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若者の就職難と新卒一括採用 - 「日本型雇用」の否定
3/29のNHK-NW9で、大学生の就職難を特集した報道があった。この春、大学を卒業しながら未だ就職先が決まっていない者を対象にした説明会が開かれ、17社の企業と80名の若者が参加していた。2/1現在、7万9000人が就職未定のままとなっている。番組では、親に負担をかけたくないため、留年ではなく卒業を選び、駅の地下で弁当を売るアルバイトをしながら就活を続けている男の子が紹介された。会場での面接で、「将来の夢や希望はありますか」と聴かれ、「内定をもらうことばかり考えてきたので、それ以外の夢というのは特に見当たらない」と正直に答えたのが印象的だった。これまで30社を受けて1社も内定なし。説明会を終わった後のNHKとのインタビューで、「仕事はしたいんだけれど、就活はしたくない」と本音が出た。昨年、就職に失敗したことが原因で自殺した大学生が41人に上る。会場の若者たちの表情は疲労とストレスでやつれていた。今の学生は3年のときから就活に追われる。長い長い就活期間を強いられ、挙げ句に30社、40社と落とされ続ければ、心が折れて就職の意欲を失うのは当然だろう。気の毒としか言いようがないが、大越健介の報道を聞いていても、どことなく、この現実に「もう慣れた」という気配が漂っていて、重大な社会問題であるという認識が感じられない。


嘗ては「就職氷河期」という言葉を使い、問題の異常性が強調されていたが、今はそんな言葉すらあてがわれず、当然視されて流されている風潮がある。「氷河期」ならば終わりがある。だが、常態化してしまい、二度と元に戻らないだろうという暗黙の前提があるため、この事態を「氷河期」というような「一時的な苦境」の意味を持つ語で表現しないのだ。ところが、この超就職難の社会で、特に苦労もせず、超難関のマスコミなど花形企業に就職している者たちがいる。就活環境の中で最強の競争力を誇っているのは、東大でも早慶でも中国人留学生でもなく、縁故を持った二世族に他ならない。彼らは就職時に特権を持っているだけでなく、就職後の地位も約束され、同期入社のスタートラインよりはるか前方に特等席が与えられているのだ。現在、働く者の3分の1が非正規で、若者の2人に1人が非正規か失業中となっている。年収200万円以下の生活で、将来の人生設計もままならず、途方に暮れ、心を潰されそうになりながら生きている。が、一方でネットを見ると、「グランドセイコー」の売れ行きが過去最高で、購入者の20%が20代だと担当者が驚いている。意外な事実ではあるけれど、東京の丸の内とか有楽町とかを歩いていると、その事実を不自然に思う感覚にはならず、十分に納得できる光景ばかりが目に入る。

特に、マリオンの「阪急有楽町店」の改装後にできた「阪急メンズ館」などに立ち寄ると、この国の社会構造の真実がよく確認できて勉強になる。JTBが、創立100周年の今年、海外旅行客を過去最高の140万人に目標設定したというニュースもある。この業界は不景気ではない。番組では、昨年11月に行われた「就活ぶっ壊せデモ」の様子が紹介され、デモを呼びかけた発起人の若者のインタビューがあった。その中で彼は、「何で新卒一括採用でなくてはいけないんですかね」と言い、「1回レールから落ちても再チャレンジできる国の仕組みが必要だ」と言っていた。この話には少し驚いた。私の理解では、このデモは、経団連や厚労省が学生に就活を早くさせすぎている点を問題視し、もっと学生が大学の勉強に専念できる時間を与えるように要求している運動だと理解していたからだ。学生を就活にばかり駆り立てる制度や現状に対する抗議行動だと思っていた。ところが、要求の中身に「再チャレンジ」の言葉があり、新卒一括採用を止めろと言っている。これは、いわゆる日本型雇用を崩せという要求であり、終身雇用と年功賃金を否定せよという要求だ。経団連が目指している方向と同じであり、城繁幸などが聞けば涙を流して喜ぶ要求だろう。もし企業が新卒一括採用を止めれば、卒業してからも何年も就活を続けなくてはいけなくなる。

