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香山リカの「ほどほど論」のススメ
【第24回】 2012年4月2日
著者・コラム紹介バックナンバー
香山リカ [精神科医、立教大学現代心理学部教授]

社会活動に取り組む人に
なぜ「聖人君子像」を求めるのか

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聖人君子でなければ「裏がある」

 社会活動に取り組んでいる人に、聖人君子像を押しつけるきらいがないでしょうか。

 善意の社会活動と少しでも矛盾しているところが出てきた瞬間にことさら取り上げ、彼らが行っている活動そのものまで否定する傾向が見られます。

 たとえば、社会活動をしている人が酒に酔って女性を口説いたり、合コンに繰り出したりしようものなら、即座に批判が飛び交います。

 「やっぱりアイツは女遊びが好きで、アイツがやっている社会活動はこういうことをやるための手段だったに違いない」

 社会活動をする人が聖人君子でなければ、「何か裏がある」「どこかからお金が流れている」と見られてしまう風潮です。それがお金なのか名誉なのか女なのかはともかく、自分の欲望とは無縁の社会活動などあるわけがないという、不信感が非常に強いのではないでしょうか。

 これらの活動を仏教やキリスト教など、宗教的な信念から行っている人であれば、周囲から批判を受けることなく意外とすんなり認められます。また、家族や友人などが不幸な目に遭った人がそれらの活動をするのであれば、わかりやすい動機として受け入れられるようです。

 しかし、そうした背景のない人がお金や名誉のためではなく、あえて損な役回りを引き受けることなどありえないと考えられてしまうのでしょうか。むしろ、裏がない人は怖がられる存在なのかもしれません。

 社会活動をしている人は、決して聖人君子ではありません。

 聖人君子である必要もまったくないと思います。しかし、聖人君子でなければ何か裏があると見られてしまうと、これは現代の不幸と言わざるを得ません。

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香山リカ [精神科医、立教大学現代心理学部教授]

1960年北海道札幌市生まれ。東京医科大学卒業。豊富な臨床経験を生かし、現代人の心の問題のほか、政治・社会評論、サブカルチャー批評など幅広いジャンルで活躍する。著書に『しがみつかない生き方』『親子という病』など多数。


香山リカの「ほどほど論」のススメ

好評連載「香山リカの『こころの復興』で大切なこと」が終了し、今回からテーマも一新して再開します。取り上げるのは、社会や人の考えに蔓延している「白黒」つけたがる二者択一思考です。デジタルは「0」か「1」ですが、人が営む社会の問題は、「白黒」つけにくい問題が多いはずです。しかし、いまの日本では何事も白黒つけたがる発想が散見されるのではないでしょうか。このような現象に精神科医の香山リカさんが問題提起をします。名づけて「ほどほど」論。

「香山リカの「ほどほど論」のススメ」

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