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クローズアップ2012:大飯原発・再稼働 政権「慎重」印象付け

原発に関する協議に臨む野田佳彦首相(右から2人目)と(左から)枝野幸男経産相、細野豪志原発事故担当相。右端は藤村修官房長官=首相官邸で3日午後7時3分、藤井太郎撮影
原発に関する協議に臨む野田佳彦首相(右から2人目)と(左から)枝野幸男経産相、細野豪志原発事故担当相。右端は藤村修官房長官=首相官邸で3日午後7時3分、藤井太郎撮影

 野田佳彦首相は3日、定期検査で停止中の関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の再稼働に関し、政治的な手続きに入った。ただ、この日は安全評価(ストレステスト)の1次評価に関する意見交換にとどまった。周辺自治体や世論の反発が強いことから、政府には「再稼働ありき」で結論を拙速に出したとの印象を避け、慎重に手続きを行うことで地元の理解を進めたい狙いがあるとみられる。

 ◇地元反発、無視できず

 「地元の皆さん、国民の皆さんの一定の理解を得るには、一定の時間がかかる。あまりダラダラとやることがいいこととは思わないが、拙速もよくない」。枝野幸男経済産業相は会合後、慎重に手続きを進めつつもいずれは結論を出す考えを示した。

 枝野氏は当初、「安全と需給は別次元の問題」と繰り返し、電力需給が逼迫(ひっぱく)しても安全性が確かめられていない原発を再稼働させることはないとの姿勢を通してきた。ところが、2月下旬の民放番組で、枝野氏は安全性の確認と地元の理解を前提に「今の需給状況では再稼働させていただく」と述べ、再稼働の必要性を公言し始めた。産業政策に重い責任がある立場から、電力不足が企業活動に与える悪影響に配慮した発言も目立つようになった。

 経産省は5月の大型連休前にも、国内の原発がすべて停止する事態を想定した今夏の電力需給見通しを公表する予定。枝野氏の発言が変化した背景には、電力需給の厳しさが現実味を帯びてきたことがあるとみられる。

 首相も3月11日の記者会見で、原発が立地する自治体への再稼働の説明について「私も先頭に立たなければいけない」と前向きな姿勢を示した。これに先立つ3月5日、枝野氏は衆院予算委員会の分科会で「安全確認ができたならば、少なくとも当面は原子力を使わせてほしい」と理解を求めた。

 政府は再稼働に前向きな姿勢だったが、地元や周辺自治体は反発。枝野氏は4月2日の参院予算委員会で「地元をはじめとする国民の一定の理解が得られなければ再稼働はしない」と述べ、地元理解を求める姿勢を強調し、沈静化を図った。首相が会合で、福島第1原発事故の知見を反映した新たな「暫定安全基準」を次回会合に提示するよう枝野氏に指示したのも、大飯原発が立地する福井県の要望に応え手続きをスムーズに進める狙いがあるからだ。

 ただ、京都府の山田啓二知事と滋賀県の嘉田由紀子知事は慎重姿勢を崩していない。関電の大株主である大阪市は株主総会で「全原発廃止」を提案する方針で、橋下徹大阪市長は「総選挙で決着をつけたらいい」と反対姿勢を強調する。橋下氏が代表の「大阪維新の会」は国政への進出を目指しており、政権としても無視できない存在になっているが、理解を得られる見通しは立っていない。

 原子力安全委員会の班目春樹委員長は「1次評価のみでは不十分」と主張しているほか、政府や国会の事故調査委員会の報告もまだ出ておらず、詳細な事故原因も明らかになっていない。理解を求める「地元」の範囲や、必要となる「理解」の程度も定まっていない。こうした状況で再稼働に踏み切れば世論の反発も必至だ。

 一方で、5月5日には北海道電力泊原発3号機(北海道泊村)が定期検査のため停止し、国内で稼働する原発はゼロになる。藤村修官房長官は4月3日の記者会見で「5月5日は(大飯原発の再稼働を判断する)目安ではない」と述べたが、早期に結論を出さなければ、電力の需給対策の遅れにつながるなど影響は避けられない見通しで、政府は難しい判断を迫られている。【笈田直樹、和田憲二】

 ◇同意権限、要求広がる

 大飯原発が立地する福井県はこれまで、再稼働の前提として安全性の確保を求め続けている。他方で周辺の京都・滋賀・大阪の知事や市長にも再稼働の判断への関与を求める動きが広がっており、政府の拙速な再稼働に歯止めをかけようとする圧力を強めている。

