女性皇族が結婚後も皇族の身分にとどまる「女性宮家」の創設について検討している政府は、皇族として活動できるのは1代限りとする方向で検討に入った。政府関係者が2日、明らかにした。女性皇族の子どもに皇族の身分を与えないことにより、女性宮家の創設が女性・女系天皇の容認につながることを警戒する反対論に配慮。皇位継承問題とは切り離し、天皇の公務負担軽減を図る必要最小限の皇室典範改正にとどめたい考えだ。
明治時代に制定された旧皇室典範(明治典範)では、女性皇族が嫁いで民間人になっても、天皇の特別の意向により「内親王」「女王」の称号をそのまま有することができるとの条文(44条)があった。明治典範の規定を参考に、皇籍離脱後も「内親王」の称号を残して皇室活動を続けられるようにする案も浮上。この場合、女性皇族の夫は皇室に入る必要がなくなる。
現在の皇室は皇太子さま(52)より若い皇族12人のうち未婚女性が8人を占める。女性が結婚後に皇族を離れる現在の皇室典範のままでは、秋篠宮ご夫妻の長男悠仁さま(5)が成人するころには皇族数が極端に減る可能性がある。女性皇族が結婚後も公務を担えれば、公務負担を軽減することが可能になる。
具体的には皇太子ご夫妻の長女愛子さま(10)、秋篠宮ご夫妻の長女眞子さま(20)、次女佳子さま(17)の3人の内親王が結婚後も皇族活動を続けられるよう検討する。05年に結婚し皇族から離れた天皇陛下の長女、黒田清子さん(42)の復帰が可能かも議論する。
政府は女性皇族の婚姻による皇籍離脱を定めた現在の皇室典範12条の改正へ向け有識者からのヒアリングを行っており、秋までに結論をまとめる方針。結婚後も女性の身分を皇族のままとするか▽皇族の身分を残す場合に「女性宮家」創設の形にするか▽結婚後も皇族費を支払うか▽夫の身分や称号をどうするか▽天皇から3親等以上離れた女王にまで適用するか--などが論点となっている。
野田佳彦首相は3月12日の参院予算委員会で、皇室典範改正について「125代まで男系で続いた歴史的な重みを踏まえなければならない」と述べ、皇族減少の対策は「天皇、皇后両陛下の公務の負担を減らすと同時に、皇室活動の安定化を図る観点に絞る。ずっと続く話でなく、緊急避難かもしれない」と答弁している。【野口武則】
女性皇族のうち、歴代天皇の子供と孫を内親王(ないしんのう)と呼称し、ひ孫より遠い血筋を女王という。皇室典範では内親王、女王ともに皇位継承権はなく、結婚すると皇族から離れると規定。今の内親王は天皇陛下の孫の愛子さま、眞子さま、佳子さまの3人。内親王だった長女の清子さんは05年に結婚して皇籍を離脱した。三笠宮家と高円宮家の未婚の女性皇族5人は大正天皇のひ孫にあたり、女王の身分を持つ。皇室経済法は年間に支出する女王のための諸経費(皇族費)を内親王の7割と定めて区別している。
政府が皇室典範改正問題で、女性皇族が結婚後も1代に限り皇族活動ができるようにする方向で検討に入ったのは、皇位継承問題にまで立ち入れば異論が噴出し議論をまとめられなくなることを懸念しているためだ。
女性・女系天皇につながる可能性がある「女性宮家」創設が焦点になれば、保守派が反発するのは必至。内閣支持率が低迷する野田政権にとって、消費増税法案以外の大きな政治課題に取り組む余力はないのが実情だ。
ただ、女性皇族が結婚後も1代に限り皇族活動を続けても、秋篠宮ご夫妻の長男、悠仁さま(5)より下の世代の皇族は、悠仁さまの子供だけになることに変わりはない。長期的には皇族数が減少していくなか、悠仁さまに嫁ぐ女性には、皇位継承者としての男子誕生に過大な期待が掛かる懸念がある。男系継承維持か女性・女系天皇容認かいずれの立場でも、皇位継承問題の議論はどこかの段階で避けられない。
支持率が高かった小泉純一郎首相は皇室典範の改正を試みたが、06年に断念。それ以降、改正問題は先送りが続いてきた。今回も合意可能な「緊急避難」(首相)の改正にとどまり根本的な議論が先送りされる見通しだ。政争に左右されず、皇族の意向も踏まえたうえでの、冷静な議論が望まれる。【野口武則】
毎日新聞 2012年4月3日 2時30分(最終更新 4月3日 8時29分)
「メディア・プロダクション・スタディーズ」の研究を始めた五嶋正治准教授に聞く。