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海辺に生きる−名取・閖上復興計画(上)安全性/多重防御で津波に備え

閖上復興の都市計画案に関する説明会で意見を述べる住民=3月4日夜、名取市下増田公民館

 東日本大震災による津波で壊滅的被害を受けた名取市閖上地区の復興計画が今春、実現に向けて動きだす。古くから漁業で栄えてきた港町を、区画整理による現地再建で復活させようとする取り組みだ。震災で大きな犠牲を払いながらも「海辺に生きる」選択をした地域の現状と課題を探る。(岩沼支局・小島直広、報道部・門田一徳)

 「現地再建が絶対に安全、安心のまちと言えるのか」「元の場所に戻りたくない人のため(内陸側の)仙台東部道路西側にまちをつくってほしい」

<現地再建を強調>
 名取市下増田公民館で、先月4日夜に開かれた閖上復興の都市計画案に関する説明会。参加した住民から市側に、現地再建型復興の安全性を疑問視する声が噴出した。
 市の担当者は「皆さんの意見は最大限反映させたいが、現地再建方針は変わらない」と返答。佐々木一十郎市長は「同じような被害に遭わないよう皆でアイデアを出し合い、工夫して津波に強いまちをつくろうと努力している」と理解を求めた。
 佐々木市長は普段から現地再建を進める理由の一つに、古くから海の恩恵によって栄えてきた閖上の歴史を挙げており「海に愛着がある住民が多い。近くに港や海がある魅力は必ず、将来のまちの再生、発展の力になる」と強調している。
 閖上地区の復興イメージは地図の通り。
 被災市街地復興土地区画整理事業の予定地は約120ヘクタール。閖上漁港がある貞山堀東側と西側の一部計50ヘクタールを非居住区域に、西側の70ヘクタールを平均3メートルの盛り土かさ上げを施し居住区域とする計画だ。

<避難時間を確保>
 津波対策として多重防御策を採用。1次防御は海岸や名取川右岸に海抜7.2メートルの堤防を張り巡らせ、2次防御は貞山堀と名取川が交わる地点から南へ、海抜約6メートルの道路や堤防をつくる。
 市が復興計画で示したシミュレーションを見ると、百数十年に一度といわれるレベル1(明治三陸大津波、昭和三陸津波)規模は、1次防御だけで浸水を食い止められる設計で、人命と住居の双方が守れるとしている。
 今回の津波のような数百年から1000年に一度といわれるレベル2(貞観津波など)は、1次防御を超えた津波の勢いを2次防御ラインで減衰させ、到達を遅らせて避難時間を確保する。あらかじめ整備した避難路や、5カ所に設ける予定の避難施設で人命を守るとしている。

<訓練も欠かせず>
 計画策定に携わった市新たな未来会議委員の越村俊一東北大災害科学国際研究所教授(津波工学)は、今回の津波検証で浸水の深さが2メートルを超えると家屋流出が急増し、死亡率が高まることを確認した。
 越村教授はこの検証結果を市の計画に反映させるため、津波防御のハード対策を施し、浸水深が2メートル以下になる地域だけを居住可能とするよう提言した。
 「多重防御とかさ上げを施せば今回と同規模の津波が来ても、避難を基本とすることで一定の安全性は確保できる」と越村教授。
 その上で海と共存し津波に強いまちをつくるために「大津波対策の基本は減災。ハード面だけに頼らず、避難計画をきちんと立てて訓練を繰り返すなど、自分たちの命は自分たちで守るという意識を持ちながら次世代に継承していくことが大切だ」と強調する。

[名取・閖上の復興計画]震災前は2100世帯5700人が居住。閖上住民の震災犠牲者は742人。市新たな未来会議では「集団移転」を求める意見もあったが、最終的には「現地再建」方針を答申し市が決定。市議会は昨年10月、市震災復興計画の基本方針を全会一致で議決した。


2012年04月06日金曜日

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