ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
クロスベル編(ここから先、零・碧の軌跡ネタバレ)
第五十五話 ヨシュア、命懸けの交渉
<保養地ミシュラム 水上バス乗り場>

ハルトマン邸でレンを助け出し、アネラス達と無事に合流できたエステル達は、水上バスに乗ってミシュラムを脱出しようと考えた。
ミシュラムのアーケード街にあるホテルに隠れていたエステル達はチャンスを逃すまいと、急いで水上バス乗り場へと向かったが、待っているはずの観光客達の姿は無かった。
なんと、水上バスは予定時刻より早く出発してしまったのだ。
岸から離れて小さくなって行く水上バスを見て、エステル達は悲痛なため息をもらした。
そして打ちひしがれるエステル達の前に、ルバーチェ商会の用心棒、ガルシアが不敵な笑みを浮かべて姿を現したのだった。

「どうしてここに居るの、あの黒装束と戦っていたんじゃないの?」
「なんだ、お前達は見てたのか。くくっ、勝負は決まったぜ、俺の勝利でな」
「そんな……」

エステルの質問にガルシアが答えると、アネラスはガッカリした表情でつぶやいた。

「俺があいつにやられるかもしれないと期待していたみたいだが、残念だったな……」

余裕を持って話すガルシアを、エステルは悔しそうににらみつけた。

「まあ、どの道お前らに逃げ場は無え。お前達には、たっぷりと落とし前を付けてもらうぜ……」
「い、嫌あっ!」

ガルシアが指を鳴らすと、レンはコリンと一緒に怯えながらエステルの陰に隠れた。

「お願いします、レンちゃんとコリン君には手を出さないください!」

アネラスが手を合わせてガルシアに頼み込むが、ガルシアは鼻先で笑う。

「俺は相手が女子供だろうが容赦はしないぜ、それにそのガキ共の口を封じて置かないと、さらに面倒な事になりそうだしな」
「あんですって!?」

ガルシアの言葉を聞いたエステルは、ガルシアに殴り掛かりそうなほど怒って叫んだ。
しかしヨシュアはエステルを止める様に前に出て、落ち着いた口調でガルシアに語り掛ける。

「そう言う事ならば、僕達を無事にクロスベルへ帰して頂けませんか?」
「おいおい、俺の話を聞いていたのか?」

ヨシュアの提案に、ガルシアはあきれた顔でため息をついた。

「僕達はクロスベルに戻ったら、ディーター総裁の計画を告発します。そうすれば、ルバーチェ商会の疑いは晴れて不起訴になるはずです」
「お前らは、あの総裁の野郎の命令で、そのガキを連れて来たんじゃねえのか?」

ガルシアは驚いた表情でヨシュアに尋ねた。

「いいえ、民間人の少女を犯罪に巻き込んだディーター総裁は、遊撃士として見過ごす事は出来ません」
「ふん、本気で言っているのか?」
「信じてもらうしかないですね」

ガルシアは考え込みながらヨシュアの顔をじっと見つめた。
エステル達も息を飲んでガルシアの返答を待った。

「……良いだろう、お前の話に乗ってやるよ」

長い沈黙の後ガルシアがそう答えると、エステル達は安心と驚きが混じった表情になった。
戸惑ったエステル達の様子を見て、ガルシアは愉快そうに笑い声を上げる。

「くくっ、遊撃士風情が、あいつに楯突くなんて無理だと思うがな」
「そんな事は無いわ!」

挑発的な言い方をしたガルシアに、エステルは怒った顔で言い返した。

「せいぜい足掻いてみるんだな、俺達のボスよりも、あの総裁の野郎の方が食わせ者だって解るぜ」

ガルシアはエステル達に向かってそう告げた後、エステル達をミシュラムから逃がす方法について話した。
自分がルバーチェ商会の構成員である黒服の男達を遠ざけている間に、アーケードにあるホテルやブティックの前を通り、海水浴場に向かう。
そしてハルトマン議長のプライベートビーチ近くの、桟橋に泊めてあるマルコーニ会長のクルーザーを使って、クロスベルに戻れば良いと告げたガルシアは、エステルにクルーザーの鍵を投げて渡した。

「ありがとう!」
「礼を言われる筋合いは無い、俺は小僧の交渉に応じただけだからな」

笑顔で感謝したエステルに対して、ガルシアはそっけなく答えて、黒服の男達を誘導するためにアーケードの方へ姿を消した。
エステル達は少し遅れたタイミングでアーケードに入ると、黒服の男達の姿が無い事に気が付く。

