2011-04-08
予備問題2
A.人体の各組織および器官の機能調節には(((神経)))的調節と(((内分泌)))的調節とがあり、前者は主に自律神経系を、後者は主にホルモンを介して行われる。ホルモンは血中に放出される情報伝達化学物質であり、ホルモンを血液中に分泌する腺器官を(((内分泌腺)))といい、これには(((下垂体)))をはじめ甲状腺、(((副腎)))、(((膵臓)))、(((性腺)))などが含まれる。下垂体から分泌されたホルモンは甲状腺、副腎、性腺などの中間的標的臓器に作用して次のホルモンの分泌を促すか、直接、最終標的臓器に作用するが、このような下垂体ホルモンの分泌は、(((視床下部)))の調節を受ける。中枢神経系からの刺激が(((視床下部)))に到達すると(((視床下部ホルモン)))が産出され、下垂体ホルモンの分泌制御が行われる。また下垂体ホルモンの調節には、標的器官のホルモンからの(((フィードバック)))機構も働いている。
B.下垂体前葉から分泌されるホルモンを4つ、
(((成長ホルモン)))
(((甲状腺刺激ホルモン)))
(((副腎皮質刺激ホルモン)))
(((生殖腺刺激ホルモン)))
(((プロラクチン)))
後葉から分泌されるホルモンを1つ記せ。
(((オキシトシン:子宮収縮ホルモン)))
(((バソプレシン:抗利尿ホルモン、血圧上昇ホルモン)))
C.下記のうち、ステロイドホルモンをすべて選べ。
アルドステロン、アンジオテンシン
アンドロゲン、エストロゲン
エピネフリン、カルシトニン
甲状腺ホルモン、抗利尿ホルモン
コルチゾール、セクレチン
テストステロン、ノルエピネフリン
バソプレシン、副甲状腺ホルモン
レニン、プロゲステロン、
(((コルチゾール=糖質コルチコイド)))
(((アルドステロン=鉱質コルチコイド)))
(((テストステロン=雄性ホルモン)))
(((アンドロゲン→雄性ホルモン総称)))
(((エストロゲン→ろ胞・発情ホルモン総称)))
(((プロゲステロン=黄体ホルモン)))
予備問題1
(1)血清カルシウムのイオン濃度の調整に重要なのはどれか。2つ選べ。
A.甲状腺ホルモン
B.副甲状腺ホルモン
C.副腎皮質ステロイドホルモン
D.ビタミンD
E.抗利尿ホルモン
(((B,D)))
補充解説:ヒトをはじめとする陸上動物においては、常に血液中のカルシウム濃度は低下の危機にさらされている。このため血清カルシウムを上昇させる副甲状腺ホルモン(PTH)や活性型ビタミンDである1,25水酸化ビタミンDなどの働きによりその濃度が維持されている。
(2)下垂体前葉から放出されないホルモンはどれか。
A.成長ホルモン
B.甲状腺刺激ホルモン
C.副腎皮質刺激ホルモン
D.プロラクチン
E.グルカゴン
(((グルカゴン)))
(3)腎で産生されるのはどれか。
A.アルドステロン
B.バソプレシン
C.テストステロン
D.活性型ビタミンD3
E.エリスロポエチン
(((活性型ビタミンD3、エリスロポエチン)))
(((エリスロポエチン:赤血球の産生を促進するホルモン。肝臓でも生成されるが、主に腎臓で生成される。9割が腎臓で産生されているとも言われる。このため慢性腎不全になると、エリスロポエチンが必要なだけ得られなくなるため、貧血が起こる。)))
(4)欠乏により出血傾向を生じるのはどれか。
A.ビタミンA
B.ビタミンD
C.ビタミンE
D.ビタミンK
E.パンテトン酸
(((D)))
ビタミンA欠乏症
(((夜盲症、皮膚・粘膜などの乾燥化:眼球乾燥症、ビトー斑、視力低下、失明、毛包周囲の角化、角膜軟化症)))
ビタミンD欠乏症
(((くる病、骨軟化症)))
ビタミンE欠乏症
(((溶血性貧血、未熟児で浮腫、脱毛)))
ビタミンK欠乏症
(((出血傾向、新生児メレナ)))
パントテン酸欠乏症
(((四肢のしびれ感、足の灼熱感)))
パントテン酸は、ビタミンB群に含まれる物質で、D(+)-N-(2,4-ジヒドロキシ-3,3-ジメチルブチリル)-β-アラニンのこと。かつて、ビタミンB5とも呼ばれていた。CoA(補酵素A)の構成成分として、糖代謝や脂肪酸代謝において重要な反応に関わる物質。語源は'どこにでもある酸'と言う意味。水溶性のビタミンで、食品中に広く存在し、通常の食生活を送る上で不足になることはあまりない。
(5)下垂体前葉ホルモンはどれか。
A.副腎皮質刺激ホルモン<ACTH>
B.甲状腺刺激ホルモン<TSH>
C.成長ホルモン放出ホルモン<GRH>
D.抗利尿ホルモン<ADH>
E.オキシトシン
(((副腎刺激ホルモンと甲状腺刺激ホルモン)))
(6)血糖降下性に作用するのはどれか。
A. 成長ホルモン
B.甲状腺ホルモン
C.インスリン
D.グルカゴン
E.エピネフリン<アドレナリン>
(((インスリン)))
(7)受容体が細胞膜にあるのはどれか。
A.甲状腺ホルモン
B.副甲状腺ホルモン
C.コルチゾール
D.アルドステロン
E.活性型ビタミンD
(((副甲状腺ホルモン→副甲状腺ホルモンはタンパク質系ホルモン。甲状腺ホルモン、コルチゾール(糖質コルチコイド)、アルドステロン(鉱質コルチコイド)はステロイド系なので膜を通過する。ちなみにビタミンA,Dは疎水性低分子なので膜を通過する)))
(8)cAMPを産生するのはどれか。
A.イノシトール三リン酸
B.ジアシルグリセロール
C.ホスホリパーゼC
D.アデニル酸シクラーゼ
