております。陰ながら、応援しています。私ももう一仕事して、次世代にバトンタッチしようと思っています。どんな仕掛けをするか、楽しみにしてください!
最後にこんな状況にも関わらず、ツイッター等で何度も私のことを励ましてくれたファンの皆さん、本当にありがとうございます。この気持ちには、必ず応えたいと思います。でも、私のK-1はこれでおしまいです。
※関係者のご指摘を受け、一部内容を修正しております。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
FEG代表取締役
前K-1イベントプロデューサー
谷川貞治