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[27623] 【完結】【十二国記】王「あたしが産まれた時にどうして来ないの!」麒麟「おk」
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/05/24 00:01
次から次へとすみません。近日、二つほど最終回させます><
わかりづらくてすみません。本編は基本的に上から下に読んでいけば大丈夫です。題名は変わったりしますが、基本的には変わりません。
また、誤字修正がぽつぽつと。
外伝は頻繁に変わります。
外伝更新したら、今後はここで通知します。
ご愛読ありがとうございました。いきなりですが物語が終わったので最終回です。ま、異世界編一話で終わらせるって言ってたし、異世界クリアすれば最大の死亡フラグ折れるからね。
すみません、ごめんなさい、もうしわけない、一章だけで完結だと思っておいてください。
十二国記書いてという魂の叫びを受信したので、真エピローグ追加しました。
さすがに十二国記新作はとっさに思い浮かばんかった……既に麒麟もの・王もの・憑依物と書いてるし。
こんな感じで良かったでしょうか。





















『チート、チート♪ 勇者、勇者♪ 旅に出るのはやっぱり十代じゃろう。十六歳にセットしておくかの♪』

 俺は死んだ。その後、大きな手に引っ掴まって、気がつけば檻の中に放り込まれていた。
 目の前では、俺をひっ捕まえた爺が凄く楽しそうに何を俺に授けるか悩んでいる。

「お手柔らかにお願いします……」

 チートは嬉しいが、勇者とか何させられるかわからない。爺は俺の言う事などどこ吹く風で、何か光り輝く物を楽しげに吟味し、あれもこれもと俺の中に放り投げた。

『やはり、多少は苦労した方が良かろう、こんなものか? いやまて、これも必要ではないか?』

 うええ。戦闘技能とか脳内パソコンとかあるぞ。こんだけ強化されて、それでも苦労するどんな事をさせられるんだよ。多少の苦労って言っても、これだけ異質な存在の言う多少だから、さっぱりわからない。
 神は、新しい何かを俺につけたすかどうか悩んでいる。
 その時、俺はどんぶらこっこと巨大な木の実が俺に近付いている事に気付いた。

「おいっいやあの、助けて! 危ない! ぶつかる!」

 必死に訴える俺。だが、爺は気付かない。木の実は、檻を突き破って俺に衝突し、押しつぶした。それだけでなく、触れた所からどんどん浸食してくる。
 そこで、ようやく神は気付いた。

『ん? なんだこの木の実は。勇者を押しつぶすでないぞ。元ある所へ、戻りなさい』

 爺がそう優しげに話しかけ、力を放つ。実はふわりと浮かんだ。俺を食らいながら。

『おおっ!? 待つんじゃ! 勇者! 勇者―!』

「あー」

 誰か助けてー。色々な物から俺を助けてー。
 って事で転生した。
 最初、状況がつかめず、訳がわからなかったが、化け物と判断されて捨てられるなんてごめんだ。俺は、子供らしい姿を演じ、それは成功し続けた……と思う。
 まだようやく目や耳が聞こえるようになって、頭が多少は働くようになってきたばかりだから、わからねーんだ。
 産まれた直後、長い間寒い所で食べ物も与えられずに運ばれて、焦ったがな。
 熱を出して死に掛けたが、どうやらチートのお陰で生き残った。
 察するに、ここはあまり文明が進んでいない未開の地の、偉い人の元に産まれたらしい。
わかるのはそれだけだ。でもなぜか、言葉は日本語。服は中国。意味わからん。
爺の用意した世界なのか? 俺はあれから爺に回収されたのか? わからない。
問題は、どう動くかだった。子育てなんてした事無いから、発育の加減がわからなくて困る。いつ言葉の練習を始めていいのかわからないのだ。化け物って言われたら困るし、偉い人の子供だからって事で、夜まで見張りがついてる。魔物っぽいのまでいて、怖いんですけど。俺、将来あんなのと戦うの? 凄く嫌なんですが。
一六歳になるまで、鍛えたい気もする。けれど、化け物と恐れられるのも怖い。
とりあえず、五歳まで様子見しよう。何せ、まだまだ体は未発達で、出来ない事が多すぎるのだから。赤ちゃんの真似しんどいです……。
教育も教育で、ちょっと異様で、俺の生存本能が、馬鹿な振りをしろと警告している。

「主上、今日のご機嫌はいかがですか。今日は生後一歳のお誕生日です。おめでとうございます。さあ、今日も言葉の練習を致しましょう。ゆ・る・す。許すです」

「うー?」

 なんなの? と心で喋りながら返答する。
 俊麒だ。一番よく様子を見に来てくれる。そして執拗なまでに許すと言わせようとしている。俺の生存本能が、言ったら終わりだ! と叫んでいるので、俺は「あー」か「うー」以外の言葉を喋った事が無い。だが、油断はできない。奴らは、言葉を発した時に限り、ぼんやりと心を読めるらしいからだ。
 
「まだ、難しいですか……。早い者は一歳ほどで喋るというから、期待していたのですが。そうだ、今日は新しい玩具をご用意いたしました」

 そして、俺の前に新しい判子が用意される。
 こいつらは、子供の俺に判子押しごっこを強要する。
 その判子を押させる場所なんだが、どうみても書類です。本当にありがとうございました。
 どうやら、俺はよっぽどよっぽど尊い血筋で、一刻も早く判子押しさせたいらしい。
 もはや、読めるかどうかなんて関係ないっぽい。そして、他の玩具は筆。教えられるのは名前だけ。他の玩具は一切ない。ちなみに、文字を見たら日本語じゃなかった。中国語か。漢字が多くて俺的覚えにくそうな言語ナンバーワンの中国語か。
 つーか、傀儡政治ってレベルじゃねーぞ!

「あー」

 俺は判子を持たせられて、おしゃぶりのようにしゃぶる。
 俺、わかってませんよー! 使い方なんてわかってませんよー!
 そうこうしている間に、偉そうな官達が来た。

「見るたびに絶望しますな……。英正様を越す王の素質を持つ者はまだ現れないのか……。いや、英正様以下で良い。王の基準を満たす者は……」

「残念ながら、未だ王気は主上にあります」

 王の資質? ああ、俺、神様に色々与えられたもんな……。資質ってだけなら、俺に並ぶ者はいないだろう。資質だけならな!
 脳内パソコンは貰ったけど、頭を良くしてもらったわけじゃない。統治なんてできねーぞ、おい。
 さすがに誕生日だからか、次々と人がやって来た。

「ああ、何度見ても……これが次の王など……」

 悪かったな。

「玉璽を使えるようになるのはいつなのですか」

 阿呆言うな。

「成人するまで待つべきでは」

 そうそう、まともな意見だ。

「馬鹿な。舜にはそんな時間など存在しない!」

 何でですか? 理由を説明して欲しい。切実に。

「蓬山まで、もう一度相談に行こうと思っています。そろそろ登極の時期を考えないとなりませんし、一度西王母様と玉葉様に顔を見せるように言われてますので」

「蓬山まで持つのですか? この距離は幼子にはきついですよ」

「十分に気をつけていきます」

 蓬山とか、登極とか、どこかで聞いた事があるんだが……。
 んー。
 どういう文化なんだ、この国は。今一王のシステムがわからない。
 説明を要求する―! なんて言った途端、玉座に据えられそうだから言わないけど。
 説明を要求する―!



[27623] 二話 \(^o^)/
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/05/06 22:02
今話の粗筋

蓬山に行ったよ→一時的に仙になったよ→六太と尚隆に会って、ここが十二国世界だと理解。状況を整理したよ! 

判明した事

救済措置「英正様が王としての執務を出来るようになるまでに、最低限の王としての基準を超える者が現れた場合、その方に王気が移動する」

先代の麒麟は王を見つけられずに死んでいる。

舜麒は馬鹿。

以上です。十二国記を知っている方は上だけ読んで頂ければ、下は読まなくても問題ないです。
説明ばかりの話で申し訳ありません。

























 俺は、大切に抱っこされて、寒い外を運ばれた。具体的に一週間ほど。死ね。俊麒マジ死ね。当然風邪引いた。死に掛けた。今悟った。俺が産まれたばかりの頃に殺しかけたのてめーだろ。大体なー! 俺はまだ離乳食も上手く食べれねーんだよ! 乳寄こせ、乳!

「まあ……これが俊王」

「話には聞いていましたが、なんと幼けない……」

「まあ、酷い熱!」

「このままでは死んでしまいます。俊麒、何故一時的に仙にして来なかったのです。誰か、薬湯を!」

「いえ、それより玉葉様におすがりして、仙にして頂いた方が良いのでは」

 そう言って、女の人達が騒いでいるのを感じる。見えるじゃなくて感じる。
 何故なら、俺はぐったりしてて目も開けられないから。
 しばらくして、俺の体は楽になった。俺を女の人が抱っこしていた。
 
「俊王様、玉葉でございます。……本当に幼けない事。ご加減の具合はいかがですか?」

「あー」

 だるい。
 玉葉は俺に湯を飲ませてくれた。体が温まり、ほっとする。

「大変でございましたね。もう大丈夫です。ご安心ください」

「なあ、こいつが赤ん坊で王になったって奴か? 俺、六太っていうんだ。よろしくな」

 金髪の子供が、俺に駆けよった。
 なんだろう。俺の背筋をぞっとしたものが走った。金髪で六太って、聞いたことある。
 俺はじっと六太を見る。
 少年の後ろから、美丈夫の青年がゆったりと歩いてきた。

「これが、間違いなく歴史上最年少の王か。俺は尚隆だ。わかるか? な・お・た・か」
 
 よし、今完全に理解した。 俺死んだ。 十二国記の世界かよ、ここ! ありえねーよ。俺が王(笑)。それなんてオリ主? いや、神様にチート能力つけられた時点でオリ主なんだろうけどさ。チートで勇者はともかく、王様はオリ主(笑)と言わざるを得ない。何故なら、とりあえず敵を倒せばいいっぽい勇者はチート能力山ほどつけてもらえば出来るかもしれないが、王様はどうやっても確実に無理だからだ! 赤ちゃんに統治とか無理! 俺が爺になってから来られても無理だってのに!
 ああもう、とりあえず大国の王に媚び売っとけ。
 俺はきゃっきゃと笑って見せる。この時、状況を全く理解していない様に見せかけるのがポイント。

「ははは、そうか。俺が気にいったか。で、喋ったり歩いたりは出来るのか?」

「まだ無理です。それでも、初めの頃よりは成長しました。王気を感じ、駆けつけた時にはまだ卵果でしたから、あの時は途方にくれました……」

 お前は黙れ、舜麒。慈悲の生き物なんて大ウソだ。つーか、卵果ならなあ。卵果ならなあ。卵果の内に王宮に運んでおくものなんだよ! なんでわざわざ産まれてすぐなんて一番弱い時期を選んで運ぶ? この無能! 景麒! そりゃ死に掛けるだろ!

「そっかぁ……こりゃ、今はまだ契約は無理かぁ」

 今じゃなくても無理だっつの。

「しかし、王の選定基準が気になるな。今回の事はあまりといえばあまりだ。一応、救済措置はあるのだったか」

 それに、俺は耳を澄ませた。それは俺もぜひ聞きたい。

「はい、今回のみ特別という事で。英正様が王としての執務を出来るようになるまでに、最低限の王としての基準を超える者が現れた場合、その方に王気が移動すると」

「先代の麒麟は王を見つけられずに亡くなっているからな……。そうか、王気を持つ者がそもそもいないという時があるというわけか。……それは、いかにも厳しい」

 ええええええ。いや、でもそんなルールでもなきゃ、俺は殺されているな。
 とにかく、どういう事か考えないと。
 ここは、十二国記の世界。状況から言って、それは間違いない。
 六太、尚隆はこの世界の王と麒麟。
 十二国記というのは、十二の国を持つ異世界の事。よし、覚えてる覚えてる。
 そして、この国には仙人や王という不老の存在がいる。
 賢王の独裁政治は、素晴らしい結果をもたらす。しかし、その子もまた優秀かどうかはわからない。だから、賢王の素質ある物を王に選び、王や官吏に永遠の寿命を与え、治世を行わせる。これが王のシステム。
 王の選定は麒麟が行い、麒麟と契約した段階で王は不老となる。ここ重要。供王という女王がいる。彼女は、十二歳で王へと選ばれた。これを登極という。それから九十年経っても、彼女は十二歳のまま。大人になったら成長が止まるなんて都合の良い事はないのだ!
 俺が麒麟と契約を結ぶ……俊麒の誓いの言葉に許すと答えたら、その途端俺は一歳で成長が止まる。
 そして、ある意味、王は王に選ばれた時点で死んで天に生かされる事になる。
 王を辞めた途端に死ぬのだ。これを禅譲という。
 では、王を続ければ死なずに済むのか? 甘い。
 選んだ王が道を外れれば、麒麟は失道という病気に掛かる。麒麟が死ねば、王も死ぬ。
 そうして蓬山に次の麒麟が生り、次の王を選ぶ準備に入るのだ。
 それに、当然殺されれば死ぬ。
 王が死ぬのは、反乱か、失道か、禅譲かしかなく、王になったら子供も出来ない。
 ああ、そうだ。天が定めた規則を破れば、麒麟諸共酷い死に方をするのも注意せねばならない。
 今、麒麟が生ると言ったが、この世界では人は木に生る。これを卵果という。
 親にしかもげない不思議な実で、それを開けると赤ちゃんが出てくるのだ。他に、動植物も皆木になる。
 ただし、卵果が親にもがれない時がある。それは、蝕が起きた時。これは不思議な嵐で、時空の歪みみたいなものだ。湖が無くなったり、何もない所が山になったり、津波になったり、そんな恐ろしい災害だ。これが来ると、蝕に卵果がもがれてしまう事がある。それが現代に運ばれ、女の腹に宿る事を胎果という。ちなみに、現代には卵果の形で行くか、位の高い仙人が人工的に蝕を起こして行くしかない。人は通れないのだ。
 ちなみに、蝕と災害はセットだ。麒麟位ならまだいいが、王が通れば大災害が起きる。
 その代り、現代からは時空の穴に落ちたような感じで、唐突に人が来る事がある。これも蝕の影響で、海客、山客という。大抵海や山に落ちてくるから。
 なんて言うのかな。気体の中に物質を放りこんでも問題ないけど、物質の山に気体を放りこんでも見えるわけがない……と言ったらいいのだろうか。
 相当位の高い仙人、どころか麒麟や王でも、自分の存在が不確定になってしまう。
 十二国世界から現代に来て平気なのは、現代の皮を得た胎果しかいない。
 ちなみに胎果が十二国世界に行けば、本来の姿に戻る。皮がひっくり返って、中身が反転するらしい。つーか、ようするに十二国記は、人の「中身」が作る世界なんだろう。なんとなく、霊魂もいないんだろうな、と思う。つーか、霊魂だけの世界なんだろうな、というか。これは俺だけの見解だけど。
 この世界では、何よりも重要なのは王だ。王を探す為に、我こそは王だという者が、妖魔溢れる黄海という場所を超え、麒麟の住まう蓬山に判定してもらいに行く。
 そして、王が善政を敷けば何もないが、悪政を敷くと天変地異が起き、不作が起き、最終的には妖魔が現れる。妖魔は麒麟が指令に下す以外には服従させる方法はなく、当たり前のように人や家畜を襲う。もちろん、王がいない時も天変地異が起きたり、妖魔が溢れたりする。
 このほかに、当然悪政を敷けば、国が荒れるという王政であれば当然のオプションもついている。
 ちなみに、麒麟の選ぶ王が、賢王の「資質を持つ者」というのが曲者だ。理想ばかり高くて、実力を持たない王が理想を買われて選ばれ、国を纏める実力が無いがゆえに失道するという事例がある。
 賢王になれない人でも、総合評価が良ければ王になってしまう悲劇。まあ、あれには次の王の踏み台となる運命だったって説(提唱者・俺)もないではないのだが。
 俺が不思議空間に囚われていた時に襲ってきた木の実。あれが、胎果になる予定の卵果だったのだろう。それは俺という現代の赤子の元を見つけ、吸収した。胎果となる為に。そこで爺が、元の場所に戻りなさいと術を掛け、木の実は元の場所……木に生った状態に戻った。
 そして、爺にチート能力を与えられた俺は、総合評価でぶっちぎり一位を取り、卵果の状態でありながら、王に選ばれた。
 それを俊麒が見つけ、産まれてから王宮に持ち帰った、と。
 つーか俺、もしかして一度胎果に食われて死んでる? 今の俺は胎果を乗っ取った結果か、俺の記憶を食った胎果か、二人が合わさった存在か……。なんか死んでるっぽい予感が凄くする。
さて、普通ならば成人を待ちそうな物だが、実際には、王は見つけたら即契約、吉日を待って即即位が普通だ。
 多分、賢王が玉座についている間は妖魔が出ない、というのが切実に関係してくるのであろう。
 王が村娘。「村に返してくれろー」の場合→即即位。
 王が胎果で、十二国世界の常識も文字(仙人は言葉の翻訳機能をもってるから、言葉は覚えなくてもいい)も何もかも知らない人でも、即契約、即即位。
 王が十二歳の女の子の場合→即即位。
 麒麟が胎果で、右も左もわからない。これは、しばらく王が見つからず、蓬山で勉強をした方が麒麟にとって幸せなのやも知れぬな……何、私が王だと!?→即即位。
 前者二つは麒麟の性格もあるだろうが、最後は、お前の国倒れたばっかで余裕あるんだから、もうちょっと待てなかったんか!? と思わんでもない。
 ちなみに、誰が王になるかわからん完全ランダムなくせに、原作を読む限りでは王になる為の教育や王たるものの心構えの伝授、などなど全くないっぽい。政治に無知な人間が登極したばあいのマニュアル? ないよそんなもの! ちょっとこんな事も出来ないの!? がデフォである。もちろん、仕事は教えてもらえるが、どうも、その……明らかに不十分。色んな王がいて、それぞれの王にあった思想があり、王は王たる資質を元々持っている、つまり王の思想を尊重すべき……という擁護もできないではないが、それでもやっぱりねぇ……。
 さて、十二国のシステムについての話はここまで。
 そして、俺の状態。
 爺が言っていた事は、主に三点。「勇者」「チート」「十六歳で旅立ちにセット」。
 このセットという言葉が曲者だ。そもそも、俺は恐らく現代に産まれる予定だったのではないか? だから、現代に来た胎果とぶつかったのだと思う。
 そして、現代にチートが必要な旅なんてない。
 つまり、十六歳で召喚形式、俺の魂の方にその装置がつけられていると思われる。
 状況を整理してみよう。
 一つ。俺は一旦食われて死んだっぽい。
 一つ。俺は十六歳で召喚されて、少なくとも戦闘系チートが必要な事……。恐らく魔王退治っぽい事をやらされる。
 一つ。俺は玉璽を持てるようになったら、契約を強要される。
 一つ。契約したら、年齢が止まる。
 一つ。王になる最低限の資質を持つ者が存在しない。つまり馬鹿ばっかである。
 一つ。神様から貰ったチートの中に、統治系は存在せず、しかし選ばれたのは恐らく神様のくれたチートだけ。つまり総合ポイントは高いけど賢王になれるわけじゃないよ!
 一つ。先代の麒麟が王を見つけられず死んでる。つまり王のいない時期が長く、相当舜国は追い詰められていると思われる。
 ここから予想される俺の未来。
 契約→傀儡政治(失道の危険性高し)→幼児の状態で勇者として召喚。→俺オワタ。
 俺としては絶対契約なんてしたくないし、せめて十六歳まで成長してから契約したい。でないと勇者として召喚された時死ぬ。
 しかし、舜国としては、一刻も早く契約したいはず。
 麒麟の寿命は、王がいない場合、非常に短かったはずだ。確か、三十年だったか? となると、舜麒もそう長くは待ってくれないだろう。
 王位が次点に移動するのは俺が王様業を継げるようになるまでだから、それ以降も俺が王位を継ぐ事を嫌がれば、新たな王がいる事に掛けて俺を殺そうとするはず。
 それでなくても、あの手この手で王にさせようとするはずだ。
 対する俺は、幼児ですらない赤ちゃん。しかも麒麟は王気がわかるのでどこにいてもばれる。逃亡は不可能。
 え、俺、詰んでる? 嘘だよ、な?
 死亡フラグ満載どころか、もう死んでますってのが辛いぜ……。
 もうあれか、帰りに空を飛ぶ指令の上から飛び降りた方が早いんじゃないか? 結果は同じだし、苦しまなくてすむだろうし。あー、凄く高い所から延々と落ち続けるのは怖いか。誰か助けてー。色んな意味で。












この状況を打開できる猛者がいたらぜひ書き込みをw
一応この先どうするかは考えていますが、いい案があったらそちらを使うなり、IF短編書くなりする【かも】しれません。
以下ネタばれ









予定するチート内容(変更の可能性あり) 
神の武器装備(二つの丸いわっかの刃)確定
戦闘技能確定
魔法技能(異世界での勉強が必要)攻撃呪文のみ確定
魔道具作成技能(異世界での勉強が必要。ただし呪具も作れるかも)不確定
神のパソコン(無制限に物を記憶しておくことが出来る。暗算が得意。魔法技能の呪文を覚える為の物)確定



ちなみに私の案では、神様の恩情で「勇者召喚されている間は時間は過ぎない」「チート技能は他者に譲れる」「召喚時に巻き込み可能」ルールが追加されますw



[27623] 三話 王が喋ったらそれは契約フラグ
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/05/07 07:51

 俺が一所懸命、保身について考え、絶望している間に、俺は西王母の所へと運ばれていった。
 滝のような物がある、玉座。小さい体には、水煙もきついのです。
 諦めるな、考えろ、俺。考えるんだ。閃くんだ。お願いします、知恵の神!
 ……閃いた!
 案1。正直に話すか、知恵遅れの振りをして十六歳まで待ってもらう。冒険にどれほど時間が掛かるかわからないし、王になったら十六歳でジエンドと考えていいだろう。だが、待つという事を奴らに納得させられるかどうかが問題だ。彼らは追い詰められている。どうでもいいから王になれと詰め寄られる可能性も高い。十歳にもなれば、暗殺者は普通に現れるだろうし、戦闘チートが何歳から使えるかが問題だ。ちなみに毒殺の耐性はない。
 案2。五歳まで粘り、戦闘チートが使えるかどうか確かめる。ただ、一六歳のときより弱くなるのは必須だ。神のチートの強さに縋るばかりだ。
 案3。爺の回収を待つか、何とかして異世界に逃げる。爺は探してくれそうだったが、本当に見つけられるかはわからない。異世界に行く方法もわからない。くそう、精神と時の部屋があればいいのに! チートを駆使すれば……。これは当然、知恵遅れの振りと相反する事になる。
 案4。すっぱりと諦めて後の王の為に尽力する。俺まだ死にたくないです! でもこれが一番可能そうだな……orz
 案5。いくらなんでも既に失道している人間を選ばんだろ。セクハラとかして、駄目人間になって王の選定基準から外れる。ただ、どこまでやればいいのかは不明。チートがどれだけ高評価されているかがポイント。だって俺、既に駄目人間の自覚あるもん。
 案6。麒麟暗殺。あ……あの指令を突破できる可能性はないかな……。これは没。
 案7。精神操作魔法! 駄目だ、魔力はあるけど、魔法の使い方わからないや。爺使えねぇ。
 案8。天帝に直訴。これだ! ただ、これは知恵遅れの振りが出来なくなる、諸刃の剣だ。
 んー。大体、この八案か。何か急に閃いた。これはきっと知恵の神の仕業。ありがとう、ありがとう! でも、案だけじゃなくて助けてくれー。
 さて、ここは直訴の絶好の機会だ。今俺は、重大な選択に迫られている。
 すなわち、直訴か、知恵遅れの振りをするかだ。
 今、知恵がある事を示してしまえば、五歳まで待ってもらう事すら不可能だと思う。
 しかし、チャンスなんて今以外にない。

「……珍しい事よの。一度蝕にもがれた卵果が戻って来るなど、前例がない。それも、仙の力を得て戻って来るなど」

「仙、ですか?」
 
 俊麒が訝しげに問うた。

「蓬莱の仙であろう。我らとは、力の質が違う。王に即位すれば、最も神通力の高い王となろう。統治の資質も、既にある。俊麒。英正の目を見て見よ。しかと見れば、こざかしく頭を巡らせているのがわかるであろう」

 統治の資質なんてねぇよ。あーでも、予王ですら選ばれたぐらいだしな……。平均が低すぎるのかも。参った。予想以上にぶっちぎりで王に選ばれてるみたいだ。そこで、俺は勇気を振り絞って言った。

「せーおーぼさま。えーせーは、おうにはなりませぬ。せんやくがあります」

 生まれて初めて、俺は喋った。だが、舌が回らない。予想以上に、幼い体は使い難い。

「先約とな?」

 俊麒は、俺が喋った事に驚いたようだ。えーと、勇者や魔王と言ってもわからないよな。

「じゅーろくになれば、ぶかんとしてしゅっしせねばなりませぬ。きりんとけいやくはできませぬ。これは、じこなのです。おれは、らんかとぶつかり、こちらにつれてこられてしまっただけなのです」

「ほう、蓬莱の武官か。だが、ここに留まれば王となれるぞ」

 最大の死亡フラグじゃないですかー。勇者は生きて戻れる可能性あるけど、王はゼロじゃないですかー。

「すでに、けーやくずみです。とどまることは、できませぬ。それに、おうはれいがいなく、しにざまがむざんです。おれに、おうのしかくはありません。おれはぶかんになりたい。どうか、おうきのはくだつを」

「卵果は、元の場所に戻された。お前はもはや、舜の民であり、お前が王の資格を持つ唯一の者である。こればかりは、私にもどうにもできぬ。よいか、たとえ救済措置を設けても、資質のある者が現れねばどうにもならぬのだ。元から殆ど意味のない措置であったとはいえ、救済措置はもう必要なかろう」

「ならば、しかくのあるものをおそだてすればよいことです! せーおーぼさま! おじひを!」

「……前例から言って、舜に王の資質を持つ者を育てる力が無い以上、胎果を待つしかない。延王の様にな。そして、今現在の胎果の中で、王の資質を持つ者はない。王になる事を免除するような前例も無い」

「きゅーさいそちが、すでにはっぷされているではないですか! じゅーろくでしつどーがかくていしているおうをかかげ、なんになります! せめて、せめてきゅーさいそちのぞっこうを! せーおーぼさま! おじひを!」

「……王気は、二つ感じられるようにしよう。さがりゃ」

「あ、ありがとうございます……!」

 水煙が立ち込める。
 よ、よし。こうなったら、延にでも留学に行かせて、なんとしても王の資質を持つ者を育て上げる! 俺が生き残る為にはそれしかない!
 しかし、舜、どんだけ駄目なんだよ……orz
 あー、こんなんだったら馬鹿の振りをして……いや、無理だな。西王母様は俺の心を見抜かれていたし、神に偽りをするなんて恐ろしすぎる。
 これで、良かったんだ。救済措置は続行してもらえた。
 そこで、舜麒が俺に平伏した。ちょ、待て。

「御前を離れず、忠誠を誓うと誓約する」

「ゆるさない!」

 許すか、と言わない所が味噌である。某霊界探偵に出て来た能力、タブーのように、言葉尻を捕えられてはかなわない。俺は生涯、許すという発言をしない事を誓う!
 しかし……五歳位まであったであろう猶予が消えたか。これは痛い。

「何故ですか、主上! 既に統治できると、西王母様が……」

「ようてんはそこじゃないだろ。けほっけほっ」

 いっぱい喋りすぎて、喉がもう駄目だ。
 そして今更、失語症という事で粘れば直接西王母を騙す事も無く、なんとかできたかもしれないと気付く。俺の馬鹿馬鹿馬鹿!
心身ともに疲れきった俺は、へたり込むと眠ってしまった。
 起きると、延王がお茶に誘ってくれた。

「蓬莱の仙か。向こうにそんな者がいたとはな。しかし、一六で出仕か。何か、妖とでも戦うのか? そちらの方の辞退は出来んのか?」

 俺はこっくりと頷く。

「きりんがおうとけいやくするように、すでにけいやくずみゆえ」

 魂にセットされてるので、もうどうしようもない。

「そうか……。大変な事になったものだな」

 再度、俺はこっくりと頷く。

「ようじ、あやかし、たたかう、しぬ。おれはじゅーろくまでそだちたい」

「それはそうだ。武官になるならば、最低でもそれぐらいまで育たなければ使い物にならぬ。しかし、それは王との兼業は出来んのか?」

 俺は首を振る。

「舜にそこまで待つ体力はありません!」

 俊麒が叫ぶ。俺は、ぽつりといった。

「おうには、ならない」

「舜を滅ぼすおつもりですか!?」

「ほろんでは、なぜいけない」

 思わず、絶句する俊麒。原作の受け売りなのだが、俺が王に相応しくないというアピールでもある。そして、俺は覚悟する。亡国の王候補とそしりを受ける事を。
 けれど、俺は知らなかった。その覚悟が、王気を燃え立たせていた事を。
 俺の知らない所で、意志の固さを買われて、また総合ポイントがアップしていたのである。

「おれは、もともと、このくにのものではない。そだてるがいい。ほんとうのしゅんのおうを。でなくば、ほろべ」

「……お前の忠誠は、蓬莱にあるのか?」

「きりんのように、うまれながらのけいやくゆえ」

 俺は正直にそう答えた。忠誠と言われたら、激しく困る。出来れば勇者もやりたくないが、勇者は絶対に不可避だし、チート能力があるからまだ助かる目はある。
 けれど、王はどうしようもない。助かる目も無いし、出来ないとわかっていて成るのは無責任だ。それに、俺はやるだけやった。王気を持つ者が現れれば、ちゃんと俊麒はわかるのである。
 ……でも、これから針の筵なんだろうなぁ。とりあえず、案2は必須、案5も望みは薄いがやるしかあるまい。
 とりあえず、荒廃した国土と地獄絵図を見せられるのは覚悟の内である。
 まあ、召喚時に麒麟も連れて行って、指令無双―、なんて出来たら、全てが杞憂に終わるのだが……。あーでも、他国で指令をむやみに使ったらルール違反で二人とも死亡か。そもそも、どういった形で旅に出させられるかわからないので、期待は出来ないよな。
 ……何故、乳児が胃を痛めねばならんのか。



[27623] 四話 苦悩
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/05/13 12:56









 帰り道は、気まずかった。王にならないと宣言したのだから、当然であろう。
 そして、予想通り乳児に向かって俊麒は荒廃した領土を見せてきた。

「貴方が王となれば、民は救われるのです」

「じゅうろくでむかえがくる。そうすれば、しつどうだ」

「行かなければいいではないですか!」

「むりだ」

 やはり、十二国人には、王に選ばれて拒否、という思考自体が存在しないようだ。王に選ばれたら即契約。どんな弊害があろうと、関係はないのである。
 そして、俊麒は言ってはならない事を口にした。

「十五年。十五年だけの安らぎでも、舜の民には必要です」

 それは俺に、死ねという事である。まともに喋れぬ、歩けもせぬ乳児のまま十五年を生き、無残に殺されろという事である。舜の為に。
 圧倒的な多数決。俺の命と、舜の国民。後者に軍配が上がるのはわかっている。
 でも、残念だったな。選択権があるのは俺。たった一人、けれども最強の味方が俺自身。
 そして、それ以外はすべて敵である。この世で最も俺を思うはずの麒麟が、こんな言葉を吐いたのだから。
 俺は、絶対に俺を諦めない。
 戻ると、やはり大騒ぎになった。
 そして、豪奢に着飾った女が、俺に泣き真似をして声をかける。

「王にならないと言ったそうではないですか、英正。母は哀しい」

 俺、初めて会ったんだけど。そしてその服は一体何。
 今初めて会った+国の現状を省みず贅沢し放題=俺への愛情0ですね、わかります。
 いやいや、それは短慮だろ、俺。相手は母親なんだから。

「あからさまなわいろ、ぜいたくは、くにをあらすもとです。くにがあれればおうはしにます。ははうえは、おれがおうになったらころすおつもりですか」

「まあ、なんて事をいうのです! 誰がそのような事を吹きこんだのですか! 王母がそれに見合った装いをする事は、国の威容を保つ為に必要な事なのですよ!

