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【特別寄稿】踏みにじられたユーザーの意見、暴走するダウンロード刑罰化 - 小寺信良

2012年03月31日 09:02

BLOGOS編集部

音楽の違法ダウンロードに対し、刑事罰が科される可能性が出てきた。日本音楽事業者協会の尾木徹会長は権利者側の立場から6月までの今国会への成立に期待を寄せているが、刑事罰導入については問題点を指摘する声もある。今回、編集部ではこの問題についてインターネットユーザー協会(MIAU)代表理事小寺信良氏に解説をして頂いた。




3月26日、報道各紙が音楽違法ダウンロードに対して刑事罰を科す法改正が6月にも行なわれるのではないかという見通しを報じた。前日に行なわれた日本音楽事業者協会の尾木徹会長の談話で、法律化に期待する話が出たことを受けてのようである。

3月9日には、公明党の松あきら議員が参院決算委員会で政府に法改正を求めており、ここから何らかの進展があって尾木会長の談話に繋がったと思われる。

筆者は3月22日、インターネットユーザー協会(MIAU)代表理事として、共同代表の津田大介と共に文化庁にて「国内外における著作権等の課題(諸外国における法制度のメリットや問題点等を含む)に関する意見交換 」という会議でヒアリングを受けた。同じく関係団体として、ドワンゴ広報室長の杉本誠司氏、弁護士の福井健策氏、永井幸輔氏が出席。文科省側からは、森ゆうこ 文部科学副大臣、河村 潤子 文化庁次長以下、芝田 文化庁審議官、佐藤 文化庁国際課長、永山 文化庁著作権課長、堀 国際著作権専門官らが出席した。

この日すぐに、関係団体として出席した全員でニコニコ生放送にて、ヒアリングの内容を再現する生放送(http://live.nicovideo.jp/watch/lv86182926)を行なっている。今からでもタイムシフトでご覧いただけるはずだ。

国内外における、ということなので、MIAUとしてはTPPやACTAといった国際条約が国内法に落とす影響、まねきTV事件に代表される技術発展と著作権法の乖離などいくつか問題点を指摘したが、ダウンロード刑事罰化について水を向けたのは、森副大臣のほうだった。

実はこの前段階のダウンロード違法化を決めたとき、それを決めた私的録音録画小委員会の委員を津田が務めており、最後まで違法化に反対したが、結果的に権利者団体に押し切られた格好となった経緯がある。MIAUが立ち上がったのはその直後で、ダウンロード違法化反対を、インターネットユーザーの立場で訴えるためであった。

このとき、違法化だけで刑事罰を付けるまでに至らなかったのは、主査を務めた法学者の中山信弘氏が「家庭内の行為に刑事罰を付けるのはいかがなものか」として見送られた経緯がある。

ネットの違法コピーは、アップロードが1回でもダウンロードが大量に行なわれるという、非対称の構造を持っている。従って大量に発生するダウンロード側を必死になって取り締まるよりも、少数のアップロード側を押さえた方がはるかに効率的だ。

何万人、場合によっては数十万人かもしれないダウンローダーを取り締まり、刑事罰を科すことは、現実的には不可能である。権利者団体は、見せしめとして数人を逮捕、処罰することで違法ダウンロードに対して萎縮効果があると見ているのかもしれないが、逮捕されなかった残りのダウンローダーに対して、かなり不公平な状態となる。筆者は法学者ではないので素人考えだが、とても全員は検挙しきれないような行為に刑事罰を科して、法律として健全なバランスが保てるのだろうか。

すでにドイツでは2007年に刑事罰が実施されているが、刑事訴訟の乱発を招いて裁判所、警察、検察がとても対応しきれない状態に陥った。あわてて翌年に再度改正し、刑事訴訟の前に民事警告を義務付けたが、それでも訴訟乱発を防ぐことはできず、少額の請求を行なう警告状が年間で約60万件も送付されるなど、大混乱に陥っている。

全員が確実に守れるようなルールであれば、刑事罰化はあり得るだろう。例えばスピード違反のように、標識があり車にスピードメーターが付いていれば、その2つを比較することで自分を制御することができる。

しかしダウンロードの場合は、それが正規流通であるのかどうかが判別しにくい。権利者側は「Lマーク」で識別できるというが、日本国内最大の音楽ダウンロードサービスiTunes StoreにLマークなどない。無償、有償で見分けろというのも、プロモーションのために一定期間だけ無償ダウンロードといったキャンペーンが行なわれるケースもあるため無理だ。

そもそもダウンロード違法化自体が施行されてからまだ2年しか経過しておらず、違法ダウンロードに抑止効果があるのかどうかも、実のところわかっていないのである。というよりも、違法化では計測できる効果がなかったので、刑事罰化に進むという流れである。さらに刑事罰化しても効果がなかったら、一体どうするつもりだろうか。

しかもこの改正は、議員立法で行なわれようとしている。国民の意見が反映されるチャンスはないのだ。権利者側は、タレントの杉良太郎氏を連れて議員を周り、オジチャンオバチャン議員を骨抜きにしている。そういうやり方で、効果があるかどうかわからないような法規制が行なわれて、日本という国は大丈夫なのか?

これは単に、「ダウンロード厨氏ねよプギャーm9(^Д^)」という問題ではない。日本国の立法プロセスに、大きな問題があるという話なのである。

コラムニスト/MIAU代表理事 小寺信良

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