E.プロテインキナーゼC
(((アデニル酸シクラーゼ)))
(9)消化管では消化酵素により摂取した食物が分解される。トリプシンはタンパク質を、(((リパーゼ)))は脂肪を分解する。
(10)ヒトで血液中のブドウ糖を下げるホルモンはインスリンのみで、膵臓の(((B)))細胞から分泌される。逆にブドウ糖濃度を上げるホルモンには、膵臓の(((A)))細胞から分泌される(((グルカゴン)))や、下垂体から分泌される(((成長ホルモン)))など多くがある。
※下垂体からは血糖値を上げるために、他にも(((甲状腺刺激)))ホルモン→(((甲状腺)))→チロキシン、(((副腎皮質刺激)))ホルモン→(((副腎皮質)))→コルチゾール(糖質コルチコイド)の経路をたどる刺激ホルモンだが、直接作用するのは成長ホルモンである。
(11)血糖値100mg/dlをモル濃度で表すと、どの程度か。
((()))
分量単位としては、日本の日常生活では1000分の1リットルであるミリリットル (mL) がよく使われ、これは、立方センチメートル (cm3) に等しい。この2者は混用されることもあるが、製品の種別や場合によっては片方のみがもっぱら使われる。液状の医薬品や化粧品ではミリリットルが用いられ、調理のレシピや内燃機関の容積を細かく記述する際は立方センチメートルが用いられる(大まかに記述する際はリットルを用いる)。なお、立方センチメートル (cm3) のことをcc(立方センチメートル=cubic centimetreの略)ともいうが、SIでは使用を認めていない。
日本では、10分の1リットルであるデシリットル (dL) を小学校で学ぶが、日常での使用頻度は少ない。この単位は現在(2005年9月)のところ、豆や穀類を小売りする際に用いられている。
(12)至適pHが2前後である酵素はどれか。
A.キモトリプシン(((pH8~9、膵液)))
B.マルターゼ(((pH7、唾液)))
C.ペプシン(((pH2、胃)))
D.リパーゼ(((pH5~9)))
E.リボヌクレアーゼ(((?)))
(13)白血球のうちで最も食作用の活発なものはどれか。
A.好中球
B.好酸球
C.好塩基球
D.リンパ球
E.血小板
(((好中球)))
(14)血液を採取した後、凝固反応を阻止するためにクエン酸ナトリウムを加えるが、この薬品はどの金属イオンの働きを阻害するか。
A.Feイオン
B.Caイオン
C.Mgイオン
D.Znイオン
E.Kイオン
(((Caイオン)))
2011-04-04
補充問題
レトロウイルスは、一般に図1のような粒子構造を有する。
レトロウイルスが細胞に感染する際、ウイルスエンベロープタンパク質が細胞表面のウイルス受容体と結合することにより、ウイルスが細胞内へ侵入することができる。感染成立後は、ウイルスゲノムが複製され、またウイルスゲノム由来のタンパク質が生成され、これらが会合して新たなウイルス粒子が産生される。つまり感染が成立した細胞では、ウイルスエンベロープタンパク質も生成されるわけであるが、この生成されたエンベロープタンパク質は、細胞のウイルス受容体と結合し、受容体上のエンベロープタンパク質結合部位をふさいでしまう。そのため、この感染細胞では、同じウイルスの新たな感染は生じない。
ここでエンベロープタンパク質の受容体結合部位のみがことなる5種類のレトロウイルス(Va,Vb,Vc,Vd,Ve)があるとする。これらのレトロウイルスはすべて細胞Pに感染することができる。このうち、レトロウイルスVaの受容体はJで、レトロウイルスVaは受容体Jが発現していない細胞には感染できない。同様にレトロウイルスVbの受容体はKでレトロウイルスVcの受容体はLでレトロウイルスVcは受容体Lが発現していない細胞には感染できない。
これらを用いて細胞Pへの重複感染実験を行った結果を表1に示す。
例えば、細胞Vbの感染を試みたところ、Vb感染は成立した(表1の*1)。さらに細菌Qを用いて、まず、それぞれのウイルスが感染しうるかどうかを調べ(表2)、重複感染実験をおこなった。なお表の一部は空欄にしてある。
問1
AレトロウイルスVdは、J,K,Lのうちどれを受容体として利用しているか。
(((受容体JとK)))
BレトロウイルスVeは、J,K,Lのうちどれを受容体として利用しているか。
(((受容体J)))
C受容体J,K,Lのうち、細胞Qに発現していないと考えられるものはどれか。
(((受容体K)))
D表3の*2の空欄に+か-かを入れよ。
(((-)))
E表3の*3の空欄に+か-を入れよ。
(((-)))
問2まずレトロウイルスVaを感染させ、感染成立後、レトロウイルスVdの感染を試みたところ、細胞P(表1の*4)と細胞Q(表3の*5)とで異なった結果が得られた。考えられる理由について150字以内で述べよ。
(((細胞Pには、J,K,Lが存在するから、1回目にVaを感染させてJが占領されても、VdはKを利用して重複感染できる。細胞QにはJ,Lが存在するがKは存在しないから、1回目にVaを感染させてJが占領されるとVdは感染できない。)))
問3まずレトロウイルスVaを感染させ、感染成立後、レトロウイルスVeの感染を試みた結果も、細胞P(表1の*6)と細胞Q(表3の*7)とで異なっていた。考えられる理由について150字以内で述べよ。