「約束を守ってくれたみたいね」

エステルは安心してためいきをもらした。

「もしかして、レン達を捕まえるためのワナだったりはしないかしら?」
「いや、それなら僕達を追いつめた時に捕まえていると思うよ。あの人はそう言う回りくどい事は嫌いみたいに感じたから」

レンの考えを、ヨシュアは否定して首を横に振った。

「ルバーチェ商会の人達がやってくる前に行っちゃおうよ」
「そうね」

アネラスの言葉にエステル達はうなずき、走り出した。
ホテルの前の交差点を曲がり、ブティックの前を通り過ぎ、営業時間が終わった海水浴場へと向かう。
入口はロープが張ってあるだけで、あっさりと入れるようになっていた。
エステル達より先に夜のビーチに忍び込んでいる不届き者達が居たが、ほとんどがカップルで、自分達だけの世界へと入ってしまっているのか、エステル達に注意を払わなかった。

「誰も、あたし達の事を見てないわね」
「あそこに居る男の人と女の人なんてキスしちゃってるわ」
「レンちゃん、コリン君、見ちゃダメ!」

レンが浜辺に座っているカップルを指差すと、アネラスは慌ててレンの目を手で覆った。
エステル達がハルトマン議長のプライベートビーチに到着すると、桟橋にはクルーザーが泊められていた。

「これがマルコーニ会長のクルーザーかな?」
「エンジンを掛けてみようよ」

ヨシュアに促されたエステルがガルシアから受け取った鍵を差し込むと、クルーザーのエンジンが掛かった。

「わーい!」

アネラス達は歓声を上げが、しかし喜びは束の間、エステルは重大な事に気が付く。

「……クルーザーって、誰か運転できる?」
「私は無理ですよ、クルーザーなんて乗るのも初めてですから」

エステルに尋ねられて、アネラスは困った顔で答えた。

「僕も何だけど」
「えーっ、ヨシュアはインドア派だから、機械とか動かすのは得意だと思ったのに」

ヨシュアの言葉を聞いたエステルは、ガッカリした表情でぼやいた。

「山ばかりのエレボニア育ちの僕に期待されても困るんだけど」
「じゃあ、レンが運転しようか?」
「ダメだよ、危ないよ」

目を輝かせてハンドルに手を伸ばそうとするレンをアネラスが引き止めた。

「こうなったら、あたしが運転するしかないわね」

腕まくりをしたエステルがそう宣言すると、ヨシュアは固い表情で首を横に振る。

「それはもっと危険だよ」
「どうしてよ?」

自分の決意に水を差された形になったエステルは、不満そうに頬を膨れさせてヨシュアに聞き返した。

「だってエステルは工房で色々とオーブメント製品を壊していたじゃないか」
「そ、それはエステルちゃんに運転を任せるわけにはいけませんね」
「むむっ……」

図星を突かれたのか、エステルは悔しそうにうなる事しかできなかった。
すっかり元気を取り戻したレンは、クルーザーの運転をしたくてウズウズしているようだが、遊撃士として自分達の命運を、民間人でしかも12歳のレンに任せるわけにはいかなかった。

「どうやら、また困っているみたいだな」
「レクターさん!?」

クルーザーの船倉から顔を出したレクターの姿に、エステルは驚きの声を上げた。
不思議そうな顔をしているエステル達に、レクターはどうしてマルコーニ会長のクルーザーの船倉に隠れて居たのか説明を始める。
エステル達が逃げた後、レクターはしばらくの間ハルトマン議長邸に残っていた。
そしてマルコーニ会長がオークションを台無しにした曲者達をミシュラムから逃がさないように、水上バスを予定時刻より早く発車させるように指示を下すのを、レクターは耳にした。
これはマズイと思ったレクターはエステル達にその事を伝えようとしたのだが、すれ違いになってしまったようだった。
水上バス乗り場でガルシアと対峙しているエステル達を見つけたレクターは、ヨシュアとガルシアの話の内容を聞き、先回りしてマルコーニ会長のクルーザーに隠れていたらしい。