 滅びかけている国に、どんな威容が必要なのかと俺は思う。

「おれは、おうではない。いままでも、これからも。それとも、じゅうろくになったらおれにしねと?」

「蓬莱の仙など、信じられますか。大丈夫、何が来ようと母が守ってあげます。貴方は、王になるのです。王に選ばれたのに、王にならないなど聞いた事がありません。貴方は王になるの。許すと言えば、それだけでいいの。難しい事じゃないわ。後は頼りになる殿方達がやってくれます」

「ははうえは、むせきにんです。おうになるのはかんたんでも、おうでいつづけることはむずかしい。あかごのおれに、なにができる。すぐしつどうだ。おまえたちになにができる。さいていげんのししつももたぬくせに」

 やべ、言いすぎたかもしれない。辺りが緊張する。

「いいから、俊麒に向かって許すというのです! でないと、こうですよ!」

 母上は俺をぶち、周囲は凍りついた。幼い体は容易く俺を抱いていた女官の手から落ち、床へとぶつかる。
 結局、俺は骨を折ってしまった。ついた時点で、仙人化を解除してもらっていたからな。
 その後、何故か俺を落とした女官が処刑され、母はおとがめなしらしい。
 うん、結構きついが、勉強になった。少なくとも母上は、俺に王を押し付けるだけじゃない。
 それでいて、俺に対して忠誠を誓うつもりも無い。当たり前だが、子供として扱うつもりだ。
 まともな頭を持っていれば、こんな状態で誰が王になるというのか。
 魔法を使って異世界に行けたら。しかし、魔法の呪文は異世界にある。
 医師が、俺に治療をしながら、言う。

「外では、主上と同じくらいの子供らが、妖魔に食われております。主上が守られ、食事をし、こうして手当てされているのは、主上が王だからなのです」

「きにいらぬなら、ほうりだせばよい。おれをようまにくわせるがいい」

「主上!」

「いまおうになるも、ようまにくわれるのも、たいしてちがいはない。ようまにくわれるほうが、まだらくにしねる。おまえ、よほど、おうさまぎょうをあまくみているのだな。あれはたましいをさしだすこうい。ささいなぜいたくとつりあうと、ほんきでかんがえているのか。げほっげほっ」

 うー、喋るときつい。
 でも、真実だ。ぶっちゃけ、針の筵の中で必死こいて生き続けて、半端な所で王にされて、子供のまま生きて、勇者召喚されて魔王に無残な呪いを掛けられて死より酷い目に会って……なんて嵌めになるよりは、今妖魔に殺されてジ・エンドの方が百倍楽だ。
 
「貴方様に、王の何がわかるのです。王がどれほど求められているか、貴方様は知らないのです」

「そうだな、けものはわなをめにしても、えさにくらいつくからな。じぶんだけのつごうで、せかいがうごくとおもうな」

 うわ、俺、酷い言いようだ。わかってる。これは俺にも当てはまる。
 わかってる。詰みだって。ならば、従順に王になってしまえば、最大で十六年、傅かれて平穏に暮らせる。立派な王になる事を目指す振りをすれば、五年は稼げる。
 視野が狭くなって、憎しみと警戒という餌に食らいついているのは俺の方。
 そして生き延びたいのは俺の都合。だが、それに十二国世界は反発するだろう。
 ああ、俺、馬鹿だなぁ。どうしようもない。けれど俺の心はささくれだって、アホみたいに警戒と憎しみをばら撒いて、馬鹿な行為は止まれない。
 怖いんだ。たまらなく怖いんだ。覚悟したばっかりなのに、俺の心は赤ちゃんみたいに泣き叫んでる。畜生、目の前で妖魔に殺された人々。やせ細った人々。そんなもん見たのは初めてなんだよ。覚悟するのと、実際に乗り越えられるのは別物だ。
 医者が、声すら発さず俺の首を絞める。このまま楽になるのもいいかもしれない。けれど、わかっていた。この医者は、俺を殺せない。




[27623] 五話 この役目、麒麟がしろよ、麒麟が
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/05/13 12:56
 啜り泣きが聞こえる。

「貴方様はお知りでない。どれほど、どれほど我らが王を求めているか……!」

 そうだな。俺は知らない。知る勇気も無いし、それを知りに行ってわざわざ自分で囚われるほど愚かではないよ。俺は、誰にも心を開かない。

「父上、赤子相手に、何を言っているのですか。知らない? 当たり前でしょう。主上は産まれてたったの一年なのですよ? ……大人として、臣下として、その態度はどうなのです。可哀想に。思えば、主上は初めからお心を閉ざしておられました。あれだけ喋れるのに、全くその片鱗を見せなかった。見透かされていたのですよ。我らの浅はかさを」

 そして、優しく置かれる手。
 ああ、最悪だ。最悪だ。最悪だ。ただ自分勝手に求めてくる奴よりも、こういう奴の方が、今は……怖い。
 だって、ほら。俺は、この程度の言葉で、泣きそうになっているのだから。
 暖かい毛布は、永遠の眠りへと誘うだろう。
 この男だって、結局は俺に王となる事を求めるのだ。

「しばらく、私に預けて見て下さい。西王母様が仰ったなら、この方は真実、蓬莱の仙。武官だというなら、民の為命を捧ぐ心構えもありましょう。ただ、それが舜の民に向けられていないだけで。詳しく、話を聞いてみます。その上で王になれる方法を模索すればいい」

 やめてくれよ。これなら、軽んじられた方がまだマシだ。理論詰めで詰め寄られて勝てる自信は俺にはないぞ。
 俺の側に立てば王になるのがありえない様に、舜の側に立てば俺を王にしないのはありえないのだから。
 もう俺は疲れた。寝たい。
 そうして、俺の望み通り睡魔が訪れた。
 
『その願いは、主上の魂を捧げるに足るものですか?』

『王にならねば、願いは叶わないのだろう。ならば、俺は……』

 目をかっと開いて起きる。飛び起きるような事はしない。乳児にそんな真似は出来ないのである。
 骨折した体が痛んだ。
 嫌な夢を見たな……。だが、確かにありえるシュチュエーションだ。気をつけよう。

「主上、お目覚めになりましたか。私の名は、幹善と申します。今日より、主上の治療を仰せつかる事になりました。すぐに、お食事とお薬湯をお持ちします。傷の具合をお見せ下さい」

 こっくりと俺は頷く。喋るのは負担が掛かる。ここ最近、喋りすぎた。

「もはや、隠す必要はないのですから、体を動かす訓練も致しましょう。そろそろ、大抵の子供は立てる時機です。本当にご無事で良かった。あのように落下したら、最悪の場合死んでもおかしくないから」

 もう一度、こっくり。
 そして、食事を食べさせてもらう。食事を食べるというのは、スプーンを細かく操って食べ物を乗せたり、それを落とさない様に口に運ぶという難易度の高い行為だ。
 俺はまだ、そんな細かい作業は出来ない。
 
「こうしていると、普通の子供なのですがねぇ。ですが、父との会話を聞きました。王を軽んじるのは我らか貴方か……。多分、両方なのでしょうね。主上の仰る通り、王であるという事は大変です。大人ですら、数年で失道してしまう事も多い。さすがに、妖魔に食らわれる方が楽だなどといいませんが、贅沢と天秤に掛けられる事でもない。でも……」

「ひとりをぎせいに、だいたすうがたすかるとなれば、つりあいがとれる。わかっている」

 耐えきれずに俺が吐き捨てた言葉に、幹善は目を見開いた。

「犠牲、などとは……ですが、そうですね。大多数が助かる故に、我らは求めるのです。……王は、犠牲にしかとれませんか?」

 幹善は、俺を抱き上げ、撫でる。そんな優しいそぶりに誰が騙されるか。

「いまはぎせいにしか、ならぬ。どうころんでも、どんなきせきがおこっても。おまえ、あかごに、くにがおさめられるとおもうか。おれに、えいえんにあかごのすがたでいろというか」

 幹善は沈黙する。

「西王母は、貴方に既に資格があると。しかし、そうですね。永遠に赤子というのは、覚悟なしには出来ない事です」

「おれにしかくがあろうと、あかごのことばをだれがきくか。ははうえとおなじはんのうがせきのやまだ」

 俺は真剣に受け答えしているというのに、幹善は苦笑する。

「困ったな。逆に私が説得されそうだ。年の問題は、恭は乗り越えたようですが。しかし、それでも子供と乳児の差は大きいですからね。しかし、聡明な貴方ならば、いつまでも逃げられない事もわかっているでしょう? あらゆる圧力が、貴方を押しつぶそうとするでしょう。獣は罠を見てなお、餌に食らいつくといいましたね。手厳しい言葉ですが……真実だ」

 俺はこっくりと頷く。

「では、こうしましょう。明日から、官達の仕事をご覧になればいいではないですか。王の仕事を理解してもらうのです。王の仕事が、妖魔に食われるほどに辛い物ではないと主上にわかって欲しい。王という仕事を理解しようとしている最中ならば、圧力も弱まりましょう。私も共に勉強します。いかがですか?」

「もじもよめずして、いかにしごとをりかいしろと。おれは、からだがみはったつで、いろのちがいすらわからないのだぞ」

「……幼い子は、色の違いがわからないのですか? 文字はもう読めるのですか?」

「そのようだ。それに、もじは、ほうらいのものしかわからない」

「……やはり、五歳までは待たないと無理ですか」

「じゅうろくまでまて」

「十六になったら蓬莱から迎えが来るのでしょう? まあ、その辺については、おいおい話しましょう。今は、たっちの練習です」

 幹善は微笑む。
 ああ、どうしてこいつが王じゃないのだろう。馬鹿言うな。少し優しくされたから、なんで王じゃないのだろうなんて。それこそ王様業を甘く見ている。
 でも俺は、この時気付くべきだったのだ。舜は、原作では恙無く存在していた。
 舜が滅びる事はないのだ。それに、舜国に胎果の王がいれば必ず描写されているはず。王は、現れるのだ。確実に。










[27623] 六話 でも、幹善も俺に王になって欲しいと思っている
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/05/08 22:18

「それで、幹善。主上は、王となる事を承諾して下さったか」

 翌日、官が待ちかねたように話しかけてくる。つーか、俺がここにいるんだから俺に聞けよ。

「昨日の今日ではないですか。医師として言わせて頂きますが、現時点で主上が国を治めるのは無理ですよ。目があまり見えてらっしゃらないようだし、筆や玉璽を持てません。せめて、もう少し成長しなくては。しかし、王の仕事を勉強するという約束を頂きました」

「王の仕事? 即位する以外に何がある! 黙って即位さえしてくれればいいのだ、赤子になにができるはずもないんだから」

 幹善は、ため息をついて俺の背をぽんぽんとした。

「主上は、蓬莱の仙です。ただの赤子ではありません。貴方が何を言っているかも、きちんとわかっているのですよ。そして主上は、我ら臣のみで国を動かせば、瞬く間に国が傾き、失道すると思っておいでです。まずは、そのような事がないのだとご説明しなくては」

「主上が統治すれば、国は傾かないと? 主上は赤子でいらっしゃるのだぞ」

 心底理解出来ないといった口調で官は言う。

「まさか。だから、王になる事を嫌がっておられるのですよ。すぐに失道するとわかっているものを、誰が王になるかと」

「それでも、王に選ばれれば王になるのは義務だ。そうだ、雪泉様が呼んでおられるぞ」

「せつせん?」

 俺が問いかける。

「お母君ですよ」

 うえ、やだな。あっちが見舞いに来いよ。骨折した幼児を呼び付けるとは何事だ。
 まあでも、謝るというのなら受け取ろう。一応、俺の親なのだから。
 ……正直言って、今のままだと俺が王に即位したら即粛清対象だけどな。
 俺は幹善にしっかりと捕まって、抱っこされて移動した。
 母上は、何故か俊麒と一緒にいた。

「よく来ました、英正。王となる事は考えましたか」
 
 謝罪じゃねーのかよ。俊麒の顔色が蒼い事といい、凄い嫌な予感がしまくるのだが。
 原作見てても思っていたが、国民は王を崇めていても、官はそうではない。同じ神仙だからか? 侮る時ははっきりと侮ってくるしな。

「おどされておうになれば、あるのははめつだけだ」

「貴方は、まだ小さくて王の重要さをわかっていないのです。母の有難味がわかる時が、きっと来ます。俊麒、私が了承させてあげますから、誓約の言葉を」

 俊麒が、誓約の言葉を吐く。
 母が、俺を抱っこして骨折した腕をきつく握った。激痛が走る。俊麒が、悲痛な顔をした。これを、これを了承したか、仁の生き物が笑わせる!

「何をなさるのです!」

 幹善が叫ぶ。俺を取り戻そうとしたのを、兵士が止める。

「よいですか、やめてほしければ許すと言うのです。ゆ・る・す」

「しゅんき、このもの、を……ころ、せ」

 俺は、俊麒へとなんとか伝えた。

「貴方は、まだ主上ではありません。私と、契約を」

「は。けいやくすれば、したがうと? おれのみすら、まもってくれないものを、しんようできるものか」

 子供と言うだけで、麒麟ですらこの侮りよう。他の奴が言う事を聞く? まさか。こんな事をすれば、当然俺は王になり次第粛清を要請する。それを聞き届ける者がいないという前提でなくば、こんな事はしないだろう。痛みの中で、俺は強く強く誓う。
 例え拷問されようと、いや、もうされてるが、人質を取られようと、俺が王になる事はないと。
 痛みで、気を失いそうになった時だった。
 幹善が半獣化して、兵士達が驚いた隙に俺を奪い取った。

「これ以上は後遺症が残る可能性があります。医師として、これ以上放っておけません」

 巨大な鳥が、走る。その姿は滑稽で、道行く人々が避けていく。

「王の誘拐です、捕えなさい! 幹善は殺しても構いません! 殺しなさい!」

 母上が叫ぶ。

「お待ち下さい、主上! 雪泉どの、殺すのはあんまりです。傷つけないように、捕まえなさい!」

 俊麒が血相を変えて追いかけた。
 幹善に射かけられる矢を、指令が防ぐ。
 
「失礼を!」

 幹善が手すりを乗り越え、大空に向かってダイブ。俺を足で捕まえた。
 兵士達が困惑する。
 妖獣に乗った兵士達が追いかけてくる。追いつかれるか?
 その時だった。
 六太が指令に乗り、驚いた顔でこちらに向かってきた。

「英正! 何やってんだ!? 誘拐か!?」

「ごうもんして、おうにしようとしたので、にげてきました」

 六太が絶句する。すぐに、俊麒が追いかけてくる。

「延麒、これは舜極国の問題。口出しされますな」

「拷問して王にだと!? 何言ってんだ、俊麒。正気か!?」

「こうでもしないと、主上は契約して下さらない……。私は、主上と契約がしたいのに。早く契約しないと、民が。民が、こうしている間にも死んでいくのです。延麒、貴方にはわからない。私は、二年待った。もう充分です」

「民を理由にするな。お前は死にたくないだけだろ、先代の麒麟のように。俺が知らないとでも思ったか!? 前から生きる事に必死すぎるとは思ってたけど、まさかこんな……!」

「延麒様、どうかお助け下さい」

 幹善が延麒に縋る。

「えんき、たすけてくれ」

 俺も頼む。延麒は、俺を抱いて、骨折に気付いてぎりっと唇を噛み、踵を返した。

「尚隆、ごめん……!」

 いや、本当に悪い、延麒。もっとも、尚隆はいがいと王様してるから、送り帰されるかもしれないが。幹善だけでも、かくまってもらえるといいのだが……。
 



 行ったら、やっぱり怒られてました、延麒。それはもう、物凄い勢いで。
 ひとしきり怒った後、尚隆はため息をついた。

「一度助けた者を、放りだしたりは出来ん。五歳になるまでは、匿ってやろう。……拷問して王としての契約を結ばせるだと? 麒麟がそれを許容したこと自体、信じ難い」

「あれには、もうにかい、ころされかけてます。かのうふかのういぜんに、おれはおうになりたくないです」

「当然だろうな。強要されれば、頑なになるだけだ。……赤子相手なのだぞ。それほどまでに、追いつめられていたか。傷は。すぐに治療させよう。後遺症が残らねばよいのだが……」

「ありがとうございます。かんぜん、だっこ」

「……半獣を怖いと思わないのですか?」

「おとく。ひとつぶでにどおいしい」

 何より、俺は半獣姿の幹善が好きだ。俺は感謝とふわもこへの愛を込めて、羽に顔を埋めた。

「……そうですか。傷の治療、私も見ましょう。これでも、舜は医学が進んでいるのですよ」

「たのむ」

 そして俺は抱っこされて、傷の治療に移るのだった。



[27623] 七話 気を抜いた一瞬
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/05/09 08:21
 翌朝、朝食後に、劇を見せてくれた。
 お題目は、延王登極である。もちろん幼児向け。
 が、頑張ったなあ、延の官の人。覗きに来た延王は大爆笑である。
 ちょっと恥ずかしそうな所が、苦労を思わせる。

「王様になったらお菓子も食べ放題、皆も幸せ、めでたし、めでたしです」

「うー!」

 とりあえず俺は拍手をする。骨折した手が痛んだが、徹夜してセリフを覚えてくれたであろう官の人には頭が下がる。
 お菓子が食べ放題ってのがポイントだ。俺としても、どうせ幼児扱いされるなら、拷問よりかお菓子あげようか、と言われる方がありがたい。
 
「じゃあ、次は発達のテストをしましょうか」

「うー」

 俺は頷く。喋らなくて済むなら、喋らない方が楽だ。俺は短く改造された筆を持たされた。当然、通常の持ち方は出来ない。手で握るのが精いっぱいだ。
 そして、思い切り横に引いた。

「上手に出来ましたね! お名前は書けますか?」

「これがおれにできるせいいっぱいのこまかいさぎょうだ」

「んー。色も判別できないんですよね」

「うん」

「じゃあ、気を取り直してたっちを!」

 俺は何とかたってみて、すぐに倒れ込んだ。

「ハイハイで、こちらにいらっしゃってください。腕を痛めぬよう、気をつけて」

 実はハイハイもろくにやってない。手を庇いながらというのもあり、官の所まで行くのに、大分疲労してしまった。

「これは……ちょっと、いえ、大分発達が遅れているのかもしれません。即位のときは階段を上らねばならないらしいですし、大分厳しいですね。足腰が弱すぎますし、特に視覚は、一歳になるまでには完成される物です。ご病気かもしれませんし、もう少し調べてみます。何か、心当たりは?」

 ……マジで? 俺、成長しても視覚が不完全のままになるかもしれないって事?
 
「うまれたばかりで、こうねつをだした」

「それかもしれませんね……。延王にもご報告しなくては」

 俊麒の馬鹿! 景麒! ふざけんな!
 官は、俺を抱っこして、頭を撫でる。

「王になれば、断る事は許されない事です。……我が雁でも、延王が即位した時は風当たりが強かったと聞きますし、延王が王になる事を嫌がっていれば、契約を迫ったかもしれない。今の舜には、余裕が無いのですよ。しかし、それでも王を拷問して契約を結ばせるのは、あってはならない事です。延は、貴方が良い王になる援助をする事を決定しました。王としてやっていけるまで、守り育てることもその一部です。後ろ盾にもなりましょう。けれど……けれど、王の座から逃げ続ける手助けだけは出来ません。貴方にどんな事情があろうとも、それを民は理解する事が出来ません。全てに王の即位が優先されるから。貴方は、そう、五歳になれば舜極国に帰されます。それが、延が貴方に出来る限界です。私の言っている事がわかりますか?」

 俺はこっくりと頷く。
 すると官は、安心させるように笑った。

「よろしい。貴方は半獣が好きなようですから、良い物をあげましょう」

 そして、半獣のぬいぐるみがプレゼントされる。俺はそれを抱きしめた。やった! 熊だ!

「はんことふでいがいのおもちゃ! そんなえさにつられクマー!」

 官が、少し驚いた顔をする。

「このような物で良ければ、いくらでも。しかし、その好意の裏には、貴方に良き王になって欲しいという願いがあるという事。忘れなさいますな。我らの期待を裏切らぬよう」

 王になるのはごめんだが、もしもの時の為に学ぶ事は大歓迎だ。
 勉強は嫌いだが、退屈はもっと嫌いだ。
 ささくれだった心が、癒えていくのを感じていた。
 断じてプレゼントを貰ったから王になってもいいと考えたんじゃないからな!
 だってこいつら、舜じゃなくて延の官なのだし。
 それこそ、そんな餌につられクマ―! だ。
 とはいえ、五歳まで猶予が出来るのは有難い。
官の言葉通り、俺は色んな玩具を与えられた。
 王様の勉強の第一歩は、まず玩具を上手く使う訓練ということらしい。
 ボールを転がし返すのが以外に難しい。チ、チートはどうしたー。
 なんとかチートが使えないかやっていると、頭にテロップが流れる。
 ――メモリが足りません。
 ――メモリが足りません。
 ――MPが足りません。
 ――筋力が足りません。
 な、なんだとぅ。そっか、やはり成長が足りてないか。
 メモリが足りないが二つもあるのはいいとして、武器を出そうとしたらMPが足りないってどういう事だ。封神演義みたいな力を吸い取る宝具だったら嫌なんだが。
 黒、白、赤は認識できるので、幹善に絵本を読んでもらって字の勉強もスタートする。
 ……一生色がわかんなかったらどうしよう。
 同じ形の穴にブロックを入れる作業……俺にとってはかなり難解な作業を、幹善に手助けしてもらいながら、やっていると、幹善の体が緊張した。
 なんだろう? あー! ブロックが入らないー! こんな細かい作業が出来るかー!

「うー!」

 俺がブロックを投げると、それを受け取る手があった。それはブロックを穴へはめ、入れる。
 俺が顔を見上げると、俊麒がいた。
 その後ろで、延麒が心配そうな顔をしている。

「……私のせいで、主上の体に障りがあると聞きました」

 延麒に諭されて、謝罪に来たのだろうか。

「私は、出来そこないの麒麟なのかもしれません。後ろ暗い衝動が私の体の中でうずまいていて、私はそれに逆らう事が出来ない。本当は、わかっているのです。何が一番良いか……。けれど、私は……私は、貴方と契約がしたい。今すぐに。貴方が、主上だ」
 
 そして、俊麒は目を瞑る。

「五歳まで、お待ちします。それに、主上を良く知る為に、お傍でお世話いたします。また、主上を殺しかけてしまう事のないように」

 それだけかよ。謝罪を要求するー!
 お断りしますと言いたい所だが、俊麒にとってはこれがギリギリの線なんだろう。
 なんつーか、目が怖い。
 「両手両足折って、いつまでも一緒だね、主上♪」って言いだしそうなくらい目が怖い。
 今、魂でヤンデレという物を理解した!
 とにかく、指令という凶悪な武器を持っていて、追いつめられまくった人を刺激する程俺は馬鹿ではない。
 結局、俺はこっくりと頷いた。
 なんというか、五歳までの安全を確保した代わりに、五歳での契約を余儀なくされた気がする。
 まあ、策はあるのだが。
 朝が俺を受け入れる体勢を整えない限り、契約しないというつもりだ。
 どうせあんなんじゃ監禁一直線以外の芽が見えない。
 舜には絶対に無理だと確信しているし、五歳ならばまあ俺も、戦える……よな?
 念の為に、幹善は置いていこう。
 雁での生活は、快適だった。
 月一で王ってこんなに素晴らしい! な劇が見れるし、色々教えてもらえるし、色が認識できるようになってきたし、ハイハイは上手くできるようになってきたし、傷も癒えて来た。
 でも、俊麒に抱っこされると凄く怖いです……。なんつーか、緊張する。
 俺は俊麒の前では、絶対に判子押しや名前書きの成果を見せない。それらを練習するのは俊麒がいない時だけである。
 雁にいると、王になるのもいいのかも、とうっかり思ってしまうが、重ね重ね言うが、これだけ環境が整っているのは雁ならではである。
 十六年の寿命、こいつらの為なら受け入れてやってもいいかもと思えるのは、雁の官なのである。
 舜に、帰りたくねぇなぁ……。
 俺が三才へと成長すると、武器が出せるようになった。やはりMP減る方式だった。
 戦闘チートも、若干発動できるようになったので、訓練を開始する。
 俺が使うのと同じような形の木製の武器を作ってもらって、いざ武官さんに挑戦!

「うー!」

 よちよちよちよちよち。うりゃ! ぽす。

「うわああああああああ! やーらーれーたー!」

 吹っ飛ぶ武官。うわあ、凄い演技力!

