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ひっぷほっぷ武将の私的解説
2010/10/18 21:24

<前書き>
 ここで言い訳。
 ごはんライスが僕にこの話を振ったのが運のつきだろう。
 作者が考えているものとは別の説教くさい文章が以下繰り広げられるに違いない。
 もう知らない。
 しかも、偉そうだぞ。かなり上から目線だ。
 ……よし、いいわけ終わり。
 では「超たぬき理論」的展開をご披露するとしよう。


ひっぷほっぷ武将の私的解説
『足軽ロストジェネレーション』




 時代に取り残された世代は微かな光を放っている。
 それが狂気の輝きだとしても。
 簡単に言えば僕にとってはそんな作品だ。


 まずは簡単に「ひっぷほっぷ武将」の概略に触れよう。
 2008年から連載が始まり、2009年に一度全て破棄。
 作者自身も一度「なろう」を退会。
 その後、復活をとげ、本作も内容を一新し、再出発。
 一度の大きな中断を経て、再び言葉を取り戻しめでたく完結した作品である。
 (注:ここでは第三部書き直しは含まれない)


 さて、本作の内容を触れる前に避けて通れない問題がある。
 それは、『なぜタイトルが「ひっぷほっぷ武将」なの? 問題』である。
 奥田民生の「マシマロ」的な? 本文と関係ないってやつ?と思う方もいるかもしれない。
 「ひっぷほっぷ武将」は本として登場するので、この話自体が「ひっぷほっぷ武将」なので問題なかろうという人もいるかもしれない。(俺がガンダムだ理論)
 では、問いますがね。どのあたりが「ひっぷほっぷ」なのか説明できますか?
 それこそ「マシマロ」だとお思いか? この馬鹿チャビンがっ!


 筆者はHIPHOPと本作の密接な関わりを読書中に感じていた。
 以下の三点の言葉において顕著に本作がHIPHOP足りえる理由がある。

 1、サンプリング
 2、ゲットー
 3、DJ

 では順番に確認していこう。


 まず1、サンプリングだが、これを簡単に説明すると既成の音楽を繋いで一つの曲にしてしまうという手法で、大きなHIPHOPの特徴であろう。
 本作も色々な作品からサンプリング(小説で言えば文章をそのまま使用?)とまではいかないが、小説のシステム自体をサンプリングしているのは間違いない。
 その代表的なものが「反復文章」である。これは筒井康隆「ダンシングヴァニティ」にて使われている手法である。本作を読んだ人には納得いくであろう。
 本作では同じような設定文章が特に中盤顕著に現れている。この「繰り返し」については次の章にて記述することにする。
 ここではサンプリングがこの小説で有機的に機能しているということがわかれば良いのだ。
 まさにHIPHOPっ!


 次に2、ゲットーである。
 HIPHOPの一面としてゲットーと呼ばれるアメリカ合衆国の都市部での貧困層が自分達の言葉を伝える手段として培われてきた。
 日本にHIPHOP持ち込まれた当時、(今でもあるかもしれない)日本にはゲットーなどという層は存在しないので、この種のHIPHOPは根付かないと言われてきた。
 まだ、日本人全中流化みたいなことが信じられていた時代である。
 ところが現代はどうだろう。中流幻想は崩れ、日本にはたしかに貧困層が存在している。
 いわゆる非正規雇用の人たちだ。
 奇しくも日本が以前なら笑われていたHIPHOPの世界に染まっていったのだ。
 もうお分かりだろう。本作の重大なテーマの一つである、非正規雇用問題なのである。
 やはりHIPHOPっ!
 これも1とあわせて後述する予定である。


 そして3のDJについて。
 実はこの章で語るべき事柄、それがDJである。
 HIPHOPには一般的にDJがバックトラック(BGM)を流し、MCはそれにあわせてラップする形式を取る。
 つまり、リズムを支配する人こそがDJなのである。
 本作に当てはめるとどうだろう。
 本作のリズムというべき話の流れは、めまぐるしく変わる登場人物たちのストーリー群といえよう。
 登場人物たちのストーリー=レコード盤と考えると分かりやすいだろう。
 クラブ等のDJはレコードを数枚持ってターンテーブルを使い曲を流す。
 そして楽しんでいる人たちに違和感を与えないように曲を変えていく。時にはスクラッチしてアクセントを加えたりもするが、聞いている側は曲が変わっている事に気づかないのだ。


