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    かけはし2012.年4月9日号

迷走する北朝鮮、戦闘態勢の自衛隊

「人工衛星」打ち上げ問題をどう見るか

「父の遺訓」に縛られた金正恩
PAC3の実戦配備を許すな


米朝協議とウラ
ン濃縮一時停止


 二月二九日、米国と朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)両国は、北朝鮮が寧辺でのウラン濃縮活動、核実験、長距離ミサイル発射を一時停止して、寧辺の核施設に国際原子力機関(IAEA)要員を受け入れるとともに、米国は北朝鮮への食糧支援を行うと表明した。さらに三月七日、八日の両日、米国が北朝鮮に栄養補助食品など二四万トンを提供する方法をめぐって、米朝両政府代表による協議が北京で行われ、合意に達した。三月一二日には、ニューヨークに滞在中の北朝鮮の核問題をめぐる六者協議における北朝鮮側首席代表の李容浩(リヨンホ)外務次官が、ウラン濃縮活動の一時停止に伴ってIAEA代表の受け入れが近いうちに行われる、と言明した。
 こうした動きは、北朝鮮の金正恩新体制が「米朝協議」を進めながら、深刻極まる食糧事情を改善し、「強盛大国の大門を開く」年と位置づけられた二〇一二年の最大イベントである四月一三日の最高人民会議、四月一五日の「金日成生誕一〇〇年式典」、そして朝鮮労働党一四回大会を経て、自らを打ち固めるための基盤づくりと目されていた。国際的にも孤立を深め、国内的にもどん詰まりの飢餓状況からの脱却を、米朝協議を通じて図ろうとする外交と考えられたのである。

北朝鮮のロケッ
ト打ち上げ発表


 しかし、三月一六日、朝鮮中央通信が四月一二日から一六日の間に「人工衛星を搭載したロケットを打ち上げる」と発表したことで一転して緊張が高まった。朝鮮中央通信によれば、それは、地球観測衛星「光明星3号」を運搬ロケット「銀河3号」に搭載し、北朝鮮西部の「西海衛星発射場」から南方に向けて打ち上げるもので、「平和的な宇宙利用」である、と強調している。北朝鮮が国際海事機関(IMO)に事前通報した情報によればロケットの一段目は韓国西方沖、二弾目はフィリピン東方沖に落下する予定となっている。
 日米韓政府は、この北朝鮮による「衛星」発射予告を批判し、北朝鮮への圧力を共同で行使することを確認した。韓国政府は「二〇〇九年の国連安保理事会決議では、北朝鮮の弾道ミサイル技術を使ったすべての発射が禁じられている」と指摘し、今回の行為は「明確な安保理決議違反」と非難した。米国政府も「重大な挑発」と北朝鮮に抗議し、米朝協議で確認した食糧支援準備を中断した。中国やロシアもまた、北朝鮮に「人工衛星ロケット」発射の中止を促すための外交的圧力をかけている。ソウルで三月末に開催された「核サミット」は、北朝鮮の「ロケット発射」を阻止するための外交的舞台になった。
 こうした国際的反発は、当然、北朝鮮にとっては織り込み済みである。北朝鮮は「平和的な宇宙利用の権利を否定し、自主権を侵害する卑劣な行為」と海外からの圧力を非難する一方で、「人工衛星」を海外の専門家や記者にも公開すると述べ、IAEAに対して監視員の派遣を改めて要請している。
 米韓両国は、こうした中で、韓国東部の浦項で、「北朝鮮有事」を想定した、一九八九年の米韓合同軍事演習以来最大規模の合同上陸訓練を三月二九日から開始した。そして野田政権は米韓両国と歩調を合わせながら、二〇〇九年の北朝鮮ロケット発射時と同様に、三月三〇日に安全保障会議を開催し、「弾道ミサイル破壊措置命令」を発動した。この命令によって、防衛省はイージス艦を沖縄周辺の東シナ海に二隻、日本海に一隻、そして地対空誘導弾パトリオット3(PAC3)を首都圏三カ所(朝霞、市ヶ谷、習志野)と沖縄本島の二カ所(那覇市、南城市)と宮古島、石垣島に配備した。さらに石垣、宮古、与那国島には陸上自衛隊の救援部隊を派遣した。
 この弾道ミサイル防衛体制は米軍横田基地内に置かれた「日米共同調整所」を通じて、日米共同の作戦として展開されることになる。まさに実戦体制が敷かれているのである。沖縄へのPAC3配備、石垣、宮古、与那国への陸自部隊の投入は、新防衛大綱で示された米軍のアジア・太平洋戦略の一環としての自衛隊の南西重視戦略の格好の実験場となっている。

