西日本新聞

WORD BOX - THE NISHINIPPON WEB

震災がれきの処理基準

 環境省が広域処理の対象としたのは、宮城県、岩手県沿岸のがれき(災害廃棄物)。放射性セシウムが検出されないか、検出された場合は焼却前で1キログラム当たり240―480ベクレル以下、焼却灰の埋め立て処分で1キログラム当たり8千ベクレル以下の濃度であることが安全の目安としている。
 一方、原子力発電所の解体などで発生するコンクリートや金属などが再利用できる「クリアランスレベル」は、原子炉等規制法で1キログラム当たり100ベクレル以下とされている。

(2012年4月7日掲載)

震災がれき受け入れ 被爆者どう向き合う?

 東日本大震災のがれきの処理をめぐり、被爆者が揺れている。長崎原爆被災者協議会など被爆者5団体は「放射性物質を拡散すべきではない」と受け入れ反対を表明したものの、個々の被爆者の中には「安全を担保した上で痛みを分かち合うべきだ」との意見もある。震災がれきとどう向き合えばよいか。放射能の恐怖を身をもって知る被爆者や専門家に聞いた。
 
 ●安全性、市民に説明せよ 長崎大先導生命科学研究支援センター教授 松田 尚樹氏
 
 震災がれきの焼却灰の埋め立て基準として、国が示した放射性セシウム濃度「1キログラム当たり8千ベクレル以下」は、科学的知見から言えば全く問題ないレベルだ。
 
 原子炉等規制法は原発の解体などに伴う廃棄物のうち、1キログラム当たり100ベクレル以下は放射性物質として扱わない。焼却灰の基準値と整合性がないようにみえるかもしれないが、いずれも体の内部、外部の被ばく量が年間0・01ミリシーベルト以下になるように設定されている。
 
 数値が異なるのは被ばくの想定が違うためだ。原発のコンクリートや金属などは再利用されて市民生活で使われること、焼却灰は埋め立て処分場のそばで1年間生活することを想定して、数値を定めている。
 
 人間は自然界から放射線を浴びており、長崎では外部被ばくだけで年間約0・7ミリシーベルトに上る。放射線による健康影響は広島と長崎の被爆者のデータなどから、100ミリシーベルト以上の放射線を1度に浴びれば発がんリスクが高くなることが分かっている。それ以下では統計的な差が見られず、「低線量の放射線が体に良い、悪い」と言っても因果関係は証明できない。
 
 自然放射線や医療による被ばくを除く放射線の年間許容線量は、一般公衆の場合、1ミリシーベルトに設定されている。焼却灰から受ける放射線量は年間許容線量の100分の1、科学的に健康影響が分かっている量と比べれば1万分の1だ。
 
 それでも「余計な被ばくは避けたい」「本当に大丈夫かどうか不安」という人がいるだろう。だから国や自治体は、被災地復興の進展という利益が、がれき受け入れ先の住民の被ばくリスクや輸送コストよりも大きいことをきちんと説明する必要がある。
 
 その上で、焼却施設から出る排気や周辺の空間放射線量、灰の放射線濃度が基準値以下であることを実測して安全を示せば、市民の不安は取り除けるだろう。
 
 ●放射性物質、拡散は論外 県平和運動センター被爆者連絡協議会議長 川野 浩一氏
 
 私たち被爆者団体は震災がれきの受け入れに反対を表明した。理由は四つある。
 
 一つ目は、がれきが放射性物質で汚染されていることだ。福島県の家庭で使う薪ストーブの灰から放射性セシウムが検出されたことを受け、環境省が行った調査では、岩手県や宮城県の薪からもセシウムが検出されている。放射性物質は封じ込めるのが原則。がれきの広域処理は汚染の拡大につながる。
 
 二つ目は、政府の原発事故対応への不信。原発から出る廃棄物のうち、放射性セシウムの濃度が1キログラム当たり100ベクレル以下のものを一般廃棄物として扱っていたのに、広域処理するがれきの基準はそれ以上。焼却灰の埋め立て基準にいたっては8千ベクレル以下としており、本当に国民の安全を保つ基準なのか疑問だ。
 
