「残念ながら否定的にならざるを得ない」――やなせたかし氏が理事長を務める社団法人日本漫画家協会が、出版者(社)への著作隣接権付与についてこのような見解を4月2日に発表した。
この動きは、電子書籍などの新しい出版市場が拡大していく中で、権利処理の複雑化や悪質な権利侵害に対抗するため、出版社側が付与を提案している著作隣接権について、著作者団体が見解を述べたもの。同協会の常任理事には、ウノ・カマキリ氏、さいとう・たかを氏、里中満智子氏、ちばてつや氏、松本零士氏などが名を連ねている。
同見解では、隣接権付与による権利情報管理と処理能力の向上がメリットだとする出版者側の主張に一定の理解を示しているが、個別の出版者に権利を付与することは、権利者が分散することになり、結果としてコンテンツの塩漬け問題、新規参入事業者への過度な障害になるなどの懸念が示されている。
そして、個別の出版者に権利を付与するのではなく、新たな集中処理機構の創設を前提にした方がより健全だと指摘。これにより、著作権者としてもアウトサイダー的な出版者との権利持ち合いを回避できると述べている。
また、隣接権の付与に関する議論が、単なる権利取得とその行使に終始しており、電子書籍流通の促進という根本的な目的に逆行する危険性も否めないとも指摘。権利侵害対策としても、訴訟リスクをとってまで対応しなければならない権利侵害案件は限定的で、コンテンツごとの個別委任契約での対応が可能だとし、出版者全体に権利付与しなければならないほどの必然性には欠けると指摘している。
このほか、著作権者のロイヤリティも紙媒体とは異なる電子媒体に併せた設定が必要ではないかという主張も行われ、著作権者と出版者の間にも認識に大きな違いがあることが浮き彫りとなった。
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