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・第4章 水の『女帝』との邂逅
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 「――復活した交易NPCのおかげで、新アイテムのレシピもかなり見つかりそうなの。だからミスリルインゴットはしばらく手元に残しておかない? もしもウーツ鋼やダマスカス鋼のレシピが見つかれば、相対的にミスリルの価値が上がるはずよ。上手くいけばミスリルインゴット1個の売値で長鉈のアプグレ費用をまかなえるかもしれないし……どう?」

 少女の左肩に乗せた顔を傾けながら、ハゼが俺に問いかけた。

 ハゼはワンチェアの上で胡坐あぐらになり、その上に少女を座らせて、か細い腰に両腕を回して少女を抱きかかえていた。さらに少女の左肩に顎を乗せて、愛でるように少女の頬と自分の頬とをくっつけ合っている。
 しかし少女は相変わらずどうでもよさそうで、右手の甲で眠たそうな目をこすっている。
 そして俺はというと・・・正座のままだった。


 「そのあたりは全部ハゼにまかせるわ」

 俺はそう告げて、何気なしに正座を崩そうとするが・・・。
 「正座」ハゼがぴしゃりと言い放った。

 普段なら何事も無かったかのようにそろそろ許してくれる頃合なのだが、まだ駄目らしい。
 すでに怒りはおさまっているようだが、何やら犬のしつけをしている飼い主のような厳しい態度を崩さない。

 ・・・これじゃまるで俺が駄目犬みたいじゃねえか。
 まあでも今回は、俺が全面的に悪いしな・・・。


 「それとね、他にも馬車とか小型帆船ヨットなどのレシピも見つかりそうだったわ。材料となる車輪や帆のレシピなんかが販売されていて、生産職ユーザー達が喜んでいたから……そういえば、その時に『巫女様じゃ、巫女様のおかげじゃ~』って拝まれたわね……。ねえ、これっていったい誰のせいだと思う?」

 ハゼさん怖い。ちょっと怖い。
 とりあえず思い出し怒りはやめてほしい。


 しかし突然、そんな空気を吹き飛ばすかのように、少女が大きな欠伸あくびをした。

 「ん? レライはもう眠い?」ハゼがやさしい声でささやく。
 いつの間にかハゼによって渾名を”レライ”とされた少女が頭を撫でられながら、それを肯定するかのように目を閉じて、ハゼにその小さな体を預けた。


 「それじゃあ、もう遅いし寝よっか」ハゼが微笑みを浮かべながら少女に言う。
 「それじゃあ、俺もそろそろ部屋に戻るわ」俺が愛想笑いを浮かべながらハゼに言う。

 ハゼがジト目で睨んできた。
 正座はまだ崩せない。とりあえず忠犬の目でハゼを見上げておく。


 「次はないわよ。いい?」
 「……すみませんでした」
 「本当に分かった? もう一度言うけど、そのどうしようもない馬鹿とスケベを治せとまでは言わない。絶対に無理だから。そもそも私はね、胸元を覗かれたことをここまで怒ってるんじゃないの。あんたも男だし、あれは私の不注意もあったと思ってる。でもね、せめて私と真面目な話をしている時ぐらいはもう少しちゃんとして」
 「……悪い。本当にすまなかった」

 ハゼの真剣な言葉に、俺は真摯な思いを込めて繰り返すように謝罪した。


 「うん。じゃあ明日から魔法都市よ。これからもよろしくね」
 「ああ、よろしく頼む」

 ハゼが恥らうように笑った。少しだけ照れくさそうだ。
 お互いの間に穏やかな空気が流れる。
 その空気の中で、少女はすでに深い眠りに落ちていた。

 何となく2人して少女を幾ばくか眺める。
 そして俺は痺れた足で慎重に立ち上がると、ハゼに寄りかかって熟睡している少女の両脇に、両手を差し込んで抱き上げてやった。よく眠っている。
 椅子から立ち上がったハゼがダブルベッドの掛け布団をめくり上げている。
 少女を起こさないように気をつけながら、そこへゆっくりと下ろしたが、少女の目が薄っすらと開いてしまった。夢うつつな少女にハゼが掛け布団をかけ、やさしく寝かしつける。

 「ありがと」
 「俺のほうこそ時間をとらせて悪かったな」
 「ううん。私も怒りすぎよね、ごめん。……それじゃあ、その……おやすみ」
 「気にすんな。だいたい俺が悪いんだから。じゃあ明日な。おやすみ」

 照れくさそうにしているハゼと、今日最後の挨拶を交わしてから部屋を出た。


 そして――「いい奴だよな」
 自分の部屋へと戻る途中、気が付くとそんな独り言を漏らしていた。


 ◇◇◇


 ――9月16日 23時15分 帝都・宿屋 シングルルーム


 宿屋の自室へと戻った俺は、シャワーを浴びてからシングルベッドに寝転がった。
 天井にはダブルルームと同じようなシーリングファンが廻っている。
 ダブルルームと違う点といえば、窓際に机と椅子が置かれておらず、その分だけ狭いというぐらいだ。1人で過ごすには充分すぎるほど快適な部屋だった。