「これは将来有望だな、はっはっは!」

 武官の上司っぽい人が俺をなでなで。
 幼児の相手ごくろうさまです。でももうちょい、真面目にしてくれないと練習相手にならないかな!
 え? まだそこまでのレベルじゃない? そうか……。
 官が、息子だという三才の子に会わせてくれた。すげーパワフルで、俺の発育の遅さに俊麒ともども肩を落とした。
 あと、俊麒はたまに契約を迫って来る。官が宥めて事無きを得るのだが、凄くうざい。
 演技の繰り返しで汗を流した若い武官が、お茶を俺に勧めながら俺に聞いてきた。

「英正様は、蓬莱の仙だとか。お話をお聞きしてもよろしいですか?」

「いーよ。何が聞きたい?」

「蓬莱の仙は、強いのですか?」

「んー。少なくとも俺は強くなると思うよ。偉い人から直々に才能をたまわったから。まだ、ちょっと成長が足りなすぎて発動しないけど」

「才能を賜る? 蓬莱では、賜れる物なのですか?」

「みたいだな。これもその一つ」

 俺がわっかの武器を取り出すと、武官は目を丸くした。幹善も、興味深そうに見つめてくる。
 
「これは……大変立派な冬器のようですが、扱いが非常に難しそうですね」

「戦闘技能を貰っているから、問題ない……はずだ。成長できればな」

「どのように蓬莱の仙になったのですか?」

 幹善も、興味深げに聞いてくる。

「偉い人に選ばれたんだよ。多分、向こうの天帝みたいな方かな。それで、色々な物を賜って、十六歳で武官になる事を聞いて、その時に、流れて来た卵果に襲われてな」

「卵果に襲われる! それは貴重な経験をしましたね」

「大きな卵果に押しつぶされて、徐々に吸収されてさ。怖かったよ。偉い人が、俺が吸収されているのに気付かずに、卵果に元の場所に戻るように言ってさ。それで、気がつけば生まれ変わっていたんだ。でも、十六歳になれば任地に自動的に飛ばされるはずなんだ」

 ほうほうと、相槌を打つ二人。いつの間にか、延王と六太もお茶に混ざっていた。

「無視して戻って来る事は出来んのか? 武官というからには、大勢いるのだろうし」

 延王の言葉に、俺は首を振る。

「いや、俺一人だよ? 武官って言うか、正式には勇者なんだ。なんていうかな、物凄く強い妖魔の軍団の長を、暗殺しに行く人、と言ったらわかりやすいかな」

「……気のせいか、凄く大変なような気がするのだが」

「大変ですよ。向こうについてからも、色々貰える事になってるけど……いつ戻って来れるかわからないし、王様業と兼任なんて絶対無理。だから、出来れば俺じゃなくてもいい、こっちの王様業は他の人にやって欲しいんだけどな。今のままだと、どうやっても詰みって言うか」

「主上でなければ嫌です」

 ぎゅうっと抱きしめる俊麒。痛い、痛いよ。

「任地って蓬莱のどこだ?」

「蓬莱じゃないですよ。蓬莱に妖魔なんかいるわけないじゃないですか。全く別の世界のはずです。俺も詳しい事はわかりません。何せ、途中で卵果に食われたから」

「英正様、ここにいらっしゃったのですか。英正様が提案したぷち仕官、通りました。ここにサインと判子お願いします」

 話していると文官が歩いてきて、俺に書類を出した。この時、俺の気は完全に緩んでいた。

「はいはい」

 俺は、ぽんと判子を押して、名前をサインした。
 その様を俊麒が凝視する。

 あ、やばい。



[27623] 八話 一見味方だが、目的考えると敵でしかない
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/05/13 12:57


 えー。英正です。英正です。ただ今、絶賛誘拐中です。
 
「あー、俺、せっかく本格的に主上としての勉強を始める所だったんだが。まずはおつかいから、順々にという事で雁の官達が徹夜してメニューを考えてくれたのだが」

「そのような勉強、舜でやればよろしい」

「そんな環境ねーだろ。お前に病気にさせられた後遺症がようやく治った所なんだよ、まだ病み上がりなんだよ、普通の餓鬼より力ねーんだよ。根本的に育て方間違ってんだよ。今成長が止まると、弱い体のままで仙になるんだよ。せめて五歳まで待てや。約束はどうした約束は。こほっこほっ」

 三才だから多少は体が丈夫になっているが、延麒のようにあったかくしてくれたり食事をこまめに食べさせて休憩してくれたりがないから、風邪引きそうだ。
 お前はなんど間違えば済むのか。俺の傍にずっといて、体の弱さを理解したんじゃねーのか。実は殺したいんじゃねーか? その可能性は高いと俺は思っている。仁の生き物(笑)

「主上……熱が。延麒の時は風邪をひかなかったのに」

「もっと早く気付け。お前は麒麟の癖に思いやりが足りない」

「そうだ! 私と契約すれば、風邪は治ります」

「死ね。俺は具合が悪いから寝る」

 暖かい毛皮の指令にぴったりくっついて寝ると、俊麒もくっついてきた。激しくうざい。
 そして、ようやく王宮についた時には、俺はぐったりとしていた。

「俊麒、またですか! 医者を!」

「俊麒、帰るのは二年後のはずでは……?」

 困ったような声が聞こえる。

「英正が帰ったのですか!」

 足音。うげ、雪泉だ。それは押し問答を始めた。

「英正様はご病気であらせられます。今はお会いになるのを避けた方がよろしいかと。王となる為の説得に、耐えられるとは思いませんが」

「私は王の母なのですよ!」

「面会謝絶なのです、どうか……」

 そこで、官が横から口を出す。

「仙にすればいいのだ、仙に! 戻って来たからには、契約したのではないのか!」

「御年三才で、儀式が出来るとは……。雁の言うように、五歳まで待つべきでは。援助は、王の保護と引き換えだったはずです」

「五才まで待った振りをすればいい! 三才も五才も変わらんわ」

「赤ちゃんと幼児くらい違いますが。主上はただでさえ発育が遅いご様子。ばれないはずはありません」

 そうこうしている間に、母上がヒステリーを起こしだした……。
 あれ、俺庇われてる? 雁、そこまでしてくれてたんだ……。
 ああ、熱で気持ち悪い。駄目だ、意識を保ってられない……。
 しばらくして目覚める。
 うげ。母上だ。母上はギラギラした瞳で、俺を見ていた。

「貴方は、母の愛がわかっていないのです。拷問して王にしようとしたとか、既に二度殺されかけていると雁に言いふらしたそうですね。王にならない悪い子は貴方なのです。全て、貴方が悪いのです。貴方のお陰で、私に対するいわれのない中傷をする者たちまで現れ始めたのですよ」

「それでも排斥されない貴方にびっくりです。誰もかれも、貴方を王と勘違いしているらしい」

 苦しいのを圧して言い捨てると、母上は手を振りあげた。
 すかさず俺の前に影が現れ、庇う。
 官だった。

「いくらお母上とはいえ、主上に手をあげるのは不味いのでは。……ただでさえ、主上を拷問した、という噂が立っている時に」

 官が愛想笑いをして収めようとする。
 しかし、母上は収まらない。それで収まる母上ではない。

「黙りなさい、これは躾けです!」

「主上が死ねば、貴方様の地位も無くなるのですよ、雪泉様」

 それに、母上が唇を噛む。

「王になれば風邪など問題ありません。今すぐ王になればいいのです」

「そして俺の代わりにお前がこの国を治めるか。ふざけるな。自分への死刑執行の書類に、誰がサインをするか。下手をしたら死ぬ人の身であればこそ、俺に選択権という武器があればこそ、まだ手心を加えられるが、不死になれば話が違う。不死のまま幽閉と虐待され続ける事を思えば、今死んだ方がマシだ」

「英正! なんと不敬な事を言うのです、私は王の母なのですよ!」

「は。自分の言っている事がどれだけ滑稽かわかっているか。不敬なのは母上だ。いや、違うな。俺はまだ王ではないのだから。俺にも母上にも不敬という言葉は存在しない」

「だから貴方に王になれというのです!」

 金切り声で言う母上。官達は、ぼそぼそと何かを囁き合って、笑顔で母上を押しだした。やんわりと、やんわりと、だがしかし、きっぱりと。

「雪泉様、そろそろお時間です。ご病気の主上を興奮させる事はよくありません。今は、お下がりください」

「私は英正が王になるというまでここを動きません!」

「まあまあ」

 母上が押し出されて、俺は息を吐いた。

「水を」

「ここに」

 俺は水を飲んで、一息つく。
 その後、ぽつりと官が言った。

「今のお言葉、主上の本心ですか。登極が死刑執行所にサインをする事だと」

「限りなく正解に近い未来予想だと思うが。誰もかれもが麒麟との契約を強いるが、それがどんな意味を持つのか、教えた者はいなかった。ただ、騙そうとするだけだ。そもそも産まれて今より、飼育以外の何を感じ取った事も無い。俺が王位を継いだ後は、蝶よ花よと可愛がってくれる? ありえないな。用無しで、不死だから世話をする必要も無い、というところか」

 その言葉に、官が苦笑する。

「これは、耳が痛い。さすがに、そこまで信頼されていないとは思いもよりませんでした。根拠があるだけに、尚更耳が痛い。雁の使者に、遠回しに散々に馬鹿にされてしまいました。きちんとお話して説得するなり、可愛がって王に憧れを持たせるなり、方法は山ほどあったろうにと。私達からも、成長の度合いを隠されていた、という不満はありますが。それほど早くから、信を失っていたのでしょうな」

「最初から胡散臭さ大爆発だったからな。今は普通に敵同士だよね、俺ら」

 それを聞き、官達は居住まいを正す。

「主上……お約束します。我らは、主上のお味方になります。今、初めて、主上に忠誠を誓います」

「それが信じられると?」

 俺は半眼で官達を見つめる。

「奈落の底まで転落した信頼を取り戻さねば、主上が王位についてくれる事などありえますまい。少なくとも、身の安全だけは保証致します。……今も、貴方様に王位を継ぐ資格があるとは思えません。しかし、認めようと思うのです。主上は意志を持たぬ人形ではないのだと」

「はっ酷い言いようだな。母上の排除すら出来なかったお前達に、本当に俺の身が守れるのか? この国の、俺を虐待する奴らしか住んでいない国の、たった十年近くの安寧が、俺の命より重いと証明できるのか?」

「私もいます。分の悪い賭けではありませんよ、主上」

 俊麒が口をはさんでくる。

「……今回入れて計三回俺を殺しかけたのも、母上の俺を無理やり王にしようという企みに加担したのも、母上を殺せと命じられてそれをしようともしなかったのも、俺を浚ってきたのもお前なんだが……」

「主上が王となれば、私は全力を尽くして助けます!」

「王になってからかよ。俺を殺しかける事は出来るのに母上は無理とかすげー納得いかない」

「私とて学びます。雁で、赤子と遊ぶ方法はしかと学んできました」

「仕事の補佐をしろ、仕事の補佐を」

 お前には本能しか存在しないのか? この泰麒!




[27623] 九話 後に最後の派閥が主流派に
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/05/11 08:26

 台輔が、卵果に王気を見出した時は、絶望した。
 西王母に願い出て、次点に王気を譲るようにしていただいたが、一向に他の王を見いだしては下さらない。
 舜には、王が必要なのに。
 それとも、卵果でありながら見出される程優れた資質を持つのだろうか。
 とにかく、迎えた王は、産まれていきなり死に掛けた。雨堤宮への移動の為だった。
 王と共に、王のご親戚一同が雨堤宮に我が者顔で入りこんできた。皆、眉を顰めたが、それでも王は切望されていたし、王の保護者という事で皆、取り入った。
 私も、その一人だ。
 皆が、王が許すと言葉を発する時を、皆切望した。よもや、王に政治など期待している者は誰もいなかった。
 しかし、王は宮廷の、民の願いを裏切った。
 自我すら持たぬと思っていた赤子は、自らの意志で王となる事を拒否し、喋れぬふりをしていた。
 蓬莱の仙。それが我が王の正体。かつてない神通力を持つ王となる。なるほど、王に選ばれるだけの物は確かに備えていたらしい。
 しかし主上は、滅べばいいと言ったという。舜を守るべき王がだ!
 武官などという、良くわからぬ仕事などどうでもいいと思う。
 王ならば、王となる事を優先させる事が当たり前。
 舜には王が必要なのだ。その一心で、雪泉様に説得をねだったりもした。
 だが、主上は雁へと浚われる事となり、雁からは使者がきた。
 保護を求められた為、五歳まで王を保護させて頂く。
 王を拷問して承諾させる前例を作る事は、十二国の歴史に良くない影響を及ぼすから。
 そう言われて、初めて雪泉様のした事を知った。
 発育不全、骨折、さらにその骨折の上に乱暴を加えられた形跡。いくら追いつめられたと言っても、主上に対する行動でも、幼児に対する行動でもないと一喝された。
 発育不全など、初めて知った。
 失礼ですが、主上にきちんとお食事を与えておられますか、と他国の者に聞かれる時、これ以上の屈辱は無いと思った。
 主上に対する雁の官の評価は高かった。
 幼けないながら、王の重みを誰に知られずともわかっておられる。
 意欲的に、絵本など学んでおられる。
玩具を通じて、筆を操れるよう手の器用さの訓練をしておいでだ。
 ……時間さえ許せば、主上は良い王になられる。
 他国の者だから、勝手な事を言えるのだ。赤子に政治など出来るか。思わず言ったら、官は呆れた顔で言った。

「王を幼児としか見ないならば、せめて普通の幼児として扱ってはいかがか? 玩具一つ、お菓子一つ与えられなかったと聞きました。私は学べば問題ないとは思いますが、英正様とて、ご自分に執政が務まると思ってはおられませんでしたよ。あの方は、聡いが子供っぽい所がおありになる。心からお仕えし、誠意を込めて王の大切さを説き、王となる事を願えば、その後の扱いが幼児以外の何物でもなかったとしても、結局は承諾なさったでしょう。好意には弱いのです、あの方は。しかし、今の英正様は、母国を救いたいとも、臣が信用できるとも思っておられない。……幼児としても、主としても、周囲を認めておられないから、王となる事を拒否している。英正様が承認しなければ王にはなれないのですし、一度、頭を冷やしてはいかがか? 心配なさらずとも、5歳になれば王を継ぐよう我らが説得いたしましょう。英正様の統治のお手伝いもさせて頂きます。……ただし、英正様御身の安全を確約してください。それが条件です」

 主上を褒め、補佐し、その身の安全を交渉する。他国の者がそれをする、その異常。
 悔しさに声を押し殺し、呟くように言う。

「貴方方なら、うまくやると?」

「……そうですね。追い詰められているのはよくわかります。延王登極の時も、理不尽に王を責める事もやはり、ありました。玩具で釣って騙すなりなんなり、あらゆる方法をとったでしょう。……ですが、さすがに釣りの際は餌位は用意します」

 餌。十分に我らは与えている。権力、栄誉……そしてそれは……英正様ではなく、英正様のご家族に向いている。
 英正様が王になるメリットを提示した事はあったか。そもそも、英正様とまともに話した事があったか。答えは否だ。
 悔しい。今すぐ王を取り戻したい。けれど、ここには雪泉様がいる。
 確かに、王が育つ環境にはない。雁に取り上げられたのなら、諦めもつく。
 官は、悔しさを押し殺し、深々と礼をした。
 荒廃する大地。次々に入る悲報。
 英正様を求め、英正様を恨み、英正様の事を思い出す毎日。

『英正様は、滅んではなぜいけないと』

『あからさまな賄賂は、国を荒らす元です。国が荒れれば王は死にます。母上は俺が王になったら殺すおつもりですか』

『母上は無責任です。王になるのは簡単でも、王でい続けるのは難しい。赤子の俺に何が出来る。すぐ失道だ。お前達に何が出来る。最低限の資質も持たぬくせに』

『今王になるも、妖魔に食われるも、たいして違いはない。妖魔に食われる方が、まだ楽に死ねる。お前、よほど王様業を甘く見ているのだな。あれは魂を差し出す行為。些細な贅沢と釣り合うと、本気で考えているのか』

『そうだな、獣は罠を目にしても、餌に食らいつくからな。自分の都合で、世界が動くと思うな』

 ……あれ? 結構苛烈な性格っぽい? 聡いと雁の官が言っていたが、どれほど聡いのだろうか。一歳でそのような事を意味がわかって言っていたのなら、聡いというレベルではないのでは。
 それを感じたのは、他の官も同じだったらしい。
 集まって、ぽつぽつと話すようになった。

「英正様は、どのような王になられるのか」

「五歳になって戻って来た時、政治を為されるのだろうか」

「まさか。五歳だぞ」

「もしも政治をなさるとしたら、どんな王になると思う」

「……意外と、苛烈な政治をなさるのでは」

「まさか……幼児ですぞ」

「しかし、子供は残酷といいます。というより、心優しいどのような発言をなさいましたか、英正様が」

 落ちる沈黙。しまった、情操教育をすべきだったか?
 不安に思っている時に、俊麒が主上を抱いて帰って来た。
 後二年で、雁からの無償援助が貰える物を。しかも、契約をまだしていない。
 不安。不満。王が契約して下さるかもという期待でないまぜになりながら、主上を慌てて看病した。今死なれては、何もかもが水の泡になる。

「それでも排斥されない貴方にびっくりです。誰もかれも、貴方を王と勘違いしているらしい」

 苛烈な発言。不安的中。とにかく、王を庇う。

「そして俺の代わりにお前がこの国を治めるか。ふざけるな。自分への死刑執行の書類に、誰がサインをするか。下手をしたら死ぬ人の身であればこそ、俺に選択権という武器があればこそ、まだ手心を加えられるが、不死になれば話が違う。不死のまま幽閉と虐待され続ける事を思えば、今死んだ方がマシだ」

「は。自分の言っている事がどれだけ滑稽かわかっているか。不敬なのは母上だ。いや、違うな。俺はまだ王ではないのだから。俺にも母上にも不敬という言葉は存在しない」

 予想以上に疑われている事に驚くと同時に、否定しきれない自分に驚愕する。ああ、この方は、確かに蓬莱の仙。三才でこれは、ありえない。学べば問題ないと雁の官が言った。それは真実かもしれない。圧倒的不利な状況で神経を逆なでする行為は、賢い行為とは言えないけれど。
 英正様は水を飲んで一息つくと、私の確認に呆れたように返す。

「限りなく正解に近い未来予想だと思うが。誰もかれもが麒麟との契約を強いるが、それがどんな意味を持つのか、教えた者はいなかった。ただ、騙そうとするだけだ。そもそも産まれて今より、飼育以外の何を感じ取った事も無い。俺が王位を継いだ後は、蝶よ花よと可愛がってくれる? ありえないな。用無しで、不死だから世話をする必要も無い、というところか」

 一歳のときよりも流暢な言葉。けれど、一歳のときと変わらぬ言葉。声の拙さに騙されて、何も見えていなかった。この方は、一歳の時既に王になれた。西王母様の仰る通り。なのに王にならなかった事に腹を立てると同時に、主上だけでなく、自分達にも事態を飲みこむ時間が必要だったとわかる。けれど。もはや待つ気はない。

「最初から胡散臭さ大爆発だったからな。今は普通に敵同士だよね、俺ら」

 軽く言われる言葉。幼い時から企みを看破する洞察力の披露。既に最悪の状況から、説得を開始せねばならない。厳しい戦いだが、主上が既に大人の意志を持つというのなら、話せる余地はある。でなくば、舜は滅ぶだろう。

「はっ酷い言いようだな。母上の排除すら出来なかったお前達に、本当に俺の身が守れるのか? この国の、俺を虐待する奴らしか住んでいない国の、たった十年近くの安寧が、俺の命より重いと証明できるのか?」

 口角を吊り上げて挑発。官達を襲っていた不安は、もはや別の物だった。王は確かに言った。麒麟にお母上を殺せと命じたと。麒麟に仕事の補佐をしろと。
 彼が王になれば、粛清を行うのは目に見えている。この生にしがみつく王は、自らの寿命を縮める不正を許しはしない。
 そして、官の大多数が雪泉様にすり寄っている。……簡単に粛清対象になりうる。
 この時から、王宮には複数の派閥が存在する事になる。
 英正様を正当な王として擁立しようという積極的英正派と、英正様に政治が出来るはずが無いとして、形ばかりの王とする雪泉派。英正様から政治は取り上げるが、十分豊かな生活をさせてあげようとする消極的英正派と……大人げなく、このままでは粛清されるから、英正様は単なる幼児という事にしようという政敵派である。



[27623] 十話 この後複数筋から土下座されました
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/05/12 20:26
 俺を追いかける形で、雁の官が来てくれた。
 会う事は出来なかったが、勉強のスケジュール表は持って来てくれた。
 俺を心配する言葉を色々と掛けて言ってくれたという。雁の官には感謝しきりだ。
 それに、俺の荷物も持って来てくれた。
 俺の成長を良く考えて作ってくれた玩具。
 俺はそれを大切に抱きしめる。新しい玩具もいくつか混じっていた。

「玩具が欲しいならば、舜でもご用意しましょうか」

 猫撫で声で官が言う。

「いや、これだけあれば十分だ。訓練するにしても、あまり品が多いと大変だ。もう少し大きくなって、上手に玩具を使えるようになったら新しいのを頼む」

「訓練ですか?」

「俺はまだ手を器用に動かせないからな。といって大人の訓練は出来ない。だから玩具で訓練するんだ」

「さ、さようですか……」

 特に俺が執心しているのが、玩具を上手く同じ形の穴に嵌めるという物である。そう、一歳の時より大分細かくなっちゃいるが、未だに俺はこれが上手く出来ないんだ……。一センチ単位の仕事が出来ないのである。
 そして俺は、スケジュールの書かれた巻き物を開く。
 な、何だと。移動に時間を割いている最中に、この玩具の訓練時期が過ぎている、だと……?
 俺は玩具を握ってみる。この時、握ってしまうのが問題だ。摘まめないのである。
 そして、穴に嵌めて見る。気をつけたつもりなのに、隣の穴に手が勝手に!
 俺はふぅとため息をついて、要練習だな、と呟いた。

「王になる為の勉強というのなら、望ましい事です。ぜひこちらでもやりましょう」

「勉強など、まだ三歳ではありませんか。女官と共に遊びませんか」

「勉強は勉強かもしれないが、三才に相応しい玩具ではないか。第一、名前すら書けないようでは書類を認可する事が出来ん。これぐらいはして頂くべきでは」

 玩具一つで、やいのやいのと議論が起こる。
 今までよりは、俺を主上だと理解しているようである。
 面倒だが、まあ話す余地は出来たと思う。

「王になるつもりはないが、絶対に王にならずに済むとも思っていない。当たり前だが、即位の為の勉強はする」

 途端、返って来る言葉の数々。

「御意にございます」

「そんな。王になりさえすれば、全て良いようにしますので、どうかご了承ください」

「まさか、名を書けない振りをしているのでは」

「まだ上手ではないし大きくなってしまいますが、名は書けますよ」

 お前はちょっと黙れ舜麒。

「ならば、王になるべきです! 何故王になられない!」

「理由があり過ぎて逆に説明に困るわ。そんなに王が大事なら、早く俺以外の王候補育てろよ。王気は二つ感じるようになってるんだから」

 俺が話しながら玩具を嵌めると、官の何人かが拍手した。その間に、拳を振り上げた官を他の官が宥めながら部屋の外に出していく。

「まあまあ、元から五歳まで待つというお話でしたし、確かに主上はまだ体の発育が十分ではない。失礼ながら、玩具の程度から主上の発達具合が見て取れるではないですか。もう少し待つべきです。成人まで待つという話もあったのだから。さて、課題を見てみましょうか。ほう、仕事の手伝いももう始めるご予定だったのですね」

 見せてみろ、と他の官が奪い取るように見て、ほっとした様子を見せた。

「主上に置かれましては、我らの事を全く信頼しておられない様子。ここは一つ、我らがいかに仕事が出来るか見学して頂いて、玉座につかれても問題ない事をお見せしましょう。こちらも準備がありますから、三日後に」

「幼児が見ても可否なんてわからないと思うが。仕事を学ぶ事に異論はない。後、信頼度については仕事だけじゃなくて、俺の待遇面でも問題があるんだからな」

「我らも心を入れ替えました。心してお守り致します」

「危険人物一位舜麒、二位母上でも?」

「……努力します」

 そして、三日後。官達が、影で子供の癖に偉そうにとか、目に物見せてくれるとか、陰口を叩きながら、また、目的が違うながらも、一団となって準備してくれたのを俺は知っていた。
 官達に見守られながら、書類を一つ一つ説明されながら見ていく。
 どうやら官達は、最も難しく見える仕事として、会計系の仕事を中心に見せる事にしたらしい。
 そして、俺の中には脳内パソコンがある。まだ脳の容量が小さい為、脳内パソコンのメモリも小さいが、使えないという事はない。事実、辞書ツールを脳内で構築したりして、大分お世話になっている。目を通した書類の計算結果が出るのは一瞬だった。

「ふーん。……ついでに、食料が高騰しているようだが、それは監視しているのか?」

「もちろんですとも! 雁が主上の留守中援助して下さっていたので、最近はまた高騰気味とはいえ、落ち着いております」

「……。なるほど」

 差し出された書類を見る手が僅かに震えた。
 俺はいくつか質問しながら、書類を見ていった。
 俺はため息をついて、書類を置く。

「一つ聞く。これは吟味して、俺の為に準備された書類なんだよな?」

「もちろんでございますとも」

「情けなさ過ぎて、泣きたい。王になるとか、絶対無理だ。ありえない」

「主上、そのような……。少しずつ学んでいけばいいのです。もっと簡単な仕事の書類を見てみましょうか」

「主上、ご心配召されますな。主上が仕事を出来ずとも、我らにお任せ下さればいいのです。我らは、国のエリートなのですから」

 元気づける官。ほら見た事かと胸を叩く官。
 思わずいらっとして、俺は書簡を叩きつけた。

「ちげーよ馬鹿! よくも堂々と、こんな幼児にもわかる不正書類を持って来れるもんだと呆れてんだよ! よっぽどなめられてんのか? こんな不正が当たり前な程腐りきってんのか? それともこれだけ頭数揃えて間違いに気付かない馬鹿なのか。八ケタも数字が違うとか、アホじゃねーか!? お前らが国のエリートなら。この国には屑か馬鹿しかいないのか! はっ民の為に? 笑わせる、お前らの私腹を肥やす為じゃねーか! 勝手に滅んでろ、俺を巻き込むな」

 雷に打たれたような官達が、慌てて書類を精査し始める。俺はとっとと部屋を出た。俊麒が追いかけてくる。

「主上、あのような叱り方はあんまりです。仮に不正が蔓延していたとしても、大多数は無辜の民。王宮を取り仕切り、民を救うのは王の義務であり、責ではないですか」

「で、命を掛けるのは俺だけか? 馬鹿な官のせいで俺が死ぬのか。自業自得で死ぬならまだ納得できる。だが、あいつらは俺に執政させる気もねーんだぞ」

 そう言って、俺はいらつきを玩具で遊ぶ事で抑える。
 あー、上手く出来ん。
 しばらくして、官が一人現れた。

「主上、落ち着かれましたでしょうか」

「まあな」

「あのような言い様はあんまりです。官が、自首して参りました。家族を養う為、仕方なかったのだそうです。誰にも事情はあります。彼には、よく言って聞かせますれば……」

 俺は、ぽかんと口を開ける。

「この国、法が無いのか?」

「え」

「え」

 やな予感をビンビンに感じながら、俺は問う。

「ぱっと見であれだけ横領して、それを精査する者も裁く者もいないのか? 秋官は? この困窮した状態でのあの量の横領は死罪が妥当、雁でも仙籍はく奪か五十年の禁固刑だと思うが。大体、食料の価格からいってもとても養う為だから仕方ないとは……」

「彼を殺す気なのですか!?」

「殺さない気なのか?」

「…………」

「…………」

 え。この国、終わってない?

「主上は、ご自分の為に人を殺して、よいのですか?」

「俺の為とか……どう見ても自業自得ではないのか? もう一度聞く。この国に法はないのか?」

 頭が真っ白になり、何も考えられない。もう頭が痛いとか、そう言うレベルじゃない。

「主」

 そこまで言いかけて、耐えきれなくなったというように官が複数飛び出してくる。
 一人が、官の口を塞ぎ、一人が俺を抱き上げる。

「主上、しっかりと秋官に渡して精査いたしますので、どうぞご安心ください」

「高い高いしましょう! 主上、嫌な事は忘れてぱーっと遊びましょう!」

「……この国の官って選定方法はどうするんだ? 試験は? 監査役は? もっかい聞くけど、この国法が無いの? マジで?」

 俺の疑問は尽きない。待って。何かおかしい。根本的に何かおかしい。

「たかいたかーい! たかいたかーい!」

 あははははははははははははははははは














滅べ。

















不正の詳細。描写が不足しているというより、間違っているようなので。今回の不正は、百ある予算の明細を足して行くと、九十八になる。二、足りない。これが気付かないとは何事だ、盗んでいるのかと主人公は怒っているわけです。八けたとは、数千万という意味で用いました。100円を1000円に、といった意味ではありません。
ちなみに、普通の不正は本来二の経費で済む物を四という事にするとかです。普通に引くだけとか、さすがに真面目に計算してたらばれます。



[27623] 十一話 蠱毒
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/05/11 22:11
 積極的英正派が会議しているようです。

「主上がご自分が原因で人が死ぬのを嫌がるかと思い、今回は見逃す方に同意したが……」

「完全に法律が無いと勘違いされておられるな。今から違うと言っても説得力が……」

「主上が思ったよりも優秀で、何よりだ。なによりだが……。あれは相当我らが馬鹿だと思われたな。最も、もしかして主上よりも愚かなのかも知れんが……」

「もしかして? お前、あれだけの計算を瞬時にできるのか。しかし、それにしてもアレはまずい。主上の虚ろな笑い声が耳から離れない……」

「とにかく、主上に国を纏める力がありそうだという事はわかったのだ。どうしても即位して頂かなくては」

「主上の反発も、粛清されまいとする官の反発も凄いぞ。特に主上を説得するのは至難の技ではないか?」

「く……前王の粛清と雪泉様との政争がなければ……。悔しいが、我らは派閥としては小さい。粘り強く、他派を説得して行かなければ。そうだ、飛仙に説得をお願いしては」

「もう粛清でもなんでもしていいから即位して……わし、泣けて来た。こんなに情けなかったっけ? ワシら。王を拒否する幼児に仕事や愛国心で馬鹿にされるとか」

「言うな」

【忠誠が上がりました。方針:飛仙を呼ぶ事を決定しました。勢力が僅かに大きくなりつつあります】




 雪泉派が会議しているようです。

「英正はただ私の言う事を聞いていればいいのです!」

「そうですとも」

「子供の癖に、政治に口を出すとはとんでもない事です」

「どうぞ、英正様即位の際は私を冢宰に……」

「……(雪泉様との敵対は決定的だ。勝つ方に付かなければ、間違いなく粛清される……)」

【生意気だと腹を立てました。 方針:更なる説得を試みます。派閥が変動しています】





 消極的英正派が会議しているようです。

「……主上だが、もしかして見たままの幼児ではないのでは?」

「雁で何を学ばれてきたのか……。恐るべきは雁か主上か……」

「思えば幼児相手に非道を行ったと思っていたが……本当に、我らは何を見ていたのか」

「あのように聡すぎる子供……気味が悪い」

「皆、主上に対する理解を深めて、改めて方針を決めようではないか」

「幼児の下に付くというのか?」

「……舜を、このまま滅ぼすよりはいいと思う。何より、あのように呆けた顔で法はないのか? と聞かれて、恥ずかしくはないか」

「恥ずかしいな。甘やかして育ててごまかして、それが通じるような方ではない。私は抜ける」

【主上がわからなくなったようです。方針:主上の調査を行います。勢力が飛散しつつあります】

 政敵派が会議しているようです。

「どーすんの、あれ。どーすんの」

「絶対粛清される……」

「これはもう即位したら、遊んでいらしてくださいと幽閉するしか」

「国と自分の身の安寧と、どちらが大事なのだ。それでは、主上が王になりたくないと言っているのと同じではないか」

「お前は死刑クラスの事をやっていないから言えるのだ。私は、主上のお父上に便宜を図ってしまったのだぞ。被害はあの横領どころの話ではない。確実に粛清される……」

「なんとか英正様派に移れないのか」

「自分だけ逃げるつもりか!?」

「とにかく、結託して英正様が即位したら、実権を取り上げるのだ」

「英正様は何をお喜びになるのだ。お菓子なり玩具なり献上するのだ」

【恐怖が上がりました。方針:英正をごまかす事にしました。勢力が急激に大きくなりつつあります】


 英正は思考中のようです。

「色々信じられな過ぎる……。作中出てなかっただけで、荒れた国の政治ってこんななのか? そりゃ数年で王も倒れるわ。代々受け継ぎながら少しずつ整えていくんですね、わかります。なんという命のリレー」

 そして、少し沈黙する。

「いや、普通にありえねーだろ。ないないないない。なんでこんな異常が? なんでお前らこんなに馬鹿なの? とはさすがに俺も聞けねーしなぁ……。まともな答えが返ってくるとも思えないし。雁に頼んで、こういう場合どうやって国を立てなおすのか、聞くか。雁が声を掛ければ、各国の記録も貰えるかもしれないし。なんか王になりたい成りたくない以前に、どうやって立てなおしたのか興味あるわー」

 そして、英正は首を振る。

「駄目だ、俺が即位しないとこの国確実に滅ぶんじゃね? とか考えちゃ駄目だ。滅ぶのも仕方ないだろ、こんな国。俺がなんとかしないと、とか絶対に考えちゃ駄目だ」

【英正は混乱度が上がっています。方針:雁に手紙を出す事にします。 雁内の勢力は確実に大きくなっています】




【各勢力が策動しています……】




「主上! 今日は有難いお話を聞いて頂く為に、特別に講師をお呼びしました」

「飛仙? 生活はどうしているのだ。うちが出してる? つまりただ飯ぐらいが何の用だ」

 一時間程度の会話の後、飛仙は泣きながら逃げ出した。
 英正は仙人の名簿を引っ張り出している。
粛清(予定)の対象が増えた!
 政敵派は怯えている! 政敵派は拡大している!
 英正は有用な情報を手に入れた!

