鈴木らベテラン勢が表彰台を独占。世界フィギュア女子、激闘の裏側。
Number Web 4月3日(火)12時0分配信
「カロリナ(コストナー)が滑ったすぐ後で、お客さんの拍手がすごかった。自分もこのくらいの拍手がもらえたらいいな、と思ってフリーを滑りました」
ニース世界選手権の女子決勝終了後、鈴木明子は記者会見でそう口にした。
誰が表彰台に上ってもおかしくなかったレベルの高い日本女子代表の中、勝ち残って銅メダルを手にしたのは、もっとも年長の鈴木明子だった。SPで5位から挽回し、フリーでは後半のルッツを除くとノーミスの演技。経験を積んだスケーターらしく、最後まで丁寧に音楽を表現しきった。
子供のころからスター選手だった浅田真央と、新星として注目されている村上佳菜子の間に挟まれ、鈴木明子は地道に努力をしてきた努力型のスケーターというイメージである。
「私は美人でもないし、スタイルがいいわけでもない。だから努力をしていくしかなかったんです」と謙遜する。
だが彼女自身、ジュニア時代は「天才少女」と呼ばれた一人だった。
■27歳になった鈴木にとって最高の誕生日プレゼントとなったメダル。
いまから10年前の2001年から2003年にかけて、日本のジュニア女子は「パワーハウス」と世界から恐れられるほど強かった。いずれ日本の女子が世界のトップを独占する時代がやってくるだろうと言われていた当時、鈴木は国際試合に出れば必ずというほどメダルを取ってくる「パワーハウス」の主要メンバーだったのだ。
だが2003年あたりから、摂食障害によって体調を崩しはじめる。そんなつらい日々から彼女を支え、この世界選手権メダルへと導いたのは長久保裕コーチだった。
「メダルを取れたのが信じられなかったけれど、表彰式に出ているうちに、少しずつ実感がわいてきた。早く(長久保)先生の首にメダルをかけてあげたいと思いました」
ジュニア当時一緒に戦ってきたチームメイト、安藤美姫や浅田真央らから一足遅れたけれど、鈴木はついに世界の表彰台に到達した。それはどれほどつらいときでも、ひたすら自分を信じて、前に進み続けたからに違いない。
「昨年の世界選手権に出ることができず、悔しい思いをしたところからが私の今シーズンのスタートでした。ニースに来てから誕生日を迎えて、27歳の最初のプレゼントがこのメダルだと思っています」
■10回目の世界選手権で、ついに優勝したコストナー。
今回のメダリストたちは、実はみんな鈴木のようなベテラン勢ばかりだった。
初優勝を飾った25歳のカロリナ・コストナーは、このニースで10回目の世界選手権出場だった。2006年トリノ五輪当時から、もっとも才能のある女子の一人と注目されてきた。だがいつもここ一番というときにミスをして、大舞台でのタイトルを逃して何度も泣いてきた選手である。もうこのまま引退するのではないか、と囁かれたこともあった。
「今の気持ちはとても言葉では言い表せません」
コストナーはそう言って言葉をきり、目を少しうるませた。
「今までスケートの夢を見ると、大会に遅れてしまうなど悪夢ばかりだった。でもこうしてチャンピオンになれて、それも変わるかも」
あなたほど才能ある選手が世界の頂点に達するのに予想よりも時間がかかったのはなぜだと思うかと聞かれると、彼女は少女のように小首を傾げて少しだけ考えこう答えた。
「才能がある選手は私だけではなく、大勢います。でも私には、きっと今までの時間が必要だったのだと思う」
ティーンネイジャーの頃からいつ世界のトップに立つかと注目されてきた彼女だが、こうして10回目の挑戦でようやく頂点に到達。遅咲きながら大輪の花を披露することとなった。
■若手の成長が著しいロシアにあって、底力を見せつけたレオノワ。
2位に入賞したのは、ロシアの21歳アリョーナ・レオノワだった。SPでは勢いのあるすばらしい演技を見せて首位に立ち、フリーもほぼノーミスだった。
「SPでトップになった後、さっきニースについたばかりで、これから競技がはじまるのだと自分に言い聞かせた。そして新しい気持ちでフリーに挑みました」
ロシアには、世界ジュニアを制した若手の女子たちが大勢控えている。