 現実世界で宿泊していたホテルとは大違いだ。
 ゲーム内の宿泊施設がこんなに豪華なのは、ホテルの宣伝目的が理由だろう。
 恐らくスミイチ社が実際に経営しているホテルの中でも、指折りのホテルをサンプルにしたに違いない。

 そんな事を考えながら廻り続けるシーリングファンを眺めていると強烈な眠気が襲ってきた。
 今日1日は久しぶりの休日だったのに、色んな出来事がありすぎた。――鮭・水面ジャンプ・水龍・少女・怒ったハゼ。いや怒ったハゼはいつもの事だな・・・。




 そういやハゼに何かお願いされてた気がする。何だっけか・・・やばい、眠い・・・。


 『ギルメン募集のためにも、ローレライのことをアルカナ掲示板に書き込んだほうがいいと思うの。どうせもう私達が倒したのはバレバレなわけだし。
 ……そうね。モブ情報交換スレにしましょう。あそこにローレライの強さがどの程度だったのか? 書き込みをお願い。ついでにラグロア湖の水龍情報もね。さすがにローレライ以外にも水中BOSSがいたとなれば、泳ぎカード持ちユーザーの価値も上がるはずよ。あんたの話を聞く限りじゃ私達だけで水龍を討伐するのは無理そうだし、いずれ発見されるだろうし、一緒に情報公開してアピールしておきましょう。
 但し、私達のカード編成やローレライのドロップ、水龍は『女帝』などの詳細情報は隠すこと。それじゃまかせたわよ――――え? 私? 嫌よ。だって『半漁神の巫女乙』とかレスされるのよ。絶対に嫌。だからあんたが書き込みなさい』



 ――――そうだ。思い出した。アルカナ掲示板だ。

 つい先程ハゼに言われた事を思い出した俺は、強烈な眠気を我慢しながら体を起こし、ベッドの上で胡坐をかく。続けてシステムメニューを呼び出してそのままホログラム製のアルカナ掲示板を目の前に表示した。

 そういや何て書き込めばいいんだ? 特に指定されてないから俺流でいいよな?

 顎に手を当て、改めて書き込む文面を熟考する。
 やはり情報は分かりやすくてシンプルなのが一番だ。
 よし。さすがにスレ住民達もそろそろ理解できるだろう。やはりアレでいこう。アレが一番分かりやすいはずだ。


 そんな感じで文面がまとまったので早速書き込む。書き込みボタンはまだ押さない。
 念のために何度も読み直す。そうしてたっぷりと時間をかけてから、俺は書き込みボタンを押した。

 ・・・完璧だ。パーフェクト過ぎる。自画自賛してアルカナ掲示板を閉じた。


 明日はハゼ達が泊まっているダブルルームに朝8時集合だ。
 システムメニューを開いてアラームをセットする。よし、これでようやく寝れる・・・Zzz。





 その直後、ゲーム内アナウンスが流れた。
 翌朝ハゼに教えられるまで、俺はそれを夢の中で起きた出来事だと勘違いしていた。



 ――アルカナクエスト『星』が達成されました。





 【知恵のかけら(1)】
  ――――――――――――――――――――――――――
  『13の知恵を集めし者のみ。主の資格を得るであろう』
   かけら(2)…クルセイダーズ
   かけら(1)…Big Moon Shadow
   かけら(1)…鮫狩男と薙刀女

  ※QUEST ITEM
  ※取引可能/破棄可能
  ※クエストアイテム
  ※かけらを破棄した場合、他のかけら所有者へ転移します
  ※PKされた場合、PKしたユーザーへ転移します
  ※PK以外で死亡した場合、破棄と同じ扱いとなります
  ――――――――――――――――――――――――――



 ―――■鮫狩男サメガリオトコ薙刀女ナギナタオンナ■―――

 【マスター】ZIN:侍Lv44
  一刀流Lv36 居合いLv33 無闘流柔術Lv38 ステップLv45 ジャンプLv22 泳ぎLv61
 【装備】
  武器:長鉈(スティール・桜吹雪)
  頭 : 魅惑殺しのイヤーカフス
  腕 : 手甲(黒)
  胴 : 鯉口シャツ(白)
  腰 : 武者袴(紺)
  足 : 草鞋
  外着: 羽織(水色)
  内着: 足袋、下着ボクサーパンツ
  アクセ:ローレライの感涙(指輪)
  (外着:水の魔力糸・月見)
  (他防具:鉄の魔力糸・月見)
  (防具ボーナス:DEXUP*6)


 【サブマスター】Haze:巫女Lv41
  神道流薙刀術Lv34 演舞Lv36 棒術防御Lv27 祈祷Lv36 詠唱術Lv34 魔力補助
 【装備】
  武器:薙刀(スティール・汎用)
  頭 : 魅惑殺しのイヤーカフス
  腕 : 手甲(黒)
  胴 : 白衣
  腰 : 緋袴
  足 : 草鞋
  外着: 羽織千早
  内着: 半襦袢、足袋、下着スポーツタイプ
  アクセ:なし
  (ALL防具:鋼の魔力糸・月見)
  (防具ボーナス:STRUP*6、DEXUP*6)


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