「英正、子供が政治の事に口を突っ込むのではありません。母に全て任せなさい」

「隠す気すら無くなったか。話すのも無駄だ。本来なら粛清対象だが、今の俺に権限はない。王宮がお前を受け入れているなら仕方ない。が、俺に近付くな」

 武官が雪泉をやんわりと追い返す。徐々に英正派が増えている証だった。それに、英正ははっきりと粛清の言葉を口にした。
 雪泉派の少数が動揺している! 雪泉派が縮小している!
 政敵派が怯えている! 政敵派が拡大している!
 積極的英正派が拡大している!

「英正様、官の為の試験問題を持って来てみました」

「そんな物があったとは驚きだな。しかし、不正を堂々と行う物に対してどこまで理解できるかわざわざ教える馬鹿もいないだろう」

「で、では、少しお話をして下さい!」

「構わんが」

 そして、二時間程度会話する。
消極的英正派の官は泣きながら逃げ出した! 派閥は離散した!

「英正様~! お菓子と玩具とお召し物を持って参りました!」

「あからさまな賄賂すぎて引くわ。特に服。ただでさえ発育遅い俺に、そんなごてごてした物、重くて着れるものか。大体、それで民が何人冬を越せる? 今更過ぎるしな。俺の予算、母上の予算の何百分の一だ? 一応俺が主上なんだが。大体……」

 政敵派の官が泣きながら逃げ出した!
 政敵派の官は怯えている! 政敵派の官は拡大している!


 手紙が届いたようだ。雁の官が延王を引っ張って飛んできた!

「大丈夫でしたか、英正様!」

 官は勢い込んで言う。

「中々苦労しているようだな……」

 苦笑いして、延王が告げた。
 
「手紙読んで、涙が出ました。さすがに法が無いとか、雁でもありませんでした。どうぞ、主上のお話がお役に立てるなら。ここに各国の法の資料もあります。雁の官が必要なら、既に選抜も済んでいます」

 そうして、資料を差し出してくる官。この官は孫を育てているようだと言って、可愛がってくれたものだ。延王が、考えながら言う。

「と言ってもなぁ……。法を掻い潜る輩を相手取った事はあるが……一つ聞くが、秋官って何をやっているんだ? そもそもいるのか? いや、そもそも法ってないのかと聞いたら疑問形で返されたというのは真実なのか?」

「うん、後、官が自分のせいで死んでもいいのかと聞かれた。ぶっちゃけ総入れ替えした方が早いと思うし、雁の官を呼びたいけど、そこまでやったら確実に王にならなきゃいけなくなる。それに、王になったら自国の官を重用しないと駄目だ。好奇心もあって、こういう場合王がどうしてたか知りたいんだ。秋官がなにやってるかは俺も知らない」

 雁の官が、焦れたように言う。

「法が無いとか言われた前例なんてありませんよ。あったとしても、恥すぎて記録として残せるはずがないではないですか。元々の天から与えられた規則はあるのですし、いくら堕ちても法が無いと豪語するような……」

「法はあります!」

 ここで官が、涙を目に浮かばせて言う。不正をした官だった。

「法はあります! 私は裁かれて死罪となります! 死ぬより辛い恥辱だ……! 舜は、雁の助けを借りずとも立て直せます。出て行け! 他国の者は出て行け! 主上、貴方も雁にやすやすとそのように話すとは、あまりに酷い……!」

 俺はため息を吐く。
 雁の官はやれやれと席を立った。

「英正様、薬は十分に効いたので、ここで引きます。ですが、もしも英正様を監禁するような事があれば、今回の事、交易のネットワークを通じて十二国中に話しますからね。この国は、法が無い事を幼児に暴かれて監禁する国だと。英正様、それでよろしいですか?」

「あー……。今のタイミングならいいかな。飛仙が来て、仙人の名簿を改めた時に気付いたんだが、前王に諫言して処断された官と、母上を排斥しようとしてたまともに頭が働く官が、牢に閉じ込められているんだよ。そいつら出すように、交渉するつもりだ。それで俊麒に守らせて、半年ほどリハビリしてもらう」

 雁の官が、眉をあげる。

「それは主上の権限でしか出来ない事なのでは?」

「母上が出来たんだし、理論上は今の俺でも出来るんじゃないかな。それに……なんというか、あまりに駄目すぎて……。別にこの国助けても、俺にはデメリットしかないし、俺が自分の魂を捧げるに足るものか、って言ったら全力でノーって言わせてもらうけど」

「英正様……おいたわしい」

 官がそっと涙を拭う。

「ま、俺だっていつまでも逃げられるとは思っていない。王になるつもりはないけど、王になった時の為に準備はしておくさ」

「英正様、私は貴方が立派な王となるのを心待ちにしておりますよ」

「もしも王になってしまったその時は、期待に添えたいと思うよ。延王の有難いお話については、ぜひ聞かせてほしいので後で書面で送ってくれ」

 苦笑して、雁主従を見送る。
 官が、目を丸くして、あるいは不安そうに覗いているのがわかる。
 波乱の予感ですね、わかります。
 十中八九、官同士の殺し合い起きるから巻き込まれないようにしないと。
 まともな方が勝ちますように。っつーか、まともな奴がいますよーに。
 半年ほど、戦う準備をさせてやるからさ。双方にな。



[27623] 十二話 半年後に戦争? いいえ、半年の無敵モードの間にデストロイです。
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/05/12 20:41
 この命を賭して、主上に諫言した。主上が許せなかった。主上が失道して、自分の前から消えてしまう事が許せなかった。
 主上が生きて下さる為なら、この命、捨てても構わなかった。
 永遠に等しい時間の幽閉。
 孤独。
 飢えにも乾きにも既に慣れた。
 私は幸せだったころの夢を見る。
 主上と共に国を作って来たのだと、胸を張って言える。夢のような、日々。
 主上の穏やかな笑みを見るのが好きだった。いつも、私が献上した簪をつけてくださった。密かな恋心。傍にいられるだけで満足だった……。
 まどろみの時間は、不作法な侵入者によって終わりを迎える。
 
「元冢宰はこれで五人目か。楽しい物が見れそうだ。うわ、服が土と化してるな。まあいい、外へ出ろ。お粥と服を用意している。……連れて行け」

 ぞんざいに言ったのは幼児。そして私は抱きあげられて、明るい場所へ運ばれる。
 目も眩むような光の氾濫。
 主上のような穏やかな暖かさではなく、全てを突き刺す、暴虐の光。
 そう。それは決して救いではなかったのだ。
 

 指令に見張られ、同じようないかにも病人といったような様子の者達のいる部屋に押し込められる。しかし、牢に比べれば例えようも無く明るく、清潔で、私達はお粥と水を貰った。元気になれば、他の物も食べさせてくれるという。
 明らかに拷問された様子のある官を、医者が診ていた。
 ぽつりぽつりと隣り合った者と話す。
 彼は、先々代の冢宰だった。遥か昔に貴方の王は死んだのだと言うと、静かに涙を流していた。最も、私もすぐに同じ道を辿る羽目になったのだが。
 情報を得るのは骨だった。
 医者は必要な事以外は話してはくれないし、官達は皆牢に閉じ込められていた者達ばかりで、時代も様々。もっとも古い官は千年の昔の官らしい。もっとも、彼は半分狂ってしまっていて、定かではないのだが。
 なんとか筆と白紙の巻物はもらったので、状況を整理して行く。
 遥か長い時を閉じ込められていたとはいえ、我らは官僚だ。
 長い時の流れで、情報交換をするにつれ悲喜こもごもの様相を示したが、どうにか官の時系列と役職を纏める事が出来た。
 今、一番新しい官は雪泉という英正様(私の主上は花果様だけである)のお母上に閉じ込められた官らしい。
 なれば、今は英正様の御代なのか?
 これぐらいは、と医者に聞いてみると、苦々しい顔で英正様はまだ即位なされていませんという言葉が返ってくる。
 
「まさか。彼らが閉じ込められたのは数カ月ではきくまい。麒麟に見いだされたのに、そのように長い間即位しないでいると?」

「俊台輔が見いだしたのは、卵果だったのです」

「何?」

「卵果だったのです。ご両親が卵果をもぐのまで見守ったそうです。私もその場に居合わせました。西王母様に願い出て、王気を特別に二つ感じるようにして頂きましたが、候補者が出ない事にはどうにもなりません。英正様以外の王候補は未だ現れず、英正様もお小さいのでしょう」

 ざわめきが広がる。そんな、まさか。卵果が選ばれるというのも、王気を二つに感じるようにして頂く事も、そして存在しているかもわからなかった、西王母様に願い出る事も。全てが天地が反転するような大事件である。

「小さな子供……いや、幼児が牢から出る時に私に話しかけていました。幼い割には随分しっかりした御子様でしたが……まさか、あれが」

「私も見ました。元冢宰は三人目だとか言っておりました」

 更に詳しい事を聞く。舜は大変な状況で、前の麒麟は王を見つけられぬまま寿命を迎えてしまったという。
 その上、現れた主上のご親族が好き勝手にしているという。
 しかし、こうして英正様の指示で解放されたという事は、有能な後見がついたのでは。
 我らが話しあっていると、俊麒に抱かれて幼児が入って来る。
 自然、狂っている者以外は全員が平伏した。

「……そうだよな、これが普通だよな……。あいつら、謝る時しか平伏した事ないんだが」

 幼児はそう呟いて、書簡を投げた。

「それがお前達の共通の予算だ。それと、半年は俊麒の護衛と医者をつけてやる。処罰も半年間だけは許さず、復職も良しとする。見学する権限もやる。そもそも、幽閉されただけで官としての任は解かれていない者が大半だしな。後は、お前達の好きにしろ。ただ、今下界は妖魔に溢れている。野に下るのはお勧めしないな」

 寛大な言葉の裏に潜められた棘。護衛という言葉。我らの中には、元冢宰が七人もいる。単純に復職と言っても、問題にならぬはずはない。まだ幼くて理解できていないのでは、という思いを処罰を許さず、護衛するという言葉が裏切っている。

「朝廷に混乱を呼ぶおつもりなのですか?」

 低い声で問われたそれに、英正様は苦笑して答えた。

「これ以上悪くなるなどありえないからな。俺は王ではないから、粛清の権限も持たない。精々、お前達を解き放つくらいだ。まあ、敵になるにしても、味方になるにしても、ちょっとは有能なのが残ればそれでいい。弱い獣より、多少強力でも人間が敵の方がまだ俺が生き残る目はある。後はまあ、憂さ晴らしと試験だ。お前達のスタート地点は若干不利だが、何、半年あるから巻きかえせ」

 間違っても幼子が言う言葉ではない。その冷たさと、気味の悪さにぞっとする。
 そっと主上の顔を伺った。

「代わりに粛清をしろと……いえ、それすらぬるいですな。要するに、潰しあえと」

 英正様が、満足げに笑った。恐ろしさに、総毛だった。幼い子供の狂気は、それほどまでに強烈であった。
 新たな王。これは断じて、救いではない。この幼けない子供は、即位する前から、暴君であった。
 英正様が帰られた後も、皆しばらくは平伏していた。
 そして、一人二人と立ちあがって相談を始める。
 どのような育て方をすれば、あのような方が産まれるのか。
 幸い、すぐに幽閉された官の友人知人が走って来た。
 彼らが、何か知っているだろう。
 私達は、再度情報収集に走ったのだった。

「じゃ、牢に帰るか!」

 清々しい笑顔で官が言うのを、周りの者が必死になって止めた。
 話し合いの末、ひとまず最年長で正気を保っている冢宰が司会をする事となり、会議を始める。

「よし、時系列順に並べてみよう。まず、英正様を卵果の時から見出し、ご両親に卵果をもいでもらい、産まれるのを待ってさっそく連れて来た所、死に掛けた。……何故卵果の状態で持って来なかったのか、あるいは仙に出来なかったのか、はなはだ疑問だが……。これを、主上は恨んでおられる、と」

「そして、雪泉様達が宮中に入り、横暴の限りを尽くし、そこの者たちが諫言して牢に幽閉。雪泉様達ご一派は今も活動しており、これも主上は恨んでおられる、と。更に、仮に主上が死んでも、王の基準を満たす……次代の王は未だ現れない、と」

「育て方についても、忘れてはなりません。主上のご親族は思う様贅沢されたそうですが、主上は許すという言葉のみを練習させられ、判子と筆以外玩具を与えられなかったとか。物心つく前から怪しみ、言葉を発するのを控えておられたという話ですから、相当ですぞ。当然、王の役割についての説明等はありません」

 ここでざわめきが走る。

「まさか、許すというのを待ってすぐ契約するつもりだったのではありますまいな」

「一応、王が見つかればすぐ契約するのが慣例ですが……」

「限度があるでしょう、限度が。赤子を王に据えられるはずが無い」

「永遠に赤子という問題もございます」

「ようやく喋りはじめたばかりの赤子が怪しむとは、どれほど胡散臭い真似をしたのか」

 冢宰が、手を振って注意を再度自分に向けさせる。

「一歳で主上が、蓬莱の仙である事が発覚。この際、十六になると任地に飛ばされる為、十六で失道確定。武官として飛ばされる為、戦死も確定。ゆえに、主上は王になる事を嫌がっている、そして舜が滅んで、なぜいけないのかを疑問視。……正直、ここら辺がよくわからないのだが……。そして、西王母様に拝謁する時にまた移動で死に掛けている。長旅であるし、仙にしていくわけにはいかなかったのか、はなはだ疑問だが……。とにかく、十六で失道は確定するが、今の官達は何としても早く即位をさせようとしているようだ。舜の現状については、この資料を見てほしい」

 官が再度ざわめく。皆、舜の未来を憂い、嘆いた。

「感情としては、それでも王へと即位して欲しいですが……。死ぬ時期が確定しているとなると、主上としても契約はしずらいでしょうな。滅んではなぜいけない、とは何とも酷い言いようですが、主上は舜について何も学んでおられないし、幼けなくていらっしゃる。まだ、自分の事を優先する時期です。大人でも、自分さえよければ国が荒れても構わないという者はいます」

「普通に子供を育てれば、子供は親を愛します。そのような相手が主上にいないとは、どういうわけか。主上に相応しい、いえ、普通の教育でもしていたら、周囲の人の為に王になるとおっしゃるのが普通ではないか」

 もう一度、冢宰が自分に注意を向ける。

「主上のお母上が、初めて英正様に面会。王になる事を説き、主上を骨折させる。そして、主上のお母上と台輔が共謀して、主上が許すというまで痛みを与える事を決行。典医が主上を連れて逃亡、延台輔に発見・保護され、援助と引き換えに五歳まで雁で預かる事を承諾させられる。雪泉様を切れと主上が命令されるが、未だに誰もその命に従っていない」

 ざわめきが大きくなる。気絶する者もあった。

「主上を骨折させるだと!? 夏官は何をしていたのだ!」

「要するに拷問と脅迫ではないか! 台輔が共謀してとはどういう事だ」

「え、雁に援助と引き換えに保護って……どこの国の主上なのだ」

 ざわめきは収まらない。冢宰は、仕方なく声を張り上げた。

「次に! 雁で発育不良と幼いころの熱の後遺症が発覚。雁でお身体を癒し、様々な玩具で遊んで発達を促すなどお勉強をなさっていたが、三才で名前を書ける事を確認し、台輔が誘拐」

 ざわざわざわざわ

「そして、とにかく政治について学ぶ事を決められて、主上は事前に予約を入れたうえで官の仕事を視察。見せられた書類が数千万が予算からそのまま引いてあるだけという、馬鹿としか思えない方法での横領を発見。人に国の為に死ねと言っておいて、自分はどうなのだとお怒りになった。それを追いかけた官が、叱っておく……罰は与えないといい、法はないのかと聞かれた主上に誤った方向で反論するという失態を起こし、主上は法が存在しいのかと絶望される。話は雁まで行き、雁から主上の身柄の安全を求めて脅迫を受ける。その際、我らの存在に気付き、憂さ晴らしにぶつけて見た、と……」

 ざわざわざわざわざわざわざわざわ。

「ちなみに、主上の言動は徐々に過激になっていると見受けられます」

「主上の言い分は主に三つ。一つ、十六で死にたくない。ただしこれは、そういつまでも王になる事から逃げ切れる物ではないと悟っておられる。一つ、官の能力そのものを疑っておられる。一つ、官の人柄そのものを疑っておられる。これをなんとかしないかぎり、主上が王になる事はないと思われる」

「しかし、皆王になってから、自らの手で解決する事です」

「主上はたったの三つであらせられる。多くを期待してはならないのでは」

「ただの幼児が、我らを憂さ晴らしにぶつけるものか。それにいくら杜撰な物とは言え、不正を発見なされたのだ。登極した時、主上より力のない王は歴史を紐解けば多くいたはずだ」

「皆さん、少し待って下さい。纏めてみれば疑っておられるの一言で済みますが、物のように育てられ、無理な移動をさせられて死に掛ける事三回、骨折と拷問、契約の強要、玉璽を押せるかどうかとかではなく、政治や心構えなど本当に必要な教育は皆無、民の為に十六年で必ず失道するとしても、まだ赤子だとしても即位するべきだと迫りながらの不正、主上の身を危険に曝したお母上や不正を犯した官は主上の勅命があっても放置。法が無いとしか思えない、秋官は何をしているかわからない、体は下手な育て方のせいで未発達。可愛がって育てられた記憶は雁に滞在した二年弱のみ。これで舜を恨まぬ方がおかしいのでは。あのような苛烈な性格も、周囲を憎んでおられるならば理解出来ます。私は既に失道の気配を感じましたが、皆さんはいかがか。国に王が必要なのは確かだが、まだ主上は三才であらせられる。まずは様々な面でお助けして差し上げるのがよいのでは。主上を除けば、最年少は十二歳だったのだから」

「三才までに性格が形成されるというぞ。主上は自我が既にはっきりしておられる。恨みの上に形成されてしまった人格を、どう癒すというのか」

「誘導できればよい」

「朝廷の把握、我らに可能なのか……。我らは未だ病み上がり。法が無いのかと聞かれて答えられぬような官が主流派なのだぞ。私の時も朝廷は揺れたが、さすがに証拠と主上の勅命があってなお、「よく言って聞かせる」で済ませた事は……秋官は全員閉じ込められたのか?」

「申し訳ありません! 現在の大司寇、私の孫でございます。私の教育の不行き届きゆえ……! 必ずや、孫から大司寇の地位を奪還し、秋官を整え直して見せます!」

「おお、そう言えば貴方は秋官と言っておったな。これは心強い」

「というか、秋官率は多いですよ。いくつかの政争で纏めて放りこまれてますから。むしろ競争率は高いと思って頂かなくては」

「冢宰が7人じゃしのう」

「主上は我らに頼まれるのではなく、自由にしろとおっしゃられた。試されているのは、我らだけではない。舜そのものなのでは」

「このまま舐められてばかりではいかにも悔しい。主上の望む、人間同士の政争という者を、見せて差し上げようではないか」

「そうしよう、そうしよう」

 舜の暗部が解き放たれました。
 官が解き放たれました。
 舜の希望が解き放たれました。
 パンドラの箱の中身は何も残っていません。
 複数の派閥が出現しました。

 























補足:もちろん、主人公は官のプロフィール(可能な限り)に目を通していますし、あからさまな犯罪者は出すつもりはありませんでした。
しかし、そもそも、あからさまな犯罪者は仙籍剥奪・処刑されます。処刑もされず閉じ込められるというのは、殺してしまうには心が痛む、でも邪魔であるという官なんですね。例えば自分の為を思って諫言してくれた官とか、罪をなすりつけられた官、口封じされた官とかも入っているわけです。
ただし、不正を行う官なんていない。牢に入っていたのは正しい官だけなんだよ! というかというと、それも違うわけで。
まあ、当たり前に物騒な思想の持ち主や不正を行っていた官、記録には残されていないが、薄暗い事をしていた官、ほの暗い事情を抱えていた官も混じってます。
まさに玉石混合。長い歴史の間に溜まりまくった良心と膿。普通の官もいますがw
更に特筆すべきは、時代遅れ、歴史を飛び越えたがゆえにコネが無いなどの欠点を持つとはいえ、現官と比べ、凄まじい手腕を持っているという事です。
例えるなら、剣しかない国で、突然新入り警察と新参の悪人が拳銃持ち始めたような物と想像して頂ければ。
……結果は想像つきますねw



[27623] 十三話 竜虎の戦い(ただし互いに異次元で戦っています)
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/05/13 22:35
 それから、数日がたった。官が幾人かの官を俺の所に連れて来て平伏する。新しく解き放った官はスパイ活動をしている奴以外は必ず俺に平伏するから、すぐわかる。一応、自分の手で開放したのだから顔も覚えているつもりだが、俺が見たのはボロボロの状態だからな。清潔にして、日に日に血色が良くなっていく官達を顔だけで見分けるのは難しい。現官僚も真似して平伏をしだしたが、旧官僚と比べればその挙動には躊躇があり、今は見分けていられる。……見分けられている内に、覚えなきゃなー。名前と顔写真は脳内パソコンに保存できるが、メモリにも限界があるし、人の顔を覚えるのはパソコンだけでは無理なのだ。
 ……しかし、現官僚が元秋官長と普通に一緒にいて、旧官僚の悪口を言いまくっているのには驚いた。お前ら……同僚の顔を覚えとらんのか……? しかし、秋官長直々にスパイ活動とは凄い。まあ、秋官やたら多いしな。
 とにかく、この官は俺に用があるようだ。
 俺が軽く手を振ると、官達が部屋を去っていく。教育が以前とは段違いである。

「主上。本日は、いくつかお願いがあって参りました。まず、雁が渡してくれた主上のご予定表、見せて頂けないでしょうか」

「お前は、元天官長か。構わんが」

 官は、巻き物を受け取り、脇に置いた。現官僚だったら、俺の前で話しながら開く事だろう。

「ありがとうございます。それと主上、今、舜が困窮しているのはわかりますが、簡素な式典でいいので、半年後に我らが解放された事を喜び、主上にお礼を申し上げる会を開きたいのです。よろしいでしょうか」

「構わんが……半年とはずいぶん遅いな?」

「申し訳ございません。我らの感謝に偽りはありませんが、狂ってしまっている者を正気に戻し、生き残った者全員でお礼を申し上げたいのです。全員、半年後の式典に参加できなかった時の為にお礼の手紙は書いております。それと……」

「ああ、必ず目を通すと約束しよう。……開戦の決起集会か?」

「ご冗談を。祝賀会といいましたでしょう?」

「それは、楽しみにしている」

 クスクス笑って言うと、官は何故か心配そうな眼差しで俺を見て、連れて来た官を指し示した。

「どうぞ、彼らをお傍に。何故か天官が雪泉を世話しておりますが、好都合。未だ内小臣……主上を直接世話する官の地位を奪還出来ておりませんし、主上はいまだ王ではおられない。ゆえに、我らが用意した官を配する事が出来ます。他の者に出遅れましたが、その分厳選いたしました。どうか、この者達もお傍に」

 確かに、開放してすぐ、ぜひ傍に置いて下さいと言ってきた者はいた。彼らは少なくとも建前は俺を至上の者として仕えてくれるので、重宝している。

「んー……条件がある」

「はい」

「全方位敵だったから、俺は無茶な方法をとった。けど、お前達の中には味方もいるらしい。俺は、味方が無残に死ぬのを見るのは好きじゃないんだ。競争は仕方ないが、綺麗じゃない足の引っ張り合いはするな」

「御意にございます。それと、こちらは腕の立つ夏官達です。指令の代わりにお使いください」

「指令の代わりか。なら、王に即位した暁には、母上でも切ってもらうかな」

 笑って言うと、官は首を振った。

「それは無理かと。それに、祝賀の席に血は相応しくないのでは」

「お前達も、母上を庇うか」

「いえ」

 そこで、不作法に扉が開けられる。雪泉を世話していた天官だ。

「雪泉様が、何者かに殺害されました! あ、あんな酷い……体中の骨を折られて……」

「わかった。下がれ」

 入って来た官が、青ざめて叫ぶ。

「お母上が殺されたのですぞ! とにかく、来るのです」

 官が俺を抱き上げようとする。それに、指令の代わりと言われた官だけでなく、控えていた官達までもが入ってきて競って俺を庇った。

「許可なく主上の玉体に触れるとは、何事か!」

 官が一喝する。しかし、天官はそれに一瞬気圧されたが、すぐに俺を引っ張っていこうとする。

「……あれでも母だ、花ぐらいは送ろう。その後、里の墓に入れておけ」

「国葬をしなくては! とにかく来るのです! それと、お母上がお亡くなりになった以上、致し方ありません。主上は私がお世話を致します」

 その言葉に、官は僅かに震えた。

「お前は、英正様を雪泉様の代わりというか。主上のお世話を、致し方ないとは何事か。そもそも、雪泉は主上に危害を加えし逆族である。去れ!」

 うん、奴らに突っ込むのは凄く疲れるよね。突っ込みきったお前は偉い。
 なおも引き下がらない天官に、指令と言われた官が刀を抜く。

「な、何を! そんな事をして、ただで済むと思って……」

「俺の身を守る事を犯罪扱いか。そもそも、半年の間は彼らを裁く事を禁じると、朝廷で決めたろうに」

 俺が言うと、天官は、ようやく事態を理解したらしく、顔色を青ざめさせた。
 ま、俺も罪人だからと早々に処刑されない為に言っただけのつもりだったんだがな! どーでもいいとは思っていたが、そうなのだ。この半年、どれだけやっても半年間だけは裁かれない無敵モードなのだ。半年間の罪を半年後に裁判される事はあるがな!

