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2012年4月8日(日)付

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 肉料理を書いてうならせる本は多い。近刊ではカナダの旅行作家、マーク・シャツカー氏の『ステーキ! 世界一の牛肉を探す旅』(中央公論新社)だろう。例えば神戸牛はこう描かれる▼「牛肉ならではの甘くて木の実のような風味がしたものの、温かいバターでコーティングした絹糸よりもなめらかな食感と比べると、それすら付け足しみたいなもの」(野口深雪訳)。この幸せ、肉を焼くという手に気づいた先人のお陰である▼アフリカ南部の洞窟で、100万年前の原人が肉を焼いた跡が見つかった。シャツカー氏の母校でもあるトロント大などのチームが古代の地層を調べ、狩りの獲物とみられる燃えた骨、草木の灰を確認したという▼調理の証拠としては、従来の説を約30万年さかのぼるらしい。火の使用と、焼いて刻む「料理」の発明は、モグモグの作業を短縮し、食以外に回せる時間を生んだ。皆で炎と食料を囲む日常は、より進んだ集団生活をもたらしただろう▼むろん加熱だけが進化ではなく、生(なま)を貴ぶ食習慣が各国に息づく。政府が法律で禁じるというレバ刺しの滋味は、火を通せば消えてしまう。そもそも食い道楽は自己責任を旨とすべきで、国の出る幕とも思えない▼肉食はタブーと偏見に満ちている。食べる食べないに始まり、動物の序列や調理法は万別だ。だが〈味わいは議論の外にある〉ともいう。食の始末はまず、自分の舌と胃袋に任せたい。地球で一枚目のステーキを焼いた、無名の原人のように。

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