今季のGPシリーズで連勝して話題をさらった15歳のエリザベータ・トゥクタミシェワなどが、来季からはシニアの世界選手権に出場できる年齢になる。レオノワがロシア代表になれるのも今季が最後か、と囁かれていた。
だが今季の彼女はGPファイナルで初の銅メダル、そしてこのニースで2位になって底力を見せた。
「ロシアの若手に注目が集まっているのは知っています。でも私は、自分の演技をよりよくすることにだけ集中して、あまり報道などは気にしないようにしていました」
いずれも自分の力を信じ、マイペースを守って努力をしてきたベテラン3名が表彰台に揃ったニース。才能ある若手が出てくるのもエキサイティングだけれど、こういう世界選手権があってもいい。そう思わせてくれる大会だった。
■「すっきりしない気持ちのほうが大きいです」(浅田)
SPで2位だった村上佳菜子は、総合5位に終わった。
「フリーではフリップが両足着氷になってしまったことは、まだ仕方ない。でも2アクセルが一度も入らなかったのが、一番悔しいんです」と苦笑いをした。それでも昨年度の8位から、着実に順位を上げた。
浅田真央は、SPの3アクセルの転倒が後をひいたのか、フリーでも普段ないようなミスが重なって総合6位だった。
「今シーズンを通して、練習してきたことを試合できちんと見せることができなかった。だから終わってほっとしたというよりも、すっきりしない気持ちのほうが大きいです」
そう口にした浅田だが、それでも生気がなく見えた試合直後より、いくらか表情が柔らかくなっている。今季はいろいろな思いを乗り越えて、疲れ切っているのも無理はない。今後の練習方針などについての話は、日本に帰ってから佐藤信夫コーチとゆっくりしていく予定なのだという。
「自分がどうしたいのか、まずしっかり見極めることが大切だと思っています」
浅田はすでに世界の頂点に二度達し、経験的にもベテランである。だがその位置に甘んじることなく新しい課題を自分に課し、そのたびに悩み、苦しんできた。このニースでの表彰台に上がったベテランたちが決して諦めはしなかったように、浅田もきっとまた今度も自分の進むべき道を見つけてくるだろう。
(「フィギュアスケート、氷上の華」田村明子 = 文)
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子供のころからスター選手だった浅田真央と、新星として注目されている村上佳菜子の間に挟まれ、鈴木明子は地道に努力をしてきた努力型のスケーターというイメージである。
「私は美人でもないし、スタイルがいいわけでもない。だから努力をしていくしかなかったんです」と謙遜する。
だが彼女自身、ジュニア時代は「天才少女」と呼ばれた一人だった。
■27歳になった鈴木にとって最高の誕生日プレゼントとなったメダル。
いまから10年前の2001年から2003年にかけて、日本のジュニア女子は「パワーハウス」と世界から恐れられるほど強かった。いずれ日本の女子が世界のトップを独占する時代がやってくるだろうと言われていた当時、鈴木は国際試合に出れば必ずというほどメダルを取ってくる「パワーハウス」の主要メンバーだったのだ。
だが2003年あたりから、摂食障害によって体調を崩しはじめる。そんなつらい日々から彼女を支え、この世界選手権メダルへと導いたのは長久保裕コーチだった。
「メダルを取れたのが信じられなかったけれど、表彰式に出ているうちに、少しずつ実感がわいてきた。早く(長久保)先生の首にメダルをかけてあげたいと思いました」
ジュニア当時一緒に戦ってきたチームメイト、安藤美姫や浅田真央らから一足遅れたけれど、鈴木はついに世界の表彰台に到達した。それはどれほどつらいときでも、ひたすら自分を信じて、前に進み続けたからに違いない。
「昨年の世界選手権に出ることができず、悔しい思いをしたところからが私の今シーズンのスタートでした。ニースに来てから誕生日を迎えて、27歳の最初のプレゼントがこのメダルだと思っています」
■10回目の世界選手権で、ついに優勝したコストナー。
今回のメダリストたちは、実はみんな鈴木のようなベテラン勢ばかりだった。