「ガルシアのおっさんとの交渉、聞かせてもらったぜ。堂々としたものだったじゃないか」
「そんな、僕はあの場を切り抜けたくて必死に言い繕っただけです」

レクターに褒められたヨシュアは、照れくさそうな顔で答えた。

「それならクロスベルに戻ってディーター総裁を告発する話はでまかせだったのか?」
「いいえ、あたしはレンを危険に巻き込む様な真似をした総裁さんは、遊撃士として追及しなければいけないと思っているわ」

エステルがレクターの質問にそう答えると、ヨシュアとアネラスも同じ意思だと強くうなずいた。

「本心からの言葉だったから、ガルシアのおっさんの心にも届いたのかもしれないな」

そんなエステル達の姿を見て、レクターはそうつぶやいた。
レクターの操縦によりクルーザーが発進し、ビーチから離れて行く。
夜も昼間のように煌々と輝くミシュラムの灯りが小さくなると、エステル達はひとまず安心して緊張を解く。

「あの総裁さんのせいで、酷い目にあっちゃったわね」
「MWLの夜のみっしーパレード、観たかったのになあ」
「それなら、また行けば良いじゃない」

肩を落としてため息をついたアネラスに、レンが励ますように声を掛けた。

「お姉さんは、レンとコリンをまたミシュラムへ連れて行ってくれるわよね?」
「うん!」

レンが尋ねると、アネラスは笑顔になってレンと指切りをした。

「今度は、あたし達を仲間はずれにしたりしないで、一緒に回ろうね」
「でも、その時にはエステルとヨシュアはアツアツのカップルになっているはずだから、側に居たら暑くて仕方が無いわ」

エステルが声を掛けると、レンは手で扇ぐような仕草をしながら皮肉たっぷりにそう答えた。

「ははっ、こいつは手厳しいな」

レンの言葉を聞いたレクターが声を上げて笑った。
そしてクルーザーに乗ったエステル達の目に、クロスベルの街の灯りが近づいて来たのだった。



<クロスベルの街 遊撃士協会>

クロスベルに帰って来られたエステル達は、レクターと別れた後レンとコリンを連れたまま遊撃士協会へと急いだ。
このままレンがディーター総裁の計画通りに、ルバーチェ商会を陥れる材料にされてしまっては、レンの身にさらなる危険が及ぶかもしれない。
それだけは何としてでも阻止したかった。

「あなた達、無事に帰って来れたのね」

受付に居たミシェルは、遊撃士協会に姿を現したエステル達の姿を見てホッとした表情になった。
ルバーチェ商会の脅しにより水上バスが予定時刻より早く出発させられ、ミシュラムが一時的な封鎖状態にあると観光客達から聞かされたミシェルは、エステル達を心配していたのだ。

「それが、大変な事になってしまったんです」

ヨシュアは深刻な顔で、ミシュラムのハルトマン議長邸で行われたオークションで起こった出来事について説明を始めた。
話を聞いて行くうちにミシェルの表情の厳しさも増して行く。

「まさか、ディーター総裁がそんな計画を立てていたなんてね」

ミシェルは困惑と怒りが混じった複雑な顔でため息をついた。

「やっぱりミシェルさんも知らなかったんですね」
「当たり前よ、私もディーター総裁の真意に気が付いていたらレンちゃん達をミシュラムへ行かせはしなかったわ」

アネラスの言葉にミシェルは怒った顔で答えた。

「ミシェルさん、早くディーターさんを止めないと、レンがもっと大変な事になってしまうかもしれないの!」
「そうね、民間人の保護は遊撃士協会としても最優先事項よ」

エステルが訴えかけると、ミシェルは真剣な表情でうなずき、エニグマ用の端末を手に取った。
そしてクロスベルの各地に居る遊撃士達に緊急招集を掛ける。
遊撃士協会に保護されたレンは、ルバーチェ商会だけではなく身内であったディーター総裁からも狙われる可能性があった。
最悪の事態だが、「死人に口無し」の言葉通り、レンの口を封じてしまえば自分達に都合の良い様に主張をしやすくなると考えられるからだ。
レンの両親も人質に取られるかもしれないので、急いで警護の遊撃士を手配する必要があった。
しかし母親のソフィアにショックを与えたくないと言うレンの希望で、アリオスと話を聞いたダドリーがレンの家に張り込んで隠れながら警護を行う事になった。

