
大飯原発工事をめぐる偽装請負事件
関西電力大飯原発の改修工事で、東京の会社が北九州市の会社から違法な労働者派遣を受けていた事件。職業安定法は、建設工事では元請け会社の指揮の下で下請け会社の従業員を働かせることなどを禁じている。福岡県警などは1月に同法違反容疑などで2社の幹部と関連する福井県の会社社長の3人を逮捕。この3人と、東京と福井の2社に同法違反などの罪で罰金50―25万円の略式命令が出て確定した。
(2012年4月6日掲載)
原発労働「使い捨て」 「大飯」偽装請負 元作業員語る 鳴り響く線量計 数値不明 日当4万円、実際は1.2万円
原子炉の再稼働に向けて政府が手続きを進める関西電力大飯(おおい)原発(福井県おおい町)をめぐっては、維持改修工事で下請けや孫請け会社が違法な労働者派遣をしていたとして福岡県警などに摘発された。事件が明るみに出る前に大飯原発で2度にわたる偽装請負労働に携わったという鹿児島市の男性(49)が西日本新聞の取材に応じ、労働の過酷さを語った。
男性はホームレスだった十数年前、手配師と呼ばれた福岡市の人材派遣業の男性に誘われて大飯原発での労働に従事。関電から仕事を受注した建設会社の孫請け会社に派遣された形だったが、実際には下請け会社の指示の下に働いたという。
最初の仕事場は定期点検中の2号機。青いつなぎ服に靴下。原子炉付近では防護服に顔を広く覆うマスク、さらに全身をビニールで包んだ。原子炉格納容器は「ドーム型のサイロのよう」で、タラップを20メートルほど登った所が作業場。投光器に照らされ、ごみを袋に詰め、床に漏れた水を拭き取り、ボルトを締めた。5分ほどで線量計からピー、ピーとアラーム音がしたこともあったという。
容器内は8人で作業。線量計が鳴ると待機する別の作業員と交代した。仕事は1日約1時間。2カ月の派遣中、休みは日曜だけ。派遣終了時にも被ばく線量は教えてもらえず、孫請け会社からは「国が決めた数値だから大丈夫だ」と言われたという。日当4万円の約束だったが、実際は1万2千円。「時給1万円を超すんだから少々の被ばくは仕方ない」と自らに言い聞かせたという。
3カ月に及んだ2度目の派遣では4号機の燃料プールを磨いた。海沿いの寮は風呂と便所が共同で、入れ墨の人、顔見知りのホームレスもいた。九州のなまりが多く聞かれたという。
「短時間労働で後は待機。放射線のためかは分かりませんが、だるい感じが続いていました」と振り返る。一緒に働いた仲間のうち2人は心臓疾患などで亡くなった。原発作業が影響したかどうかは分からない。
こうした原発労働の実態は長く明らかにならなかった。福岡県警などが下請け会社の事業所長を逮捕するなどした事件は、原発への労働者派遣をめぐる国内初の強制捜査だった。だが、2社と3人が罰金刑を受け捜査は終結。県警は、下請けと孫請けの間にはピンハネがあり「暴力団の資金源になっていた」とみるが全容解明は容易ではない。
原発を取材してきた報道写真家の樋口健二さん(75)=東京都国分寺市=は、この男性と同じような現場も見てきたといい「偽装請負事件は氷山の一角。社会的弱者が過酷な原発に送り込まれる実態は続くのではないか」と危ぶむ。元原発労働者の労災認定訴訟を支援する牧師の木村公一さん(64)=福岡県糸島市=も「使い捨てのようにされる労働者を原発が必要としている構造に目を向けないといけない」と話す。こうしたなかで、大飯原発再稼働の動きが進む。