難問(((Veは、J,K,L以外にも利用できる受容体を持つ。それをMとするとMは細胞Pには発現していないが、Qには発現していると考えられる。)))
復習問題
細胞膜は主に(((リン脂質/グリセロリン脂質)))とタンパク質からなり、細胞内外を分ける仕切りを作っている。ほとんどの物質の細胞への出入りは、細胞膜にあるタンパク質の働きで調整されている。水の出入りも水チャンネルと呼ばれるタンパク質によって調整されている。
水チャンネルの働きは、次のような実験から分かった。まず3つのアフリカツメガエルの卵母細胞P,Q,Rを用意した。卵母細胞Pには水チャンネルの遺伝子から転写されたmRNAの水溶液を注入した。a卵母細胞QにはmRNAを含まない水だけを注入し、卵母細胞Rには注入操作をおこなわなかった。これらの卵母細胞を三日間等張液の中に置いた後、水で液を3倍に希釈して卵母細胞の容積を比較したところb図に示した結果が得られ、卵母細胞Pで新たに作られた水チャンネルが、細胞膜の透過性を高める働きがあることがわかった。
その後の研究によって水チャンネルが卵母細胞の細胞膜に運ばれるまでに粗面小胞体から(((ゴルジ装置)))を経由すること、運ばれる途中で4量体を形成していることがわかった。
問2下線部aで卵母細胞Q,Rを用いた実験を行っているが、このような実験を一般になんと呼ぶか。またそのような実験を行う意義をこの例に則して簡単に説明せよ。
(((対照実験)))
意義(((この例の場合、卵母細胞Pで起きた結果は、水の注入や注入操作そのものによって起きたものではないことを確認・証明しておく意義がある。)))
※生物学の実験には必ず対照実験(コントロール)を置く。mRNA水溶液を注入した細胞Pで水透過性の亢進が起きたわけであるが、これだけでは実は断定はできない。「水を入れたことが原因かもしれない」、「細胞に何か注入するという刺激だけでも同じことが起きるかもしれない」というツッコミが入る余地があるからである。
問3下線部bで図のX点で卵母細胞Pに起こったことを、類似の例を挙げて簡単に説明せよ。
(((溶血と同時に細胞が破裂した)))
腎性尿崩症と呼ばれる病気の一部は、水チャンネル遺伝子の突然変異によって尿細管の水チャンネルのアミノ酸置換が起こっており、c腎臓がバソプレシンに反応できなくなってしまう。この突然変異による病気の遺伝形式は、アミノ酸の置換のされ方によって、優性の場合と劣性の場合とがある。このうち、劣性変異をヘテロに持つ細胞を調べたところ、細胞膜とゴルジ装置には正常型の水チャンネルが存在し、細胞膜の水チャンネルは正常に働いていた。また、d変異型の水チャンネルは転写・翻訳はされているものの、ゴルジ装置にも細胞膜にも存在しなかった。一方、優性変異をヘテロに持つ細胞を調べたところ、e細胞膜の水チャンネルの働きは著しく低下していた。また、この細胞のゴルジ装置には、正常型と変異型の両方の水チャンネルが存在していた。
問4下線部cの理由をバソプレシンの生理作用に基づいて簡単に説明せよ。
(((バソプレシンは腎尿細管(集合管)の水透過性を亢進させることで抗利尿作用を発揮するが、尿細管における水の透過は水チャンネルがおこなっているから、水チャンネルに変異がある場合は、バソプレシンの効果は現れない。)))
補充解説:血液の浸透圧が(((上昇)))すると脳下垂体後葉がバソプレシン(抗利尿ホルモン)を分泌し、腎細管や集合管での水の(((再吸収)))を(((促進)))する。この結果、尿量は(((減少)))し、血液中の水分が(((増加)))するため、浸透圧は(((低下)))する。
問5下線部dで劣性変異型の水チャンネルは翻訳後にどのような運命をたどると推定されるか。2つの異常の可能性を挙げ簡潔に説明せよ。
①(((ゴルジ装置以外の部位に輸送される)))
②(((小胞体に貯留する)))
③(((細胞質に貯留する)))
④(((細胞質で分解される→実際にはこれかと)))
問6eの理由を説明せよ。ただし、野生型の水チャンネル遺伝子がホモを持つ細胞と比較して、この細胞の細胞膜に機能を持つ水チャンネルがどれほど存在するかに着目して論ずること。
(((この変異細胞では、正常の水チャンネルと変異型水チャンネルが1:1の割合で産生されているので、正常の水チャンネルが正しく4量体を作れる可能性は、(1/2)^4=1/16にすぎない。ゆえに細胞膜に輸送される水チャンネルはせいぜい1/16に激減している。)))
問7バソプレシンは尿細管で水の再吸収に関わるホルモンであるが、尿細管でイオンの再吸収や分泌に関わる最も主要なホルモンはなにか。名称と産生臓器を記せ。またそのホルモンの作用機構について知るところを記せ。
(((アルドステロン(鉱質コルチコイド):副腎皮質で産生)))
(((このホルモンはステロイドホルモンであり、その受容体は細胞質に存在する。細胞膜を通過したアルドステロンは受容体と結合し、受容体は核内に移行してアルドステロンの標的遺伝子の転写を活性化する。)))
2011-03-30
演習問題4
細胞小器官と病態
ある遺伝病Xでは、細胞にスフィンゴ糖脂質やプロテオグリカン(タンパク質に多数の糖鎖が結合した化合物)が蓄積し、分解されるべき物質が蓄積するために細胞が傷害されることが判明している。
Xの病因を調べたところ、ある単一酵素の遺伝子の異常症であることが判明した。
補充問題
(((分解される)))べき物質が、分解されないと細胞は死ぬ。
不要な細胞を分解する細胞内小器官は?