東北アジアの
平和のために


 米朝協議を通じて「ウラン濃縮」・核実験の一時停止、IAEA復帰に応じる一方で、各国からの非難と孤立化を招くことを十二分に承知した上で「人工衛星発射」=ミサイル実験に踏み切ろうとする北朝鮮・金正恩体制の姿勢を、どのように捉えるべきだろうか。
 北朝鮮は一方で、金正日体制が招き寄せた国際的孤立化と経済的・社会的危機からの脱出の糸口を手繰り寄せなければならない。他方で、金正恩継承体制の確立のためには、金日成・金正日・金正恩三代体制の「正統性」を根拠づけなければならない。
 四月の「人工衛星発射」は、金正日が死去する直前の昨年一二月一五日に北朝鮮の当局者によって米国側に伝達されていたことであり、金総書記の「遺訓」を「一寸の譲歩も一寸の抜かりもなく徹底的に貫徹する」と宣言している金正恩にとっては、やめるわけにはいかなったのだとも報じられている(毎日新聞、三月二四日夕刊)。金正恩が父・正日の遺志を実行できなかったのだとすれば、彼の「継承体制」の正統性が危機に瀕するからである。
 かりに北朝鮮の体制が「ゆるやかな方向転換」を求めようとしても、「三代継承」体制の正統化の枠組みに縛られた金正恩体制は、内部から転換することはきわめて困難である。こうして強力な指導力を欠いたまま、支離滅裂で混乱した政策が今日の北朝鮮を支配することになる。「ハンドルとブレーキが故障したまま、坂を駆け下りる車」という韓国・柳佑益(リュウイク)統一相の北朝鮮への評価(朝日新聞、三月三一日)は、おそらく正しいだろう。しかしそれとともに、公式の発表の裏側にある、北朝鮮側の「政策転換」へのサインも見すごすべきではない。
 われわれは、民衆の苦しみと飢餓をよそに、ただ特権的支配層の残虐きわまる独裁支配体制を維持しようとするためだけに行われる「人工衛星」発射という膨大な浪費を厳しく批判しなければならない。
 そして同時に北朝鮮の民衆と真に連帯しようとするためには、こうしたロケット発射を絶好の口実にして「北朝鮮の脅威」を煽り、米日・米韓の軍事的同盟体制の実戦化に踏み込もうとする動きにきっぱりと反対することが必要である。
 朝鮮半島の緊張緩和と東アジアの平和の実現は、日本帝国主義の朝鮮半島の侵略・植民地支配の真の清算に基づく日朝国交交渉の再開のための闘いによってこそなしとげられるのだ。
  (四月一日、平井純一)

