五輪中間年に見るフィギュアスケートの勢力図 (1/2)
ソチに向けた世界各チームの戦略とは
五輪への折り返し地点となる2012年世界選手権が終了した。日本は男子の銀、銅、女子の銅、ペアの銅と4つのメダルを獲得する快挙だったが、五輪メダルのためには2年後へのかじ取りが大切になる。今シーズンの大会から浮かび上がる、各国・各選手の戦略とは――。
■2013年世界選手権で日本は男女3枠 佐藤組は苦しいシーズンに
2013年世界選手権の出場枠は、2012年同選手権の順位で決定する。男女ともに最大の3枠を獲得できたのは、日本だけ。来季の同選手権に3人ずつ送り込めるならば、五輪3枠獲得の可能性も広がるため、日本は最高の折り返しを切ったといえる。
そのなかで、佐藤信夫コーチ組の浅田真央(中京大)と小塚崇彦(トヨタ自動車)は苦しい試合となった。佐藤が求める理想は「なんといってもスピード。滑らでパワーのあるスケーティングと、そのスピードを使って大きく跳ぶジャンプ」だ。
その教えを理解した今季の浅田は、大技のトリプルアクセルをダブルアクセルにすることで、伸びやかでスピードのある滑りを追求。NHK杯2位、ロシア杯優勝と結果を出した。しかし世界選手権では、「たくさん練習してきたので(トリプルアクセルを)跳びたかった」と戦略に迷いが出て、ショートとフリーで挑戦。成功はならず、6位に終わった。
「来季の方針を先生と相談したいです。なかなか上手くいかないな、と感じたシーズンでした」と唇をかんだ。
小塚は、ショートで4回転トゥループを転倒、フリーは1本目が2回転になってしまったが、2本目は4回転+2回転を成功させた。ここ2カ月の練習で調子が落ちていた4回転を1本決め、本番力は示したが、ほかのジャンプミスも響き11位。「銀メダリストらしい演技をしなければと思ったができなかった」と話すなど、昨季の快挙が重圧になっていた様子。また靴が合わず、思うように練習に集中できなかったのも大きい。
「まずは靴を変えたい。僕の場合は、練習をしっかりできて、それが自信になるタイプ」。新たな気持ちで挑める来季は、持ち味のスケーティングを生かした演技を期待したい。
初のメダル獲得と活躍した鈴木明子(邦和スポーツランド)も、4位と健闘した村上佳菜子(中京大中京高)も、3回転トゥループ+3回転トゥループを成功。女子トップ入りの必須要素をクリアし、今季はジャンプ力を確認できた。これからの2年間は、ジャンプ以外の持ち味を磨くことに、より集中できるステップへと歩を進めた。
■高橋、羽生はアイスダンスをヒントに
高橋大輔(関大大学院)は、昨年に現役続行宣言をし、ソチ五輪までの3年計画1年目。世界選手権ではショートとフリーで4回転トゥループを決め、優勝したパトリック・チャン(カナダ)に6.45点差にまで迫り銀メダル。躍進の原動力となったのは、アイスダンスコーチの下でのスケーティングの見直しだ。スケートの安定が、ジャンプの安定性にもつながった。
長光歌子コーチは「まだ伸びしろがある。今季は4回転に頭が集中していた。普段の練習を見ている私からすれば、もっと演技や滑りを出せる。体から音が出るような滑りは、教えてもできるものではない、彼だけの感性。みんなが引き込まれるような演技へ、あと2年間でピークを持っていきます」という。
一気にソチ五輪のメダル候補まで駆け上がったのは羽生結弦(東北高)だ。ショートは4回転トゥループ+2回転トゥループを成功しながらもルッツが1回転になる痛恨のミス。しかしフリーではジャンプはノーミスで、激しい情熱あふれる演技に会場が沸いた。高橋の振付師であるパスカーレ・カメレンゴは「ユヅほどに観客を取り込める才能がある選手なんていない」と絶賛。表現力が世界に認められた。
羽生も昨年秋にロシアに渡り、アイスダンスコーチの元で演技やスケーティングを磨いたことが、今季の演技構成点の高さにつながっているという。「僕にとって阿部奈々美コーチはいてくれるのが当たり前の必要な存在。でも引き出しを増やすためには、海外に習いに行くこともある」とバランスを取っていく考えだ。
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