(((リソソーム)))
問1Xの発症に関与している細胞内小器官は何か?
(((リソソームlysosome)))
問2問1の細胞内小器官は内部が強い酸性に保たれてることが分かっている。これを可能にする仕組みはどのようなものか。
(((プロトンをリソソーム内に能動輸送している。)))
問3問2の機構の類例は細胞膜内外のイオン濃度勾配の維持にも働いている。細胞外の陽イオンとして最も多いのはなにか。化学式で示せ。イオンの価数も正しく示すこと。
(((Na+)))
問4問2の機構に障害があったら、やはりX類似の病態を発症すると考えられる。それはなぜか。
(((リソソーム内部がリソソーム分解酵素の至適pHではなくなるため。)))
補充解説
スフィンゴ糖脂質とプロテオグリカンでは分解酵素は全く違うはず、ではなにがこれらを分解しているのか?→リソソームが分解(リソソーム分解酵素)している。リソソーム内は、pH4~5の酸性に保たれているが、これはリソソームの膜にプロトンポンプが発現して能動輸送でH+を中へ送り込んでいるためである。
問4はプロトンポンプ原因によるリソソーム異常の話である。プロトンポンプはATPase活性を持っているので酵素と言えるが、このポンプに異常があるとプロトンがリソソーム内に送られなくなり、リソソーム内の至適pHである4~5を保てなくなり、リソソームは働かなくなる。
問5Xの異常は、問2の機構の障害ではなかった。それではどのような発祥機構が考えられるか?推定して述べよ。
(((リソソーム酵素をリソソームに局在させるための修飾反応は、どのリソソーム酵素に対しても共通の酵素が触媒していると考えられる。Xはこの酵素の異常症であると考えれば、Xが単一酵素の異常症であることを説明できる。)))
補充解説
問5は、リソソームのプロトンポンプ異常ではなく、別の異常についての考察である。リソソームには数多くの分解酵素が集まってくる。その集まってくる共通の機構があるはずで、それはマンノースの6リン酸化であり、これが破綻しているとリソソームは働かない。
マンノース6リン酸化酵素の欠損によるリソソーム異常
リソソーム酵素をリソソームに局在させる(小胞のまま留まらせること)ためには、特定のアミノ酸がリン酸化を受けなければならない。このリン酸化酵素が欠損するとリソソーム酵素は、ゴルジ体からリソソームに送られず(小胞体として残れず)膜タンパク質と同じ扱いで細胞外へ分泌されてしまう。そうするとリソソーム酵素が細胞内にないので、分解すべき物質が分解できず発症する。→Icell症
核移行シグナル
①真核細胞は核と細胞質からなっている。②核の中で機能するタンパク質は(((リボソーム)))において合成され、合成の場である細胞質から核膜孔を通過して核の中に移動する。分子量40~50kd程度までのタンパク質は、(((拡散)))によって細胞質と核との間を移動することができるが60kd程度を越えるタンパク質の場合は、(((能動輸送)))によって核内に輸送される。では核内に局在する必要のあるタンパク質は、どのような機構で核に移行することが決定されるのだろうか。
補充問題
kdとは、何の単位か?