3.13「TPPでは生きられない」緊急シンポ

秘密交渉によって民衆の
生活を奪ってはならない


大資本のための
TPP参加交渉
 三月一三日、東京・総評会館で「緊急市民国際シンポジウム TPPでは生きられない」が開催された。主催はTPPに反対する人々の運動。日本消費者連盟共同代表の山浦康明さんが主催者を代表してあいさつ。野田政権はTPPへの参加交渉入りを表明した後、九カ国と事前交渉のテーブルにつきはじめている、対米交渉では全品目を自由化のテーブルに乗せることが明らかになり、四年間は交渉した内容を秘密のままにしておくことが強制されるという。「こんな秘密交渉には我慢できない」と山浦さんは訴えた。
 続いて、東京大学教授の鈴木宣弘さんが報告。次のように批判した。
 「TPPには三六五人の国会議員が反対している。全国の都道府県知事で賛成しているのは六人に過ぎない。ほとんどの県議会、市町村議会も反対決議を上げている。しかし内閣官房の半数以上は『震災でTPPの議論はできない。六月までに決めるということは先送りになるが、一一月のAPECまでに滑り込みで参加表明できればいいのだから、議論も起きず、情報も出さず、むしろ都合がいい』と考えていた」。
 「国民健康保険の問題については取り扱わない、としているが大ウソだ。SPS(食品の安全検査)も日本で決める権利がある、と政府は言っているがこれも大ウソだ。米国企業がISD条項(相手国を個々の企業が提訴する条項)を乱用することもありうる。米国大使館はTPPを『対中包囲網』だとはっきり語っている。TPPはアジアを分断させるものだ。これに対してASEAN諸国は自らの主導性を発揮しようとしているが、日本政府はアメリカに追随するだけだ」。

民主主義を実現
するための闘い
 米国パブリック・シチズンのローリー・クラックさんは「TPPは自由貿易協定といわれるが、貿易に関する項目は二六章のうち二章だけだ」と指摘。企業による国家・国民主権の侵害がTPPの本質であり、米国でも民主主義が企業によって危機にさらされている。交渉のテキストを国民を見ることはできないが、企業は見ることができるという点にも、それが示されている、と批判した。同じく「パブリック・シチズン」のピーター・メーバードックさんは医療・健保の問題について「たとえば手術の方法にも特許が適用され、最新の手術を行えば、その特許を持っている企業にカネを支払わなければならなくなる。数多くの人びとの生命が危険にさらされる」と警告した。
 ニュージーランド緑の党の国会議員ラッセル・ノーマンさんはTPP交渉は、秘密裏になされており、作業文書については調印後四年間秘密にさせられる、という問題について報告した。
 韓国の朱帝俊さん(進歩連帯)は、「TPPの内容を知ろうとするのなら韓米FTAを見ればわかる」と語った。「二〇〇六年から始まった韓米FTA交渉では、米国は世界最大の市場だから韓国も米国式の経済高度化が必要であり、韓国にとってメリットがあるとされた。しかしそれは二〇〇八年の米国の金融破綻でそのウソが明らかになった。医療保険の政府負担率を引き上げようとする改革も、外国からの圧力で変えられた。韓国の主権が米国の企業によって奪われている。TPP交渉は出発点で止めることが必要だ」と朱さんは提起した。
 討論の中では国内法がTPPによって変質させられ、その恩恵を受けるのは一部の大企業だけであること、日本の政治家は大企業の支えなくして動けないし、米国の意にそぐわなければ政治生命を奪われる、といったことなどが話され、米国でも中小企業や農家に働きかけて反対と言わせる運動が行われていることや、「一%の大企業ではなく九九%の人びとのための政治を」などの意見が出された。      (K)

3.18だからこそ反戦を 集会とデモ

日米安保、社会の軍事化
沖縄差別の構造を問う


「反戦」とはどう
あるべきなのか
 三月一八日、新宿歴史博物館で「だからこそ、反戦を!3・18集会&デモ」が行なわれ、七四人が集まった。呼びかけたのは、沖縄を踏みにじるな!緊急アクション実行委員会、反安保実行委員会、戦争に協力しない!させない!練馬アクション、反天皇制運動連絡会、有事立法―改憲阻止 反帝国際連帯 反戦闘争実行委員会、立川自衛隊監視テント村。
 野田政権は、矢継ぎ早に海外派兵恒久法、治安立法、緊急事態基本法、武器輸出三原則緩和、改憲を目指す憲法審査会への踏み込などを強行し続けている。イラク反戦から九年。あらためて「『反戦』とは何か?何であるべきか?あるいは、何であってはならないか?」と問題設定し、今後の反戦運動の方向性を論議した。

