原発新安全基準決定 関電に指示へ4月6日 19時12分
福井県にある関西電力大飯原子力発電所を巡り、野田政権は6日、3回目の関係閣僚会議を開き、運転再開の前提となる新たな安全基準を決定しました。
これを受けて、枝野経済産業大臣は、関西電力に対し、安全対策の工程表を作成するよう指示することにしています。
大飯原発の運転再開を巡り、野田総理大臣は6日夕方、藤村官房長官、枝野経済産業大臣、細野原発事故担当大臣の4人による3回目の関係閣僚会議を開きました。
冒頭、野田総理大臣は「再稼働の安全性についての判断基準案の議論を行いたい。枝野大臣から修正案の報告を受け、さらなる検討を含めて、4大臣として判断基準の結論を得たい」と述べました。
このあと、関係閣僚で協議し、野田政権として、原発の運転再開の前提となる新たな安全基準を正式に決定しました。
基準には、福島第一原発を襲ったような地震や津波が来ても、全電源喪失という事態を防ぐための対策が取られていることや、ストレステストで一層の取り組みを求められたことなどについて、電力会社が実施計画を示すことなどが盛り込まれています。
これを受けて、枝野経済産業大臣は、新たな安全基準にのっとって、関西電力に対し、大飯原発が基準を満たしているかどうか確認を求めるともに、実施計画に関する安全対策の工程表を作成するよう指示することにしています。
そして、関西電力からの回答を受けて、野田政権は、来週以降、改めて関係閣僚会議を複数回開き、安全性が最終的に確認され、国民にとっても一定の理解を得られると判断すれば、枝野大臣を福井県に派遣して、運転再開に向けて地元の理解を得たいとしています。
原子力発電所の運転再開の前提となる新たな安全基準が正式に決まったことを受けて、枝野経済産業大臣は、総理大臣官邸で記者会見し、「原発の再起動問題については、4大臣で3回にわたって徹底議論した。この基準は去年3月の東日本大震災以降、政府として指示してきた安全対策や政府の事故調査会、それに原子力安全・保安院の意見聴取会など専門家の知見を検証し、国民に分かりやすい形で整理したものだ」と述べました。
原発運転再開の新基準とは
6日に閣僚会議で決定した新たな基準は、全国の原発で、すでに実施されている安全対策を改めて確認する一方で、福島第一原発の事故の検証結果を踏まえた長期間かかる対策は先送りを認める内容です。
決定した3つの基準は、▽まず、地震や津波によってすべての電源が失われても、その後の事故の拡大を防ぐ対策が取られていること、▽続いて「ストレステスト」の1次評価の結果、福島第一原発を襲ったような地震や津波が来ても原子炉でメルトダウンが起きない対策を国が確認していること、▽さらにストレステストで一層の取り組みが求められた問題や、事故の検証結果から得られた教訓のうち、実施までに長期間かかる30項目の抜本的な対策について、電力会社が今後の実施計画を示すことを盛り込んでいます。
これらの基準を大飯原発の3号機と4号機に照らし合わせてみますと、1つ目の基準は、事故直後の去年3月末から全国の原発で実施された「緊急安全対策」によって、電源車やポンプ車の配備などが進められ、おおむね達成されているとみられます。
また2つ目の基準は、関西電力が実施した「ストレステスト」の1次評価の結果を、2月に、国の原子力安全・保安院が「福島第一原発を襲ったような地震や津波が来ても対策が取られている」としたうえで、原子力安全委員会も先月下旬一定の評価を示し、確認していて、手続きは終わっています。
そして、3つ目の基準を巡って、枝野経済産業大臣が、6日午前の記者会見で、関西電力に対して対策の実施を盛り込んだ工程表を求める考えを示しました。
この中には、福島第一原発の事故で対策の拠点となった関西電力が4年後までに設置を目指す免震重要棟のような施設や、ディーゼル発電機を分散して配置すること、それに、放射性物質を放出する事故に備えて、フィルターの付いたベントの設備などが含まれています。
関西電力は、3つ目の基準の対象となる対策のうち主なものは、すでに実施する考えを示していますが、今回の基準では、工程表を示せばよく、長期間かかる対策は事実上、実施の先送りを認める内容です。
また、国の原子力安全委員会が「原発の安全性を評価するために必要だ」として早期の実施を求めている「ストレステスト」の2次評価については、今回の基準に盛り込まれませんでした。
こうした内容に地元や周辺がどのような反応を示すのかが今後の焦点となります。
新基準が必要な理由は
政府が打ち出した新たな基準は、来月上旬に国内のすべての原発が止まる可能性があるなか、自治体から福島第一原発の事故を検証して、具体的な安全対策を示すことを求められたり、「原子力規制庁」が今月の発足が見送られたりしたことなどから予定を前倒しして示したことになります。
政府は、去年7月、原発事故で高まった国民の不安を解消して運転再開につなげようと、ヨーロッパで先行して実施されていた「ストレステスト」を導入しました。
「ストレステスト」は、地震や津波にどれほど耐えられるかを見る「1次評価」と、事故後の対応を重視して、放射性物質が漏れるのをいかに防ぐのかなどを確認する「2次評価」とに分け、このうち「1次評価」だけを原発の運転を再開する判断の前提としました。
これに対し、関西電力の大飯原発の地元、福井県などが、「ストレステスト」の1次評価だけでは不十分で、国が福島第一原発の事故を検証して、その結果から得られた具体的な安全対策を示すことが必要だとする態度を一貫して示してきました。
一方で、国の原子力安全・保安院が福島第一原発の事故の教訓をまとめた30項目の対策は、政府が今月1日の発足を目指していた「原子力規制庁」で法制化を目指していましたが、規制庁は、国会での審議が進まず予定していた今月の発足が見送られ、めどが立たないままです。
こうした状況のなか、政府は、保安院を中心に30項目の対策を盛り込んだ新たな基準を予定を前倒しして示したことになります。
専門家“科学的に掘り下げて基準を”
政府が示した原発の運転再開を判断する新しい安全基準について、原子炉工学が専門の核・エネルギー問題情報センターの舘野淳事務局長は「現在、すでに行われている電源車の配備などの対策や、ストレステストの1次評価を基準の前提にしていて、まだ実施されていないことは将来に先送りにされている。今の時点で運転再開にこぎつけたいという大前提に立って判断基準を作ったと言われてもしかたがない。科学的にきちんと掘り下げて基準を作るべきではないか」と指摘しています。
また原子力安全・保安院が示した福島第一原発の事故を教訓にした30項目の安全対策のうち、対策が終わっていないものは、電力会社が計画を明らかにするよう求めたことについて、「福島第一原発の事故では、過酷事故の対策を電力会社に任せていたことが批判されているが、その繰り返しになるのではないかと懸念している。事故の教訓を学んでいない」と批判しました。
そのうえで、「大飯原発では、防潮堤のかさ上げや事故対策の拠点となる免震重要棟の設置が取り残されていて、こうした重要な対策が先送りにされているのは重大な欠陥だ。運転再開した段階で事故が起きる確率はたとえ低くてもあるわけで、その時に免震重要棟がないと事故収束をどうするのか真剣に考えるべきだ」と指摘しています。
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