 本作の特に序盤はその流れがハッキリと現れている。登場人物が色々と変わるわりには違和感をあたえない。むしろお話として展開している。
 かくいう筆者も数話進んだところで、あれ? いつの間にたけしがいなくなったんだ? と不思議がったものである。現実世界から本や夢の世界、次にクローズアップされた世界へといつの間にかいざなわれているのである。
 まぁ……人によっては、「それは入れ子構造と言って……」とか語られそうだが、気にしない。


 さらにバックトラック(BGM)のリズムはどうだろう。
 HIPHOPのバックトラックは基本的に踊れるものでなくてはならない。つまりダンスミュージックだ。
 では、ダンスミュージックとはどんなものなのだろうか。
 たとえば、アフリカ民族の踊り。
 太鼓や掛け声のリズムで皆が狂乱して踊り狂う。
 さらにはトランスやテクノ。
 決まった打ち込みのリズムを繰り返し流し、踊っているものをトランス状態へ持っていく。


 そう、ダンスミュージックとは決まったリズムの繰り返しの元、次第にドラッグをきめたように(あるいはホントにきめて)ハイになって、別世界へ飛んでいく音楽だと言えよう。
 そして本作はといえば、サンプリングのくだりでも説明したが、繰り返し表現があるのだ。
 繰り返して非正規雇用の日常を描くことにより、読者を非正規雇用ドラッグによってひっぷほっぷ武将の世界へと誘い、リーディングハイにさせるのである。
 ここまでくれば、絶対にHIPHOPである。


 まさに、現代日本でもがくゲットーである武士(もののふ)たちの物語なのである。
 ごはんライスがDJとなり、バックトラックには重厚な繰り返しの非正規雇用の生活リズムを流し、かたや、ごはんライスはMCにもなって、自分達の世界をラップする。
 それが「ひっぷほっぷ武将」なのだ。





 さて、早速「ひっぷほっぷ武将」の内容に触れていきたいところだが、あえて書いておくと、「あのシーンが良かった~」とか「あのキャラクターがね」とかは書きません。
 それは感想であって解説ではないからだ。
 その辺りはごはリスト(さゆリストみたいな熱狂的ファンのこと)に任せる。


 筆者が注目したいのは、やはり本作の中盤以降の流れを作った繰り返し表現である。
 もう一つ焦点を当てたいのがロストジェネレーションである。
 ちなみにロストジェネレーションとはバブル崩壊後の就職氷河期(1994年~2004年)に就職活動を行った現在の25歳~35歳の世代のこと指している
 繰り返し表現にどんな意味があるか、正解は作者のみぞ知るだが、筆者はこう考える。
『繰り返し表現は終わりなき日常表現だ』

 ロストジェネレーション世代である筆者が学生だった時によく聞いた言葉が「終わりなき日常をどう過ごすべきか」であった。
 学生から社会人になる時にふと考えること。
 「同じような日常の流れに沿って、ただ同じ日常を繰り返して生きてよいのだろうか」
 いわゆる自分探しの流れにつながりそうな危険な考えである。
 また、就職氷河期で社会の流れに乗れず、または自分探しに翻弄され、あるいは筆者が学生だった頃定着したフリーターになってしまうことで、ロストジェネレーションを生んだ。


 しかも、他の世代からはロストジェネレーションという名前を付けられて、カテゴライズされ、特に政府からの救済策もなく、そのまま放置である。
 結果、この世代の引きこもりや非正規雇用の人数は他の世代に比べても多いはずだ。
 そしてつい先日発売されたアジアンカンフージェネレーションのアルバムにて「貴方達に忘れられてもロストジェネレーションはまだ生きている」と歌っている。
 アジカンのボーカルの後藤もロストジェネレーション世代なのだ。