(((分子量の単位で「キロ・ダルトン」と読む。40kdは40×1000=4万ダルトン)))
SV40というウイルスゲノムには、T抗原という94kdのタンパク質がコードされている。ウイルスが細胞に感染するとゲノム情報に基づいて合成されたT抗原は核に移行する。T抗原が核に存在することがSV40の増殖に必須の役割を果たしている。
T抗原の128番目のリシンがアスパラギンやトレオニンに置換された変異ウイルスでは、T抗原は核に存在しないで細胞膜に残ることが判明した。T抗原が核に移行する条件を調べるために実験を行い以下の結果を得た。
(1)T抗原のN末端側から126番目までのアミノ酸を除いたタンパク質は核に移行した。
(2)T抗原の136番目移行C末端までのアミノ酸を除いたタンパク質は核に移行した。
(3)T抗原の127番目から132番目のアミノ酸を除いたタンパク質は核に移行せず細胞質に残った。
以上の条件から、T抗原に存在するあるアミノ酸配列が核への移行に必要であることが判明した。これを核移行シグナルという。そして③核移行シグナルを持つタンパク質は核に移行することも確認された。
問5下線部①に関してヒトにおいて核を有さずに機能している細胞を2つあげよ。
(((赤血球と血小板)))
赤血球は、(((赤芽球)))から成熟する過程で(((脱核)))して核を失い赤血球となる。
血小板は、(((巨核球)))の細胞質が(((ちぎれて)))できた細胞である。
問6下線部②の例を3つ挙げよ。
(((DNAポリメラーゼ)))
(((RNAポリメラーゼ)))
(((転写因子)))、(((ヒストン)))、(((ラミン)))
問7下線部③を証明するためには、どのような実験を行えばよいか。
(((細胞質に局在することが判明しているタンパク質の末端に核移行シグナルを付与する。そしてこの合成タンパク質が核に移行することを確認する。)))
問8粗面小胞体に輸送されるタンパク質ではシグナルペプチドは輸送後に切断される。しかし核に局在するタンパク質では核移行シグナルは輸送後も切断されない。核移行シグナルが切断されないことには、どのような意義があるか。
(((細胞分裂の際に核は崩壊する。核タンパク質が核移行シグナルを失っていると、分裂後に核に局在することができない。核移行シグナルは切断されないので、核タンパク質は細胞分裂後に核に再び移行することができる。)))
核は、細胞分裂時になくなってしまう。核移行シグナルがないと次の核合成時に核に戻れなくなるために核移行シグナルは切断されずにある。
2011-03-28
細胞内タンパク質輸送チャート
翻訳中、(((シグナルペプチド)))がある
↓
翻訳を(((一時停止)))(by SRP)
↓
RERにリボソーム-mRNA複合体を運ぶ。
↓
RER膜に貫通して存在する(((トランスコロン)))にリボソーム-ポリペプチド複合体を結合させる。((((SRP)))は離れる)
↓
RERで翻訳が再開・続行(シグナルペプチドは分解される)
↓
RERでポリペプチドが合成、小胞体(((シャペロン)))の助けを借りて正しい立体構造をとる。
↓
小胞体内腔で(((糖鎖)))が付与される。
↓
ゴルジ装置に小胞輸送され、さらに糖鎖の付与と切断を受け、完成形となる。
(翻訳後修飾)
↓
マンノースがゴルジ装置にて(((リン酸)))化を受けたら
↓
(((加水分解)))酵素を持つリソソームとして細胞質に小胞体のまま残る。
↓
その他で(((膜貫通ドメイン)))を持っているものは膜タンパク質として膜に留まり、ないものは(((エキソサイトーシス)))で細胞外へ。
演習問題3補充
RERとゴルジ体に連れて行かれる翻訳中のタンパク質たちについて。
各細胞小器官にあるタンパク質は、(((アミノ酸)))配列の情報に基づいて運ばれる。分泌タンパク質、膜タンパク質、リソソーム酵素は(((N)))末端側に(((疎水)))性アミノ酸が多く、これを(((シグナルペプチド)))と呼ぶ。分泌タンパク質は最初は細胞質の(((遊離)))リボソームで翻訳されているがmRNAからポリペプチドへの翻訳がある程度進むとシグナルペプチドを認識する粒子(signal recognition particle:SRP)が結合し、翻訳を(((一時停止)))させ、(((RER)))にリボソーム-mRNA複合体を運ぶ。
SRPは、タンパク質とRNAの複合体である。SRPはRER上に存在するSRP受容体にSRP-リボソーム-ポリペプチド複合体を運び、RER膜を貫通して存在するトランスコロンにリボソーム-ポリペプチド複合体を結合させる。結合するとSRPは離れ、RERで翻訳が再開続行される。
RERにおけるペプチド合成と修飾
シグナルペプチドはRER膜に存在する(((シグナルペプチターゼ)))の働きで分解される。合成されたポリペプチド鎖は、小胞体(((シャペロン)))の助けを借りて正しい立体構造をとる。また小胞体(((内腔)))では糖鎖が付与される。糖鎖にはアスパラギン残基に結合するタイプ(N結合型糖鎖)、セリンやスレオニンの水酸基に結合するタイプ(O型結合型糖鎖)がある。RER内で翻訳が終了し、糖鎖を付与されたタンパク質は(((ゴルジ装置)))に送られてさらに(((糖鎖)))の付与や切断など一連の化学反応を受け(プロセッシング)完成系になる。(翻訳後修飾)
より正確にはN結合型糖鎖はRER内で、O結合型糖鎖はゴルジ装置内でそれぞれ付加される。RERからゴルジ装置への輸送は(((小胞輸送)))(vesicular transport)の形式でおこなわれる。この場合、小胞体の膜の一部が目的タンパク質を含んで(カーゴcargo)、くびれ出し(出芽bubbing)、ちぎれて輸送小胞となり輸送される。輸送小胞は(((ゴルジ装置)))と結合し、膜が融合することで目的タンパク質をゴルジ装置内に送り届ける。輸送小胞上にはv-SNAREという膜タンパク質があり、ゴルジ装置側にはt-SNAREという膜タンパク質がある。2つのSNAREが正しく結合したときのみ膜融合が起こるようになっている。