「昔は私が一喝すれば、あのような官は飛び上がって平伏した者ですが。お騒がせして、申し訳ありませぬ」

「いや。しかし、手が早いな」

「いえ。私は、まずは囮として用い、時が来たら罪を明らかにして裁きたかったのですが。予想通り、雪泉が死んだ途端、奸臣どもの目が主上に向いたようですし。一応妨害工作はしたのですが、防げないだろうと思っていました。時期と方法が違うだけで、全ての派閥で彼女の排除は決定していましたしね」

「ふうん。で、用事はそれで全てか?」

「これが最後です。お許し頂けるなら、雁より頂いた予定表を元に、生活習慣を変える提案をさせて頂きとうございます。手始めに、訓練の最中にお話しをさせて頂く、朝議の真似ごとをする、などいかがでございましょう」

「いきなり自分に予定を組ませろ、と言わない事が気にいった。一応、王になる勉強は厭わないつもりだ。なあ、花を摘みに行くんだが、俺はこういう時に相応しい花を良く知らない。一緒に行ってくれないか? そこの官、抱っこ」

「御意にございます」

 俺は抱っこをされて、花を摘みに行った。
 初めて見る父上が母上の近くで何事か喚いている。曰く、絶対に犯人を見つけろとか何とか。

「父上、母上に花を持って参りました。母上を、墓に埋めなくては。里までの道のりは危険ですが、夏官を……」

「里の墓に入れるつもりか!? 駄目だ! 王族の墓に入れるんだ!」

 あ。スパイの秋官長が演技を忘れて絶句している。うんうんと頷く現官僚の中で、浮きまくっているぞ。舜にいる以上、こういう事になれなきゃダメ。

 俺を抱いた女性の官が、俺を抱きしめる腕に力を込めた。その手は、震えていた。



[27623] 十四話 粛清も救出も意味は同じ。不思議!
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/05/18 22:39
 まだ登極していない俺が王の儀式を行えば、偽王になる。ということで、使っていない宮を整え、そこで「主上ごっこ」をやる事にした。もちろん、練習と言うだけでなく、俺の発達が複雑な儀式を可能とするまでに成長しているか探る目的もあるだろう。
 多くの官が平伏するのを見るのは壮観である。同時に、尽くされてこそ、逃げられないと感じてしまう。既に俺の為に、官達は代価を支払っているのだ。俺の為に失われた命もある。俺の敵国が滅ぶのは構わんが、俺の部下がいる国が滅ぶのは心が痛むのである。
 時代によって作法が違う事もあり、殴り合いに発展するまで揉めたのを察する事が出来たが、官はそれを見苦しくない程度に隠していた。もちろん、仮の作法ですがと正直に言うのも忘れない。
 俺の為、国の為にそうやって真剣に議論するのを察するのは、楽しくもある。元春官長の爺さん同士の殴り合いな議論って、何それ見たい。言わないけど。どうやら、儀式も時代によって本当に僅かだが差異があるらしく、それについて揉めたらしい。きっとどうでもいい事で言い争ってるんだろうな。そう言う些細な事へのこだわりって、なんかいい。自分が押し付けられるのは嫌だけどな!
 儀式だが、どうしても自分の手で紐を結ばなければいけないという儀式があり、うまく紐を結ぶ事が出来ない。
 俺がひも結びに熱中しているのを見計らって、こっそり官が囁き合う。辺りを伺って育った為か、耳だけは良いんだ、俺。

「まだ、少し早いようですな。今宵は私が主上の遊び相手になります」

「しかし、十分に眠らないと成長に差し支えがあると聞いた事が。主上の発育の遅さは問題です」

「お食事の回数が少なく、質も良くなかったというか問題外だったのも原因でしょう。雁に指摘されるまでは量も少なかったとか。改善してからは、幼子らしい丸々としたお身体になって来たようです。主上のお身体の加減を伺いつつ訓練すればよいのでは」

 その言葉を聞いて、話していた官達が俺に挨拶をして、控えと交代した。
 あまりにも心が荒ぶると、俺を世話する天官は他と交代する。万が一にも、俺にそれをぶつける事のないように。
 俺が伺うのを見て、残った官が微笑む。

「今日は美味しい甘味がご用意してございます。そろそろ、おやつを召し上がりませんか」

「うん」

 俺は頷く。出来るだけ表に出さない様に気をつけているが、この事実を知った官達は目に「食え、もっと食え」と圧力を込めてくるので好きではない。心配してくれるのはわかるし、美味しくなったのはいいんだけどさ。そんなに苦労してしょっちゅうお菓子とか手に入れて来なくていいんだよ。俺の食える量に限界あるし、この国、困窮してるんだから。
 官が、美味しそうな饅頭を捧げ持ってくる。
 そして俺に手渡される寸前、走ってきた官が扉を開けて報告する。

「大変です! 計閃が本物の儀式道具で王の真似ごとを始めました! しかも奴ら、計閃は紐を結ぶ事が出来るのだとか申しております!」

 計閃とは俺の父上だ。ちなみに、恐らくこれで偽王認定である。
 饅頭は官の手に握られ、木っ端みじんになった。粒が俺の顔に飛ぶ。
 
「も、申し訳ありません、主上!」

 旧官達は食料について異常なまでに敬意を払う。飲まず食わずで百年単位を過ごしたのだから、当然だ。その上、俺の前で無様な姿を見せた。更に、俺の顔に汚れが。現官僚ならなんとも思わないが、旧官にとっては空気が凍る程の大失態である。
 俺は粒を舐めて、安心させるように笑う。もはや笑いしか出ないとも言う。

「気にするな。驚くのも無理はない。俺も少し驚いた。……これぐらいで罰するのは、暴君と呼ばれる者ぐらいだろう。俺はまだ王でもないし」

「主上のご寛大な御心に感謝致します……! ですが、あえて申し上げます! 今すぐ、登極を! 主上が名実ともに王となれば、我ら一丸となって逆臣どもを一掃して見せます!」

「実権取り上げておしまいだと思うが。玉璽取られたり、むりやり押させられたりしたらそれまでだし。守ってもらうにしても、俺はお前達をまだよく知らない」

 官は絶句する。その表情に浮かぶ、様々な葛藤。それを全て押し殺し、官は平伏した。

「出過ぎた事を申しました。確かに、主上はまだ幼けなく、我らも信を得ていません。いえ、試されているというのに、獣相手に主上のご威光を借りようとするなど馬鹿げた願いでありました」

「まあ、王になる為の障害が無かったとしても、現状で王になるのは嫌だな。期待してる」

「は」

 さて、甘味も無くなった事だし、紐を結ぶ練習でもしようかね。
 ……ごめん。俺がいるのに偽王が立つってわけがわからないよ。紐が結べるからどうしたっていうんだ。


【現官が偽王を立てました。旧官達が策動しています……】

「獣と評した主上のお言葉、良くわかった……!」

「信じられん……。仙人なのに話が通じないとか、考えもしなかった」

「そもそも、罪を突き付けても罪と理解出来ない事がありえない……。現在の法令を学びたいからどこにあると聞いたら、どこだっけと言われたのだぞ。見ろ、この埃を被った巻き物を」

「あのような中でご成長遊ばした主上の苦労が偲ばれる……」

「私は最近おかしいのです。王になるのを断る事は大罪のはずなのに、今となっては主上が正しいのではと……」

「しっかりしろ! 主上には、なんとしても登極して頂かねば。こうしている間にも、民が苦しんでいるのだ。民の為命を掛ける官もいるのだと、ご理解して頂かなくては」

「いやー、あんなのしか舜にいないと思っていたなら、私も王になるのを拒否しますな。いえ、他人事ではないのはわかっていますが……。何か実感がわかなくて……ここは舜じゃなくて別の国なのでは、と……」

「あの者達とは、住んでいる世界の法則が違うようです。正当な方法が一切通じないならば、内乱で総入れ替えするしかないのでは」

「冬器を仕入れるのに時間が掛かっている。しびれを切らして主上に即位を迫る一派と、10歳までお待ちせよという一派が内乱を起こしそうなのだ。極秘で手に入る冬器の数には限りがあるし、全ての州と王宮の全ての派閥で冬器を集めている為、額が高騰している。現官共が吸っていた雁の援助が主上のご指摘で渡り、息を吹き返したのだろう」

「息を吹き返したというより、足掻けるうちに、最後の力を振り絞っているのでは。もちろん、利用するのでしょうな」

「当たり前だ。だが、その際に我らも纏めて殺される事の無いよう、準備が必要だ。なにより、彼らと話が通じるのか、調べてみなくてはならない。お待ちせよという一派なら、まず話が通じるかと思うが……。現官という例があるからな……。州候の方も、期待はしない方が良い」

「出来るだけ、無辜の民の血が流れぬようにしなくては」

「すみません、どうしてもわからないのですが、誰か計閃が紐を結べたからなんだというのか、おわかりでしょうか」

 官達は、揃って首を振った。

【新たな派閥が誕生しました。即位派が策動しています……】

「もう待てぬ。雁が援助してくれて多少は助かったが、このままでは英正様のご成人を待たずして滅びてしまう! なんとしても即位してもらうのだ。英正様に政治が出来なくとも、官が政治を行えばよいのだ!」

「昨日……息子が妖魔に食われて……!」

「大罪である事はわかっている。英正様を王にした後、私は腹を切ろう。なんとしても、英正様を王に!」

「どうか、英正様……この国を御救い下さい……」

「このような状況であるのに、税が高すぎる。国はなにをしているのか」

「王母の墓の建設の為の人を徴収するだと!? そんな余裕あるか!」

「何、王宮からの使者だと……もしや、即位関係か? すぐに通せ!」

【志気が上がっています。方針:粛清が決まりました。 調査を開始します】




【新たな派閥が誕生しました。時期を待つ派が策動しています……】

「気持ちはわかる、気持ちはわかるが、三歳に政治は無理だ……! 英正様以外に、この国に候補はいないというではないか。ならば、英正様には新たな王候補が現れるまで、王であり続けて頂かねばならないのだ」

「王の儀式が、そもそも出来ぬだろう」

「しかし、民は困窮しています。この上、兵をあげるなど、負担が……英正様の登極、喜ばしい事ではないですか。舜にもはや体力はありません」

「わかっている。しかし、永遠に三才のお身体など……すまぬな、皆。だが、私は英正様につく」

「ならば、ついていきましょう。私も王のお役に立ちたい」

「王宮からの使者が……もしや、我らに助けを求めているのか? すぐに通せ!」


【志気が上がっています。方針:救出が決まりました。 調査を開始します】





[27623] 一章最終話 信じられるか? この議論って、命掛かってるんだぜ……
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/05/18 22:40
【各派閥が策動しています……。各派閥が策動しています……】
【決戦の日が確定されました!】
【各派閥が決戦に向けて準備をしています】
【旧官派の情報戦勝利! 現官の作戦を入手いたしました】
【旧官が精神的な大ダメージを負いました!】
【州候が軒並み失神しました!】
【各派閥が策動しています……。各派閥が策動しています……】

 その日、俺も呼ばれた朝議が始まった。玉座に父上がどっかと座り、旧官はそれを無視して俺を大切に抱っこする。
 冢宰が、口火を切った。

「本日の議題は、罪人共の処刑です。旧官共は、やはり罪人。罪人は罰せられなければならないという主上のご主張通り、罰するべきです」

「既に官達は罰を受けている。同じ罪に対して、二度罰を受けろというのか。そして俺は正当に朝議を通して彼らを解放したはずだが」

「主上はまだ幼けないのです。政治をおわかりではありません」

 自分に都合のいい事は貴方の言う通り、悪い事は幼けない、か。

「英正よ、お前はまだ幼い。だから、俺が代わりに即位して王としての仕事をしてやろう。お前は安心して登極するがいい」

 ギリギリ、俺が登極しないといけないという事はわかっているようである。

「登極には俺もついていってやる」

 わかっていなかった。
 さっと見て見ると、現官は生き生きとしており、旧官はぐったりとして力が無い。
 それでも、俺は俺の身の安全の確約を貰っていた。
 勝ちますという、言葉を貰っていた。ならば、俺は信じよう。

「では、採決を! 旧官を処刑するという者は立て!」

 立った官は大勢いた。しかし、いまだ平伏している官の方がずっと多い。
 そう、現官<<旧官なのである。幾多の王朝から捨てられた者達の総数で、ほぼ総入れ替えのような物が起こった事もあるから、数が多いのは当然だ。
 事前に調べようとするまでも無く当たり前のことであり、俺はそんな作戦をとった現官に酷く驚いた。旧官の死んだ目にも納得できる。

「賛成多数で、この法案は……」

「阿呆か。立っている官と座っている官を数えてみろ」

 言われて冢宰は数を数えて行く。それに従って、顔色は蒼くなっていった。
 元冢宰が立ちあがる。

「合議ではなく、いきなりの採決で決めるというのも驚きですが。しかし、どうやらこれがこの時代の主流の様子。ならばそれに従いましょう。主上を虐待せし現官と逆族計閃に死を。賛成の者は立て」

 多くの官が立ちあがった。その中には、顔色を青くした現官もいる。あいつはまあ、まともな方だったな。積極派の長だ。

「今のなーし!」

 子供のような言葉に、旧官達がぽかーんとする。

「け、計閃様。主上のお父上として、処断を」

 その言葉で、父上と俺は動いた。

「う、うむ。大逆を図るとはいい度胸だ、主上の父として旧官を処刑する事を命じる!」

「次期王として、俺を除く俺の一族全てと、全ての現官と、牢に入っていた者でも前王崩御以降からの登用をされた全ての官を捕え、秋官より厳しい精査をする事を命ずる。抵抗する者は切っても良い」

 そして、部屋に雪崩れ込もうとする兵士。それを止める兵士。
 現官が用意した兵と旧官が用意した兵が戦っているのだ。
 出口は一つしかない為、官が逃げ惑う。

「え、英正! こ、これはどうした事だ!」

 父上が慌てて私に問いかける。

「何って、内乱ですよ。負けた方の勢力が殺されるのです」

「すぐにやめさせよ! そして旧官を処刑させるのだ!」

 俊麒は俺の傍に立っている。そして、父上が俺に手を伸ばし、指令と呼ばれた夏官が武器を振るう前に、本物の指令に食われていた。

「どういう風の吹きまわしだ?」

「次期王と、仰ってくださいました。契約して下さるのですね」

 少し血で蒼褪めながらも、呆れるほどに華やかな笑み。

「言葉のあやだ。だが、すぐにわかるだろう。俺の命を掛けるに足るものか。見ろ、あの兵を。アレは恐らく下界の兵だ。服装が違う。なんと傷だらけの鎧なのだ……。なにより、気迫が違う」

 その兵士は、叫ぶ。

「馬鹿めが、馬鹿めが、馬鹿めが! ぬくぬくとした妖魔の来ない王宮での暮らしは、さぞ楽しかったのであろうな!」

「主上を虐待していただと!? 主上が舜を憎み、即位を渋っているだと!? 舜には時間が無いのに!」

「数も数えられない官共の、ままごとの政治! 笑わせる! ……絶対に許さん!」

「雁から毎年援助が来ていたとはどういう事だ! 娘は飢え死にしたのだぞ」

「我らは、妖魔に苦しみ、天災に苦しみ、飢えに苦しみ……! 我らの苦しみ、思い知れ!」

「主上の命を守るのだ!」

 戦いは数時間に及んだ。
 兵士が、次々と官吏を捕縛している。兵士に官吏の区別はつかないらしく、とりあえず全員だ。
 俺を守護していた官だけが拘束を許され、俺の前に兵士達が平伏した。
 ん? 気のせいか、俺に平伏するリーダーらしき者の数が州候と同じ数だな。

「我ら、舜国の余州八州の軍と州候が、主上の救出に馳せ参じました」

「事情はお聞きしました。主上のお苦しみに気付かず、申し訳ありません」

「主上、どうか即位を! 確かにこの獣共は、主上の登極を私腹を肥やす程度にしか考えていなかったかもしれません。しかし、このように獣共は駆逐されました。主上が即位されれば、民の命が救われるのです。我ら、身命を賭して主上と共に民を守り導いて参りました。主上がこの首刎ねれば即位なさるというなら、今この場で国の為に命を捨てましょう。民の為、命を掛けるのは主上だけではないのです。どうか……!」

「主上、武官として連れていかれるというのなら、我らも共に行き、お守りしましょう。守れなかった暁には首をはねても構いません。たった十年だけの安寧かもしれない。それでも、そのたった十年が舜には必要なのです」

「主上!」

「主上!」

 俺は、ため息を吐く。

「俺はまだ小さいから、十分に政治が出来ないかもしれない。それでも、俺は実権を渡しはしないぞ」

「当然です」

「主上……彼らの思いは、主上の魂を掛けるに足るものですか?」

 ああ、余裕たっぷりの俊麒が憎らしい。

「そう……だな、まあ、大粛清までしておいて、逃げられはしないな。ただし、儀式が出来るようになってからだ」

 俺は苦笑する。
 州候達は、自らやってきて、命を掛けた。彼らの中には軽くない怪我をしている者もいる。彼らの覚悟が、俺の覚悟となるだろう。
 ……あとは、精一杯生きるだけだ。勇者業に対する情報が、チート能力以外全くと言っていいほどないのが痛い所だが、もしかして他の者を連れて行く事が出来るかもしれないのだし。
 精一杯、生きよう。
 そして、内乱は終わった。
 数えで五歳となる日、俺は全ての儀式を恙無く行えるようになり、吉日を選んで登極する事になる。










書きたい事と大筋はこれと嘘エピで大体終わっていますし、後は蛇足というか、崩れて行くだけだと思いますので、それが嫌な方はここでさようならです。今まで作品をご覧いただき、ありがとうございました。
どんだけぐだぐだになろうと構わないという方は、もう少しお付き合いください。



[27623] 二章一話 もう貴方が玉座にいてくれるだけでいいです。
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/05/18 22:41
 とにかく官達を牢に引っ立てようとする州候に、かれらは牢に入れず、まず部屋に閉じ込めるように命ずる。牢で永き時を過ごした旧官の心の傷はまだ癒えていないからと。
 官達は次々と判別され、より分けられていく。
 さて、次に問題が出てくる。
 それは、旧官達の誰をどの役職に据えるかである。
 政争の本番は、今から始まる。問題外の奴らを排除すればいいだけの今までと違い、何人もの候補から有能な者を選び、巧妙に不正を行う者を除かなければならない。
 ああ、幹善も呼び戻さなくてはな。
 禁軍が敵側に回っていたのには、ため息をつかざるを得ない。
 不審者を撃退していただのなんだの、言い訳をしているがそれが通じると思っているのだろうか。
とりあえず、元冢宰共に人材配置のプランを練らせて、それを選ぶという事にしよう。大きな問題が起きたら、他の冢宰に任せる事として……。
州候に聞いた所、人材を育てる余裕が無く、次々と妖魔に官吏が襲われ、人材が不足しているという。それにも、旧官を充てる事としよう。

「という事で、人材配置のプランを頼む。それとも、お前達の間でどうするか決まっているか?」

「話しあってはいましたが、難航しておりました。それぞれ、人材配置のおおよその計画は出来ております。完璧な物を、となるとさすがにまだ出来ておりませぬが」

 おお、さすが旧官は現官とは違うな。

「では、全ての冢宰に登用を決められた者はそのまま登用する。他の冢宰とどのあたりが違うのか、説明を頼む。選ばれなかった官も、不正を行わない限りは見捨てる真似はしない。勝手に仙籍を外したり、野に放ったりはするな。ただし、妖魔溢れる州に赴任させるなど、きつい仕事は頼ませてもらうし、政争で僻地に飛ばすのは許可する。重ね重ね言うが、母上の時のような暗殺は、俺の味方には行うな」

「御意にございます。主上に見せられる形に纏める為、一週間ほど時間を頂きたく」

「わかった」

 元冢宰達は忙しそうに散っていき、俺は天官と一緒に儀式の練習である。州候の使いが俺の安全を監視する事になり、縋りつくような必死の視線が痛かったりする。旧官の気遣いは大げさだと思っていたが、州候の使いは更にその上を行っていた。
 俺が、ようやく最も難しい儀式を失敗せずに行えるようになった時だった。
 幹善が、雁の官吏と共にやってきた。

「ああ、良く来た。これから吉日を選び、登極する予定なんだ」

「おめでとうございます、主上」

「おめでとうございます、英正様」

 幹善と雁の官が平伏する。そして、雁の官は優しげに微笑んだ。

「信じておりましたよ。見事政争にご勝利なさったとか。……父母と戦う事になったのは、お気の毒でしたが……」

「父母のように俺を大事にしてくれる官吏が現れたのだ。問題はない。援助を行ってくれた事、幹善を匿ってくれた事、嬉しく思う」

「俊麒にも頼まれておりましたからね。それに、官も英正様の事を孫のように感じておりますよ。十歳になるまでの無償援助を勝ち取って参りました」

「いつか必ず返す、と言えないのが辛い所だな。十年しか持たないからな……。ありがとうございます」

 深々と礼をすると、官は穏やかな笑みを浮かべて言った。

「それでも、予感がするのです。この国はきっと大丈夫だと」

「ご期待に添えるようにしよう」

 その後、雁の官吏は少しばかり話して、帰って行った。
 さて、幹善である。

「幹善、幹善、獣化獣化」

「はい」

 幹善は微笑み、鳥の姿になる。うわーもふもふー。
 満面の笑みで毛皮に顔を埋める俺に、旧官が聞く。

「主上は、半獣がお好きですか」

「もふもふとしていて、愛らしくて、大好きだ。国が安定したら、半獣の街を作ろう。俺の治世で、半獣差別は撤廃するぞ。獣人街では、半獣は絶対に人の姿を取ってはならず、街以外に住んではならず、街に来た子供の遊び相手をしなくてはならぬのだ。そうだ、有料で派遣もしよう」

「かつてない獣人差別になりそ……いやいや、素晴らしいお考えです。しかし、主上の幼けない所を初めて見た気がいたします」

「今の時代の海客は半獣好きだと思うよ。あちらでは半獣はないが、大きな愛らしい動物の形に縫った布の中に人が入り、あたかも半獣のように動かして子供達を喜ばせるのだ。……半獣の毛皮で作るなよ? 毛皮は、生きている方がもふもふして気持ち良いのだ」

「なるほど、蓬莱の文化ですか。そういえば延王も半獣を差別されないとか」

「うむ。半獣は可愛い。可愛いは正義だ。特に熊が良いな。そんな餌に釣られクマ―!」

 そう言う俺を、官は微笑ましげに見守っていた。
 一週間後、冢宰が書簡を持ってきた。彼らなりに、色を出してみたらしい。
 まず、武官中心、文官中心等の方針を持ちだされる。

「武官中心と言うが、禁軍が寝返っていた以上、一番信用出来る官の率が低いのが武官かと思うが。あいつら州候に負けたし」

「もちろん、官は入れ替えております」

「んー……。でも、武官って牢屋にもそれほどいなかったし、挿げ替えるにしたって限度があるだろ。そっち方面で特色出すと、代わりがいくらでもいるって脅しも効かないしな。とりあえずは足場固めを頑張って欲しいと俺は思うのだが」

「それではこちらの案はいかがですか。文官で固めております。法についてはもっともしっかりしている時代の官を集めました」

おお。確かに、冢宰一人につき案一つとは言って無かったな。

「うーん、ゼロから法を作るのと同じような状況だし、難しい法は理解されないと思うが。一からやっていけるのか?」

「お任せ下さい」

「主上、私の案もお聞きください。私が力を入れましたのは……」

 結局、さらに二週間ほど掛かり、案に修正を加えて新たな役職が決まった。
 少しどころではなく時間が押してしまったので、契約した後、麒麟に乗って急いで蓬山へ向かう。
 登極の為には、登る度に契約を刻まれる階段を登らなくてはならない。
 一歩、階段に足を掛けた。電流が走り、パソコンが勝手に立ち上がる。
――インストールを開始します。
俺は不安に思って俊麒を見る。

「どうしましたか、主上。さあ、参りましょう」

 笑みを浮かべて俊麒は言う。
 大丈夫なのか、本当に。システムエラー起こしたらどうしよう。しかし、もはや後戻りはできない。滅んだらごめん、舜極国よ。
 俺は階段を上って行く。インストールが進んでいく。
 おいおいおいおい、大丈夫なのかよ。
 不安は増していくが、まさか俊麒が頼りになるはずもない。
 俺は腹をくくって階段を上り、祠で誓いの言葉を述べた。
 帰ってくると、そのまま即位の儀式に雪崩れ込んだ。一刻も早く即位をして頂きたい、との事だったのだ。
 インストールの後は何故か勝手に最適化が始まり、非常に不安だったが、それを表には出さなかった。
 雁の官は当然駆けつけて来てくれたし、延王も来てくれた。
 恭からは激励の言葉が届けられ、奏からは利広が、巧からは塙王が直接祝いの言葉を述べに来てくれた。
 そして俺は、玉座へと座る。

――王システム、起動します。

 俺が玉座に座った途端、玉座が発光する。
 
「国氏が!」

 官の一人が叫んだ。

「なんだ、あの模様は……!?」

「あれは、六芒星だと!? 国氏の読みは変わらぬはず……馬鹿な!」

 延王が叫ぶ。俺の意識は薄く広く広がり、あるいは舜の大地そのものであり、あるいは舜の旅人であり、そして……勇者であった。
 俺は、勇者っぽい服装で、武器を構えていた。
 体があってないような俺に、小さい体は関係ないらしく、あちこちの俺が、目の前にいる妖魔を切る。
 里木に実が生り、ひとりでに落ち、零れおちた種が成長してゆく。
 それと共に、宮殿では発光した玉座に近付けず、俺を助けようと右往左往しているのがわかる。
 丸一日立って、舜全土ににわか雨が降り、その後暖かい日差しと虹が輝いたのを最後に、ようやく光が収まり、俺は玉座から助け出され、そこからの記憶はない。
 結局、俺は三日ほど眠っていたらしく、官達は俺が目を覚ますと酷くほっとした様子を見せた。
 そして、朝議に顔を出すと、皆床に体全体を擦り付けんばかりに俺に平伏していた。
 な、なんか緊張感が今までと段違いなんだが。
 あ、玉座が本当に六芒星だ。名乗る時どうしようかね。



[27623] 二話 あ、王システム試すの忘れた
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/05/18 22:42
【新王登極の噂が広まっています……。民衆が噂しています】

「王様ってのはまだ五歳でいらっしゃるんだろ? 政治が出来るのかね」

「虐待されてたってどういう事なのかね」

「王様がいて、それで何が変わるっていうんだい? 州候様は、王様が必要だっていうけど……。兵をあげる程だったのかねぇ」

「これ以上悪くなるんじゃなかろうね」

「わたしは王様、歓迎するわ。少しでも良くなるなら、良くなって欲しい」

「雁の援助は、新しい新王様の為って話だよ。少なくとも、雁から援助が貰える分だけいいんじゃないかい」

 井戸端会議のさなか、兵が叫ぶ。

「また妖魔が現れたぞ!」

 悲鳴。そして現れる、半透明の高級な襤褸というちぐはぐな服を着た幼児。

「なんだあれは、新しい妖魔か!?」

「主上! なぜこのような所に!? その服は一体……」

 兵が叫んだので、民は皆驚いた。
 そして幼児は、手に持った輪になった刃を投げる。妖魔が倒され、幼児は消える。

「おい! 里木がおかしいぞ!」

 里木に何かあるはずもないが、それでも万が一があったら大変だ。皆が走ると、里木に急速に実が生り、落ち、実が割れ、そこから種が、小さな動物が溢れで、成長していった。
 人々は思わず腰を抜かす。

「こ、こりゃ一体何だ……!」

 怪しくてしょうがないが、彼らは皆、飢えていた。
 そして、その日の民の食卓は豊かな物となった。
 その奇跡は、各地で起こった。
 ほとんど壊滅し、妖魔の徘徊する村、飢えて死を覚悟し、ただ里木の下に座っていた多くの民は、それで息を吹き返し、夢中になって貪った後はその奇跡がなんなのかと噂しあった。
 すぐに、原因は州候が教えてくれた。
 ――新王が奇跡を起こして下さったのだ。
 王とは、こんなにも素晴らしいものだったのか。いや、他の王にはこのような力はないという。英正様は、最も優れた王なのだ。
 民は、挙って新王の事を知りたがり、州候は新王の事を語って聞かせる。
 曰く、主上は蓬莱の仙であり、西王母様からもっとも強い神通力を持つ王になると言われていた。
 曰く、物心つかぬ時から、現官共の企みを看破する優れた御方だった。
 曰く、無実の罪で牢に閉じ込められし官達を開放し、良く使っている。
 曰く、苛烈な所もあるが、奸臣共を一網打尽にする時、旧官が怯えるだろうから牢に入れず、部屋に閉じ込めよという優しさも備えている。
 曰く、幼けない所が一つだけあり、半獣に抱きつくのがとても好きである。
 民はそのような言葉にもっともらしく頷き、そして王を喜ばせるため、半獣に出仕してもらう事とした。恵みがあったとはいえ、口減らしは必要なほど食料が足りていなかったのだ。
 後に、半獣は産まれるととても喜ばれる事となる。(そして王に献上される)
 
【民としては、新王即位に賛成する!!!】

 そんなわけで、民は一度で王を受け入れた。失道したら? まさか、民も五才の幼児が政治を行っているとは思わない。周囲の官が専横を働いているに決まっているから、もういちど救出すればいいだけである。こうして、かつてない程の信頼を英正が手に入れると同時に、官吏を見る目は些か厳しくなったのだった。現官の噂が広まっていたから、なおさらである。






 とりあえず、王様が玉座に座らないというのは不味いだろう。まあ、また気絶したら気絶したで助け出して貰えばいいだけだし。俺は玉座に座った。
 官の体がぴくりと震える。

――王システム、玉座に接続します。

 そして何やら色々と表示される。うん、善政を敷くとMP上がって色々出来るのな。
 うん、それは今はいいんだ。まずは一昨日……いや、五日前に入力したデータを……。

――辞書を開く為にはメモリが足りません。

 なんですと。俺は急いで確認する。げっ王システムってこんな重いのか!? 俺の小さいパソコンじゃ動いてるのが奇跡みたいじゃねーか!
 とりあえず、閉じろ閉じろ!

 ――王システムは閉じられません。

 ウィルスかよ……。

「困った。朝議だが、少し俺に問題が出来た」

 そうして玉座からおりると、王システムが待機モードになり、メモリに余裕が出来た。でもちょっときつい。動作が鈍くなってる。いらねーデータ消すしかねーな。とりあえず、とてもじゃないが画像データ抱えてる余裕が無い。官の顔データ消去。あのまま気絶した理由は、単純に処理落ちだな……。

「な、何なのですか!?」

「今まで、俺の記憶力は良かったろう。それは、そのような術が俺に仕込んであるからだ」

「それが、どういたしましたか」

「天啓に使われてる術が大きすぎて、その術を行っている余裕が無くなった。何と言ったらいいのかな……。机という作業場があって、今までそこにノートとか置けていたのに、でっかい王の為の書がその上にのっちゃって他に何も出来ない状態というか。特に玉座に座ると駄目だ。特に顔の映像は消さないとやばい。でも、それだと俺が官を見分けられなくなる」

「恐れながら……王とは、天啓が全てでは?」

「善政しかないと維持できないんだよ。初めのあれは今まで溜まってた力が一気に解放されたんだな。もう空だ。そういうわけで、能力下がるからよろしく頼む。朝議は立ってやる。それとは別に玉座にも毎日座らんと駄目みたいだな。で、来賓客はどうした。王もいらっしゃっていたからな。それが一番大事だ」

「はっ」

そして、俺は仕事を始めた。うー、頭が重いよ。こんなにパソコンフル回転させた事なんて無かったからな……。壊れない……よな?
 そして俺は、仕事を始めた。まずは現状確認と、俺が気絶した事によって発生した問題の解決。そして、儀式の再開だ。この国は、儀式しないと国が回らんからな。どんな理由があろうと、儀式はちゃんとやらないといかん。
 忙しくなるな……。王システムは後で使い方じっくり調べよう。
 一つ一つ案件を片付けていく。各王にはお詫びとお礼を。とりあえず、国氏については俊王、俊麒でよし。どうしても正式な記述が必要な時だけ六芒星表記で。最も面倒なのは、法に照らし合わせても罪が無い官だった。首謀者はともかく、他の流されるだけの官については、さすがに馬鹿すぎるから処刑という法はないのである。そもそも、本来ならば馬鹿が官吏になる事はないのだから。どうやら、失道の折り、前王が戯れに平民を多く官に引き入れたらしい。そして失道後、縁故による雇用が大半をしめてしまったというわけだ。アホすぎて泣きたい。

「彼らについては、そもそも官吏の試験を受けていないという頃で、放逐しても問題ないでしょう」

「それでいいのか? 今は妖魔もいないし……」

「現官は憎まれておりますゆえ」

 その一言に納得する。私刑が行われるって事ね。こわっ。まあ、その案採用するけどさ。頑張れ現官。最後のチャンスとして、追放前に試験は受けさせてあげよう。絶っっっっっ対受かるとは思えんがな。

「主上、そのような手はあまり……」

「国が荒れるとお前も死ぬぞ」

「国の大事なので、多少汚い手も仕方ないのでしょうね」

これで良いのか麒麟。お前やっぱ麒麟じゃねーよ。二重の意味で気分が落ち込んだ所で、官が俺への贈り物が民から届いていると言ったので持ってきてもらう。
 クマだった。もう一度言おう。クマだった。大切な事だから三回目。クマだった。

「そんな餌には釣られクマ―!」

 ててててて、と走ってクマに抱きつく。小熊小熊!