 社会的な説明はこのぐらいにする。話を戻そう。
 ここで本作の注目すべき点は、すでに学生を経て社会人生活を十分に過ごした点である。
 終わりなき日常にアイデンティティの不安を感じていた学生時代。
 しかし、時間が流れ、いやおうにも人生とか生活という現実にぶつかる。
 そこで待っていたのは「ゆるやかな下り坂」であった。
 新しい意味合いでの終わりなき日常が待っていたのだ。
 身動きさえとれず、徐々にその動きを止めていくような感覚。
 もうだめだ……果たしてそうなのだろうか。


 どんなに他の世代から忘れさられようが、
 どんなに苦境に立たされていようが、
 我々はまだ生きていて、光をつかみたいのだ!
 なんでもいい、「くもの糸」を探してもがき続ける必要がある。


 それはまさにHIPHOPにおけるゲットーが目指す成功への道とも似ている。
 彼等もどん底の生活を送り、何かを伝える舞台も与えられず、とはいえ文字もかけない絵もかけない楽器も弾けない、表現の手段を持たない。
 だけど、言葉があるじゃないか。
 そして彼等はマイクを持ち、フリースタイルでラップを始める。
 周囲数メートルの自分の世界を歌い、現状に怒り、未来へ手を伸ばす。
 自分達の言葉で。

 こればHIPHOPにおけるウェルカムトゥーマイルームの精神であり、自分達の世界を自分達の言葉で伝えるというシンプルかつリアル迫った方法である。
(本人からすると「674」に近いのかもしれないが)


 そして、本作でもごはんライスの部屋へ招待された読者は、彼の周囲数メートルの世界を無限の想像力の世界で表現し、自分の言葉で塾、ビデオボックス、銭湯の繰り返しの日常を描き、「ゆるやかな下り坂」におののきながらも怒り狂い、また日常へと帰結していく。
 と言った世界を構築していくかにみえた。


 しかし、クライマックスには波乱が訪れた。
 苦悩した登場人物は無差別殺人に走ってしまったのだ。
 確かに散々殺したいという表現が出ていたので、予想された事態ではあった。
 だが、あまりにも唐突だった。
 微妙に表面張力を保っていた水がこぼれるように、一度吹き出したら止められない勢いだった。


 さらに、不謹慎だがお話として面白い。
 ちなみに筆者は第一部の最終回を読んで、はだしのゲンの原爆投下直後を思い出した。もう、後戻りできないとんでもないことが起こったという戦慄にも似た感情を抱いたのだ。しかし、後ではだしのゲン話がでて、「ああ、やっぱり」と勝手に納得したのだった。


 ちなみに、さんざん繰り返し表現という一見すると手抜きかよ、思わせる難解な表現をしながら、この第一部クライマックスに関しては分かりやすいのだ。
 なにしろ文章量が他の話とは違う。
 最終話までは登場人物がどんな目にあってもギャグで終わっているのに、リアルに表現されている。
 ふと、元ブルーハーツ、現クロマニヨンズの真島の言葉を思い出した。
「難しい事は簡単に、簡単な事は面白く表現する」
 この精神に近いのかもしれない。


 さて、話を戻そう。
 ロストジェネレーションである本作の主人公は無差別殺人を犯してしまった。
 一つの結論を導き出したわけだ。
 自分たち世代が出した一つの結論。
 それは世界を壊すこと。
 これを警告と捕らえるべきか、悲劇と捕らえるべきか、はたまた開放と捕らえるべきか迷うところ。


 一読者としては壊したものを再構築するような話を望みたいところだ。
 しかし、現実甘くない。一発逆転などそうは転がっていないのだ。
 だが本作は、ごはんライスが自分の言葉で語ったリアルな物語。
 答えがあるとすれば、それは今後のごはんライスの行動そのものかもしれない。


