野田佳彦首相と枝野幸男経済産業相ら三閣僚は五日夜、関西電力大飯(おおい)原発3、4号機(福井県おおい町)の再稼働問題を協議し、東京電力福島第一原発事故の教訓を踏まえた新しい安全基準(骨子)をおおむね了承した。緊急安全対策によって一定の安全性が保たれ、電力会社が格納容器のベント(排気)時に放射性物質を取り除くフィルターの設置を確約すれば、設置が間に合わなくても再稼働を認める方針。再稼働を優先する政府の姿勢が鮮明になった。
首相らは六日に再度協議し、基準に照らして大飯原発に不足している部分を検討する。関電にフィルター設置や放射線対策を施した免震施設の建設など中期的対策の計画を示すよう指示する。計画に具体性があると認められれば、枝野氏が福井県に出向き、再稼働への理解を求める。
福島事故を受け、既に多くの原発で、非常用電源車の配備や建屋の浸水対策、冷却機能の喪失に備えた消防ポンプ車の配備など緊急対策が取られた。これらが機能し、福島事故と同じような津波に襲われても、耐えられると確認できることが再稼働を認める基本条件となる。
フィルターの設置などは数年かかるため、政府は電力会社などに確実に設置すると確約させることで、再稼働を認める方針だ。
緊急対策により、原発の安全性は確かに向上した。だが、これで事故が確実に防げるわけではない。原子力安全委員会の班目(まだらめ)春樹委員長らがこれらの緊急安全対策はあくまで「緊急避難的な措置」と指摘している。
福島事故が起きるまでは、原発の安全神話に縛られ、ベントをするような事態は起きないとされてきた。そのため、欧州の原発では標準的なフィルターはなく、作業員を守る免震施設はあっても被ばく対策は不十分という状況が続いてきた。
今回、政府が示した基準は、こうした状況はできる限り早く解消するよう電力事業者に求める。ただし、フィルターなどが整備されない段階でも再稼働は認められる。事故は起きないから、数年のうちに整備すればよい−。これでは安全神話が少し形を変えただけとも言える。
大飯原発の再稼働議論が本格化した四月初旬、政府・与党内では「班目問題」という言葉が飛び交った。
「安全評価(ストレステスト)の一次評価だけでは安全性は分からない」と発言し続ける班目委員長が、再稼働のじゃまになるという意味だ。
判断基準には「事業者自らが安全確保のために必要な措置を見いだし、不断に実施していく事業姿勢が明確化されていること」という項目が入った。
班目氏の批判にきちんと対応している姿勢を示す狙いもありそうだが、本当に実行されるかどうかは、これからの政府の行動にかかっている。
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