紙面から(3月2日)/福島第一冷温停止への道 第1回
設計と現場、一体で進めた工事
2012/03/30
レーザースキャンデータと建物の合成イメージ(東京電力提供)
組み立て作業には1日3班、1班40人が動員された。 印藤は無人による遠隔施工を成功に導くため、シミュレーションの精度をぎりぎりまで高めた。
4千万点の点群データを使った3Dレーザースキャンでは、精度がミリ単位に達していた。 作業員たちが施工を具体的にイメージできるように精巧な模型もつくった。
施工段階で部材がずれたり、引っ掛かるようなことがあれば、作業員が現場に赴かなければならない。 作業員の安全を確保するためにも、絶対に避けなければならない事態だった。
現場では作業員たちがモニターを見ながら組み立てを進めた。 モニターを見つめる作業員からは 「あと2メートル」 「ここでバック」 といった指示が飛ぶ。 建築史上でも類をみない作業だったが、壁や屋根の部材は印藤が想定したとおり、順調にはまっていった。
クレーンで壁パネルをはめ込む作業(写真は9月15日、東京電力提供)
■ 「できるだけ早く」
カバーの部材がすべて据え付けられたのは10月14日。 当初計画の9月末の完成からはややずれ込んだが 「スケジュールはほかのプロジェクトの兼ね合いで進んだ。 仮組など綿密な段取りにより施工的な遅れはなかった」 (木ノ下) 。
木ノ下はまた、 「できるだけ早くという思いでやってきた。 設計と現場が一体となって進めていただいたことに感謝したい」 と、これまでの思いを吐露する。
10月28日には排気設備などの付帯設備工事が完了し、すべての工事を終えた。 当初は 「どれくらいの抑制効果があるか見通せなかった」 (同) が、放出される放射性物質は10分の1以下まで低減。 福島第一原子力発電所の冷温停止状態の達成に大きな貢献を果たした。
カバーの完成により、放出放射性物質は大幅に減った(東京電力提供)
印藤は 「何とか役に立ちたいという思いでやってきた。 全員が力を合わせた結果だ」 と振り返る。 宿やタイベックの手配、車の乗り換えなどすべてのサポートがプロジェクト完遂に必要だったと印藤は強調する。
今回、印藤たちが考案し、導入した技術には大きな可能性も秘められている。 点群によるシミュレーション技術は重要文化財などの工事に、仕口は極寒地など作業環境の厳しい工事などに応用することが可能だ。
原子力発電所の事故収束のため、手探りで生み出された原子炉建屋カバーの技術は、日本の建築技術史上にも大きな足跡を残した。 (敬称略)
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4月16日掲載予定の第2回では、1号機原子炉建屋内の「格納容器ガス管理システム」の構築について、関係者の声を中心に掲載する予定です。