日韓スワップ協定の裏側…被災者感覚で違和感も

2011.10.26

 政府・日銀は19日、韓国との通貨スワップ協定の枠を従来の5倍に拡大することで合意した。通貨スワップ協定は、2国間や多国間で、自国通貨と外貨を交換する契約。韓国はウォンを日本に渡し、米ドルと日本円を受け取れる。

 通貨スワップ協定自体はこれまでもいろいろな国との間で締結されている。また自国通貨の預け入れで他国通貨融通を受けるという意味で等価交換であるので、インターネット等で見られる「嫌韓ムード」の意見に過剰に与すべきでない。ただし、日銀は円を刷って通貨スワップをするわけで、震災復興債の日銀引受をして円を刷るのをかたくなに否定するのに対して、相手が韓国の場合には円を刷ることを簡単に了解するのは、被災者感覚からいえば、ちょっと違和感があるだろう。

 自国民を窮乏化させない政策が必要だ。

 狙いは為替市場の安定だ。日韓為替は、2000年以降、1円=10ウォンという安定的な関係だったが、リーマン・ショック以降、1円=14ウォンあたりを上下している。円高ウォン安については、日本の電機や自動車メーカーにとって競争力の低下につながっている一方、韓国でも問題になりつつある。

 リーマン・ショック以降、韓国銀行はかなり金融緩和して、ウォン安を維持し、韓国のインフレ率も高くなっている。今年1月に4・1%と4%を超えてから、9月の消費者物価上昇率対前年比は4・3%となっている。

 韓国銀行は「3%上下1%内」のインフレ目標を採用しているので、もう10カ月間も目標の上限を超えている。ところが、韓国銀行の基準金利は3・25%のままだ。単純に直近3カ月の平均インフレ率4・8%を差し引いた実質金利で見ると、マイナス1・55%と金融引き締めになっていない。

 その背景には、李明博政権の輸出大企業優先政策があり、ウォン安を維持したいのだ。

 もう一つ、韓国銀行が金融引き締めに踏み切れない理由がある。それは韓国国内の家計負債問題だ。

 韓国では不動産購入などのために家計が銀行から借り入れたローンが大きい。韓国の家計負債に対する家計資産の比率は2倍程度であり、日本のそれが5倍程度であるのに対して、韓国の方が相対的に家計の負債が大きい。このため、金利が上がると、個人の破産という社会問題が起きかねない。

 こうした中で、今回の通貨スワップ協定は韓国にとって渡りに船だっただろう。実は、今回の話は、実際に介入などの実弾を撃つ訳でないし、実際に実弾を撃っても、金融政策の変更がなければ、大きく為替レートが変わる訳でない。案の定、円安・ウォン高は1日しかもたなかった。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

 

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