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大飯再稼働問題 原発は政治の道具でない
(2012年4月5日午前6時17分)
東京電力福島第1原発事故で破綻した原子力安全規制。徹底的な検証と再発防止策を構築できなければ、原子力に希望は見いだせない。政府、電力側はその覚悟で福井県の関西電力大飯原発3、4号機再稼働を見据えているのだろうか。民主党政権は腰が据わらず、中長期のビジョンを示せないまま。再稼働の「政治判断」は世論に左右され迷走している。野田佳彦首相が繰り返す「安全最重視」を形に示すべきである。
首相は枝野幸男経済産業相ら3閣僚との初協議で「暫定的な安全基準」を整備するよう指示した。福井県やおおい町が一貫して求めてきたものだ。再稼働の条件がストレステスト(安全評価)の1次評価だけでないことをやっと認めたことになる。
だが国に求めるのはそれだけではない。原発の運転期間など新たな安全規制制度の整備や原子力規制庁の創設、高経年化の安全研究、新たな知見を反映するシステムなど重要な課題を明確にするよう求め、大前提となる「原発の意義」や再稼働がなぜ必要なのか、根本的な「基準」づくりを突きつけた。
昨年5月、菅直人前首相が突如、中部電力浜岡原発の全停止を要請した際も合理的な理由の説明を求めた。国策に貢献してきた本県が、大事故で方向性を失った国に安全確保の観点から冷静な判断を求めるのは、県民の安全に責任ある自治体として当然の務めだ。
県は事故発生翌日から国、電力事業者などに20回以上にわたり具体的な安全対策を要請。被災地では専門的見地から物心両面で支援。モニタリングも実施し、貴重な教訓を得てきた。
15基の原発が集中する本県は40年以上にわたる立地県として多くの事故やトラブル、電力側の隠蔽(いんぺい)に直面しながら、建設的な声を反映させ安全確保策を積み重ねた。独自に安全チェックを行う原子力安全対策課のいち早い設置、電力側との安全協定締結や立ち入り調査権の確立、地域防災対策の充実を図った。
これが原発を抱える「地元」なのである。
政府は再稼働の政治判断に当たって「地元同意」を重視する意向だが、「地元」の線引きをめぐって閣僚発言が混乱している。枝野経産相が、隣接する京都、滋賀両府県の「理解」も再稼働の前提となるとの見解を示せば、藤村修官房長官が慌てて修正。「『理解』と『同意』は使い分けている」と弁明するありさまだ。
当事者の関西電力、八木誠社長は先月23日の定例会見で「これまでの歴史の中で安全協定を結んできた精神を踏まえ、福井県と立地町のご了解、ご理解を得たい」と明言。周辺自治体への「説明」とは一線を画した。
再稼働問題はいまや同意取り付けの方法論に終始し、大手メディアがあおる形でエスカレート。関電の筆頭株主である大阪市の橋下徹市長の政治的な発言も殊更取り上げ、混乱に輪を掛けている。市長の「国が全責任を持つのか、地元の同意を重視するのか二つに一つ」という解釈は現場感覚を疑う。その両方が必要なのは言うまでもない。
報道には「政治判断だけで再稼働が可能」という無責任な記述もある。国民や地元の「理解」さえも困難な中、国民世論や支持率低下を懸念し結論を先延ばしする政治には頼れない。しっかり「地元」に向き合えるのだろうか。「安全基準」の前に「まともな政治とは」の基準を示してもらいたい。