Interview DF 04 中川勇人
——SC相模原に加入した経緯は?
「町田ゼルビア時代に前監督の戸塚哲也さんのお世話になって、その縁で声を掛けてもらいました。それ以上に相模原は、自分が生まれ育った地元というのが決め手でした。町田でも4年間プレーして、上のカテゴリーに昇格させることができた。今度は自分の地元、相模原で昇格する喜びをまた味わいたいなぁと思ったんです」
——SC相模原よりも上のカテゴリーのチームでプレーもできたということですか?
「そうですね。誘ってもらったチームはいくつかありました。人とのつながりがあって紹介してもらったのですが、中にはJFLのチームもありましたね。プレーするからにはプロでやりたいという思いもありますが、その一方で年齢的も年齢なので、現実も見ていました。高校時代の先輩、後輩がJリーグでプレーしているし、鹿島アントラーズの本田拓也は中学校のときに同じチームだったこともあり、そうした仲間と会って話す機会がある。そうすると、やっぱり刺激を受け、根本的にサッカーが好きなこともあり、今まで続けてきたんだと思います。その年齢を重ねていく中で、自分のためというのもありますが、何かずっと続けてきたサッカーに恩返しできればと思うようにもなったんです。
——サッカーに対して恩返ししたいという気持ちが強くなり、上のカテゴリーを断って相模原に加入することを決めたのですか?
「SC相模原でのプレーを決断したのは、1つは地元ということが大きかった。自分が生まれた町にJリーグを目指すチームができたことは純粋にうれしいですよね。その自分の地元である町を活性化できる手伝いができればと。なかなか普通に生活していて、自分が育った町に恩返しというか、貢献する機会ってないですよね。でも、サッカーならば、少なからずサッカーでつながっている人や知っている人たちに、地元出身の人間がプレーしているんだぞということを示すことができる。今、お世話になっている会社や後援会の方たちの相模原への思いなどを聞き、今ではより強く思うようになっています。子どもたちにサッカーを教えることもそうですが、少しでもそうやってサッカーに恩返しできればいいなと」
——現在は、スポンサーでもあるKDSで働いていますよね。サッカーと仕事を両立させるのは大変ではないですか?
「職場の人たちは、僕らがサッカーをすることにすごく理解を示してくれているので、とても感謝しています。僕はどちらかと言えば、良いコースを辿ってきた選手ではない。働きながらサッカーをやってきましたが、若いときは遊ぶというか、節制できない時期もありました。そのとき、ある人に「サッカーを舐めるなよ」と言われたことがあるんです。そのときはすぐにその意味のすべてを理解できませんでしたが、サッカーを続けるか、辞めるかで迷っていたとき、「好きなサッカーを舐めたら痛い目に遭うというか、好きなことに背中を向けるようなことをしてはいけない」ということに気がついたんです。好きなことを続けるには、ときには我慢も必要。続けている根拠は好きだからという純粋なものですが、だからこそ続けるために、貫くというか、真剣に取り組む必要があると実感したんです」
——そのある人に言われた一言の重みが分かってからは、サッカーへの姿勢が変わったと?
「そうですね。変わりました。プロではないこともあって、モチベーションの保ちかたも難しかったですが……。仕事をしながらサッカーをしていたので、迷ったり、将来を考えてしまうこともありました。でも、自分としては、仕事もサッカーも両立させているからこそ、仕事をしていない、サッカーだけしているヤツに負けたくないというモチベーションもあった。今もそうですが、職場から受ける影響も大きいんですよ。上司や先輩たちから経験や吸収して、いつか来るセカンドキャリアにつなげていければと思っているんです」
——サッカー選手もいち社会人ですからね。
「人間性についてはすごく考えます。サッカーを辞めたとき、サッカーやっていたからといってどうなるわけでもない。そうしたときに、本当に社会に出てもしっかりと働ける社会性を身につけられるようになりたいんです。今はサッカーをすることで職場に迷惑をかけてしまうこともありますが、社会人として職場から学ぶことは本当に多いんです。僕らは我が儘でサッカーをやらせてもらっていますが、だからこそ、常にそれに感謝の気持ちを持って続けていかなければならないんです」
——今シーズンからチームに加入しましたが、シーズン当初は結果が伴いませんでした。中川選手自身は、どこかうまくいっていないと感じていたんですか?
「SC相模原は、加入前に試合を見たこともあったのですが、いい選手はたくさんいるし、面白いサッカーをすると思っていました。それはチームの練習に合流して、試合を重ねてみても、みんなうまいということは感じましたね。ただ、根本的な気持ちの部分がまだ足りていないと感じました。それは失礼かもしれませんが、自分たちよりも明らかに実力で劣っている相手といい勝負をしてしまったり、技術でも経験でも上回っているのに相手を圧倒できなかったり。どこか小さなこだわりやプライドがあるように感じました。そうした相手による波をなくしていかないと。それもサッカーの怖さであり、僕が言われた「サッカーを舐めてはいけない」ということにつながっていくんだと思います。僕も含め、プレーする選手たちが、持てるすべてを出し切れば、もっと楽に勝てる試合は増えてくる。チームでやろうとしていることを、口では分かっているんだけど、いざプレーすると、それができなかったり、全体でまだまだ一つの方向に向いていない。それをこれからはより徹底し、一つにしていかないと」
——リーグ戦で2連敗し、監督も変わりました。当時と今では少し変わってきたところはありますか?
