熊本県内では「薄膜系」と呼ばれる従来より薄い太陽電池の生産と開発が盛んだ。
◇
富士電機・熊本工場(南関町)が生産するのはフィルム状の太陽電池「FWAVE」。薄く、軽く、曲げられるという新タイプだ。
現在の太陽電池の主流は、シリコンの結晶をガラス基板で挟む板状の「結晶系」。FWAVEは、シリコン使用量が従来の200分の1で済む「アモルファス(非結晶)」と呼ばれるシリコンをプラスチックの薄い基板に付け、薄さ1ミリを実現した。重さも1平方メートルあたり1キロで、従来型の10分の1だ。
光を電気に変える「変換効率」は約8%と結晶系の15%前後に劣り、生産コストもまだ高い。だが、設置や回収が簡単な利点を生かし、建物や道路の壁面、休耕地から洋服など身近な製品への利用まで可能性は広がる。曇り空や室内灯でも発電しやすく、雪国や室内での活用も。水俣市などと共同で、農業用ビニールハウスやカキの養殖設備での利用実験も計画中だ。
他企業による応用製品の開発も増え、伊藤直樹工場長は「ニッチ(隙間)な市場を開拓していきたい」。
◇
「太陽光発電は高い」。そんな常識が、熊本から変わっていくかもしれない。3月に県と熊本大、県工業連合会の連携で発足した「くまもと有機薄膜技術高度化支援センター」(熊本市)では、次世代型と呼ばれる「有機系」太陽電池の研究が進められている。
特徴は製造が「安く簡単」ということ。一般的なシリコン系に必要な真空装置など大がかりな設備は不要で、原料も割安だ。センターで熊本大の永岡昭二客員教授(有機化学)らが手がけるのは、酸化亜鉛や色素などを用いる「色素増感型」と、特殊な炭素化合物を使う「有機薄膜(半導体)型」の2種類。試算では、前者のコストは従来型の5分の1。後者も液状の原料を電極のついた基板に塗るだけで発電する簡単な工程のため、大幅な経費削減が期待できるという。
課題は一ケタ台の変換効率と、耐久性。永岡教授は「(国内外の)有名な研究者と肩を並べられるよう、まずは効率アップに取り組む」と意気込む。
◇
ホンダソルテック(大津町)の太陽電池の売り文句は「製造時からやさしい」。薄型で省資源のパネルだからだ。
シリコンを全く使わず、銅、インジウム、ガリウム、セレンを素材にする「CIGS型」。親会社のホンダが独自開発した。発電層を0.002ミリほどの薄い膜状にして原料を節約し、製造時の省エネも実現した。
変換効率は現状で11.6%とやや低いが、曇り空など不利な条件に強く、年間の発電量では従来型と「ほぼ同等」(同社)。パネルあたりの販売価格も肩を並べる。大量生産でコスト削減ができる業界大手と比べると生産量はわずかだが、製造工程が比較的シンプルで、低コストで作れるためだ。
CIGS型では世界最高レベルとなる効率13%の製品の販売発表を年内に予定し、数年後の15%も視野に入れる。数佐明男社長は「15%を達成しないと、(業界大手と)勝負にならない。当面は開発に力を入れる」と話す。