日米同盟「深化」
と再編を斬る
 集会は、「討論のための問題提起」が四人から行なわれた。
 国富建治さん(反安保実)は、「米国の軍事戦略と日米安保」というテーマから「一月五日に発表された米国の新軍事戦略」を分析し、「最大の重点としてのアジア・太平洋(成長センターとしてのアジア)における中国の『海洋戦略』との対抗・封じ込めを設定した。それは米軍のスリム化と集中を行っていくための兵力規模の縮小、『エア・シーバトル』構想(空軍と米軍の統合運用)の実現だ。TPPも対中同盟として連動している。この転換は、新自由主義的グローバル資本主義の全面的危機とアメリカの覇権的能力の崩壊を根拠にしている」ことを明らかにした。
 さらに「日米安保の今」に関して@PKOの変質A武器輸出三原則と「集団的自衛権」容認B恒久的派兵法(安全保障基本法)と憲法明文改悪を取り上げ、「米国戦略との実戦的一体化」を批判した。
 池田五律さん(戦争に協力しない!させない!練馬アクション)は、「自衛隊再編のゆくえ」というテーマで「二〇一〇年版防衛計画大綱」に対して「基本は、中国脅威論のうえで『各種事態対処』を設定した。周辺海域の安全確保、島嶼部に対する攻撃への対応、サイバー攻撃への対応、ゲリラや特殊部隊による攻撃、弾道ミサイル攻撃への対応、複合事態への対応、大規模・特殊災害等への対応、アジア太平洋地域の安全保障環境の一層の安定化、グローバルな安全保障環境の改善など軍事作戦として展開中だ。なかでも島嶼部防衛と称して自衛隊のシフト移動、軍拡が進んでいる。緊急事態基本法、機密保全法など治安立法の制定と連動して情報戦のレベルアップが策動されている」と批判した。

軍事作戦とし
ての災害出動
 大西一平さん(立川自衛隊監視テント村)は、「社会・生活の軍事化」について提起。とりわけ「震災での救援活動を機に支持が高まる自衛隊についてどのように批判していくのか」と設定し、@災害派遣は殺人組織という軍隊の本質を隠ぺいするものA軍にとっては、防災/訓練も軍事作戦の一部でしかないB軍隊は住民よりも国家や上からの命令を守るC防災・訓練は、住民管理、統合、統制、相互監視の手段D災害ナショナリズム―などの批判点を強調した。
 さらに「大規模災害救援組織は必要か否かの論議だが、そもそもわれわれが考える必要があるのか。防災を考えるなら、津波情報・警戒の強化や耐震性の強化が優先されるべきだ」と発言した。
 柏崎正憲さん(沖縄を踏みにじるな!緊急アクション実行委員会)は、「日本の運動はどの点で沖縄<軍事再編>に抗いえていないのか、または、植民地主義と帝国主義からいかに絶縁しうるのか」というテーマから@辺野古や高江の米軍施設建設問題に反対する根拠についてA二重の抑圧としての沖縄〔軍事再編〕問題B沖縄の植民地主義的利用と、アメリカのヘゲモニー下での日本帝国主義について問い掛けた。

右翼の暴力的
敵対を許すな
 討論後、新宿アルタ前に向けてデモに移った。街頭に反戦アピールが響き渡った。
 デモに対して国家権力と街宣右翼による事前謀議のうえ敵対挑発を繰り返してきた。右翼は、権力から教えてもらったデモコースに沿って街宣車を違法駐車し、それを権力は容認した。さらに右翼の挑発は、機動隊への体当たりをするまでにエスカレートしてきたが、権力は「公務執行妨害罪」が成立しているにもかかわらず放置したままだ。あげくのはてにどさくさにまぎれて右翼は、石、ペットボトルなどを投擲してきたが、これも黙認だ。
 右翼はさらに宣伝カーの窓ガラスを割るという暴挙を行なったが、警察はおとがめなしだ。権力、右翼が一体となったデモ破壊を許すことはできない。反天皇制デモに対する妨害が恒常的になっている。表現の自由を破壊する権力、右翼の犯罪を社会的に暴露し、糾弾していかなければならない。        (Y)
 


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