ゴルジ装置内で完成した分泌タンパク質は、分泌顆粒または分泌小胞となって細胞膜に送られ、今度は細胞膜表面と膜融合することで細胞外に送り出される。この過程を(((エキソサイトーシス(exocytosis))))や(((開口分泌)))という。
なおゴルジ装置においてポリペプチドの糖鎖(((マンノース)))が(((リン酸)))化を受けると、そのポリペプチドは、(((加水分解)))酵素である(((リソソーム)))として細胞質に(((小胞)))体のまま留まる。一方、膜へ行く酵素で、(((疎水)))性アミノ酸を有する領域(((膜貫通ドメイン)))を持つものは、膜タンパクとして(((留まり)))、そうでないものは(((エクソサイトーシス)))で細胞外に分泌される。
演習問題3
細胞内での物質輸送
細胞のタンパク質分泌に関する次の文を読み答えよ。
B細胞が最終的に分化すると、盛んに免疫グロブリン(以下Igとする)を分泌する(((形質orプラズマ)))細胞となる。多発性骨髄腫はこの(((形質)))細胞が腫瘍化した疾患である。したがって多発性骨髄腫の細胞はタンパク質の分泌機構を研究する上でよい材料となる。そこで次のような実験が行われた。
[実験]
(1)多発性骨髄腫細胞からIg軽鎖のmRNAを分離精製し遊離リボソームを用いてin vitroで翻訳した。
(2)多発性骨髄腫細胞から分泌されたIg軽鎖を分離精製した。
(1),(2)で得られたIg軽鎖をゲル電気泳動すると、下図に示すようにバンドの位置が若干ずれ(1)で得られたIg軽鎖の分子量の方が若干大きいことが判明した。(図の下方が泳動の方向を示す)。それぞれのアミノ酸配列を比較すると(1)で得られたIg軽鎖には(2)で得られたIg軽鎖にはないアミノ酸がN末端に約20個余計に存在していた。
(3)実験(1)で分離精製したIg軽鎖のmRNAを粗面小胞体を用いてin vitroで翻訳した。
(4)実験(3)の開始後、しばらくしてからタンパク質分解酵素を反応系に加えたが、結果は(3)と異ならなかった。
in vitroの意味は?(((試験管内での実験を指す)))
なぜ多発性骨髄腫細胞はタンパク質の分泌機構を研究する上で良い材料になるのか。
(((この形質細胞は、粗面小胞体とゴルジ体を通ってきて発現するとともに1種類の(ガン化した)免疫グロブリンだけを分泌するので)))
問2実験(3)の電気泳動の結果はどうなるか。バンドの位置を図で示せ。
((((2)と同じ位置)))
理由(((実験3ではmRNAをRERで翻訳しているので、シグナルペプチドは切られるので)))
問3実験(4)で実験(3)と同じ結果が得られたのは、なぜか?
(((Ig軽鎖は、RERで合成されているので反応系にタンパク質分解酵素を加えても分解されない。)))
(1)の実験はIg軽鎖のmRNA+遊離リボゾームなのでシグナルペプチドは残っている。
(2)の実験はすでにRERを通ってきたIg軽鎖なので、シグナルペプチドは切られている。
(3)の実験はIg軽鎖のmRNA+RERで翻訳されているので、シグナルペプチドは切られている。
演習問題2-2
ある種の腫瘍細胞は細胞内にcAMPが蓄積すると死ぬという特異な性質を持っており、ノルアドレナリン(ノルエピネフリン)を含有した培地では死ぬ。この腫瘍細胞を形態培養しているとノルアドレナリン含有培地でも増殖できる変異株が得られることがある。この変異株には、どのようなタンパク質の変異があると考えられるか。考えられる可能性を挙げよ。
(((理論的にノルアドレナリン受容体、Gタンパク質、アデニル酸シクラーゼの変異が考えられる。)))
(((cAMPが蓄積すると死ぬ→cAMPが生成しなくなると生き残るということ→cAMP生成時点より前の過程での不具合が原因)))
グルカゴン・アドレナリン・ノルアドレナリン+受容体
↓
αサブユニット+GDP
↓
αサブユニット+GTP
↓
アデニル酸シクラーゼが活性化
↓
ATPがcAMPに
↓
cAMPがプロテインキナーゼAを活性化
↓
PKAがグリコーゲン・ホスホリラーゼ・キナーゼをリン酸化・活性化
↓
グリコーゲン・ホスホリラーゼが活性化
↓
グリコーゲンに作用して分解促進してグルコースへ
↓
血糖値の増大
シグナル伝達
Gタンパク連結-アデニル酸シクラーゼ-活性化型
受容体にホルモンが結合すると受容体の(((立体構造)))が変化して、同じ膜上の近くにある3つのサブユニットα,β,γからなる3量体型(((GTP結合タンパク質)))に作用し、αサブユニットに結合していた(((GDP)))が外れる。GDPが外れたαサブユニットには、かわりに(((GTP)))が結合し、αサブユニットが(((活性化)))される。αサブユニットは、β,γサブユニットと離れて膜上を移動し、(((アデニル酸シクラーゼ)))と結合、(((アデニル酸シクラーゼ)))を活性化する。活性化されたアデニル酸シクラーゼは、細胞内に沢山ある(((ATP)))を(((cAMP)))という別のヌクレオチドに変換する。cAMPは(((プロテインキナーゼA)))に結合して、プロテインキナーゼA-cAMP複合体[PKA]を形成し活性化する。このプロテインキナーゼA-cAMP複合体は、活性のない(((グリコーゲン・ホスホリラーゼ・キナーゼ)))酵素をリン酸化・活性化する。リン酸化・活性化したグリコーゲン・ホスホリラーゼ・キナーゼ酵素は、活性のない(((グリコーゲン・ホスホリラーゼ)))をリン酸化・活性化する。リン酸化・活性化したグリコーゲン・ホスホリラーゼは、(((グリコーゲン)))に作用し分解してグルコースにする。
結局のところ、グルカゴン、アドレナリン、ノルアドレナリンなどのホルモンは、血糖値を上げるために膜上のレセプターに結合してGタンパク連結のシグナル伝達をおこなって、最終的にグリコーゲンに作用してグルコースに戻して血糖値を上げている。これらグルカゴン、アドレナリン、ノルアドレナリンなどのホルモンは最初に細胞に情報を与えるので(((ファーストメッセンジャー)))と呼ばれる。またcAMPのようにシグナル伝達でカギとなる低分子化合物を(((セカンドメッセンジャー)))と呼ぶ。
キナーゼとは?