 福井県の西川一誠知事はこれまで「国が福島事故の知見を反映した暫定的な安全基準を示すことが大前提だ」と繰り返し、今年2月には、「原子力発電の意義と再稼働の必要性について責任ある見解を国民に明らかにし、理解を得る努力が先決だ」と国に新たに要望している。

 政府の再稼働要請が先送りされたことについて、再稼働容認派のベテラン県議は「4月末には運転再開と思っていたのが狂ってしまい、地元への影響は計り知れない」と憤る。一方、再稼働に反対する県議は「滋賀、京都、大阪で反対の声が上がったことが大きいが、福島事故の知見が明らかになっていない中で再稼働への手続きを拙速に進めた上、暫定的な安全基準も提示されていない。当然の流れだ」と受け止める。

大飯原発の(手前から)4号機、3号機、2号機、1号機=福井県おおい町で3月14日、本社ヘリから幾島健太郎撮影
大飯原発の(手前から)4号機、3号機、2号機、1号機=福井県おおい町で3月14日、本社ヘリから幾島健太郎撮影

 福井県内の原発の再稼働を巡っては、周辺自治体も同意の権限を求めている。

 大阪府と大阪市の「エネルギー戦略会議」は1日、「大飯原発から100キロ圏内の同意」など再稼働のための8条件を国や関電に求める方針を決めた。橋下徹・大阪市長は3日、「原発事故が実際に発生し、地元をこれまでより広範囲にとらえなければならない」と指摘。「広範囲の地元の理解を得るか、国が全責任を持って選挙で審判を受けるか、二つに一つだ」と述べ、政府をけん制した。

 嘉田由紀子・滋賀県知事と山田啓二・京都府知事は、ともに再稼働の判断への関与を求める姿勢を示している。2人一緒に大飯3、4号機の視察をする意向で日程調整を進めているほか、山田知事は「これまでの知見の蓄積がある福井県とも連携したい」として、京都、滋賀、福井3府県で意見交換する場を設置したい考えだ。

 嘉田知事は3日夜、大飯原発の再稼働について首相と関係3閣僚が初めて協議したことを踏まえ、「福島の原発事故の原因究明と安全対策、その安全性を担保できる仕組み作りが不十分で、その対応が最優先。被害を受けるかもしれない『被害地元』として十分説明してほしい」との談話を出した。【佐藤慶、茶谷亮、姜弘修、古屋敷尚子】

 ◆原発の再稼働をめぐる主な発言

 ※<>は慎重姿勢

 ◇野田佳彦首相 

 安全性を確保し、地元の理解を前提に再稼働させる(昨年9月2日、就任記者会見で)

 来夏に向けて再稼働できるものはさせないと日本経済の足を引っ張る(昨年9月20日、米紙のインタビューで)

 地域に理解いただいているかどうか、最後は政治が責任を持って判断する(昨年9月27日、衆院予算委員会で)

 再稼働をお願いしないといけない時は、経産相か私が直接行って首長、住民に説明する(1月14日、テレビ番組で)

 原子力安全委員会の確認が終わった段階で安全性と地元の理解をどう得るかを議論し、政府を挙げて説明する。私も先頭に立つ(3月11日、東日本大震災1年の記者会見で)

 <電力需給の心配をして「行け行け」で再稼働するのではない>(3月30日、消費増税法案を閣議決定後の記者会見で)

 <安全性のチェックが最優先で、その観点を大事にしながら判断していく>(4月2日、参院予算委員会で)

 ◇枝野幸男経産相 

 <(再稼働しなくても)電力使用制限令によらずに乗り切る十分な可能性がある>(1月27日、閣議後の記者会見で)

 <安全と供給不足は別次元。電力が足りないからと危険なものを動かすつもりはまったくない>(2月17日、閣議後会見で)

 今の需給等の状況を踏まえれば、稼働する必要がある(2月24日、民放番組で)

 <専門家の分析評価を精査中で得心を得ていない。現時点では(再稼働に)反対だ>(4月2日、参院予算委員会で)

 個人の見解で決められることではなく、議論した上で政府としての結論を示す(4月3日午前、閣議後会見で)

毎日新聞 2012年4月4日 東京朝刊

 

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