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水俣病:救済申請締め切りへ 期限先行に憤り 偏見・差別、潜在患者多く

 環境省は3日、水俣病被害者救済特別措置法(特措法)に基づく救済の申請受け付けを今年7月末で締め切ることを明らかにした。記者会見で細野豪志環境相は「半年間は周知に十分な期間だ」と説明した。しかし、申請者は昨年12月は800人を超え、さらに差別や偏見を恐れて救済に手を挙げていない潜在患者が多くいるとされる。特措法が掲げる「あたう限り(可能な限り)の救済」が実現するか疑問の声も出ている。【西貴晴、江口一】

 人口約2万7000人の熊本県水俣市。街を突き抜ける国道3号沿いに「水俣とチッソは運命協働体」と書かれた大きな看板が立つ。水俣が今も原因企業チッソの城下町であることを示す風景だ。

 水俣で生まれ、関西に住む女性(53)は自身が救済に申請した後、チッソ関連会社に勤める弟にも申請を促したが「会社にばれたら困る」と言われた。父親は漁師で、ともに水銀汚染魚を多く食べた可能性は高い。「申請締め切り後に弟に症状が出たらどうすればいいのか」と女性は不安を募らせる。

 細野環境相は締め切りまでに「環境省を挙げて制度周知に努め、救済につなげる」と述べ、職員らが街頭でチラシを配り、原因企業チッソや昭和電工に社内報で申請を呼びかけてもらうと説明した。

 しかし、申請のもう一つの壁が救済エリアの問題だ。熊本、鹿児島県は水俣市など両県で9市町の全部または一部を「救済対象地域」に定めている。この地域以外からの申請も可能だが、水銀汚染魚の多食を申請者が証明しなくてはならない。「地域外」を理由に申請をあきらめている人が多いのが実態だ。

 水俣市の医師、藤野糺さん(69)は昨年10月、対象地域外となる芦北町の山間部で住民39人を対象に水俣病の集団検診をした。その結果、37人に水俣病に代表的な症状の感覚障害を確認したという。「山間部でも行商によって汚染魚を食べていた」というのが藤野さんの見方だ。

 環境省はこうした汚染の広がりを解明するための調査には消極的だ。今年1月に水俣市で患者団体と意見を交わした横光克彦副環境相は記者会見で、救済に手を挙げられない被害者について「それは個人の判断。我々がなんだかんだいう余地はない」と述べた。

 水俣病問題に詳しい丸山定巳熊本学園大教授(環境社会論)は「広報や周知で済む話ではない。被害の広がりを調査で明らかにしてから申請期限を決めるべきだ」と指摘する。

 ◇患者4団体「切り捨ての歴史繰り返すのか」

 水俣病被害者救済特別措置法の救済申請期限を決めることに反対していた患者4団体は3日、熊本県水俣市で記者会見し「被害者切り捨ての歴史を繰り返すのか」と国の対応を批判した。

 会見には各団体の代表ら6人が出席。国、県、チッソとの訴訟で和解した水俣病不知火患者会の大石利生会長(71)は「期限のみ先行し、行政が真剣でないのがよく分かる」と反発。

 水俣病被害者の会全国連絡会の中山裕二事務局長(58)は「症状を知り初めて申請につながる」と行政による大規模な健康調査の実施を求めた。

 一方、新潟水俣病の患者団体「阿賀野患者会」の山崎昭正会長(70)も記者会見し、「(締め切りは)特措法の趣旨に反する暴挙で多くの被害者を切り捨てるもの。撤回を求める」と訴えた。

 また、新潟県の泉田裕彦知事は「地域の偏見・差別の解消のためのさまざまな取り組みにより、ようやく声をあげられるような状況ができてきている中で、締め切るべきではないとの考えに変わりはない。丁寧な対応を国に望む」とのコメントを発表した。【結城かほる、塚本恒、小林多美子】

毎日新聞 2012年2月4日 東京朝刊

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