「どうしてガイさんには連絡をしないの?」
「彼が知ったら、張り込みどころじゃなくなるわよ」

エステルが尋ねると、ミシェルは困った顔でため息をついた。
アリオス達がレンの家の警護を引き受けてくれたので、残りのクロスベル支部の遊撃士メンバー達は遊撃士協会の守りに専念できた。

「話は聞いた、どうやら大変な事になったようだな」
「ヴェンツェルさん、お休みの所をすいません」
「遊撃士として当然の務めだからな」

ヨシュアが頭を下げると、ヴェンツェルは首を横に振った。
エオリアは急な呼び出しにも関わらず笑顔でやって来ている。

「私は可愛いレンちゃんと一緒に居られるんだから嬉しいぐらいだわ」
「レン達、またアネラスお姉ちゃん達とミシュラムへ行く約束をしたのよ」
「な、何ですって!? どうしてアネラスちゃんばっかり、羨まし過ぎるじゃない!」
「ご、ごめんなさい、エオリア先輩」

エオリアの叫びを聞いたアネラスがオロオロ謝って居る姿を見て、リンはため息をつく。

「やれやれ、緊張感の無いやつらだな」
「だけど、その方が頼もしいですよ」

リンのつぶやきにヨシュアはそう答えた。

「ミシュラムで色々あって疲れたでしょう、遊撃士協会の守りはヴェンツェル達に任せてあなた達は休みなさい」

ミシェルの提案に甘えて、エステル達は遊撃士協会の2階の部屋でしばらく仮眠を取る事にした。

「レンちゃんと添い寝出来るなんて、良いわね」
「あんたはスコットと一緒に2階から街の様子を見張るんだからね、サボるんじゃないよ」

エオリアのつぶやきに、リンはため息混じりにそう告げた。

「でも外を見ながらでも、レンちゃんとお話できるわよね」
「あたし達、これから眠る所なんですけど」

エステルにツッコミを入れられたエオリアはガックリと肩を落とした。

「まあ、レンが眠たくなるまでの少しの間なら、おしゃべりしても良いわよ」

レンがそう言うと、エオリアはすぐに立ち直って笑顔になった。
しかしエオリアとレンが話し始めてそれほど経たない間にレンは話をしたまま、コリンと一緒に眠り込んでしまった。

「あーあ、残念。まだまだレンちゃんと話足りないところなのに」
「今日はレンに大変な事ばかり起こって、疲れてしまっても仕方が無いわよ」

寄り添って眠るレンとコリンに毛布を掛けながら、エステルはエオリアのぼやきにそう答えた。

「スコットさん、ルバーチェ商会の動きはどうですか?」
「慌ただしい様子だけど、こちらへ向かって来る気配は無い。君の交渉が上手く行ったせいなのかもしれないね」

ヨシュアの質問にスコットは穏やかな笑顔を浮かべて返事をしたが、エステルは固い表情を崩さずに、穏やかに寝息を立てているレンとコリンを見つめる。

「だけど、ディーターさん達もレンを狙う可能性もあるから、油断は出来ないね」
「でもミシェルさんの言う通り、エステルちゃん達にも休まないと体が持たないわよ」
「そうだ、見張りは僕達に任せてくれ」

エオリアとスコットに改めて言われたエステル達は、レンとコリンの寝ている横で仮眠を取る事にした。
やはりエステル達も疲れていたのか、すぐに深い眠りへと落ちた……。



<クロスベルの街 IBCビル>

翌日、遊撃士協会のミシェル宛てにディーター総裁からレンの件について謝りたいと連絡があった。
話を聞いたエステルとヨシュアはディーター総裁の待つIBCビルの執務室へと行った。
顔を合わせるとすぐにディーター総裁は娘のマリアベルと共に深々と頭を下げる。

「本当に申し訳の無い事をしてしまった、反省している」
「レンさんを巻き込んでしまった事についても心からの謝罪を致しますわ」

会ったらディーター総裁に怒りをぶつけようとしていたエステルとヨシュアだったが、先手を打たれた形となり、戸惑ってしまった。
さらに同じ部屋に居た熊のように大柄な男性が、エステル達にゆっくりと声を掛ける。

「彼がこのような事をしてしまったのも、自分なりにルバーチェ商会の罪を暴こうとする気持ちからだ、許してやって欲しい」

男性はクロスベルで事務所を開いて弁護士をしているイアン・グリムウッドと名乗ると、弁護士のルートを通じ、ルバーチェ商会とレンやエステル達にお互い手出しをしない約束を交わしたと告げた。

