社説
原発暫定基準 再稼働を急ぐ「方便」だ(4月5日)
野田佳彦首相は、関西電力大飯原発3、4号機(福井県)の暫定的な安全基準を策定し、8日にも福井県知事に説明する方針を固めた。
もともと再稼働の是非は、内閣府の原子力安全委員会が妥当とした関電の安全評価(ストレステスト)の1次評価の結果を基に、関係閣僚が判断する予定だった。
突然、判断材料に暫定基準という言葉が出てきたのは、福井県などが東京電力福島第1原発事故を踏まえた基準を求めていたためだ。
野田首相は「国民目線で安全性が確保できているのか、(暫定基準に従って)しっかり判断する」としている。
基準は、経済産業省原子力安全・保安院が3月にまとめた非常用電源の分散化など、原発事故対策30項目を土台に週内に示すという。まさに付け焼き刃だ。
暫定基準策定は再稼働を進めるための地元説得策でしかない。廃止が決まり、国民の信頼を失った組織のつくった対策で再稼働の道筋を付けさせるのも問題だ。
福島第1原発は、事故原因の究明も中途半端なままだ。溶け落ちた燃料の状態がわからないなど、収束の見通しも立たない。
こんな状態では、事故の教訓をくみ取った信頼感のある安全基準をつくることはできず、地元の理解も得られまい。まず、原因の究明に全力を挙げるべきだ。
1次評価は、原発が想定を超えた津波や地震にどこまで耐えられるか、コンピューターで解析した。
その後、東洋大の研究者などが海底活断層や活断層の連動による大地震の可能性を指摘したことから、保安院は、これらの要素を考慮した揺れの強さの再検討を関電などに指示した。
結果によっては地震や津波の想定が変わり、1次評価をやり直す必要がでてくる。この点からも今、暫定基準を策定する意味はない。
今後、政府は安全と判断すれば地元に再稼働を要請するが、同意を得る自治体の範囲も論点だ。
安全委は昨年11月、原発の防災重点区域を10キロ圏から30キロ圏に拡大する方針を決めた。
福井県に隣接する滋賀県や京都府の一部は、大飯原発から30キロの範囲にあり、再稼働に慎重だ。福島原発事故の影響をみれば、両府県が危惧するのは当然だ。
民主党政権は「地元」を福井県内に限定したい考えだが、両府県にも同意を求めるのが筋ではないのか。
政府と関電は、大飯原発が再稼働しないことを前提に電力を確保する方策も考える必要がある。