世界王座奪取を報じる本紙紙面を手に、笑顔を見せる佐藤=新宿区の協栄ジムで
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劇的世界王座奪取から一夜明けると職務質問されちゃった−。WBC世界スーパーフライ級新王者・佐藤洋太(27)が、試合翌日の28日、東京・新宿で不審者と間違われ、警察官に職質された。当然潔白で10分余りで“無罪放免”となったが、執拗(しつよう)な質問を受け前日の王座奪取の主人公であることを告げても全く相手にされなかったという。佐藤は知名度のなさに「悲しかった」とがっかり。これをバネに、国民的世界王者を目指してさらに飛躍するしかない。
歓喜のヒーローが一夜明けたら喜劇の主人公だ。ことのいきさつはこうだ。佐藤はこの日午前、西武新宿駅で降り、記者会見が行われる協栄ジムへ徒歩で向かっていた。すると、おもむろに停車したパトカーから出てきた警察官に「ちょっと、君、いい?」と呼び止められたのだという。
「昨日はほとんど寝てないし、試合の影響で顔もはれている。髪の毛も茶髪。足の裏の皮もズルズルむけて、ヒョコヒョコした歩き方。上下黒のトレーニングウエアで怪しかったんでしょうか。大きめのリュックを背負っていたから、何か運んでいると思われたんでしょうか」
苦笑いの佐藤。警察官による質問は執拗だったという。スケートボードが趣味の佐藤は、リュックにスケボー用の工具としてスパナをしのばせていた。使い用によっては凶器となるだけに「こんな物、持ち歩いちゃダメだよ。うちに置いてきなさい」と注意された。旧姓(佐藤は養子縁組で千葉から佐藤になった)のクレジットカードを持ち歩いていたことも、不信感を強める要素になったようだ。尋問が10分ほどに及んだころ、会見時間も迫っていたため、佐藤は本当は言いたくなかった「世界王者」の伝家の宝刀を抜いて、無実を訴えた。
「ボク、昨日、世界とったんですよ。ボクシングで世界チャンピオンになったんです」。衝撃(?)の事実を知らされた警察官。ところが、「君があのチャンピオンか?」とはならず、寝言は寝て言えとばかりに「ふ〜ん」と全く取り合ってくれず、その話はそのままスルーされたという。
「悲しかった。でも、これで反骨心に火がつきました。ボクサー佐藤の知名度がもっと上がるように頑張っていきたい」
佐藤は警察官を引きつける妙なオーラを放っているらしく、実は職務質問を年間10回ぐらい受け、減量中だった10日前にも呼び止められていた。プロは話題になってナンボ。世界奪取翌日にこんな笑える(?)話題を提供してくれるとは、この男、やはり“持っている”と言わざるを得ない。 (竹下陽二)
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