「それでは、もうレンが狙われる事は無いんですね」
「非公式だが法的拘束力のある誓約書を交わしたから、ルバーチェ商会も簡単に約束を破るわけにも行かないはずだ」
「よかった」

ヨシュアの質問にイアン弁護士が答えると、エステルは安心して笑顔で息をついた。

「もう2度とこのような事をしないで下さいね」
「ああ、神に誓うよ」

真剣な顔をしたヨシュアが念を押すと、ディーター総裁は力強い口調で答えた。

「レンさんには怖い思いをさせてしまいましたから、私に何か罪滅ぼしのような事は出来ません?」
「あっ、それなら……」

マリアベルの申し出を聞いたエステルは、マリアベルがオークションで落札した人形が、自分達がレンから依頼を受けて探していた物だと事情を説明した。

「まあ……あの人形には、そのような逸話がございましたの」

エステルから話を聞いたマリアベルは、感動して人形の姉妹を再会させてあげたいと語った。
しかしディーター総裁は困った顔をしてつぶやく。

「あれからルバーチェ商会は混乱しているようだから、落札した品物が届くか難しい所だね」
「でも、落札してお金は払っているわ。もし第三者に取り押さえられても所有権を主張する事は可能よね、弁護士先生?」
「そうですね、違法なオークションでの契約とは言え、法的には保護に値します」
「よかった、それならレンさんの希望をかなえて差し上げられそうですわね」

イアン弁護士の返事を聞いたマリアベルは嬉しそうな笑顔になった。
思わぬ朗報も持ち帰ることが出来たエステルとヨシュアは、IBCに向かった時の怒りの表情とは反対の晴れやかな笑顔で遊撃士協会へと帰り、ミシェル達に報告をした。
報告を聞いたミシェルは面白くなさそうな顔をして問い掛ける。

「それじゃあ、あなた達はディーター総裁を告発するのは止めるって訳ね」
「うん、ディーターさんとマリアベルさんも反省していると思うし……」
「ミシェルさんはディーターさんが、まだレンを狙っていると思っているんですか?」

ヨシュアが尋ねると、ミシェルは首を横に振る。

「いいえ、多分それは無いわ。ディーター総裁の目的は果たされたと思うから」

エステルがレン達にマリアベルの話を伝えると、アネラスも一緒になって大喜びした。
そしてレンの希望通りに、両親にはミシュラムで事件に巻き込まれた事を知られる前に家へと帰る事が出来た。
事件は最良の形で丸く収まったように見えたが、ミシェルは釈然としないものを感じていた。
きっとディーター総裁は、エステルとヨシュアが自分の忠実な駒となるか、見極めようとしていたのではないか。
あっさりとディーター総裁の言葉を信じてしまったエステルとヨシュアの真っ直ぐな心は美しいかもしれないが、少し残念にも思えた。
ミシェルはディーター総裁が言葉通りに自らの行為を悔いて心から反省してくれる事を願った。
そしてそれからルバーチェ商会は、ディーター総裁の計画通りガタガタになった。
ハルトマン議長に見捨てられたマルコーニ会長に愛想を尽かし始めた部下達が、自分達の稼ぎを取り戻すために好き勝手やり始めたのだ。
部下をまとめる役目であるガルシアは導力ネットなどが苦手だった事などもあり、部下の動きの全てを制御し切れなかった。
さらにルバーチェ商会内で武力闘争が激化し、街の中で発砲事件なども起こるようになった。
治安の悪化で、遊撃士であるエステルとヨシュアの仕事も増えて行く。
追いつめられたルバーチェ商会が、どのような行動に出るのか。
エステル達は漠然とした不安を抱えながら日々を過ごすのだった……。
拍手を送る
評価
ポイントを選んで「評価する」ボタンを押してください。

▼この作品の書き方はどうでしたか?(文法・文章評価)
1pt 2pt 3pt 4pt 5pt
▼物語(ストーリー)はどうでしたか?満足しましたか?(ストーリー評価)
1pt 2pt 3pt 4pt 5pt
  ※評価するにはログインしてください。
ついったーで読了宣言!
ついったー
― 感想を書く ―
⇒感想一覧を見る
※感想を書く場合はログインしてください。
▼良い点
▼悪い点
▼一言

1項目の入力から送信できます。
感想を書く場合の注意事項を必ずお読みください。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。