<超初級編(その3)−酒の飲み方>
■まずは酒の飲み方から■
酒の注ぎ方、受け方、禁止事項、乾杯の仕方、慣習など語るべきことは様々あるが、まずはやっぱり酒の飲み方から勉強してみたいと思う。しかしあくまでも超初級であるからには、飲み方と一言で簡単に片付けて、ヨーイドンでスタートしてしまうには問題がある。もっと根源的な部分から始める必要があるのではないだろうか。
■酒は飲んでもよいのか?■
つまり、飲み方云々を語る前に、酒を飲んでもいいのかどうかという問題である。
ここが最も厄介な問題かもしれない。どうも聞きかじった話によると、韓国では目上の人の前では酒を飲んではいけないらしい。家庭においても父親の前で酒、タバコは一切ご法度。これを破れば勘当も辞さずというくらい、厳格なものであるらしい。
すると、韓国に行ったら酒の席のマナーをどうこうする前に、飲んではいけないという状況を頭の片隅においておかねばならない。俺もう95歳だから、年上の奴なんかほとんどいないもんね。という超年配の方は除くとして、たいていの人はある程度年上の人と酒の席で同席する機会があると思われる。そういうときはどうしたらよいのか。20代前半の若者は仲間うち以外では酒を飲むなということなのか。10代前半の中学生とかは、どこで酒を飲めばいいというのだ。ドンドン(机を叩いた音です。)
この問題はズルズル引きずると、どんどんややこしい方向に行き、収集がつかなくなってしまうので、少し乱暴ではあるが、わかりやすい形で結論を出しておきたいと思う。
基本的には目上の人の前では酒は飲んではいけないが、守られるケースは稀である。
厳しい家庭などではきちんと守られているようだ。親の前では酒は飲まないという若者もまだけっこういる。タバコの場合はもっと厳しいらしい。ただ外国人が韓国に行き、目上の人の前だから酒を控えなければいけないという状況はおそらくほとんどない。よほど気難しい取引先の接待であったり、国際結婚を決意して向こうのご両親にご挨拶などといった、本当に厳格で厳粛で厳しく厳かな場面以外は特に気にする必要はない。
と、いうことで酒はまず飲むことを前提として話をすすめる。韓国で酒が出てきたらとりあえず飲むという姿勢でかまわないということだ。
いや、勿論飲む飲まないは本人の好みになるが……。
■飲むときの正式なマナーは■
さて、酒を飲むときの正式なマナーはこうだ。
韓国では目上の人の前で酒を飲むことは、先ほど述べたように基本的にはマナー違反である。だからマナーに違反しながら飲むという奇妙なマナーに発展することになる。つまり、私はあなたさまの前で酒なんざあ飲んじゃいないですよ。決して失礼なことをしている訳じゃないですよ。ということを身体全身でアピールしながら飲まなければならない。
相手から顔をそむけ、場合によっては身体全体を横に向けて酒を飲む。もっと丁寧にすれば口元を手で隠しながら飲むと尚よい。横を向いているから相手の目の前で堂々と酒を飲んでいる訳ではないし、まして口元を隠していれば飲んでいませんよー、という意味にもなる。
飲んではいけないから、飲んでないフリをして飲む。外国人の立場から見れば不思議でたまらないが、それが文化の違いというもの。日本に来た韓国人留学生が日本の人の前で横を向いて酒を飲み、日本人に失礼だと怒られたなんて笑い話があるが、文化の違いというのは基本的に滑稽なものなのかもしれない。共通認識の中で行われているから普通だけど、やっぱり外国人の目からみたら異様だ。
だが、マナーとしては正式。韓国食のマナー道場、超初級編としては絶対にマスターしておきたい。
■結論■
韓国で目上の人と酒を飲むときは、顔をそむけ口元を隠して飲む。
でも繰り返しになるけど、このマナーは絶対に必要なものではない。ただ韓国文化の一端として絶対に知っておいて損はないし、なにより実際に酒の席でこうして飲んだら韓国人が喜ぶだろう。自国の文化を理解してもらって不愉快な人はいないからね。マナーの為のマナーではなく、相手と仲良くなる為のマナー。そう考えればこのマナーは実用的で素晴らしいものとなる。むしろそう理解して使うのがマナー道場流なのだ。