若者と家族の負担は現在以上に重くなるのは確実だ。ユニクロのように大学1年から内定を出す企業が増えると同時に、大学卒業後に若者を取り込んでビジネスする就活専門学校が増えるだろう。この若者の話は、彼の真の要求なのだろうか、それとも、狡猾なNHKが世論工作のために一部を切り取ったものだろうか。新卒一括採用の制度が問題なのではない。仕事がないことが問題なのだ。企業ならば、基本的に従業員を増やして事業を拡大したいという論理と衝動を持っている。売上を増やすため、新規事業を興すため、新規市場を開拓するため、新規出店に対応するためには人員が要る。今の日本企業はそれができず、特に国内でそれができないから、日本人社員を採用できないのである。新卒一括採用を崩したところで、雇用市場の条件は同じであって、労働力商品の供給過多は変わらない。就活ストレスの強制が半永久的に続くだけだ。こういう方向に解決策を持って行くのは、若者や労働者にとって勘違いなのであり、資本側に都合のいいスリカエ工作に騙されて踊らされているだけだ。雇用形態をフレクシブルに規制緩和し、資本の都合のいいように制度改定することは、労働者にとっては常に不利益の押しつけなのだが、1990年代以降、労働者の不利益を恰も利益のように言う詭弁が流行るようになり、論者がマスコミに登場するようになった。

と同時に、この詭弁の言説に騙された労働側が、規制緩和を自ら求めているかのような場面をマスコミが報道で出すようになった。このNW9の特集は、典型的にそうした詐術を刷り込む報道だが、労働側の若者が、自分の口から規制緩和を要求している。この若者の新卒一括採用反対の主張は、そのまま裏返しで資本側の思惑に転化するもので、その先に何があるかと言うと、現在の正規社員の待遇の非正規化であり、正規社員という雇用形態の廃止である。この若者の主張は、そのまま正規社員批判に繋がり、正規社員のリストラを正当化する扇動に直結するものだ。中年の正規社員が高給で企業内に滞留しているから、自分たちの働く場が奪われているという屈折した怨恨の意識である。城繁幸ら新自由主義の論者は、この感情を焚きつけてネットやマスコミで布教し、すでに相当に信者を得ていて、不安定雇用の若年層が安定雇用の中年層に不満を抱いて攻撃する場面が見受けられる。弱者同士にパイを奪わせ合い、反目させ合う構図だ。同じ先週(3/26)、天満屋が正規の給与体系を非正規と合わせる「格差是正」を大きく取り上げ、今後の方向性だと大越健介が宣伝する報道があったが、こうした新自由主義の説得工作が活発になっている。そして、反論がない。湯浅誠から、本田由紀から、金子勝から、一向に反論が上がらず、素通りにされ、消費税論議と同じ図式になっている。

城繁幸は、日本型雇用の原状に戻し、非正規労働をなくして再分配を図ろうとする主張に対して、「左翼」だとレッテル貼りする攻撃を展開している。長く続いた自民党政権下で完成した戦後日本の雇用形態を尊重する議論に対して、「左翼」のレッテル張りで非難する手法は奇怪で不当だが、こうした城繁幸のイデオロギー攻撃が説得力を持つのは、左派であるはずの湯浅誠ら岩波系が日本型雇用を否定し、非正規労働を正面から否定するのが共産党だけになった政治の現状があるからである。左派が陣地を後退させている点に問題がある。このところブログでは、分配によって需要を創出することが肝要であり、労働者と中小企業の所得を増やすことで消費を促し、内需全体をを底上げして景気回復させなければいけないと、そればかり言い続けている。この認識と主張は、1990年代までは誰もが当然と考える経済の正論であり定説だった。榊原英資も、保守エコノミストもこう言っていた。一握りの新自由主義者だけがこれを否定する論陣を張っていた。今は誰も言わない。こうした考え方を言うと、勢いを得た新自由主義側から「左翼」のレッテルを貼られる始末だ。金子勝ですら言わなくなった。徒労感と無力感に苛まれながら、誰も言わないから言い続けようと、頑固に信念を貫いて言い続けている。ネットの片隅でこんなことを続けて、果たして報われる日は来るのだろうか。その見通しについては全く心許ない。

無駄な繰り言をフール・オン・ザ・ヒルしているように思えてならない。商売繁盛するのは、新自由主義者と脱構築屋ばかり。マスコミに出て浮薄な「若者論」を言い散らし、困窮した若者を食いものにする連中ばかりだ。しかし、何故だか分からないが、そういう連中の本が売れ、ネットで信者が集まって催宴が賑わう。


by thessalonike5 | 2012-04-02 23:30 | Trackback | Comments(0)
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