「喜んでいただけたようで何よりです。民も喜んでいる事でしょう。この者は、これより主上の遊び相手を務めます」

「うむ! 良きにはからえ!」

「元気になって下さったようで良かった。甘味をお持ちしましょう」

「ああ、頭を使っているからか凄く食べたい」

 官は微笑ましそうに笑い、クマは必死に甘味に手を伸ばす。それをじらすのがまた面白い。その後、二人で美味しく甘味を頂いた。

「そうだ。雁からの援助、二年で断るからな。んで、代金ちゃんと払うからな。今までの援助の分も」

「それはようございます。さすが主上、二年で国を立てなおすとは」

「お前達がやるんだ。出来るだろ?」

 官は、平伏した。
 夜、クマが母親を慕って泣くに至って、ようやくクマが貢物兼口減らしで連れて来られたと知った。
 俺って最低だ。
 ……。
 ……。
 ……。
 ならば、俺が全半獣の父になる! 全員問答無用で幸せにしてしまえば問題なかろう!
 ふう、という事でクマよ、お前は安心して寝るのだ。
 結局、蜂蜜やってごまかした。可愛いクマである。




[27623] 三話 なんだかんだで獣人が巧から届いた。ありがとう!
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/05/18 22:43
「しゅじょー! しゅじょー!」

 クマの呼び声で目が覚める。

「朝です、しゅじょー!」

「ん、ああ。さっさと食事を済ませて朝議に行かねばな」

 クマにしっかり抱きついた後、着替えて準備をする。
 クマは食事に目を輝かせている。まだ上手く食事出来ないらしく、手づかみで食事するが可愛らしいので俺は全く気にしない。
 俺も食事を食べ、朝議へと出た。
 案件を片付けた後、玉座に座って王システムを調べる。
 んー。
 おーけー、わかった。つまり現段階で妖魔も天変地異も起こらないようにするのは不可能……!
 ただし災害や妖魔のバランス調整は出来ますぜ。そんな所か。
 ……これって、ある意味普通の王様よりきつくないか?
 とりあえず、俺の一存だと決定できないので、旧官共を呼ぶ。
 俺が説明すると、官吏たちはざわめいた。

「つまり、災害地域を選べというのですか!」

「色々制限とかあるが、そういう事だな。選択出来るプランを説明するから、紙を持って来い」

 俺が出した計画に、皆ざわめいた。

「これは……災害を起こらぬようにできぬのですか」

「善政ポイント稼がないと駄目。まあ、すぐには溜まらないだろうな。とりあえず、妖魔を防ぐ結界を張るのに1000ポイント必要だ。一番弱い奴でな。今10ポイント。民が俺の即位を喜んでくれたみたいだし、俺が起こした奇跡で飢え死にを逃れた奴がいるみたいだから」

「あの奇跡がたったの十点だというのですか!」

「国政って大変だよな。まあ、陰陽を整えれば多少マシになると思うけど、それだと俺の負担がきつい」

「しかし、そこを頑張るのが主上では」

「一日くらいならなんとかなるが、毎日は無理」

「主上! 本日の貢物です」

 なんと、そこにいたのはちいちゃな兎だった!
 そんな餌に釣られウサー!
 ……まあ、出来得る限り頑張ってみるけどさ。
 
「利広様がいらっしゃいました」

 あ、そう? それならしょうがないな、お客様が大事大事。……難しい事は後回しにしたいんだよ。
 という事で利広にお茶を出す。

「蓬莱の仙とは、凄いものだね」

「俺も驚いた。まあ、あれは溜まった力が解放されただけで、また溜め直しだけどな。溜める暇もなさそうだが。国は、少々術を使う頻度が多すぎる。何もしなくても相当消費させられる」

「面白い事を言うんだね。父さんからはそんな影響、聞いた事が無かったけど」

「意識していないだけで、国を鎮める要にはなってると思うよ。それに、蓬莱の仙もいいことばかりじゃない」

「へえ?」

「どうしたって、いきなり荒れきった陰陽を整える事なんて出来ない。善政を重ねて力をつけなくては、どうしても妖魔を防ぐ結界は張れない。……でも、犠牲になる場所はある程度選べる」

「……なるほど。それは、ある意味無かった方がいい力だね」

「まあな。州候は皆、命を掛けて俺を救ってくれたから、誰の治める州を、というのは難しい」

「……君は、珠晶……供王よりも小さいのに、随分としっかりしている。確か、政争で一度勝利しているんだよね」

「あの程度。政争はここからが本番だ。これから州候は自分の州を守る為、賄賂でもなんでもつかってくるだろう。いい目印になるはずだ」

「君はリスクの多い策ばかり使うんだね。足元をすくわれるのが怖くないかい?」

「怖いさ。怖いからサクサク朝廷を整えなくては」

「ということは、非道としか思えない半獣政策も、何か理由があるのかな?」

「いや? 俺が失道するとしたら、それが原因だろうな。他で挽回するつもりだし、失道の基準は結構緩いから心配はしてないが」

「若い王というのは、皆君たちみたいに苛烈なのかな……?」

「さあ?」

 そして色々話した後、利広を見送る。
 一ヶ月後、予想通り州候が嘆願に来た。
 誰かが犠牲にならないといけないと言い聞かせる。結構しんどいです。
 災害は妖魔出現を最大限にバランス調節した。
 いきなり傭兵達の仕事がなくなるってぞっとする。
 それと共に、農業を促進する。
 しかし、善政度がわかるって便利。
 何か起こっていたら、すぐわかるのだ。そこら辺の陰陽が荒れるから。
 一年くらいしたら、ぽつぽつと不正が出るようになってきた。
 なので、定期的に俺まで通常上がって来ない、色々な書類をチェックする。
 ……ん?

「何か見つかりましたか」

「手口が現官並。使えないからこれ書いた奴と認可した奴入れ替え。不正はもっとエレガントさが無いと」

「手口が現官並ですと!? えーと、あー、確かに。これはおかしい」

 旧官も不正する。摘発は意外と面倒だが、命が掛かってるからしっかりやらんとな。
 俊麒も失道をちらつかせたら、色々と手伝ってくれるので楽である。
 あいつはもっとも失道を恐れる麒麟だろう。俺達の間に、禅譲して麒麟を次代に……という絆や信頼的な物は存在しない。
 落ち着いてきたし、獣人街も作らないとなー。
 という事で、即位後二年ほどして巧へと移動。
 移動中、王システムがエラー起こしてシャットダウン。
 俺の頭は驚くほどすっきりして、気分爽快になった。
 うん、凄く嫌な予感☆
 なんとか俺が戻るまで持ちこたえてくれ。俺はこのまま休暇取る。
 
「ということで、半獣下さい」

「意味がわからん」

「楽俊で良いよ」

「誰だそれは」

 困ったな、どこまでも平行線だ。
 塙王は俺が気にいらないらしく、きつく睨んでくる。

「……雁や俺が憎いですか?」

「悪いか」

「んー。物事には代償ってものがあるんですよ。延王がどうしてあれだけ優れてるか聞きたいですか?」

 そこで、塙王は興味を持ったらしい。先を促す。

「私は蓬莱の仙だから知っていますが、延王って、蓬莱の王族の出なんですよ。あっちでは、王の息子が次の王になるんです。延王は英才教育を受けた、生まれながらの王でいらっしゃいます。……蓬莱の国は、容易く滅びる。延王のいた国は、他国に攻められて、滅びました。……延王は懸命に民を逃そうとしましたが、民は王を助けようとした。あわや全滅という所で、延台輔は延王だけを御救いになり、この国に連れて来たのです。延王は、特別です。あの方の背負っている物は、違う」

「生まれながらの王だと……? しかし、国を滅ぼすような王があのような大国を作れる物か」

「蓬莱の国は、本当に簡単に滅びます。まして、父が失道しているような状態ならなおさら。……延王は、即位直後でした」

「ならば、お前はなんだというのだ。それだけの犠牲を払っているのか?」

「俺は一六歳で死にますから。国に奇跡を起こしたあの力。あれ、十六で武官として異世界に赴任する為の物なんですね。相当の強敵を倒す為がゆえに、あれほどに強いのです。俺の魂に刻まれているので、赴任は避けられません。俺は数え五歳のこの姿で、戦場に放り出されます。しかも、執政ができなくなるから失道するし。……十年強に限定された奇跡なんですよ」

「…………」

「という事で、獣人下さい。獣人街を作るので」

「獣人街とはなんだ」

 問われたので、俺は事こまかに説明する。

「それは……失道しないのか……?」

 え。塙王に言われるってすごくね? そんなにひどいか俺の政策。止めるつもりはないが。

「そうですね。結構簡単に失道って出来るみたいですしね。俺の場合、武官として得た力と天啓が混ざり合って、国を離れるだけで失道状態になるみたいだし。体は天啓から解放されて羽のように軽いですが」

 控えていた官が、吹いた。

「すすすすす、すぐに舜に戻らなくては!」

「阿呆かお前は! すぐ帰れ!」

 なんと。塙王が優しい。まだ精神的に余裕があるのだろうか。
 官に連れ戻されながら、俺は塙王に言った。

「五年後、獣人街に遊びに来て下さいね。必ずですよ。必ずですから!」

 この日から、なんか塙王と友達になった。



[27623] 四話 いつの間にやら三馬鹿トリオ
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/05/18 22:45
 五年経って、塙王が約束通り遊びに来てくれた。

「全く、英正が五月蠅いから来たのだぞ。まったく、下らんな!」

 塙王はそう文句を言いながら、獣人街のチケットを購入し、頭に猫耳を装着する。
 ちなみに、チケットを購入したら動物耳を装着するのは決まりである。
 俺はクマ耳を装着し、塙王を奥の方へと案内した。

「蓬莱のお菓子だと!? 汚らわしい!」

「まあまあ、ここは俺に免じて、食べて見てくれ。わざわざこの日に間に合わせて、新しい植物を生み出してまで作ったものだし。キャラメルポップコーンがお勧め」

「甘い!」

 ぼりぼりとポップコーンを食べて、トロッコと観覧車に乗る。妖獣には乗り慣れているから、それはスル―。
 安全管理には苦労した。念の為、空行師と医者が常に詰めている。もちろん、僻地扱いである。政争に敗れた奴がここに来る。

「おお!? おお――――――――!」

 トロッコに乗って叫び声をあげる塙王。塙麟がはらはらと見守っている。
 それに観覧車。
 残念ながら、舜の技術力で再現可能だったのはこれだけだ。俺も仕組み知らないし。
 むしろ、トロッコ……ジェットコースターもどきと観覧車を再現しただけでも大した物だ。
 それに乗った後は、少し早いが劇場に行く。ちなみに役者は政争で敗れた官達。仙じゃないと言葉がわからない人がいるからね。人生って厳しい。ちなみに、海客や山客が遠路はるばる働きに来たりもして、獣人街は、なんだ……マイナー。そう、マイナーな人達と観光客の溜まり場と化している。
 ちょうど、「俊王登極物語」の途中からだった。
 塙王のお目当ては、この後のミュージカル、「最低系オリ主伝説」とその後の「魔法王族マモル・マギカ」である。
 いや、俺はちゃんと良作も教えたよ? 魔法少女まどか・マギカも教えてあるよ? でも塙王がこれが見たいって言うんだもん!
 俺達が席につくと、ちょうどクライマックスで、冢宰役が声を張り上げる。

「では、多数決で決めようではないか! 皆も一緒に数えるがいい!」

 ちびっこ達が、ばかだー、あほだーと言っているのをかき消すように、冢宰役が再度声を上げる。

「いーち!」

 現官と旧官が手をつなぎ、繋いだ手をあげる。どちらが多いか数えているのである。
 ちびっこ達も一緒に数える。

「に―!」

 二組目が手をあげる。現官は二人だけ。

「さーん!」

 三組目で旧官だけが手をあげる。

「ほら、現官の方が多いぞ!」

 ここで、元冢宰がハリセンでぱこん!

「な、何をする!」

「よく見ろ!」

「な、なんだってー!? も、もう一回だ!」

 そしてまたカウントが始まる。

「いーち!」

 現官と旧官が手をつなぎ、繋いだ手をあげる。どちらが多いか数えているのである。
 ちびっこ達も一緒に数える。

「に―!」

 二組目が手をあげる。ここで、一組目の現官が手を振り払い、三組目へと走った。

「さーん!」

 三組目で一組目の現官と三人目の旧官が手をあげる。
 ここで、元冢宰がハリセンでぱこん!

「な、何をする!」

「いや、同じ奴が二回カウントしてるだろ!」

「いかんのか!?」

 元冢宰のハリセンが唸る!

「ぬぬぬ……今のなーし! さあ、計閃様、ご命令を!」

「禁軍よ、旧官を捕えよ!」

「心正しき者よ、現官を捕えよ!」

 ここで、官に扮した役者は下がり、州候と書かれた服を着た州候役の役者や禁軍役の役者が華麗に戦って見せる。
 そして、華麗な技で見せつつも、禁軍と州候のボケ突っ込みが唸る!

「これ、本当にあったのではあるまいな?」

 塙王の指摘に、俺は大体合ってると答え、州候を応援する。
 俺は大いに笑い、塙王は頬を引き攣らせた。

「笑い事じゃなかろう」

「笑うしかないでしょう」

「……こんなことなら、もう少し早く来ればよかったな。もっと見たい」

「明日、帰る前にご覧になっては? 午前と午後の二回やっておりますので」

「そうするか」

 そして最低系オリ主伝説が始まる。この頃には、子供は大挙して外へ行き、代わりにぽつぽつと大きなお友達が集まってきていた。
















 死んだ。











 そして踊るな塙王。



















 塙王はどうしてそんなに楽しそうにしていられるの……。恐ろしいな。いや、脚本考えたの俺なんだけどさ。
 
「にこぽとかなでぽとか、実際にはないから。やるなよ。絶対にやるなよ」

「それはぜひやれというフラグ!」

「自分の年を思い出せ」

 さて次は、魔法王族マモル・マギカだ。これは魔法十二国界で、魔法王族が食中毒で全員死んでしまい、魔法麒麟にそれぞれ召喚された6人の海客と山客と一人の十二国人という設定だ。
 彼らは、王族になる契約を持ちかけられ、初めは単純に喜ぶ。
 しかし、話が進むに従って現れる王族の厳しい掟。失道すると、天災を起こす祟り神となってしまうのだ!
 叶えられた望み。危険な昇山、そして、官との争い。
 次々と失道、禅譲、暗殺で倒れていく仲間達。最後の契約者、マモルの選択やいかに。十二国人の時間逆行もあるよ! という天帝に喧嘩売ったお話である。脚本書いたの俺だけど。まあ、これは塙王の為に今日しかやらない題目である。問題はないだろう。

「マモル、ほれ、頑張るのだ!」

 声がしたので見て見たら何故か峯王がいた。
 おもわず周囲を見回すと、うわ、延王、なんですかあの小さい女の子は、嫌な予感がビンビン。
 当たり前のように利広いるし。
 ……これ以上は怖いから見回すのをやめよう。
 劇の合間に、いらん事に塙王が峯王を呼んだ。

「おい、仲韃。こっちだ」

「おお、白栄。そこにいたか」

 え、知り合い? つーか俺より親しそう?

「知り合いなのか。知らなかった……」

「知らないも何も。俊王から借りた本を月渓に貸して、ビリビリに破かれて燃やされて以来、つれなくなったろう。なので、塙王に頼んで仲介して本とか届けてもらっていたのだ」

 ごめん月渓。そういえば貸したな。ホーリーブラウニーに毒をたっぷり入れた十二国版を。ちなみに落ちは必ず失道か暗殺。いや、峯王が頭柔らかくなるといーなーと思って。月渓の事を聞いて、さすがにやり過ぎたと思って自重するようにしたのだが。
 塙王にだけ、俺は積極的に接触し、馬鹿な知識を積極的に流すようにしていた。
 下手に介入してもっと悪くなるのも嫌だしこれ以上悪くならなそうな倒れ方だけ防げばよかろうと思って。峯王は、訪ねて来たついでの猫パンチのつもりだったのだ。
 塙王に渡した多数の教育の悪い本の事を思い出す。
 ……峯王が清廉潔白で玉座につけたのなら失道確定だな。

「塙王、他にも今回の劇の事言った?」

「いや、峯王は知っていたぞ。結構大々的に宣伝していたではないか。獣人街の人買い兼宣伝隊は十二国全てに来ているし」

 王様が知るって相当だな。
 やけに観光客が多いと思ったら、護衛か―。

「そろそろ、パレードの時間だな。出るか」

「席はとってあります」

 その後パレードを見て、夜は王宮に案内する事になった。塙王は勝手知ったる他人の家という感じで、真っ直ぐに書庫に向かう。峯王を連れて。
 あー。やめてー。月渓に殺される―。あー。

 
 その時、カチッと針の音がして、タイマーがまた一日近づいた事を示す。
 タイマーに気付いたのは、王システムを色々といじった時だった。
 それは着実に近づいてくるし、その時が来たらどうなるのかはわからない事だらけだ。
 ……ま、いいか。
 俺は、精一杯生きたい。許す限り、一秒でも長く生きたいし、かくれんぼの訓練もしてる。けれど。楽しい事が全くない状態で死ぬことも許容できない。
 残り時間、後四年。
 四年の寿命分、今日は楽しかった、と思う。
 ……でも、なんとか誤魔化す方法は考えておこう。
 


















追記:峯王との出会いは芳の嘘エピローグまんまなので飛ばしました。



[27623] 五話 国際問題なんてものじゃない
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/05/19 05:48
 チックタック、チックタック。
 チックタック、チックタック。
 ……今日、俺は召喚される。
 不思議と、静かな気分で目覚める事が出来た。

「主上……おはようございます。今日、本当に旅立たれるのですか」

 クマよ、泣くな。わかっていた事だろう?
 俺は、朝議の場へ向かう。
 俺が失道して、新たな麒麟が実るまでの準備の最終確認だ。
 冢宰が、言いづらそうに言った。

「本当に、禅譲はしてはくださらないのですね」

「悪いな。精一杯生きてみるつもりだ」

 俊麒は何か言いたげに、手をぎゅっと握りしめている。
 うん、マジごめん。今回ばかりはそう思う。でもさ、俺も死ぬんだから、お前も死ねよ。
 朝議が終わる。
俺は旅装に着替え、官が纏めてくれた昇山セットを担いでいた。武官がもしかしたらついて行けはしないかと、傍に控えてくれている。州候も、職を次代に託して来てくれていた。延王、六太、利広、峯王、塙王、塙麟も駆けつけてくれていた。
 
「皆、俺の為にありがとう。……もう、時間だ」

「立派なオリ主になって帰ってくるのだぞ」

 塙王が良い、峯王がきつく手を握って来る。
 そうなんだ。これが多分、今生の別れ。
 俺が戻って来れたとしても……。
 結局、塙王はオリ主に傾倒して、コンプレックスを変える事は出来なかった。
 結局、峯王は非道を働いている。
 二人とも、自分の持つ黒いものに気付いて悩んではいるようだった。けれど、結局俺は二人の苦悩を増しただけ。王である事の自信を揺らがせただけ。
俺は、歴史を変えられなかった。
 そして、光が俺を包み……。
 武官が、必死に伸ばした手は俺の体をすり抜けた。

『おおっ来た来た! 勇者よ、よくぞ参った……え? なんで小さいの? 寿命尽きてね?』

 爺の顔を見ると、ほっとする。いいや、認めよう。この人は神だ。そして、俺の寿命がつきたって、死んだって事かな?

「ああっと……記憶を読めますか?」

『読んでも構わんの?』

「その方が説明が楽なので」

 記憶を読ませると、神は笑った。それはもう笑った。
 その後、文句を垂れる。

『何物語を終えてエピローグに入っちゃってんの? こんなに面白い事してたら、次の冒険が楽しく無くなるじゃない! メインじゃなくなるじゃない! ワシ、物凄く笑ったけど、これ以上の展開は提供できんわー。うわー。興ざめ―』

「すみません。あの、用が無いなら返してもらえますか?」

『そりゃもっとつまらん。このままだとお前、数カ月で死ぬし。異世界に来て、麒麟とやらと引き離されたのが原因じゃな。もはやお前は王ではなく、王でないお前の命は尽きている。何より、魔王に襲われておる世界に、わしもう勇者寄こすって言ってしまったがな』

「今の俺に勇者、出来ますか?」

『うーん。そのメモリのちっさじゃ、魔法もあんまり使えんなー。十六で全ての準備が整うようにしておったからな。しかし、ここで成長させるのも芸が無い』

「いくらなんでも、この体で俺単独での勇者は無理です。せめて、メモリをください」

『いいけど、苦しいよ? 仙人の体の今なら、耐えきれはするじゃろうが』

「生き残る事が出来るなら、多少の痛みは構いません」

『その意気やよし! うーん、そうじゃな……』

 神はしばし考える。そして、いい事を思いついたというように言った。

『助っ人を呼ぶくらいなら、よかろ。まっとれ』

 そして神様は、消えた。







 その頃、英正の消えた舜はちょっとした騒ぎになっていた。

「英正様ぁっ」

「俊王!」

「よし、禅譲と同じ状態確認! 幹善様、いえ、主上!」

 そしてさっさと誓約の言葉を唱える俊麒。
 それに一瞬、呆然とする一同。

「いやいやいやいやいや、幹善半獣ではありませんか」

「台輔には英正様を待とうという気が無いのですか!?」

「申し訳ありませんが、私には王など、とても……」

 官と幹善が全力で反対するが、その時雨堤宮が揺れた。
 
「これは、英正様が国を離れた時と同じ!」

「不自然な形で整えていた陰陽が元に戻るのです。新たな王を据えなければ大変な事になる。主上!」

 まさに国を盾に取られる感じでせかされる幹善。
 塙王と峯王が尚隆と六太が信じられぬという顔をする前で、契約はなされた。

『お話すんだ?』

 そこに、一人の老人が現れる。
 武官たちが、とっさに王と麒麟を庇う。
 老人は、三本の短剣を床に投げた。

『英正はあれじゃ勇者が出来んから、三人だけ呼ぶ事としよう。英正の為に戦う勇気のある者は、その短剣で胸を突くが良い。チートオリ主にしてやろう。おお、仙や王や麒麟は向こうに行けば一旦死ぬが、そこら辺はワシに任せて。目的果たせば帰してあげるから』

 驚き、思考が停止する人々。だから、一歩出遅れた。

「塙麟! 巧には、もっと良い王を選ぶが良い。ずっと思っていた。ワシに王は無理だよ」

 塙王が短剣を胸に刺すと同時に、姿を消した。

「ああ! 王気が絶えてしまわれた……!」

「やれやれ、白栄と英正だけでは頼りなかろう。……どうせ私は止まれない」

 そして峯王も短剣を振りあげる。
 王が辞められる。永遠の命を、捨てる事が出来る。延王と利広は視線を交わしあった。
 延麒が、必死に延王に抱きつく。

「なあ、嘘だろ、やめてくれよ、尚隆……!」

「さてな。今、二本短剣が残っていたら考えたろうが。……お前を置いていく事は出来まいよ」

「尚隆……!」

「じゃあ、これは僕が使わせてもらうよ。必ず戻ってくるから、心配しないでと伝えて」

 利広が短剣を振りあげた
 硬直していた官達は、恐ろしさに身をすくませる。

「た……大変だー!!!」

 いまさら騒いでも、もうどうにもなりはしない。禅譲は、なってしまったのだから。



[27623] 六話 16年強待たされればさ、そりゃ侵攻もほぼ完了するって。
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/05/19 12:47
英正視点では好奇心だとか、オリ主マニアだとか言ってますが、実際にはそれぞれの考えはもっと重いです。延王と利広ですら、不死である事から救いを求めている気がします。
失道しそうな王達なら、尚更。そして英正と俊麒は、そんな王達の心を揺さぶる真似をずっとしてきました。だから、きっとこれはまぎれもなく英正のせい。
でも、一番王・麒麟をやめたがっているのは、俊麒だと思います。
物語上舜麒には残ってもらいましたが、嘘エピローグで舜麒バージョン出すかも。
……って書きながら利広を俊麒にしておけばよかったと思い始めてるw





















『……びっくりするほど早かったのぅ。取り返しのつかない程の決断の速さ。さて。全員集まった所で、欲しい能力を言うんじゃ』

「ハイハイハイハイハイハイ、にこぽ! と撫でポ!」

 スパンッと塙王の頭をはたく峯王。

「何をするかもわかっていないのに、勝手に能力を決めるな」

「いやいやいやいや、お前らおかしいだろ。なんでいんの? 国はどうなったの? 神様、なんでこいつら選んじゃったの?」

『自分で来たんじゃよー。わし、武官が来ると思ってたもん。愛されとるのぅ』

 塙王←オリ主マニア
 峯王←失道しかけ
 利広←好奇心
 うん、ごめん。それはない。
 つーか、武官と州候来てくれなかったのかよ。嘘つき嘘つき嘘つき。
 しかし、塙王と峯王は自国が心配じゃ……うん、次の王はもっといい王になるかもと言い訳して、失道覚悟で思いっきり他国の妨害をした塙王と、失道しかけの峯王だからな。むしろ自国の為ぐらいに思っているかもしれない。……舜、大変な事になるだろうな。俺知―らないっと。

「で、国は大丈夫なのか?」

「死んだのと同じ形だ。麒麟は新たな王を選ぶだろう。舜なんて次の王もう決まってるし」

「え。誰? 舜では、次点の王の素質持ちは存在しないって……」

「幹善だ」

 息が、止まった。

「……いつから、だ? 王気は、いつから感じていたんだ?」

 思い出されるのは、俊麒が幹善を庇った事。それをきっかけに、思い当たる事は次々と浮かんでくる。

「あ、あはは。あはははははははははは。酷過ぎる。何が仁の獣だよ。俺は大人になれたんじゃないか。王様業がどれだけ大変だったと思っているんだ。あの日、良く俺に地獄を見せてさも俺のせいだという風に言ってくれたな。王が、他に見つかっていただと? 俺が育つまでの5年で死んだ奴はなんなんだ。そこまでして俺を王にして、奴は待たなかったのか? 一瞬たりとも、待たなかったんだな?」

 俺達の間に絆とか信頼的な物は存在しない。けどさ、最低限の節度はあったんじゃなかったのか?

「あたしって、ほんとバカ」

「意外と余裕ありそうだな、おい」

「ショックだったけど、俊麒が最低なのは今更過ぎる」

「今更だが、英正……もう私達は王ではないのだから、名前呼びでかまわんだろう? ……と麒麟の関係はかなり特殊だな。歴史上初じゃないか?」

「未来に陽子と景麒という後例が。いや、こちらの話です。じゃあ俺、魔法使いするんで誰か前衛お願いします。これから、魔王退治に行くんで。魔王退治って言うのは、妖魔の軍団を率いる妖魔の王を倒すっていうのが一番近いかな。……ってドラクエ読んでたっけ」

『そうじゃな。せっかく四人じゃし、わしはドラクエ風味を希望する! ドラクエと言えば勇者、戦士、僧侶、魔法使い。僧侶っぽい慈愛にあふれた奴は……駄目じゃ、おらんな』

「その代りグレイトな異端審問官が。これはもしやヘルシングのアンデルセン神父の能力フラグ」

「アンデルセン神父って事は私が前衛か。しかし回復は出来なそうなだな」

 お気づきだろうか。塙王と峯王が俺の会話についてきてます。月渓にはなんど尻を叩かれたかわからない。

『一人は決まりじゃな。後の二人はどうする? 英正の戦闘力チートは他に移動したいのじゃが』

「あ、ワシ戦士で構わんぞ。でも特別っぽい戦士が良い。むしろ英正が魔法使いなら、ワシが勇者なのでは」

『了解―』

「じゃあ僕は、地図を作ったり勇者伝説をでっち上げようかな」

「戦わねーのかよ」

「僕は皆と違って生き残らないと。まあ、これが終わったら父さんに好きな時に死ぬ権利を貰うつもりだけどね。……太子を辞めた今なら、それが出来る」

『わかったわかった。そうじゃ。向こうに行っている間、連絡を取りたい者はおるかの』

「いや?」←妻子持ちそして巧の王

「特に」←妻子持ちそして芳の王

「雁の官の皆さんに、俺ら元気で冒険始めました。楽しくやれそうですって伝えといて」←雁ではなく舜の王

「定期的に手紙は出したいなぁ」

『そうか。じゃあ、そこのにーちゃんにだけ、書いた勇者伝説を送付する能力をくれてやろう。ついでに、なんかお前らすぐ死にそうじゃから、召喚獣もプレゼントしてやる。ダメージ肩代わりが便利じゃぞ。じゃ、行くぞ』

 そして神様はチート能力の入った光を俺達に投げ入れる。
 
「いたたたたたたたたたたたたた」

「いたいいたいいたい」

「ぎゃー!」

「くぅ……!」

 俺達は一旦破裂したりして苦しんだ後、どこか神殿っぽい場所の魔法陣の上に倒れていた。

「勇者様……?」

「勇者様は一人のはずでは……?」

 そう言って不安そうに俺達を見守る神官たち。

「あ。本当は俺一人が来るはずだったんだが、俺が訳あって成長が止まったから、助っ人が来てくれたんだ。人数が増えた分、戦力は上がったはずだから安心して。俺は英正。魔法使い」

「仲韃。異端審問官だ」

「白栄。勇者だ」

「利広。吟遊詩人」

 四人がそれぞれ名乗ると、美しいお姫様っぽい人が白栄に語りかけた。

「……本当に、魔王を倒して下さると?」

「うむ。だが、わしらは異世界から来た故、この世界の常識がわからん。まずは色々教えてくれ。魔王がどんな存在かも知らんのだ」

「わかりました。私達が貴方方に求める事は簡単です。今すぐに魔物を撃退し、お助け下さい! あ、これが魔法の知識を封じた球です!」

 お姫様っぽい人の願いに、まあその為に来たんだし、と三王は軽い様子で外へと向かった。
 門は開けられないから、城壁から飛び降りろと申すか。もちろん、それが出来るくらいの力は持ってるけどね。
 俺達は魔法の球に接続。その後、軽く戦闘準備をして、城壁の上へと出た。

「……なにこれ」

「さすが最低系チートオリ主! 何と言う試練! そこに痺れる憧れる!