(((ヒドロキシ基)))を(((リン酸化)))する酵素のことである。アミノ酸のうち、ヒドロキシ基のあるものは、3つありそれぞれ、(((Ser:セリン)))、(((Thr:スレオニン)))、(((Tyr:チロシン)))である。キナーゼが(((立体構造)))を大きく変えることでタンパク質を修飾している。
2011-03-25
演習問題2補充
生理活性物質と受容体
生理活性物質には膜を(((通れない)))ものと(((通れる)))ものがある。生理活性物質の標的細胞は、その生理活性物質に対応する(((受容体)))を持っている細胞のことを指す。膜を通れる生理活性物質の受容体は、膜上にある必要がない。例えば(((低)))分子(((疎水)))性の甲状腺ホルモンの受容体はDNAに結合しており、受容体が(((転写因子)))として標的遺伝子の転写を制御している。また膜を通れない生理活性物質は、膜状にある受容体に結合したのち、シグナルが細胞内にでて、いろいろなレスポンスが現れる。このことを(((シグナル伝達)))と呼ぶ。 たとえばインスリンは標的細胞の膜上にある(((インスリン受容体)))と結合した後、シグナル伝達で(((GLUT)))を発現させグルコースを取り入れ血糖を細胞に取り込ませる。
受容体の種類
シグナル伝達における膜レセプターは、大きく3種類がある。1つはアセチルコリン受容体などの(((イオンチャンネル)))。二つ目は、アドレナリン・グルカゴン受容体である(((Gタンパク連結)))。3つめはインスリン受容体の(((酵素連結=チロシンキナーゼ)))である。
演習問題2
シグナル伝達物質とその作用機構
〓細胞には種々の様式でタンパク質が存在し、その中には細胞膜に存在するものも多い。これに関して以下の実験を行った。
[実験1]
2つの生理活性物質(ホルモンまたはサイトカイン)A,Bがある。
(1)まずA,Bを放射性同位元素で標識した。
(2)Aを培養ヒト繊維芽細胞に加えて放射能を測定した。放射線を測定することでホルモンが細胞にどれほど結合したかを測定できる。
(3)また細胞培養液にトリプシンを加えた。トリプシン処理によって細胞膜の外側に存在するポリペプチド鎖が分解されるが、細胞膜の内側に存在するポリペプチド鎖は影響を受けない。トリプシン処理細胞にAを加えて放射能を測定した。
(4)Bについても(2),(3)と同様の実験を行った。
(2)~(4)の結果をまとめて表1に示す。
問1下線部の理由を1行で述べよ。
(((トリプシンは細胞膜を通過できないから)))
補充問
生理活性物質のステロイドは(((疎水)))性(((低)))分子であり、ペプチドは(((高)))分子なので、ステロイドは膜を(((通り)))、ペプチドは膜を(((通らない)))。疎水性低分子で膜を通るものは、(((ステロイド)))ホルモン、(((甲状腺)))ホルモン、(((ビタミンA)))、(((ビタミンD)))がある。低分子でも親水性である(((カテコールアミン)))、(((アセチルコリン)))は膜を通らない。ポリペプチドであるサイトカインや増殖因子は、ポリペプチド=(((高分子)))であるため膜は通れない。
問2生理活性物質A,Bは一方がペプチドで他方がステロイドであることが判明している。ペプチドはどちらか。理由を付けて答えよ。
(((ペプチドはB。トリプシン処理で細胞での結合が有意に減少しており、これは細胞膜受容体が分解されたためと考えられる。)))
※ステロイドは、疎水性低分子なので膜を通ることができる。だからAのようにトリプシン処理で細胞膜受容体がなくなっても、ステロイドは自由に膜を通過できるので放射能値は変わっていない。
[実験2]
赤血球を溶血させると細胞内容が流出する。この後、適当な条件を与えると残存した細胞膜が再び閉じる。このような操作で再構成された膜をゴーストという。ゴーストは正常な向きで閉じることもあるが、内側と外側とを反対にして閉じることもある。いま赤血球に存在する酵素P,Qの活性を種々の条件で測定して表2の結果を得た。
問3酵素Pは細胞でどこに存在するか。
(((細胞質に存在する)))
※酵素Pは正常・裏返しに閉じたゴーストの両方で酵素活性が失われているので、これはすでに溶血した時点でどこかへ飛んでいってしまった細胞室内にある酵素と考えられる。
問4酵素Qは細胞でどのように存在するか。存在部位と存在様式とを会わせて2行以内で説明せよ。
(((QはX構造を持つ糖鎖に結合して細胞膜の外側に局在する。)))