初優勝を飾った25歳のカロリナ・コストナーは、このニースで10回目の世界選手権出場だった。2006年トリノ五輪当時から、もっとも才能のある女子の一人と注目されてきた。だがいつもここ一番というときにミスをして、大舞台でのタイトルを逃して何度も泣いてきた選手である。もうこのまま引退するのではないか、と囁かれたこともあった。
「今の気持ちはとても言葉では言い表せません」
コストナーはそう言って言葉をきり、目を少しうるませた。
「今までスケートの夢を見ると、大会に遅れてしまうなど悪夢ばかりだった。でもこうしてチャンピオンになれて、それも変わるかも」
あなたほど才能ある選手が世界の頂点に達するのに予想よりも時間がかかったのはなぜだと思うかと聞かれると、彼女は少女のように小首を傾げて少しだけ考えこう答えた。
「才能がある選手は私だけではなく、大勢います。でも私には、きっと今までの時間が必要だったのだと思う」
ティーンネイジャーの頃からいつ世界のトップに立つかと注目されてきた彼女だが、こうして10回目の挑戦でようやく頂点に到達。遅咲きながら大輪の花を披露することとなった。
■若手の成長が著しいロシアにあって、底力を見せつけたレオノワ。
2位に入賞したのは、ロシアの21歳アリョーナ・レオノワだった。SPでは勢いのあるすばらしい演技を見せて首位に立ち、フリーもほぼノーミスだった。
「SPでトップになった後、さっきニースについたばかりで、これから競技がはじまるのだと自分に言い聞かせた。そして新しい気持ちでフリーに挑みました」
ロシアには、世界ジュニアを制した若手の女子たちが大勢控えている。
今季のGPシリーズで連勝して話題をさらった15歳のエリザベータ・トゥクタミシェワなどが、来季からはシニアの世界選手権に出場できる年齢になる。レオノワがロシア代表になれるのも今季が最後か、と囁かれていた。
だが今季の彼女はGPファイナルで初の銅メダル、そしてこのニースで2位になって底力を見せた。
「ロシアの若手に注目が集まっているのは知っています。でも私は、自分の演技をよりよくすることにだけ集中して、あまり報道などは気にしないようにしていました」
いずれも自分の力を信じ、マイペースを守って努力をしてきたベテラン3名が表彰台に揃ったニース。才能ある若手が出てくるのもエキサイティングだけれど、こういう世界選手権があってもいい。そう思わせてくれる大会だった。
■「すっきりしない気持ちのほうが大きいです」(浅田)
SPで2位だった村上佳菜子は、総合5位に終わった。
「フリーではフリップが両足着氷になってしまったことは、まだ仕方ない。でも2アクセルが一度も入らなかったのが、一番悔しいんです」と苦笑いをした。それでも昨年度の8位から、着実に順位を上げた。
浅田真央は、SPの3アクセルの転倒が後をひいたのか、フリーでも普段ないようなミスが重なって総合6位だった。
「今シーズンを通して、練習してきたことを試合できちんと見せることができなかった。だから終わってほっとしたというよりも、すっきりしない気持ちのほうが大きいです」
そう口にした浅田だが、それでも生気がなく見えた試合直後より、いくらか表情が柔らかくなっている。今季はいろいろな思いを乗り越えて、疲れ切っているのも無理はない。今後の練習方針などについての話は、日本に帰ってから佐藤信夫コーチとゆっくりしていく予定なのだという。
「自分がどうしたいのか、まずしっかり見極めることが大切だと思っています」
浅田はすでに世界の頂点に二度達し、経験的にもベテランである。だがその位置に甘んじることなく新しい課題を自分に課し、そのたびに悩み、苦しんできた。このニースでの表彰台に上がったベテランたちが決して諦めはしなかったように、浅田もきっとまた今度も自分の進むべき道を見つけてくるだろう。
(「フィギュアスケート、氷上の華」田村明子 = 文)
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最終更新:4月3日(火)12時0分
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