「塙王五月蠅い。後最低って言うな」

「えーと、我らは神の代理人、神罰の地上代行者。我らが使命は我が神に逆らう愚者をその肉の一片までも絶滅する事……エーメン!」

「覚えてるんだ!? って飛び降りる気満々じゃねーか峯王!」

「力に酔っているんだよ。君はチートってのに慣れてるんだろうけど。私も少し辛いな」

「どうした、早く呪文とやらを撃て」

「いや、ちょっと待とう。まず作戦から……怖い怖い目が据わってる! えーとこうか!? ベギラゴーン!」

 肉の焼ける匂いがする。凄まじい炎が地獄絵図を作りだした。そして開いた空間に、塙王と峯王が俺を抱っこして(重要)ダーイブ!
 利広は城壁の上で呑気に「最低系チートオリ主伝説……それはある乙女の願いから始まった……」とか言ってるし。
 もしかして俺、一人だけシラフなのか? シラフなのか!? うわーん!
 峯王がガンガン銃剣で戦い、塙王が輪の刃を投擲して敵を倒す。

「体が軽い……こんな気持ちで戦うなんて初めて。もう、何も怖くない! 私、ひとりぼっちじゃないもの! ついでにチート! ふはははは、わしは今確実に延王よりつよーい!」

「死亡フラグやめろ」

 からかってやる。こいつら全員、シラフになったらからかってやる。
 俺は硬く硬く決意する。とりあえず、生き残らないと。スカラごときで俺の紙装甲がどうにかなるはずもなし。

「峯王! 俺に結界張って」

「ふはははははははは!」

 駄目だ聞こえてねー。ならば! 俺の周囲の敵全部ふっ飛ばし続ける! 味方ごと!
 なんだかんだいって、俺も酔っていた。



[27623] あれ? 最終話 そして壮大なかくれんぼが始まる
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/05/19 21:06
 MP切れで捕虜った。まあ、多勢に無勢だよね。よく考えなくとも、城壁からおりる必要なかったんじゃね? あそこから攻撃届いたもん。
 とりあえず猛烈な勢いでどこかに連れて行かれそうです。
 ヘルプ―ヘルプ―。

「そこで華麗なる白栄様登場!」

「どう考えてもてめえも捕まってます。ありがとうございました」

「なんと! これはまさか孔明の罠」

 孔明の罠も何も、手元から武器を離したお前が馬鹿である。

「現官―」

 触手に縛られて、俺は途方に暮れる。塙王は現官と呼ばれたショックで固まってるからいいとして。
 利広は酔っぱらって書きつづった文字を消そうと城壁の上で無駄な努力をしているし、後は峯王次第かねー。しかしあいつ、一番酔いが酷いな。冷めて正気に戻るまでに、俺は浚われずにいられるだろうか。
 とりあえず、煽っておくか。

「サーチアンドデストロイ! サーチアンドデストロイだ!」

「ふはははははははははっ了解それが最後のイチジクの葉だ! 何とも素晴らしい! えーと、ならば私はうってでるぞ、とっくりとご覧あれ、俊王よ」

 恥ずかしいセリフ飛ばしやがったな。そしてこれをきっかけに正気に戻った峯王は、別の意味で暴れ出した。なんでもいいから助けてくれ。
 


 そんなこんなで三年程で、俺達は魔王を倒す事が出来た。その後、三年程、執政を手伝った。なにせ、王が三人に太子が一人である。こちらの方が得意な位だ。
 そして、なんとか世界が自分達の足で立てるようになった頃、感謝されつつ俺達は元の世界に帰った。
 といっても、色々と準備があるのでまず、利広に嘘を書いてもらう。
 まだ、魔王と戦っている最中という事にしているのだ! 後、俺は死んだ事になってる。
 つか、そうでもしないと幹善が殺されかねん。
 これは俺の予測でしかないが、初めから俊麒は色々計算ずくだったのではないか。俺の王気が強いというだけでなく、半獣の王など、排斥されるに決まってる。失道確率が非常に高い王を、あいつが許容するはずがない。
 そして、半獣が受け入れられる下地が整うと、あっさりと幹善を主とした。
 民の事を考えても、俺が戻った途端に幹善が殺されるというのは十分にありうるのだ。
 塙王にしても峯王にしても、自分は国を裏切ったという思いがある。
 それゆえ、お忍びで帰りたい。それに、まず自分の国の情報を色々と知りたかった。
 俺だって、王なんて必ず無残な死を迎えるから絶対いやだ。それに、俺はめでたく10歳まで成長できたのだ。このまま俺は成人する。死にたくなきゃどっかの国で仕官すりゃいーし。
そういう事で、俺達はこっそりと雁へと向かったのだった。
 峯王のチート能力、聖書隠れの術で延王の寝室へとダイブする。
 延王がすらりと抜き放った剣と、巧王の霊斬環(名前付けた)が激突する。
 そして、延王は叫びそうになる声を辛うじて抑えた。

「帰って来たのか……! 魔王退治はどうなった?」

「そんなもん三年前に終わったわ。わしらはお忍びの旅に出る。とりあえず、各国の情勢を教えてくれ。ほれ土産。美味いぞ」

 果実を投げ渡すと、延王はそれを受け取る。異変を察知した六太が走ってきて、こちらも辛うじて声を抑える。
 
「お前達……まあいい、良く戻って来てくれた。こちらは大変な事になっているのだぞ。まず、芳は未だにお前を待っている」

「馬鹿なの? 死ぬの? じゃあもう現時点でアウトではないか! それとも、私より強い王気の持ち主が現れてくれたか? さすがに、国を捨てた王からは王気が去るのではないか」

 峯王の言葉に、延王は首を振った。

「さあな。それはわからん。……だが、向こうに行ってよっぽど呑気な生活をしていたようだな。……荒れていく国の中、必死にお前を待つといいはる峯麟の気持ちを、官の気持ちを考えているのか」
 
 そこで、峯王は口調を変えて吐き捨てた。

「だから、愚かだと言っておるのだ。私は失道するべくして失道した。あれらがわからないはずはない。戻って何になる。また処刑を再開し、そして恨んだ民に殺される。それだけだ」

「……。それでも、峯麟は待っているのだ。麒麟は王の半身。応えてやれ」

「次に、塙王。塙麟は、お前の言葉通り次の王を選び、失道した。今、巧は凄まじい荒れようだ。お前の賭けは失敗したんだ。皆、お前の帰りを待ちわびている」

「塙麟が……! しかし、それは現王を殺せという事だ。わしの上に王気がまだあるのかもわからない。何より、わしはもう王は嫌だ。わしはやはり、夢見る衛士なのだ。王など、わしには務まらぬ」

「少なくとも、現王よりはマシだ。……自分が見捨てた国がどうなったのか、見るべきだ」

「そして、舜。これは恙無く暮らしているが、悪名が凄まじいものがある」

「だろうね! まあ恙無く暮らしているなら、刺激しない様に隠れておく」

「奏は、いつも通りだろう?」

「……国の端に、妖魔が現れ始めた」

 その言葉を聞いた途端、利広は走り去った。
 とりあえず、俺達は秘密裏に汗を流し、夜明けを待つ。
 食事中に、峯麟が飛び込んできた。
 峯麟は峯王を見ると、ぽろぽろ、ぽろぽろと涙をこぼした。

「華扇……」

 峯麟は、無言で跪き、なんどもつっかえながら誓約の言葉を言う。

「許す」

 言った途端、峯麟は峯王に抱きついた。

「もう離しません! 主上、もう絶対に離さない……! 私は、例え行く先が失道だとしても、いつまでも貴方の傍に……三人目の王など、選びたくはありません……! 例え殺されても、私は三人目など、選ばない……!」

「すまぬ……すまぬな、峯麟よ。しかし、愚かな子だ……。……戻ろうか。例え、待ち受けるのがなんだとしても」

 峯麟が言ってしまい、俺達は妖獣を借りて巧へと向かう事にした。
 なんというか……すごいなー、妖魔。
 
「たった六年でどうすればこんなに荒らせるというの……わけがわからないよ」

「余裕だな、白栄。で、どうするんだ?」

「あー……暗殺? ちょっと手伝ってけ」

「……そっか。結局、もう一回王になるつもりか?」

「塙麟が生きていたらな」

「すげー怒られるんじゃね?」

 塙王は、目を閉じる。

「そうだな……まあ、仕方あるまい。まあ、問題なかろう。ワシは最低系チートオリ主だからな!」

「最低を取れって。まあ俺ら最低だけど」

「最低でチートなのだから、最低チートオリ主であっているではないか。まあ、あれだ。王に返り咲けたら、雇ってやる。遊ぶ金くらいは稼げると思うぞ。仙人になりたければしてやるし」

「持つべき者は友達だな。じゃ、行くか」

「行くとするか」

 そうして、俺と塙王は巧へと潜入した。
 この後、塙王は塙麟から散々責められたり。
 俺は塙王の金で旅に出たり。
 まあ、ハッピーエンド……なのかな。俺限定で。





「父さん! 本当に妖魔が出ているじゃないか! 一体……」

 雁から借りた妖獣で窓から王宮に乗り込んだ利広が叫ぶ。
 明嬉が、涙をこぼした。

「お前は……そこが出入口じゃないと、何度言えば……大体……なにやってるの、馬鹿っ……」

 そして、泣きながら崩れ落ちる明嬉。

「母さん!?」

 慌てる利広。バタバタと、家族が走ってくる。
 一様に、泣いたり、怒ったりしてくる。
 文姫は、利広に問うた。

「主上が寝込んでいるわ。もうずっと。魔王はどうなったの?」

「あー。三年前に……とっくに倒して……」

 ぽろりと言った利広は、口を抑える。

「三年!? じゃ、後はどうしてたのよ! まさか遊んでいたの!? それでその間、私達に恐ろしい魔王との戦いとか、他国の王が次々と死んでいく様子を書いていたの!?」

「少し……じっくり話を聞かなくてはならないようだな……」

利達が絶対零度の低い声で言う。
史上最長最悪の家族会議が始まらんとしていた。死ねる権利希望? 言いだせるわけがない。
















ハッピーエンドなのかな……とか言ってますが、三国(雁、巧、芳)の後押しとチート能力と成長で超勝ち組です、主人公。ただし、母国に見つかりさえしなければ。



[27623] おまけ・予告篇・最終回候補集(ネタばれ注意)
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/05/16 21:54
 嘘予告 ~そして王達は幸せをもぎ取った(民? 知らぬ!)~

ついに異世界へと堕ちた英正。しかし、神の恩情で頼りがいのある仲間を授けられたのだった!

「悪・即・斬!」

 悪人は殺! 怠けものも殺! 完璧でない者は存在すら許さない! 飛び出すぎた正義感で選ばれし、峯王!

「帰してくれろ、帰してくれろ!」

 王の素質、特になし! 神通力、SSS! 愛に生き、愛に死ぬ。いつまでも心は村娘、景王!

「どうしても追いつけない……憎い……延王が憎い……」

 堅実! 空気! 嫉妬に負けなければ出来た筈の治世は低空飛行で一千年! でも相手の足を引っ張る為なら国をも平気で犠牲にします! 塙王!

「おい爺! 洒落にならねーだろこの面子! 三王誘拐の罪で舜が滅ぶぞ!?」

「ふふーん、わしの勇者を奪った意趣返しじゃよーん。いーじゃん、この人達なら間違って死んでもどうせ死んでた運命じゃし。幼児の姿じゃ、戦えんじゃろ。いーからこ奴らにチート能力を授けるんじゃ」

 そして、旅は続いていく。大いなる壁を乗り越えた時、彼らに宿りしチート能力が王の神通力と合わさり、覚醒する!

「わしはもう、なんのとりえも無い王なんかじゃない。もう何も怖くない……!」

 チートを手に入れ、輝ける塙王。だがしかし、油断は禁物だ! マミる危険は常に塙王を狙っている!
 
「王になれとか、勇者になれとか、どいつも、こいつも勝手ばかり。妾は、妾は玩具なんかじゃない……! 妾は帰る。その為に邪魔になる者は……叩き潰す!」

 ブチ切れて呪文を使いまくる景王。落ち着いて! ヒステリーは禁物よ!

「私は……私は……ならば悪になろうぞ、魔王! お前は、私が守る!」

 潔癖症は極端から極端に。裏切りの峯王。

「がんばれー」

 もうちょい頑張れ! マスコットの俊王!

 そして、役目を終えた彼らは異世界から帰される。
 繰り広げられる劇的ビフォーアフター。

「そう……貴方達、反乱を起こすのね? 良かったぁ。だって、妾。本当はずっと探していたの……。この溢れんばかりの神通力を、妾だけの神通力を、国に吸い取られるだけの毎日を否定する為の理由を!」

 祟り神として君臨する景王!

「お前ら、反乱起こしたくないか? ワシのチートオリ主な様が存分に見れる反乱を。逆らいたいじゃろう? そう思って来たじゃろう? 何、とんでもない? 残念だ、国を傾ければ妖魔が現れ、ワシの出番が現れるか? 何、黄海に行け? そうだ、黄海に行こう!」

 この後、延王と手合わせして勝ち、幸せの絶頂で死ぬのだと禅譲した塙王。

「もうわしは汚れてしまったのだ! 王になる資格はない……だから禅譲する! 許せ!」

「私を置いていくのか、救っておいて放り出すのか、正義や悪などどうでもいい。男として責任を取れ、峯王!」

「魔王!」

「峯王!」

「お、おおおおおお父様、どういう事!?」

「貴方!?」

 昼ドラで悪の帝王宣言な峯王。

「英正様! 三国から凄まじい勢いで抗議が!」

「もうどうにでもなーれ☆」

 加害者で被害者な英正。
 異世界冒険活劇、四国記、始まりません!






 おまけ ~暴君奮闘録~


 俺から王気を排除する為、徳を下げる試みを行いたいと思う。やれる事は全てやっておかねばな……。

「うー!」

 まず! 放蕩王の訓練! 人前で女のおっぱいに触りまくる!

「まあまあ、お腹が空いたのですか?」

 自ら乳を出して押し付けて来ただと!? ば、馬鹿なっ!
 しかも微笑ましい目で見られた。失敗だ。
 ならば贅沢を!
 所で今、母上の着ている服ってどれぐらい? アレを目安に……。
 額を聞いた俺は卒倒して、幹善に看病される羽目になった。
 放蕩王といえば泰王だけど、そういえばあれ、かなりの贅沢を許容されていたのよね……。
 赤子の身と凡人の良心で真似するのは無理だ……orz

次!

「あー!」

 暴君の訓練! 全身全霊で婦女子を叩く! 
 ぺちーん!

「まあまあ、お元気です事」

 失敗!
 さすがに処刑しまくる事は俺には無理……。
 駄目だ失道って意図的にしようと思えばレベル高い。
 っつーか、何をするにも年がなぁ……。
 悪評を稼ぎようが無い……。
 俺がいつものように幹善に抱っこされて移動していると、ぼそぼそと声が聞こえた。

「龍陽の寵め……!」

 …………。あ、悪評ゲット?
色々と突っ込みどころはあるが、とりあえず今度から女官に運んでもらうか。
 そっかー。女に甘えたらお可愛らしい幼児で、男に甘えたらこのホモめ、かー。
 なんか、疲れた。さすがにそっちの方面で悪評を稼ぐつもりはないのだ。へたれっていうな。俺にだって多少のプライドはあるのだ。



 嘘最終回 ~破滅への道しるべ~

 俺は、幹善を人質にされ、王となった。
 所で、鵬雛はあらゆる者を巻き込む強運を持つという。それだけのチートがあって、何故に王は数年で失道するのか。
 これには、二つほど説が考えられる。
 まず、陽子を例にとる。彼女は、契約後に楽俊に会うなどの様々な運に恵まれている。つまり、王に幸運はちゃんとある。しかし、それを持ってしても、国の運営は難しい。そう言う事ではないかという説。
 もう一つは……即位してしまえば、そういった王の力は、国を守る力に全て変換されるという説。
 即位して玉座に座った途端、俺は穴が開いたように感じ取った。
 そこから、凄まじい速度で何かが抜けていく。
 異変を感じて立ち上がろうにも、もはや立つ事すらできない。
 体の中がかき乱される。
 神から得たチート能力が、神通力として俺の内から国へと流されていく。
 里木が実り、王宮を中心に大地に緑が芽吹いて、妖魔は一時的に国の外へと逃げ出した。
 奇跡。
 その時、確かに俺の魂は国の上空で国を眺め、そして細切れにされて国に降り注いでいた。
 必死に俺という俺をかき集める。気絶した俺が、国と繋がっている玉座から抱き上げられる事が助けとなり、それは成功した。途端、かれはてる一時的に芽吹いた緑。
 ようやく戻った俺を見る目は、変わっていた。
 俺は、新たな戦いが始まった事を悟ったのだった。
 そして、十六歳になった時。国が揺れ、世界を移動する。

「こ、これは一体!?」

「あははははははは! ついに来たか! 舜は俺の加護と共に、呪いもまた食らった。それゆえ、武官として異世界に移動させられるのも当然の事」

「で、でたらめだ!」

「ほう? 蓬莱の仙としての力を散々利用して、恩恵を得ておいて、義務だけはでたらめだ! か。面白い事を言う。まあ、いい。俺にはもはや、チート能力は存在しない。国に食われたからな。そして、我が国は他国に侵略する事が出来ない。魔王は倒せない。この国は終わりだ。ざまあみろ」

 俺は、嘲笑し続けたのだった。







[27623] おまけ・予告篇・最終回候補集2(超バッドエンド・ネタばれ注意)
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/05/18 22:47
 嘘エピローグ(このエンドの場合、時間停止設定・チートの他者譲渡設定はありません。すみません。混乱させてすみません):戴編 ~貴方です~

 昇山している驍宗と狩りに出かけた泰麒は、休憩中に泣きだした。

「公、何故泣いておられる」

「王様が誰かわかったんです。それが堪らなく哀しいんです。王だと告げるのが怖いのです」

「喜ばしい事ではないか。何を恐れておられるのか」

「徇台輔から聞きました。王様を選ぶという事は、王を死なせて、国の死に方を選ぶ行為なんだって」

「徇台輔、か……。あ、あれは特殊なのでは……」

「この方が王になればすぐ死ぬなって明らかに予想できても、あっこいつを王に据えたら国滅ぶって直感しても、麒麟の本性である仁をゴミ箱に捨ててでも、どうしても王にしたい、傍にいたい人が王だって言ってました。例え複数王気を感じても、迷ったりなんかしない。王になるのは、一人だけだって。後は、王に殺される覚悟をするだけだって。僕、僕、お役目を果たせてうれしい。けれど、重いです。苦しいです。怖いです。僕最初、王気なんてわからなくて、天の言葉を偽ってその方を王にしようと思った。それで、徇台輔の言葉を思い出して、言っている事がわかったんです。僕、その方の傍にいる為なら、その方を罪に落しても、国が大変な事になっても、罪を犯してもいいと思いました。それが辛くて、その方を地獄に引きずり落とすのが辛くて、僕も、狂おしい程王にしたいけど、あっこれ駄目だ。国滅ぶって予感して。でも、王にせずには言われなくて。辛いんです。辛いんです」

 驍宗は、呆然として泰麒を見た後、しばらく考えて、そっと手を置いた。
 驍宗は泰麒を神聖な物として見ている。王に選ばれないなら国を出るつもりだったか、戴の滅びの予言を放っておくわけにはいかない。

「そのように不安ならば、私が補佐します。それでも駄目なら、国が滅ぶ前に。王が地獄に落ちる前に。私が苦しめず殺してやりましょう。そして、代わりに堕ちましょう。公はそのような事など、考えずともいいのです。背負わずともいいのです。戴に、王を。公は民意の象徴。狂おしい程王にしたいのなら、それはきっと民の意志なのですから」

 しかし、これほどまでに言われるとは、よほど駄目な王なのだろう。天は時折思わぬ者を選ぶというし、仕方あるまい。幸い、人を使う事には長けているつもりだ。上手く王を誘導し、補佐しよう。


「驍宗様……! 御前を離れず、忠誠を誓うと誓約します」

「!?」

 この後、自信を叩きおられた驍宗は、石橋を渡るような治世を行い、反乱も未然に防ぎ、賢王となる。



嘘エピローグ:戴編2 ~涙が出てくるお~

「即位から一か月たったが、大事ないか。上手く回っているだろうか」

 驍宗の言葉に、泰麒は花がほころぶように微笑んだ。

「大丈夫です、驍宗様。僕、共に死ぬ覚悟は出来ております」

「台輔の言う、狂おしい程驍宗様が王であって欲しい、しかしあっこの国滅ぶ、という感覚、臣らにもわかってきました。表向き平穏ですが、確かに暴走した馬に乗っている感覚といいますか」

 泰麒が言う感覚は、言葉に出せない臣達の違和感を上手く形にしており、また、泰麒が堂々とそれを口に出す事によって、臣も我らも同じ事を感じているのです! と口々に訴えるので、驍宗は頭を痛めていた。

「……蒿里、一人でする大事な仕事を任せたいのだが」

「駄目です、驍宗様。一人で死なせません。むしろ僕が常にお守りします!」

「なんと健気な……素晴らしい麒麟ですな! ぜひ驍宗様をお任せします」

 ……この臣達と泰麒の息の合い様はなんだろう。それに、あっ国滅ぶという感覚が、驍宗ただ一人だけが理解出来ないでいた。
 戴では私と朝議をした後、一日置いて臣だけで同じ内容の会議を行って合理性を確認している事を知っていた。
 不合理でもゆっくり行きたいという進言もある。
 ……しかし、私はこんなに頑張っているのになんとも酷い暴言ではないか。最近、蒿里が絶対に徇麒のような裏切りを行わない証として、自害用の冬器を買って大騒ぎになった。蒿里の愛が痛すぎて哀しい。
 あっ国滅ぶとは何なのか。自害するなと勅命出して禅譲するぞ。







嘘エピローグ:景編 ~予王の最後の言葉は、楽しかったわ。ありがとう景麒~


 その日も、景女王に景台輔は色々と小言を言っていた。

「全く、貴方という方は……」

「何よ、この徇麒! 私は赤子ではないけれど、普通の女の子なのよ!」

 目に涙を溜めて、言ってしまう景女王。
 辺りの空気が、止まった。特に景麒は、文字通り石になる。

「ご、ごめんなさい、景麒。言いすぎたわ」

「徇台輔と同じ……徇台輔と同じ…… ?」

 激しくショックを受けた様子の景麒。官がはらはらと見守っている。

「あの、景麒?」

「どこがですか。私が徇台輔と似てる要素がどこにあるというのですか」

「そりゃ、いっぱいあるけど……。覚悟する時間も説明もなしに契約を強要した所とか、全然補佐してくれない所とか、失道させるつもり? と思わせるほど気が利かない所とか……。私が卵果の時に見出されたら、きっと一歳で契約してしまっていたか、その前に些細な失敗☆で死なされていたんだろうなって思える所とか……」

「死なせません」

「あ、そ、そうよね。だからそんな愕然とした顔をしなくてもいいじゃない、景麒」

「死なせません。ちゃんと五歳までお待ちします」

「魔王が規格外なんであって、五歳でもありえないと思うわ、私。それに本当に待てるのかしら」

「お待ちします!」

「うん、私が悪かったわ。そうね、そうね……。だから泣かないで。私が悪かったわ」

 ……でも、やっぱり景麒は徇麒と似てると思うの。
 違うのは、私。私はやっぱり、足手まといを抱えてこの国を背負えるほど強くない。
 だから……だから、程良い時に、自王の待遇について景麒に色々諭した後、禅譲して次の王に譲りましょう。景王への手紙も書こう。次は良い王を見つけてね、景麒。貴方の事、恨んだ時もあったけど、今は結構好きよ?