酵素Qは正常に閉じたゴーストでは残っており、裏返しゴーストでは0だから、細胞表面にあったレセプターであるということが分かる。また糖鎖X分解酵素で処理するとほとんどなくなっていることから、X構造を持つ糖鎖に結合している酵素であると考えられる。
演習問題1
1.細胞膜を回する物質輸送
細胞膜の種々の物質の濃度は、細胞を取りまく外液とは異なるように維持されている。一般に細胞内液は細胞外液に比べてKイオンの濃度は高くNaイオンの濃度は低い。このような細胞のイオン濃度の調整の仕組みを調べる目的で以下の実験を行った。
実験1
取り出したヒトの赤血球を細胞外液と同じようなイオン組成の溶液に浮遊させ、①4℃に数日間放置したところ、赤血球内のKイオンの濃度は低下し、Naイオンの濃度は増加し、細胞外液の値に近づいた。そこで②温度を37℃に上げたところ、数時間で赤血球内のKイオン濃度が増加し、Naイオンの濃度が減少した。しかし③37℃のまま数時間が経過すると、赤血球内のKイオン濃度の減少と、Naイオン濃度の増加が見られた。
(参考)図に温度を37℃に上げてからの赤血球内Kイオン濃度の変化を示す。
実験2
実験1に引き続き④赤血球の浮遊液にブドウ糖を加えたところ、赤血球内のKイオンの増加とNaイオン濃度の減少が起こり、それぞれの取り出したときの赤血球の値に近づいた。⑤ブドウ糖のかわりにATPを加えたのでは効果はなかった。
問1以下について理由を簡潔に述べよ。
①4℃に数日間放置したところ、赤血球内のKイオンの濃度は低下し、Naイオンの濃度は増加し、細胞外液の値に近づいた。
(((4℃は、Na,K-ATPaseの至適温度よりはるかに低温であり、この酵素の活性が低下したから)))
②温度を37℃に上げたところ、数時間で赤血球内のKイオン濃度が増加し、Naイオンの濃度が減少した。
(((37℃はNa,ATPaseの至適温度であり、この酵素の活性が復活したから)))
③37℃のまま数時間が経過すると、赤血球内のKイオン濃度の減少と、Naイオン濃度の増加が見られた。
(((ブドウ糖が供給されなかったのでATPが枯渇したから。)))
④赤血球の浮遊液にブドウ糖を加えたところ、赤血球内のKイオンの増加とNaイオン濃度の減少が起こり、それぞれの取り出したときの赤血球の値に近づいた。
(((ブドウ糖が赤血球に取り込まれ、ATP産生に利用されたから。)))
⑤ブドウ糖のかわりにATPを加えたのでは効果はなかった。
(((ATPは赤血球に取り込まれないから)))
〓培養肝細胞(以下「細胞」とする)を検体として、培養液中のグルコース濃度[Glc]をいろいろに変えて、細胞へのグルコース取り込み速度をVを測定した。結果を図に示す。この曲線は双曲線であり、Vは[Glc]の関数として
V=Vmax[Glc]÷(Km+[Glc])
と表される。ただし、VmaxとKmとは定数である。
この実験に関して答えよ。
問1細胞へのグルコースの取り込みは単純拡散ではおこらない。
Aその理由をグルコース分子の性質に基づいて30字以内で述べよ。
(((グルコースは親水性が高く細胞膜を通過できないから)))
Bまた単純拡散の場合、グラフはどのようになるはずか。理由を付けて30字以内で述べよ。
(((拡散速度はグルコース濃度差に比例するので直線となる。)))
問2図のグラフを変換して横軸を1/[Glc]、縦軸を1/Vとする。この変換で横軸切片、縦軸切片はそれぞれ何を表すか。
(((横軸切片は-1/Km、縦軸切片は、1/Vmax)))
問3グルコースの取り込み阻害剤を加えて同様の実験を行い、次の結果を得た。この阻害剤はどのような様式でグルコースの取り込みを阻害するか。根拠とともに60字以内で説明せよ。
(((Vmaxは変わらないので、この阻害剤はグルコースと競合してグルコーストランスポーターに結合すると考えられる)))
- 1/Kmが大きくなる→Kmが上昇→阻害剤とグルコースが活性中心を奪い合うので、グルコース取り込み速度は低下するが、Vmaxは一定でありこれはGlc濃度を目一杯大きくしてやると阻害剤の影響はなくなるということを意味する。
問4細胞数はそのままで、あらかじめ細胞にインスリンを作用させてから同様の実験を行った。その結果はどうなるか。図に書き込め。
答えへの考え方は?
→(((インスリンが膜に作用すると標的細胞である肝細胞、筋肉細胞、脂肪細胞に対してGlcの取り込みを促進させて血管内の血糖を下げようとする。これはインスリンが標的細胞の核内のGLUT遺伝子に作用し転写を起こさせることでGLUTを発現させ細胞膜に局在させて、血中のグルコースを取り込ませるというものである)))