コラム 上昇気流
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 日本文学研究者でコロンビア大学名誉教授のドナルド・キーンさんが、日本国籍を取得した。約2年前から日本永住の気持ちが高まり、昨年の東日本大震災で決断した。海外へ避難する外国人もいる中、「日本人とともに生き死ぬ」ことを決意したのだ

 「今までお客さんとしての礼儀もあったが、今後は日本社会への文句も言える」と語るキーンさん。震災から1年の日本に「率直に言ってがっかりした。日本人は力を合わせて助け合っていたが、現在はそれがない」と苦言を呈する

 震災がれきの受け入れ拒否の現状などを知るにつけ、同じような感想を持つ人も多いはず。変な奥ゆかしさからそれをはっきり言わない日本人に、キーンさんの率直さは貴重だ

 同じ国籍取得とはいえ、首をかしげたくなる話もある。タレントの猫ひろしさんが、マラソン選手としてオリンピックに出場するためにカンボジア国籍を取得した。作家の曽野綾子さんが、今週の「週刊現代」誌上で、猫さんに「違和感」を表明している

 曽野さんは言う。国籍取得とは「その国が良いときも悪いときも、ともにその運命を受け入れる覚悟を示すこと」であり、猫さんにその「覚悟」があるのかと

 猫さんが出場した別府大分毎日マラソンのテレビ中継では、何の疑問も挟まず猫さんを持ち上げていた。国籍問題をあまりに軽く考えている。曽野さんの一文は、そんな誤った風潮から日本人の目を覚ますものだ。