 そして、時代は陽子へと引き継がれる。
 そして、陽子が王に登極した後。官が陽子に裁決を迫っていた。

「主上、こちらの案件とこちらの案件、どちらを優先なさるかお決めください」

「私は……わからない」

 陽子は、戸惑って答える。しかし、官は引かない。

「どれも急ぎの案件なのです」

「……ならば、任せる」

 大仰にため息をついた官が、巻物を巻いていく。
 それを見送って、陽子は手紙を引っ張りだした。大切な、予王から頂いた手紙である。

『初めまして。私は貴方の前に即位していた景王です。まず、朝はとても荒れています。荒れた朝を引き継がせる私を許して頂戴ね。そして、景麒は裏切りませんが役にも立ちません。でも、あの子も可愛い所があるのよ。あまり酷いようなら、徇麒と言ってやれば反省するから、ぜひとも言ってやって頂戴。ほどほどにね。朝は確かに腐敗していますが、さすがにかつての舜ほど腐ってはいないので、法もあるし、王の言う事は一応は聞いてくれるし、心ある官も中にはいます。やって出来ない事はないと思います。王という仕事を放り出してしまった私の言えた事ではないのだけれど。もしもあなたが私と同じように政治を知らないのならば、雁にかつての魔王が残した書籍があります。部屋から出す事、書き写す事すら許されぬ書籍すらあるけれど、魔王は齢五歳で即位なさった方。王であるだけでなく、蓬莱の仙であったり、即位の際に前例のない吉兆をいくつも起こし、腐敗しきって法の意味すら無くなった朝廷を立てなおした方です。きっと役に立つでしょう。貴方の長い治世と、幸せを願っています』

「心ある官か……いるのかな?」

 今去っていった官……冢宰なのだが、罷免する事は決定している。舜極国の前王、魔王の書いた「幼児でもわかる不正をする官の見分け方」に符合する官を冢宰に置いておくつもりはない。仕事を妙にせかし、説明が中途半端で、理解する事を阻害し、遠回しに仕事の妨害をする。正しい官なら、勉強が追い付かない内は最初から自分で処理させてもらう事を願い、後でじっくりと説明するのである。まともに考えて、そんな大事な案件を政治とは無関係の場から即位した王に任せるわけが無いのである。幼児王魔王に付いていた官は、模型まで作って教えてくれたという。だが、代わりの「まともな」官が見つかっていない。
 派閥はぼんやりと理解出来て来たので、相反する派閥の長を据えて見ようか。冢宰の不正の証拠があれば完璧だ。
 とりあえず、今の案件は景麒に調べさせる事になっている。ちゃんとわかりやすい不正をしてくれたら有難いのだが。まあ、単に無能だからで更迭してもいいのだけど。
 これはあれか。冢宰の罷免ついでに、舜の優秀な官が羨ましい、ぜひ魔王を見習いたい、彼も初めは苦労したと言うが、どうやって解決したのだっけと聞いてみるフラグか。
 影で、幼児王ですらきちんと仕事が出来たのにと言っていたのを知っている。
 だが、陽子もまた、彼が使えない官の元では何一つ思うようにできず、雁に留学したり官を総入れ替えしているのを知っているのだ。
 とりあえず、雁の教師を一人招いてみようかとか、牢屋に誰かいい人落ちてない? とも聞いてみよう。宝探しみたいで、楽しいかもしれない。
 ささやかな陽子の猫パンチが、官吏たちへの最終通告となって宮廷を大混乱に陥れる事を陽子はまだ知らない。
 

嘘エピローグ:慶編2 ~官「主上は鬼」陽子「天綱に違反しないよう建前は整えてあるから大丈夫」 官「主上は鬼!」~

「ちょっと舜の獣人街に行って、二年ほど癒されてくる」

 大乱闘の様相を示し始めた官を放置して、陽子は出かけた。
 もちろん、それは嘘であり、実際は自国の視察である。
 予王の妹が紐を結べたという大事件があった折り、内乱が起きた。
 それを聞き、陽子は却って海客で良かった思ったものだ。偽王に親兄弟が立つ事は珍しい事ではないのだ。それにしても、家族は性が同じだから王になれないというのに、何度も騙されるのはなぜなのか。予王には手紙から親近感を感じていたので、その妹を処断する時は哀しく辛かった。実の母や父と相対する事は、陽子には出来ない。
 ともかく、あっさり騙された州候は現官候補、騙されず反抗した州候は旧官候補である。
 陽子には、罪人を重用するなどといった高等テクニックは取れない。
 ならば、どうすればよいか。
 上手く政治が回っている州を見て回って、出来る州から官を適当に浚ってくればいいのである。官を浚われた州にはあれだ、いい官は跡継ぎをきちんと育てるだろうし、大本がきちんとすれば回り回って州も良くなるはずである。いざとなったら舜の官を呼べばよい。幸い、有能な官は民の口に登るらしいので、浚うのは楽だろう。
 なんか今の官はやけに殺伐としていてピリピリとして、好きじゃない。
 陽子は、陽子のやり方で旧官を放つ事にしたのである。
 舜からも、うちは官吏が多すぎるから、期間を限定して喜んで輸出するよ、下っ端でもなんでも仕事するよと言われているしね。ちなみに、官吏の派遣業者は、舜が初である。現地の官の就職を阻害しない様に期間を区切って指定しているが、一旦全部罷免して仮の官を舜の官吏に任命し、新しい官を探すのには十分な期間なのである。人材発掘と教育もしてくれるし、新王が登極すると必ず営業に来る。
 ……ずっと他の国の官を国に入れるのは良くないが、短期のお手伝いならいいよね。少なくとも内小臣には絶対に舜の「癒され♡春の獣人セット」を購入するつもりだ。新発売の「天地秋愛玩、四種類修めてます♡一国に一人、頼れるアドバイザー楽俊」「そんな餌に釣られクマー! 頼れる夏官、桓魋※指揮、愛玩、釣りが出来ます。釣りセットもついて更にお得!」は営業が来た段階で既に誰にも内緒で予約を入れてある。だって可愛かったんだもん! 舜は各国の獣人を集めているというから、獣人街にはぜひ一度本当に行きたいものだ。特にクマさんは慶出身らしいから、徇王に頼んで正式に雇用する事が出来るかもしれない。
 そう思うと、足取りは自然と軽くなった。




嘘エピローグ:芳編 ~父「ちょwその餅産まれてない次の子へのプレゼントwww食うな、戻せ」飢えた子は口の中に広がる絶妙なハーモニーを噛みしめながら、父に抗議している!~


「峯王様がいらっしゃいました」

「うん、ようこそ、仲達殿」

 現れたのは、娘よりも幼い子供。しかし、単なる子供ではない。
 数々の吉兆を起こせし、蓬莱の仙。その政治は短くとも、間違いなく十二国史に残る王である。いや、あまりの荒唐無稽さに誰も信じず、お伽噺へと変じてしまうかもしれない。
 彼が即位したとき、国氏が奇怪な模様に代わってしまい、呼ぶ際に苦心していると聞き及んでいる。✡(蓬莱で言う六芒星)だったか。蓬莱の刻印らしい。結局、俊王は普段は以前の国氏を使い、彼の治世が終わったら、闇に葬ってしまえばいいと言っているらしい。それは、何とも寂しい。他にも、彼にまつわる話は多くある。
 神にも匹敵するのではないかと言われる神通力を持つ者。
 育てなかった者。
 そして、神通力だけの王でもないと知っていた。
 俊王はんしょんしょと椅子に登り、席につく。持ってきたお菓子を美味しそうに食べながら、本題に入った。

「新しく法律を制定したいので、参考になる話を、という事でしたか」

「一度法の無い状態を経験した俊王ならば、意見も参考になるかと思いまして」

「王自らいらっしゃるとは思ってもいませんでした。そうですね、ですが、俺は柳の法は良くないと思っています。そんな意見でも参考になりますか」

「柳がよくない……ですか?」

「柳の法は素晴らしいが、些か難しく、厳しい。王が目を光らせている内は良いでしょう。問題は、倒れた後……もっと言えば、新王登極の時です」

「倒れた、後」

 わしはお茶で喉を湿らせる。この方は、苛烈だと聞いていたが。容易く失道した後の事を口にするのだな。

「法は、守られなければ意味が無いのです。そして、誰もが納得できる物、普通にしていれば決して法に引っかからない物でなければならない。粛清の時、予め用意してある法に従って罰するのが一番負担がありませんが、ゆるすぎて罰すべき者が罰すことを出来なくとも、全員が処刑対象になっても困るのです。幸い、我が国には心ある官が多く牢に閉じ込められていましたが、いつもそう言うわけにはいきません。牢にいる官など、普通は狂っているか元犯罪者です。事実、開放した官の中には罪を起こす者もいました。柳の法は、秩序が無くなっていくような厳しい状況で守れる物ではないのです。新王登極の際には、法に従って奸臣を処刑しようとすれば、激しい反発が出るでしょう。恐らくその頃には、法に引っかかる物が大半となるから。となれば、罰するのは至難の業です。新しく法を作って罰するにしても、新しい方で古い罪を裁くなどだれも納得しない。……ご理解いただけたでしょうか」

「しかし、罪を犯した者は罰するべきです」

「世の中には、現官のような者もいます。難しい法は守れないのです。覚えられないのです。理解出来ないのです。我が国では、地綱は上地と下地の二つを制定しています。特に下地は子供にもわかる言葉で書いて、わかりやすい事例の冊子を配って教えています。誰もがこいつは殺されてもしょうがないと思う。法を読めば、誰もがそれを罪と理解する、という事を主眼に置き、上地はそれを補う形で制定しています。俺が失道した折には上地を撤廃する事を定めています。これで、随分新王が楽になると信じています」

「見せて頂いても?」

「どうぞ。移しをご用意してありますので、お持ちください」

 すぐに麒麟が書を持ってくる。麒麟は、王に命じられるのが嬉しくて仕方がないというようで、王を慕っている事が知れた。私は書を見て、そのあまりの単純さに驚いた。
 しかし、要点は抑えているように感じたと同時に、なるほど、普通の者はここまでされないと理解出来ないか、と思う。拙いなら厳しく締めつけねばならないと思っていたが、理解出来ないのを叩いても仕方あるまい。
 柳とは違う意味で勉強になる。柳のエリートを対象にした法、舜の底辺の人間を対象にした法。きっと、両方とも正しいのだろう。
 
「いや、しかし、失礼ながら、娘よりも年下とはとても信じられません。娘は並はずれて賢いと思っておりましたが……親バカだったようです」

「奥方と孫昭殿は、これから辛い思いをされるでしょう。王族が無能である事は、許されない。王族としての資質があると保証されているわけでもないのに、責任ある立場として振舞わなければならない。そこに年齢など関係ありません。官吏としてでも、仲達様の補佐としてでも、仕事が出来るようになって頂かなくては。それが出来ないなら、唯人として里にお返しした方がいいでしょう」

「しかし、孫昭はまだ幼い」

「関係ありません。王宮で生活して、不死という恩恵にあずかっているのだから。一番の問題は、王族が王だと勘違いして、人としての道を踏み外して行く事です。貴方は資質ある者だからわからないでしょうが、資質の無い者は高い地位に苦も無くつけば、舞いあがるのです。私は私の父母を粛清しました。直接命じたわけではないが、望んでいた。時々、王とならなければ平和で善良で愛してくれる父母に囲まれていたのでは、と思います。そう言う意味では父母も哀れな人達でした。貴方は大人で夫で父だから、表向きは神妙にするでしょう。ですが、貴方の見ていない場所で下の者達に尊大に振舞っているようなら危険信号です。……人は弱い。王ですら誤るのだから」

「……気をつけましょう」

 とても信じ難い話であるが、実の父に偽王に立たれた彼の言葉を無碍にはできない。この言葉は、激戦を生き残ってきた末の、彼なりの悟りなのだから。
 しかし、失道した後の事、など浮足立っている官に言えはしない。
 少しの間こちらに滞在して、失道している間の法を作ってしまおう。
 遥か先になるだろうが、失道した時に発布すればいい。うちの朝廷は優秀だから、抜けがあってもその時だれかが何か諫言してくれるだろう。


 その後、わしは失道した。あの幼けない幼児は、予告通り、光る国氏の刻印の中に消えうせた。俊麒は即座に他の王を選び、国氏は徇へと変わった。主上が戻るのを待つべきでは、とか、そういう議論を起こす暇も無かったという。官は泣く泣く、謚だけ送り、葬式はしなかった。半端な処置は、俊王の功績を後世に伝える為であり、俊王が生きているはずだという事を信じる為だった。これは二つの事を意味する。……麒麟は、即位すれば16で死ぬのだと英正殿が言っていたにも拘わらず、英正殿が赤子だというにも拘わらず、大人の王より英正殿を選んだという事。
 そして、そこまでして英正殿を選びながら、姿を消すや否や彼を見捨てて他の王と契約を交わした事。
 嬉しそうに寄りそう俊麒の姿。強烈な裏切りに、英正殿でもないのに酷く心が痛み、峯麟にすら辛く当たってしまった。
 人は弱い。王ですら誤る。そんな言葉がぐるぐると回る。しかし、さすがに英正殿もこんな裏切りは想定していなかったのでは。
 罪深き者達に、罰を。刑罰は加速して行く。
 失道の報が来た時、何故か感じたのは安堵だった。
 死後の、準備をしよう。
 法を整え、わしがいなくても国が回るよう、きちんと国が持つよう、登極した新王……もしかして、英正殿のような子供かもしれない……が、政治を行えるようにしよう。
 もちろん、わしの部下達はしっかりと新王を支えてくれると信じているけれど。
 書類を整えて置いておき、忘れ物をしたので部屋を出る。
 戻ってきたら、王が心を入れ替えて下さった! とお祭り騒ぎが起きていた。
 あまりにも喜んでいるうえ、もう玉璽を押してしまった書類を官が手続きしてしまった為、どうにもならない。
 法をすぐに撤回するのは悪である。
 それに少し発布が早くなっただけだ。わしは直に命を落とすだろう。
 さて、他に何をしようか。喜んでいる官の中にいるのはいかにも居心地が悪い。

「……舜極国に行って、俊王の帰還を祈祷してくる」

 もっとも、徇麒に会うのも居心地が悪いのだが。向こうはそれを知っているので、それとなく会わない様に取り計らってくれるだろう。そもそも帰還の祈祷は徇麒締め出されるし。

「こちらでもできるのでは」

「いや、向こうに行く」

 幹善殿は、毎月18日に帰還の祈祷を行っている。大分早くついてしまった。
 幹善殿は、私を笑って出迎えた。
 塙王もいて、互いに少し驚いてしまった。

「ようこそ、峯王様」

「様付けなど。同じ王ではないか」

「いいえ。私はその場しのぎに過ぎません。主上は、必ず戻って来られる。だから、それまで国を潰さぬように持たせるのみです」

「次まで、繋ぐ……か。うむ。わしも、つぎまで繋げたと、思う。だから、最後はここで魔王の思い出を語りながらゆっくりと時間を過ごしたい気分だ」

 思い出話を語る日々。
そして祈祷が始まった。
 失道が癒えた峯麟が官吏を引き連れて迎えに来たのは、祈祷が最高潮に高まった時だった。

「なに!? でもわし、わしが厳しく見張っていられる存命中は法は以前の物に戻すぞ」

「何故、新たな法律を皆が諸手をあげて歓迎しているのに、そのような事を仰るのですか!」

「ええい、アレは新王の為の法だ!」

「新王などどうでもよろしい! 大事なのは今なのです! そんなに失道したいのですか!」

「お父様、新たな法を見て、私は私の罪の深さを知りました。どうか、お戻りください!」

 わあわあわあわあ。わあわあわあ。

「お前ら……外でやれ」

 口調の変わった幹善に蹴りだされるのは、当然と言えば当然だな。
 さて、これから……………………どーしろと。




嘘エピローグ:舜編 ~死→神により復活→卵果に食われて死→転生→何度か死に掛ける→契約して人として死→天の力により王として転生→麒麟と切り離されて王として死→神により復活・ドラクエ的勇者システム導入→死→復活→死→(略)→ここら辺で発狂→(略)→復活→死→復活→お疲れ様、これで心置きなく王様におなり……ふざけんな!~

「ごめんな。俊麒」

 唐突に言われた言葉に、俊麒は首を傾げた。

「禅譲、してやれない。俺は、精一杯生きようと思う。何があろうとも。やっぱり、俺の中で一番大事な事は、自分が生きる事なんだよ」

 そして、六芒星が英正の下に現れる。吸い込まれていく英正。必死で止めようとする官。
 夢であって欲しかった。都合良く忘れていた。
 これはたった10年の夢。これはたった10年の安らぎ。
 国全体が揺れる。揺れる。
 嵐が起きる。妖魔が現れる。それは悪夢の再来。まさに逆奇跡。国の終わりだと、民達は悲嘆にくれる。
 その日、英正と約束していた州候達は自害した。
 混乱の中、玉座でただ主上の帰還を待ち続ける幹善に、俊麒が跪き、契約の言葉を口にする。

「この国には王が必要です。英正様のいなくなった反動を緩める王が、絶対に必要です。どうか、許すと」

「ちょっと待ちなさい……待て台輔! 貴様、いつから幹善に王気を感じていた!」

 官が叫ぶ。麒麟は答えない。

「待て! 待つのだ! 英正様を見捨てるつもりか!? 死んだとでも言うのか!?」

 答えは、明確だった。

「……許すと、おっしゃい」

 登極せねば、国は滅びる。
 幹善は、青ざめた顔のままに許すといった。登極と、即位の儀。
 玉座に座ると、またも奇跡は起こった。国氏は徇となり、舜を凄まじい勢いで襲っていた天災はやんだ。
 幹善は一週間もの間、臥せっていた。
 民は、王が半獣である事に大いに驚いたし、幹善は偽王と断じた。真なる王は英正様唯一人、彼はいずれ帰ってくると。けれど、王がいないと恐ろしい事になるのである。だから、中継の王として幹善を受け入れた。
 ……英正が戻ってきたら、幹善を殺せばいいのである。それで全てが元に戻る。
 民は、思い至りもしなかった。それで、どれほど英正が怒り狂うのか。
 そもそも、英正がどれほど麒麟を憎む事になるか。思い至りは、しなかったのである。
 平穏に時が過ぎ、本当の意味で幹善が受け入れられ始めた頃。
 舜の天空に、六芒星が光り、一人の青年が落ちて来た。
 ……そして、殺戮が始まった。

「徇麒! お逃げ下さい!」

「わかっていたのです」

「徇麒!」

「わかっていたのです、貴方はいずれ舜を滅ぼすと。それでも、私は貴方を王にせずにはいられなかった……!」

「ほほう? その割には、鳥に仕えていたようではないか。すぐ殺されたようだが。なぁ、俊麒?」

「それは彼が王だったから。そして、その前は貴方が王だった。王を選ぶのが私の役目」

「だから、お前は悪くないと?」

「いいえ。私は罪深いのでしょう。それでも、私は本能を抑えられない。こんなにも、生きたいのに」

 泣き笑いを浮かべる徇麒。そして彼は英正の足に額ずく。
 誓約の言葉を述べる徇麒。答えは、刎ねられた首だった。

「さ、残りを潰すか」

 英正は、哂った。


 こうして、舜は獣人街を残して滅びた。その後、舜には獣人が多く生まれるようになり、獣人の国と呼ばれるようになる。
 辛うじて、舜を滅ぼしたのが前王の英正であったと判明したが、武官として任じられていた英正に何があったのか、苛烈とはいえ確かに優しさも持ち合わせていた英正になにがあったのかはわからないまま英正は消えた。これ以後、英明すぎる王、もしくは無理やり契約を結ぶ行為は激しく厭われる事になる。
 こうして、「王に断られる」という事例が誕生するようになってしまったが、代わりに平均の王の寿命は延びたという。



 英正って意外と駄目な子です。特に半獣関連酷過ぎる。



[27623] 真エピローグ(慶・戴についてはおまけ2をご覧ください)
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/05/24 00:22
 嘘エピローグ改:芳・巧・舜・柳+慶3

 舜には、誰もよりつかない、王以外は近づくのを許されぬ部屋がある。魔王の書庫。
 それは、失道へと誘う禁断の道。なればこそ、それは誰にも知られずに行けるような配置をしてあるのだ。
 官と大激突して思いつめた景王は、発作的にこの宮へとやってきていた。
そして、扉を押す。

「や。陽子。お前が来るとは意外だな」

 十五歳程度の子供……英正が、甘味を頬張り、漫画を描きながら手を上げた。
 徇王が英正にお茶を入れている。
 塙王がベタを塗り、峯王が文字を書き入れている。
 柳王は漫画を見てクククと笑っていた。
 徇麒は巻き物を枕に眠っていた。

「ま……漫画家部屋!? ここは王しか近付けないはずでは!」

「徇麒を除いて、皆王か元王だが。ああ、これで新たに四人、メンバーがそろったな。失道入りました―」

「失道!? どういう事なんだ」

「徇麒、良かったな―」

「はい!」

 徇麒はいつのまにやら起き上って、嬉しそうだ。

「……うわー……嬉しそうなー」

 英正が呆れたような顔で言う。
 一通りの自己紹介が終わった後、陽子は酷く驚いていた。

「皆さん、何故ここに?」

「何って、俺達失道クラブのメンバーだからな。四人揃えば、異世界魔王退治の旅にご招待!」

「魔王退治? それが失道なのか?」

「ああ、つまりだな。異世界に行くと、天との繋がりが絶たれ、一度死ぬ。そこを神様に生きかえらせてもらって、魔王退治をして帰って来ると。これだけだ。ちなみに、一回しか行けない。魔王に負けて死ぬか、無事に戻ってきて再度王になるか……普通の人間として生きるかは、その時の王と麒麟次第ってわけだ。俺達は、もう行って来たからな。今回のメンバーは、露峰と徇麒と幹善と陽子ってわけだ。陽子は戦士、露峰は魔法使い、徇麒と幹善が僧侶ってとこか。うわ、バランス悪っそして徇麒がいかにもザラキ使いそう」

「私はバギも使いますよ」

「仁の生物(なまもの)(笑) さすが幹善を連れて異世界行きを強行するだけはある」

 とにかくお客が来たので、王達がせっせと片づけを始める。
 そして、正座した柳王と景王、徇麒と幹善の前に、塙王達も正座する。

「では、勇者になる心得を言うから、心して聞いてくれ。それから、十年、王を捨てるかどうか考えて行動してほしい」

 そして、塙王が指を立てる。

「心構えその一! せっかく整えた国をぐっちょんぐっちょんにされても泣かない! 次点の王が自分より立派な政治を出来るわけがないのだ。失道するなら、後進が育つ10年は待つか、役立つ教訓を残してから! 考える時間が10年あるのは、国の蓄えを増やす以外にそれもある」

 峯王がふむ、と続ける。

「心構えその二。麒麟が新たな王を選らばず、そなたを待っていたならば諦めよ。それか麒麟も一緒に連れて行ってしまうのだな。次代の麒麟に選ばれるという可能性もある。また王になってしまえば、もはや王を辞める方法は死ぬ以外に無くなってしまう。これは一度だけのチャンスなのだ」

 英正が元気よく指を立てた。

「心構えその三! 魔王は強い。神様にチート能力を貰えると言っても、油断しちゃ駄目だ。特に、能力を貰い立ての時は力に酔って正常な思考が出来なくなる」
 
 そして、英正は利広の遺影を出して、さらに続ける・

「心構えその四! あれだ、身内に捕まるととんでもなく怖い事になるぞ……。家族会議とか超針の筵。可哀想に、未だに仕事漬けなんて……っ」

「さあ、どうする? 最低系チートオリ主伝説、第二部を始めるか?」

「僕はやる」

「私もやります。誰かに命を握られ、怯えて過ごすなど、私は嫌です。そして、私は私に名前をつけて、新しく生まれ変わるのです」

「徇麒が異世界に行くと、麒麟が死んだのと同じ事になり、私は必ず死んでしまいますからね。私に選択肢はありません」

「私は……」

 陽子は、瞳を揺らめかせる。

「私は……行く。王としての資質を確かめるために、私は行く。その間に他の者を見つけるなら、それはそれでいい」

 塙王は、頷いた。

「では、このメンバーで仮決定だ。10年を待つが良い。さて、そろそろ仕事に戻らんと、塙麟に殺されるな」

 王達はよっこらせと腰を上げた。



【10年経過中……】

【その頃の予王……】


『循麒の熱意に押されて思わずあんな契約結んだが、やはり英正の幼児チートの笑いが忘れられんし、一から作るのが良いのう……。そうじゃ! 十二国から選べばいいんじゃ! 王の魂から選べば、素質のある奴を探す必要もないし! ということで転生準備に入っているそこの勇者! ゲットー!』

「な!? お前は何者です!」

『チート♪ 勇者♪』

「聞きなさいよ!」


【陽子、露峰、幹善、翼択が魔王退治に旅立ちました!】

 景麒は陽子を待つつもりだった。三人目の王など、持つつもりはなかった。
 何が悪かったのだろう。何故、王は次々と自分の元を去ってしまうのか。
 徇麒という罵倒が痛い。自分はそんなにも駄目なのか。国を捨てる駄目すぎる麒麟と比べられるほどなのか。
 悩みながら、慶の空を走る。その時、懐かしい王気を感じた。自分が間違えるはずもない。
 そして、愕然とするとともに、泣きたくなるような懐かしさを覚える。
 そこにあるのは、卵果だった。

「お戻りになったのですか、主上。……私は、待ちます。ちゃんと、待てますから」

 ちゃんと、5歳まで。運搬の時も、きちんと気をつけよう。徇麒と違って、大切な主を殺しかける事のないように。
 やっと手に入れた王を、必死で、一生懸命気遣って。
 毎日のように話しかけて。
 今度こそ、この手に。
 そして、景麒は、大切に大切に舒覚を育てた。
 困ったのが舒覚である。

「……。(何このマテ状態……! 見える! 犬が餌を前によだれ垂らして必死に尻尾振って待っている姿見える。どうしろというの……。大人の状態でも出来なかった物が、5歳で出来るはずがないじゃない……)」

 景麒と目があった。
 景麒がぎこちなく微笑み、舒覚は顔を赤くして逸らす。舒覚5歳、初恋であった。
 前世の記憶を持っているとも言えず、はっきりと王となる事を断る事も出来ず、蓬山に連れていかれる。
 その時、景麒は二種類目の王気を間近に感じる。そう、舒覚の時も優遇措置として王気を二つ感じるようにしてもらったのである。

「主上……!」

「今戻った。事情は聞いた! この国は舒覚さんに任せます! ただし国を不幸にしたら討ちますからね?」

「天の助け! 景麒は陽子さんに任せます! ただし景麒を不幸にしたら殺す」

 そういう声は全く同時で。
 その感動的場面を見た女仙は、一様に慶国終わった、と実感する。
 二人とも責任感皆無で身勝手である。王の素質はあったはずなのに、誰のせいでこうなったのか。考えるまでも無い。
 二人の主上の間でおろおろとする景麒に、徇麒、いや翼択、いや元凶の一人がアドバイスする。

「心配いりません、景麒。二人王候補がいるのだから、好きな方を一人選んで、もう一方失道した時の為に仙にしてとっておけばいいのです」

 黙れ徇麒、と元景王達が蹴りを入れる。
 翼択の教育をした女仙たちは涙が止まらない。
 そこに、小さな麒麟がてこてことやってきた。

「これは、徇麟」

 ちなみに女なのは天帝の気遣いである。
 その、恍惚とした瞳。まさか、と翼択が頬を引き攣らせる。

「嘘でしょう? 英正様か幹善様が犠牲になると思っていたのに!」

 ちなみに天帝の王気メーターは翼択>英正>幹善を示していた。
 チート能力があり、本当かどうかは怪しいが仁の精神を刻まれており、さらにそれに逆らうことも、自由を得るという強い心を持つ翼択が選ばれないはずが無かったのだ!
 ちなみに、異世界に逃げられるのは一回だけである。

「まあまあ、少なくとも王ならば、自分で寿命を決められるではないですか」

 幹善が宥めるが、慰めになっていない。
 その横では、柳王がまた王に選ばれて地面を叩いている。

「ちくしょう……! なんで新しい王を選んでいないんだ!?」

 ……十二国は、安定している事が無い。今までも、そして定めの変わったこれからも。
 そうして、延王は今日も頭を悩ませるのだ。






「ねぇ。供麒。……悪かったわよ」

「はい?」

「だから! 産まれた時に迎えに来ないで、良かったわ。この年齢、あのタイミングがちょうど良かったの。私、慶や舜の話を聞いて、つくづくそう思ったわ。なんであの人達が王に、と思ったけど、良く考えたら、小さい頃からあんたみたいに縋る目で待たれ続けたら、焦りと重圧で性格歪んじゃうわよ。……ありがと」

「私は、十歳まで待ちますよ」

「その間に寿命が来たらどうするのよ。……でも、ねぇ、供麒。私が道を外すほど狂ったら、一緒に異世界に逃げてくれる?」

「私は、二王は選びません。この国に引きとめる事はするかもしれませんが」

「うん……ありがと」

 十二国は今日も揺れている。けれど、恭はもうしばらくは安定するようだ。



[27623] 十二国に誕生した新たな単語、故事、考察
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/05/18 23:23
「現官」
並はずれて愚かで人の道を外れている様。
これを人に言った場合、その人間関係は破滅する。
十二国で最も汚い悪口であり、悪人でさえ呼ばれるのを激しく厭う。

「旧官を放つ」
複数の意味を持つ。
(共通)
もうどうにでもなーれ☆
国の一大事件。
魔王の故事。
(主上側)
賭けに出る。
危険な方法を用いる。
今より悪い状況など存在しない。
(官側)
主上ご乱心。
見放される。悪辣な方法で粛清される。
悪い方向にしか転がらない。

「輝ける卵果」
素晴らしい物だが、手が出せない様。
能ある鷹は爪隠す。
能力はあるが、表に出せない人間。または、自分がそうだと信じる人間。
思うように動けない様。

「徇麒」「俊麒」
待てができない様。
気遣いが致死レベルで足りない様。
色よい返事が貰えない。
麒麟に不満がある様。これを麒麟に言ったらまず間違いなく泣かれる。

「紐が結べたと言われた」
頻繁に使われる。言い争いの時に特に良く使われる。
道理が通じない様。
さっぱり意味がわからなかった。
意味わかんねーよ!
むちゃくちゃだよ。
馬鹿言うな。
この海客!
この山客!
偽王立つ。
その地位にふさわしくない。


「そんな餌に俺様が釣られクマ―!」「そんな餌に釣られクマ―!」
魔王が愛した人形。
あからさまな罠と知りながら、餌に釣られてのってしまう事。
間抜けな様。
獣人を使った遊び。
魔王の獣人差別の象徴。
普段厳しい人がでれでれとした様。
様式美。
ごまかし。
幼児愛の隠語。
海客の異様な性癖。
貢物。
神頼み。
魔王が獣人を愛し、獣人を貢がれるとこの言葉をいいながら誤魔化された事が語源である。


「クマ―!」
名前が覚えてもらえない様。
悲しみ。
獲物を見つけた喜び。



「猫パンチ」
本人は小動物のパンチがごとくささやかなつもりだが、実際には致命的な一撃となる事。
破滅。




「魔王の書庫」
堕落への道しるべ。
性格が変わる。
あらゆる知識のある場所。
実際には、雁と舜にある書庫の事。雁には新王の為になる本が、舜には失道したい王の為になる本がある。



「最低系オリ主」
「チート」
「フラグ」
「押すなよ? 押すなよ!?」
「わけがわからないよ」他多数。
獣人街の劇場から広まった概念。
獣人街に、いやそもそも観光に行けるのが位の高い仙の為、エレガントな表現とされる。









考察

【獣人差別についての魔王の罪と功績】

魔王は獣人差別を撤廃したとも、逆に異常なまでの差別を作りだしたとも言われている。
端的に言えば、半獣は半分しか人間に見られていなかったのを、完全な愛玩動物として見られるように価値観を塗り替えた。
……人と見られなくしたのだから、やはり差別促進と言っていいだろう。
後に景王がこの文化を大いに愛し、好んで獣人を引き抜いたため、それをきっかけに新たな獣人差別は爆発的に広まった。
始まりは、魔王が各国から獣人を連れて来て、街に「保護」の名目の元に閉じ込めた事である。
これは、性欲を持たない幼い王のハーレム、もしくは玩具箱だったと言える。
獣人は獣人であるだけで一日一度の食事と住まう部屋、一年に一着の服を保証される。その代り、厳しく学ばされ、幼子達の前では愉快な道化である事を強要され、求められればどこでも派遣され、なんでもする。
家生をより酷くした形であるが、給金は貰えるし、派遣という形ではあるが高い地位につける事もある。
最も有名なのが楽俊で、常に景王の傍に控え、実質的な冢宰の役目をしていたという。景王登極の三年後から仕え(景王の雁への留学と国内視察で時間が掛かった)、失道まで寄りそったという。失道後は仙を辞し、余生を慶で過ごした。忠臣の象徴と言えよう。


魔王の書庫(雁)
日本語ー十二国記語辞書
幼児でもわかる不正をする官の見分け方。
幼児でもわかる不正の見分け方。
幼児でもわかる王様の権利と義務。
幼児でもわかる治水。(模型つき)
幼児でもわかる政治。
見つけよう! 使える部下
幼児でも出来る処刑。
幼児でもわかる陰陽バランスと善政ポイント。
俊王登極記。(王の性格を変える魔法の本。宝重ではない)


魔王の書庫(舜)決して契約前の王気持ちに読ませてはならない。
聖なる天仙(ホーリーブラウニー十二国記編。天帝から命を受けた天仙が様々な王の登極あるいは執政を影ながら助ける話)
最低系チートオリ主(なでぽあり、にこぽありのヒーローの話)
魔法王族マモル・マギカ(王になる契約を結ぶ素晴らしさを謳った話)
魔法少女まどか・マギカ十二国編


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