「試合や練習後に選手間でよく話すようになってきました。少し前まではあまり気にならないようなところまで。これまでも話すことは話していたんですが、前日の練習で、前回の試合でうまくいかなかったことを修正しようとするかといったら、そうではなかった。言い方は悪いですけど、なんとなく練習に来て、なんとなく自分のプレーに終始しているような感じでした。それでいて、誰かが修正するために合わせようとしていたかと言えば、そうでもなく。それが2連敗する、監督が代わる少し前から、みんなで細かいところまで話すようになり、ここに出してほしい、今はこうだったと、面と向かってコミュニケーションを取る機会が増えてきた。僕も話していて、聞いてくれている、理解しようとしてくれているというのは感じたし、そうしたところが改善されてきたと思います。試合に出場している11人がお互いの力をいかに発揮し、いかに発揮できる環境、状況を作るか。人それぞれ異なる個性を、どうやって生かすかをお互いに考えるようになってきている。でも、それは簡単じゃないし、難しいことだけど、それもまたサッカーの楽しいところですよね」
——その中で左サイドバックとして出場していますが、個人的にはここでどんな力を発揮していきたいと思っていますか?
「実は、これまで全くプレーしたことのないポジションなんです。もともと大学まではボランチでプレーしてきました。町田ゼルビアのときに(戸塚)哲也前監督からセンターバックをやってみてはどうかと言われて、転向したんです。身長もないですし、経験もないので、指導者や周囲の人間に話しを聞きながらプレーしていくうちに、少しずつ守ることの楽しさを知りました。攻撃したり、ゴールしたりすることは楽しいですけど、チームにはたくさんの黒子役がいなければならない。そうした黒子役としてプレーすることの楽しさ、それを知ったんです」
——新境地を開拓している左サイドバックとして意識していることは?
「僕は左利きではないので、僕は僕なりの良さを出していこうと思っています。右の(金澤)大将が攻撃的なので、僕はバランスを保って、守備に重きを置いています。サイドバックも、まずは守備が大事。リードしていて、上がらなくていい場面で無理に上がっても意味ないですし、クロスを上げて目立つだけがサイドバックじゃない。長友佑都選手もそうですけど、守備もできるから攻撃も際立つんです。個人的には右利きなので中にも行ける。選択肢は多いので、そういう面を徐々に出していければと思っています。
——初めてプレーするサイドバックで見出した楽しさとは?
「現代サッカーでは、最終ラインからゲームを作ることもありますが、主にCBは守備だけです。それがSBだと、攻撃する機会があるので、いつも何かやってやりたいとは思っています。僕はそんなに個は強くないのですが、僕の前にいる(古賀)誠史さんがやりやすいように、僕がやりやすいようにやらせてもらっています」
——失点数は確実に減っています。守備陣として手応えはありますか?
「ゼロが続いた試合もあるので、安定してきた意識はあるのかなぁと思います。ただ、確実な手応えはまだ得られていないですね。レベルの高い相手と対戦したときに、どうなのかは考えます。天皇杯の県予選に勝ち進めば、どんどん強い相手と対戦できるので、楽しみですね。あとは(佐藤)健といったGKも含め、DFはよく話すんです。練習が終わってからも話すし、その場面、場面でも話せるときには話しています。ヤツさん(八田康介)も経験が多いので、そうした意見を踏まえたり、それだけじゃないこともサッカーでは起きるので、それをカバーできる状況を常に考え、最悪の状況を想定して相手を追い込んでいければと思う。DFは常に考えてプレーしないといけないですからね。簡単に言えば、ゴール前、ゴールの枠内にボールは飛んできたり、向かってきたりするので、その外に跳ね返していれば大丈夫。枠へ蹴られる可能性、確率を減らしていけばいいんです。DFがゼロで抑えれば、まず負けない。加えて中盤や前線もきついかもしれないけど、前で守備のジャブを打っておいてくれれば、簡単にボールを奪える場面もある。これからはチーム全体としての守備を磨いていきたいと思います」
——今シーズンの目標は?
「JFL。絶対に上がる。それだけです」
——そのために必要なものは何ですか?
「チーム力、気持ち、方向性。もっと貪欲にやっていかなければ厳しいと思う。JFL昇格を目指すチームはどこもタフな相手ばかりなので、自分たちもタフさを身につけていかないと。技術はあると思うんです。あとは、いろいろな状況に対応できるチーム力。それがチームとしてピッチで示せれば、攻撃陣も守備陣も安心できる。大変だと思いますけど、今までいる選手、新加入した選手、これまで知らなかった人たちが1つにまとまったときは強くなると思う。そういうチームに早くなりたいと思います」