 三つ目は「復興が進まないのはがれきの処理が進まないから」という説明が疑わしいこと。阪神大震災のときは、急きょ焼却炉を増設するなどして、がれきの約6割を1年で処理したという。なぜ、今回は6・7%しか進んでいないのか。広域処理するのは、がれき全体の約2割にすぎない。被災地に焼却炉を増設した方が効率的ではないのか。現地の首長にも地元処理を望む声がある。
 
 四つ目は、政府が安全性の根拠にしている基準が、被ばくリスクを低くみているという指摘もある国際放射線防護委員会の勧告に基づいていること。10-20年後にがんを発症した場合、被爆者の原爆症認定と同様に「放射線と疾病の因果関係が認められない」と切り捨てられる恐れがある。
 
 子どもたちの将来を考えれば、そんな危険は避けなければならない。被災地への支援はがれきの受け入れ以外にもたくさんある。被災者の健康診断が国の責任で行われるように要請を続けたり、放射性物質の拡散を防いだりすることが、放射能の恐怖を知る被爆者としての責務だと思う。
 
 ●被災地に寄り添いたい 長崎の証言の会代表委員 広瀬 方人氏
 
 私が理事を務める長崎原爆被災者協議会もがれきの受け入れ反対を決めた。表明文に「被災地との連帯」などの言葉を盛り込むことになったが、それでもまだ割り切れない気持ちでいる。
 
 放射能にさらされ不安に思っている被災者に、同じ苦しみを知っている被爆者として寄り添いたいと思うからだ。がれきを受け入れてほしいと言う自治体がある以上、断れば「見捨てられた」と思われはしないかと心配している。
 
 だが、いくつかの疑問があり、はっきり賛成と言いにくい面もある。がれきや焼却灰の受け入れ基準として示されている数値は、科学的知見から本当に安全と言えるのだろうか。「ただちに健康に影響はない」という国の説明は、かえって不安をかき立てる結果になっている気がする。
 
 国が広域処理の対象にしているのはがれき全体の2割程度の約400万トンだが、これを長崎県やほかの地域に運搬するのにどのくらいのお金がかかるだろう。被災地に高性能の焼却炉や処分場を整備するのと比べて、どちらが効率的なのか。政府を責めるだけでは復興が進まないのは分かっているが、復興計画の遅れや説明不足を感じてしまう。
 
 国から説明がきちんとなされ、いくつかの疑問が解消されれば、がれき受け入れに賛成したい。私がやりとりをしている福島県内の高校生のメールからは「私たちはここで暮らしていかなければなりません」「将来子どもを産めるでしょうか」などと切実な不安が伝わってくる。そんな被災者のことを考えたときに、多少の痛みを分かち合わなくて本当にいいのだろうか。
 
 昨年の3月11日以降、日本人は今までと違う日本に住むことになったという覚悟を持つべきではないかと考えている。被爆者だからというより、同じ日本人として、被災地との連帯の仕方を考えていく必要がある。


    【PR】
おすすめ情報【PR】
おすすめ情報【PR】
東日本大震災特設ページ
アクセスランキング
  1. アオブダイ食べ78歳男性が死亡
  2. 破壊措置命令 粛々と適正規模で備えよ
  3. 鳩山氏がイラン外相と会談 「核兵器持...
  4. 首絞めAKBの写真強奪 東京、握手会...
  5. 殺人容疑で75歳女を逮捕 釧路のビ...写真付記事
注目コンテンツ
47CLUB探検隊

「もつ鍋万十屋」さんに行ってきました!

まだまだ寒い日が続きますが皆さまはお元気ですか? 寒い日は『鍋物』がよりいっそう美味しいと感じます。 今日は博多の名店「...

>> 記事を読む

>> 47CLUB探検隊へ