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警察と大手新聞が企む「2ちゃんねる潰し」のウラ側

巨大掲示板「2ちゃんねる」で覚せい剤売買に関連した書き込みを放置していたとして、警視庁が元管理人・西村博之氏(35)の自宅や関係先など約10カ所を強制捜査した騒動が波紋を広げている。

強制捜査後、警視庁は2ちゃんねるの不透明な管理実態の解明に乗り出した。警視庁などから約1000件もの削除要請があったにもかかわらず、2ちゃん側が応じなかったため、誰の意思で削除が行われなかったのかを探るのが目的といわれている。

警察からの発表を受けて、今年3月に新聞各紙やテレビなどのメディアは一斉に事件を報道。さらに読売新聞は、「2ちゃんねる管理会社、実体なし…日本で運営か」という大見出しの記事を掲載。記者が登記上の運営会社があるシンガポールに飛び、ペーパーカンパニーであることを単独スクープした。

また、産経新聞は「元管理人側に広告収入 2ちゃんねる覚醒剤書き込み放置 当時の運営関与か」の見出しで記事を掲載。西村氏が役員を務めているシステム開発会社「未来検索ブラジル」に、2ちゃんに掲載されたアダルトサイトや出会い系サイトなどからの広告収入が渡っていたとして、西村氏が今も2ちゃんの運営に深く携わっているのではないかと報じている。

2ちゃん=悪の巣窟といったイメージの報道だが、実際に強制捜査が行われたのは昨年11月頃であり、4ヶ月も後にメディアが一斉報道したことに疑問を持った関係者は多かった。報道姿勢についても、「2ちゃんねるの運営実態が不透明」であることが盛んに報じられているが、その事と「覚せい剤関連の書き込みを放置」した事とは別の話ではないかとも感じられる。

そもそも、ネット利用者なら誰でも分かるだろうが、掲示板管理人が全ての書き込みをチェックすることなど不可能だ。問題のある書き込みを放置したことで管理人が法的責任を問われるとすれば、それはネットの実情に法律が追いついていないと言わざるを得ない。この強制捜査自体が、権力側からの“言い掛かり”にすら思える。

週刊誌『週刊ポスト』(小学館)は、この強制捜査の理由について「昨年10月に就任した片桐裕・警察庁長官の肝いり。警視庁生活安全部に約20人からなる『2ちゃんねる特捜班』を結成した」と報じている。警察トップの意向によって捜査が始まり、大手新聞が警察に協力するかたちで派手にニュース化するといった図式が浮かぶ。

「増加するネット犯罪の象徴として、警察は2ちゃんねるを大衆に分かりやすいターゲットにしたのでしょう。ほとんど言い掛かりに近い捜査理由ですが、悪法も法ですからね。大手新聞が2ちゃんの実態をスクープしたのは、見せしめとして最も効果が出せそうな西村氏の逮捕を警視庁が狙っているという意向を受けてのもの。昨年11月頃に行われた捜査が3月になって新聞各紙で報じられたのも、西村氏がなかなか尻尾を出さないため、警視庁がメディア報道を追い風にしようとしたためです」(警察関係者)

捜査の焦点となるのは、書き込みを削除する「削除人」らスタッフを統括する最終責任者が存在するかどうかだが、このような証言もある。

「削除ガイドラインを基に各自が削除を判断するという方式で、特定の責任者を置かずに法的責任を免れるようにしている。『誰が責任者だ!?』という警察の姿勢自体が旧態的で、2ちゃんの運営実態と噛みあっていません。それでも、最終的には誰かを責任者に仕立てあげて逮捕するのでしょうが…」(事情通)

2ちゃんVS警察の行方も注目だが、国家権力が言い掛かりに近い理由で強制捜査に踏み切れてしまうという現実は、われわれ一般のネットユーザーにも決して無関係な問題ではない。犯罪を抑制する取り組みを進めていくことは大切だが、必要以上の権力の介入によってネットの自由を失わないためにも、現実に即した法整備が待たれるところだ。(佐藤勇馬)

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佐藤 勇馬

フリーライター。個人ニュースサイト運営中の2004年ごろに商業誌にライターとしてスカウトされて以来、WEBや雑誌などでネット、携帯電話、芸能、事件、サブカル、マンガ、宗教問題などに関する記事を執筆している。媒体によっては、PN「ローリングクレイドル」で執筆することも。今年1月に著書『ケータイ廃人』(データハウス)を上梓。 Twitterアカウントは @rollingcradle

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