 筆者的には執筆中の作品のテーマが自分達の世代の総決算、いや、偉そうに書きすぎた。自分なりの総決算をしているつもりで進めており、「ひっぷほっぷ武将」は、おそらく、かなり影響を与えるであろう(同世代の一つの結論として)作品だと記して終わりにしたい。
(最後は自分の宣伝かよ)


 追伸。
 最初のひっぷほっぷ武将を始める前に筆者はごはんライスに「ひっぷほっぷ武将」のイメージ画を見せてもらったような……
 今思えば龍馬ブーム先取りのセンスだった気がする。

 追伸2
 これを貼り付ける直前に、ごはんライスの活動報告を読んでしまった。
 似たようなことを考えてたのか……(妄想?)
 これを書いたのは二日前なので、断じて真似じゃないYO!
 ホントだYO!(書けば書くほど嘘っぽく……)


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2コメント
2010/10/19 22:01:23
リープ

夜兎さんへ。

ごはんライスから、「渋谷陽一(ロッキング・オン社長、音楽ライター)みたいに」というリクエスト(というほど厳密なリクエストではないけど)がありました。
『音楽雑誌の特集記事』というコメント読んだ時はとても嬉しかったです。

解説文なんて、対象の作品が素晴らしくないと、どんなに言葉尽くしても空回りするのですから、やはり「ひっぷほっぷ武将」は素晴らしい作品だといわざるをえません。
(わざわざ書かなくても夜兎さんや華子さんはご存知だと思いますが……)

夜兎さんがコメントで書いたように、すごいのを読むと何を何から書いて良いか、わからなくなります。
だから解説を書くのも時間がかかりました。

ごはんライスの作品郡は普遍的なものもあるけど、ある一面で世代を背負っているような感じを受けます。

すこしでもそれが解説に現れていたら幸いです。
本文をお読みいただきありがとうございました。

2010/10/19 22:00:12
リープ

華子さんへ。
お久しぶりです。

ごはんライスが最初のひっぷほっぷ武将を執筆していた時から、終ったら解説を書くと約束していました。

紆余曲折、とうとう一応の完結を見せたひっぷほっぷ武将。
終った直後に正式な解説の依頼が。

本人には時間をくれと頼んでから、すべて読み直し、ネタ出しをしてる間に一ヶ月半たってしまいました。
だからほめられたのもじゃないんですよ。

ただ、大作を前にして、適当にお茶を濁すのは失礼に当たるので、体当たりで臨みました。
おかげで自分にも励みになるような文章が掛けました。
色々考えるきっかけをくれた、ごはんライスに感謝です。

華子さんも拙い長文をお読みいただき、ありがとうございました。

2010/10/19 17:51:44
河野夜兎


何だか音楽雑誌の特集記事をがっつりと読んだ気分になりました。
(またちょっとズレた意見から始まっちゃったし…)

解説を昨日から何度も拝読させて戴き、余りにも内容が素晴らしくて正直コメントに困りました。

だって何回読み返しても、「うわぁ…、本当にすげーや…。ヤバイ、ヤバイよ! マジスゲーヤバイ!」って幼稚な言葉しか浮かんでこないんですよ
(どんだけ興奮してんだか… 苦笑)

ヒップホップという音楽ジャンルから作品を深く掘り下げていくなんて……。

そして、私もロストジェネレーションにカテゴライズされる年代の人間ですので、かなり真面目に頷いて読んでしまったんです。

あぁ、やっぱなんか自分が感じたことをどう伝えたらいいかわからない……。

てか、これだけすごいのを読んでしまうと、言葉は野暮ったいと思ってしまいます。でも何だか何かを書きたいんだか何なんだか…。(ちょっとわけがわからないですね)

とにかく、一言御礼が言いたくて(それにしちゃあたどり着くまでに長いな)

本当に、素晴らしい解説を拝読させて戴きありがとうございました。



2010/10/18 23:42:50
大輔華子

不足茶野先生。

華子です。お久しぶりです。

ひっぷほっぷ武将への素晴らし過ぎるコメント……。
心から感謝致します。

本当に、こころふるえますほどに……。
とても言葉にすることができません。
ありがとうございます。

【華】

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