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海辺に生きる−名取・閖上復興計画(中)不安/借り上げ仮設、情報過疎

徐々に自宅のリフォームなどが始まった名取市閖上の小塚原北地区。郊外地区には復興の議論に関し説明が不足していると不満がある

 名取市の借り上げ仮設住宅に家族4人で暮らす母親(35)は、市の土地区画整理事業による現地再建方針への不安を拭えずにいる。

<「取り残される」>
 1年前のあの日、自宅は津波で全壊し、子ども2人と閖上小で一夜を過ごした。家や車が目の前で流され、夜にはあちこちで炎が上がった。
 「息子は津波の映像が流れるとチャンネルを変えます。地震のたびに『津波が来る。逃げよう』とおびえるんです。閖上に愛着はあるけれど、今は戻ろうと思えません」。惨状を目の当たりにした子どもたちの心の傷は癒えていない。
 防潮堤の建設や地盤のかさ上げといった対策は聞いた。だが、市の説明は「これはイメージ」「まだ詳しく言えません」と歯切れが悪く、とても安全と思えなかった。
 計画地よりも西への集団移転はできないのか。借り上げ仮設は2年限定なのか。聞きたいことは山ほどある。
 市主催の会合や説明会は大抵午後7時から。子育て世帯には外出の難しい時間だ。情報は乏しく、疑問ばかりが膨らんでいく。
 「仮設住宅は集会所に事細かな情報が張り出され、説明会もあると聞いた。借り上げ仮設にいると、取り残されているようで不安になる」と女性は訴える。

<丘区の委員ゼロ>
 閖上地区は土地区画整理事業計画地の市街地(町区)と、そこを囲む田園地帯の郊外地区(丘区)を合わせた範囲。小中学校は同一学区で、地区にある町内会のつながりも強かった。
 だが、閖上地区の復興議論では丘区の5地区が「蚊帳の外」に置かれている。町内会長や産業団体代表ら市民15人で構成する復興まちづくり推進協議会(市主催)の委員に、丘区の代表者は1人も入っていない。
 丘区の一部は町区と同様、津波で大きな被害を受けた。町区の街づくりの考え方、丘区での現地再建の安全策や補償に関し、丘区住民への説明はほとんどない。
 丘区の一つ、約70世帯の小塚原北地区は町区の西隣。三浦利昭町内会長は「町内の人たちに『会長には市から説明はあるのか』と聞かれるが、何もないんだよ」と困惑する。
 地区では市の対応を待ちきれず、20世帯が自宅に戻った。ビニールハウスの建て直しや自宅を新築する住民も出ている。

<説明不足を釈明>
 閖上地区の被災者のうち借り上げ仮設住宅の居住者は約6割。震災前、丘区の人口は閖上全体の約2割を占めた。これら住民の「情報過疎」問題は、3月21日の復興まちづくり推進協議会でも取り上げられた。
 「借り上げ仮設の人への丁寧な説明がないと、街づくりの考えを共有できなくなる」「町区のがれきがいっぱい流れ着いた丘区の人たちのことが一顧だにされないのは問題だ」。複数委員が市に早急な対策を迫った。
 市震災復興部の高橋伸吉部長は説明不足に至った理由を「圧倒的にマンパワーが足りなかった」と弁明した。
 市は4月から復興まちづくり課の職員数を9人から16人に増強した。高橋部長は「今月下旬から積極的に地域に入り、分かりやすく丁寧な説明を心掛け、住民との対話を進めたい」と強調する。

[住民意向調査]名取市は2月、閖上地区の居住者、地権者、企業を対象に実施(計2407通配布、2月29日現在の回収率53.4%)。将来の土地活用について「まだ決められない」が37.0%と最多で、「自分で所有し、利用する」(21.3%)、「時期を見て売りたい」(17.2%)、「今すぐ売りたい」(16.5%)と続いた。自由意見では「かさ上げ費用などを提示してほしい」「閖上の今後が分からず判断できない」など市に詳細な説明を求める声が多数あった。


2012年04月07日土曜日

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